表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第四章 『Broken mirror』
PR
36/227

『アスター』

アンゲルス本部から一歩出た男は、立ち止まって

「はぁぁぁぁあ……」

と、張り詰めていた息を深く吐いた。

いつの間にか低くなっていた真っ赤な太陽が、自分を責めるように見つめている。


(つい、カッとなっちまった自覚はあるんだ…)

岩瀬永徳は、自分の口の悪さを自覚していた。

しかし、言ったこと事態はすべて本心なので弁解することも出来ないのだ。

誤って撃ってしまったことは、本当に取り返しがつかないほど申し訳がないと思っている。

けれど、岩瀬はそこで、前々から思っている不満まで言ってしまった。

いつもは口下手で何も言えないくせに、一度口を開くと止まらないのだ。


愛本陽灯は個人的な恨みのようなものがあって嫌いだ。

本当に詰まらないことなのだが、自分にとっては大事なことだ。

しかし、それとは違う話で隊員としては優秀だと思っている。


一つ一つの攻撃には粗が多いが、何と言ってもスピードが早い。

一瞬の動きがとにかく速いのだ。

最高スピードがどうかは解らないが、スタートダッシュからの加速が早い。


…いや、違うな。

俺がつを優秀だと思っている本当の理由は。

それがあいつの一番悪いところでもあるが。


陽灯は何時も何処かで自分を下に見ている。誰よりも下に。

自分で自分を見下ろしているんだ。

何の感情も持たない無表情で。

ただ、目を反らさずにジッ…と自分を見下ろしている。


このままでは間違いなくダメだ。

「だが…、だからこそとも言うか。」

陽灯が何の躊躇いもなく、何かのために、迅速に動けるのは。


誰も自分が可愛いものだ。

可愛いと言うか、人に備わった機能のせいだ。

痛いのも苦しいのも嫌に決まっている。

だから人は、一度は考えてみるものだ。今動いて自分は傷つかないのかと。

それは人として…というか、生物として当然の利口な行動だ。

生きるため、必要な思考だ。

その上でどうするのかは知らないが。


けれど陽灯にはその利口な行動すらない。

考えるまでもなく、その答えは決まっているのだ。

何時からかは…知らないが。


だから隊員としては…軍人としては優秀だと思っている。

「…はぁ」

しかし、陽灯は何でも一人で終わらせようとする癖がある。

仲間が見えていない。

まあ、それも前述と繋がっているのだろうが…


例えばそれが自分の師匠である澤田礼人や、他の先輩隊員ならば良いのだ。

陽灯よりも優秀だから、それをカバーできる。


だが、永徳は陽灯よりも優秀なわけではない。

カバーできるほどの腕がない。

その為に、毎度毎度…陽灯と永徳の二人の戦闘では陽灯のアニマが余計に使われている。


要するに永徳はもっと自分を頼れと言いたいのだが、それが言えずにここまで来て、何故か誤発射と同じタイミングで口にしてしまったのだ。


「………はぁぁぁ」

甚だ、嫌気が差したのは永徳も同じだった。もちろん、自分に。


太陽から目をそらすように下がっていた視線を、永徳は気だるげに上げた…と同時に、不機嫌そうな声が漏れていた。

「…何の用だ」

また悪い言い方をしてしまったと若干後悔したが、他にどんな言い方をしたら良いのか解らなかった。

そして今さら、弁解することもできない。


ましてやそれが、今の喧嘩相手なら。

「謝罪しに来ましたの」

陽灯は困ったような笑みを浮かべながら、永徳へ近付いた。


「謝罪…?」

何のだ?と永徳は顔をしかめた。


「その…、失礼な態度をとってしまって……」


申し訳なさそうな顔をする陽灯に、永徳はより一層顔をしかめた。

「は?

 意味が解らん。

 どういうつもりだ」

永徳は陽灯が謝る意味が全く解らなかった。

陽灯に過失などないからだ。

陽灯はただの被害者だし、礼人に怒られた件だって、自分の口の悪さゆえのことだと。


「……その、私、アンゲルスを辞めようと思いますの」


「………はぁ??」

いよいよ訳の解らなくなった話に、永徳はただただ顔をしかめるしか出来なくなった。

「ほら、礼人が言ってたでしょう?

