『Disciple』
「…お前が“ひかり”か!
そうかそうか…、よく来たな…。
……大事な話だったか?席外すか?」
結さんの言葉に、神夜さんはフイッと顔を反らした。
「そうね。すごーく大事な話だったわ。
失礼します。とか、声くらい掛けて欲しかったわね。
それに、名前も名乗らないだなんて…
神結の方がずっとお利口じゃないの。」
と、声では凄く不機嫌なように聞こえるが、此方から見える顔は笑ってる。
「お…、おお……、悪い。」
申し訳なさそうな顔をして、おずおずと男性は出ていこうとした。
それを見て神夜さんはクスッと笑って、結さんのほうをむいた。
「何てね、“半分”は嘘よ。」
あ、半分は本気なんですね。
けれど男性はそこはスルーして元気になった。
「彼は私の知り合いの黒秋 結さん。」
神夜さんの、平然とした紹介に、帆凪様は吹き出した。
もしかしなくても嘘だよね?
案の定、男性が力一杯否定した。
「知り合い?!
違う!
お前の!旦那の!弥扇!結だ。」
と、男性は最後にはどや顔で言った。
そうですよね。
娘さんまで居るだろうに、なんか…仲良いですね