 怒りに任せて間違いを起こすようなら…、と。」


アンゲルスに居るべきじゃない。礼人が先ほど言っていた言葉だ。

「確かに言ってたが…」


すると、陽灯は何故かパッと笑みを浮かべた。

「きっと私、向いていなかったんですわ。

 …ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。

 他の方々にも伝えていただけませんか?」


永徳は何度か瞬きし陽灯の表情を見つめると、改めて口を開いた。

「有り難いな。

 お前が居なくなれば、俺も楽に戦える。

 ずっと、お前が邪魔だったんだ。」


「そうだったのですね…、申し訳ありませんでした。」

深々と頭を下げた陽灯を見ながら、永徳は自分のGEMに手を伸ばし、


換装した。

「まあ、嘘だけど」

そう溜め息を吐いて、スナイパー銃を“陽灯”へ向けた。


「……これはどういうことですの?」

頭を下げたまま、陽灯は言葉を紡いだ。


「下手な演技しなくて良い。

 正体を明かせ。」

永徳がスナイパー銃を構えながら、ギロリと敵を睨むと、敵はクックッと笑い声をあげ


ガバッ


突然顔をあげた。

「アハハハハァッ!!!!」


そしてさも愉快そうな顔で、アスターは永徳を笑い睨んだ。

「まさか、バレちまうとはなぁ?!!

 何で解った?

 顔も口調も同じだろぉ?!」

敵はそう言いながら、陽灯と瓜二つの顔を、まるで自分のものではないかのようにペタペタと触った。


「愛本は普通に怒る。

 あと、顔は同じだが、なにかが違う

 お前は何者だ。愛本は何処だ。何をした。」

永徳は、何故敵が陽灯と同じ姿をもっているか。

それだけが疑問で、心配だった。

陽灯をコントロールしてると言うのはないだろうが、本人に何かをしたのではないか…と。


「怒る?…フーン。

 別に危害は加えてねぇよ。

 おおっ…、申し遅れましたわ。

 私………アスターと申します。」

敵…アスターは陽灯の声と姿で遊我にお辞儀をし、そう名乗った。


永徳はトリガーに手を掛け、アスターを睨み付けた。

「何が目的だ。」


「“また”仲間を…愛本陽灯を撃つのかぁ?

 今回は最初から生身かもしれないぜ…?

 そうしたら…ホントに死んじまうなぁっ?!」

アスターはそう愉快そうに陽灯と同じ顔で笑った。


一瞬、永徳は怯んだ…が

「お前のどこが愛本だ。

 どうせGEMか何かで姿を変えてるんだろ。」

アンゲルスのGEMや、宝石ルーナを持ってすれば、姿を変えることくらい容易い。

そして、姿を変えている時点で、アスターは生身じゃない。


すると、アスターからスッ…と笑みが消えた

「本当にそうか?

 “初めから”オレと愛本の顔が同じ可能性は?」

アスターの言葉に、永徳は目を見開いた。

アスターが、愛本と呼んだからだ。

愛本の姓は孤児院から貰った名前。

もし、愛本陽灯と全く同じ遺伝子を持った本当の家族キョウダイが居たなら―


「あ、目的だよな

 そうそう!!

 オレ良いこと教えに来てやったんだよぉ!」

またパッと笑みを浮かべたアスターに、永徳は戸惑った。

その顔が、陽灯と同じ顔が…、素顔のように思えてきたからだ。


「愛本陽灯は裏切り者だ!

 アンゲルスにとってのな。」

アスターの言葉に、永徳は今度こそ銃を構えた。


「まてまてまて!

 何で撃とうとするんだよ!!」

やめて~と言いながら、アスターは手で壁を作った。


「お前が敵なのが確定したからだ。

 愛本が裏切り者な訳がないだろう。」

そもそも、英独と陽灯は同じ学校で、身元も知れている。

裏切り者である要素が何一つない。

そもそもあの性格だ。


「何だ、解らないのか?

 お前意外と馬鹿だな。

 オレと愛本は同じ顔してるんだぜぇ?」

何度となく聞いた言葉に、永徳はどっちが馬鹿だ。と呆れ顔で溜め息を吐いた。


「だからそれは換装で…」

永徳は言い切る前に、アスターが言葉を被せた。

「それ以外の可能性を考えろって。」


アスターはクルッと踵を返して、永徳に背中を向けた。

「ま!

 仮に、今は裏切り者じゃないとしても、

 これからなるかもしれないだろぉ?」

アスターの言葉に永徳は顔をしかめた。

(もし、本当に二人がキョウダイなら、家族の所属する方に、揺れるかもしれないと言うことか…?)


永徳はハッと目を見開いた。

そもそも、今日起こった出来事を知っている時点で、可笑しいのだ。

何らかの方法で盗聴したにしろ、アンゲルスの中に裏切り者が居るにしろ、

陽灯本人が本当に、裏切り者であるにしろ…、何を取っても……。


「何よりの証拠は愛本にある。

 愛本に、オレの名前を出してみろよ。」

アスターの声に我に返って顔をあげたが、既にその姿は使われなくなった建物や瓦礫の中に消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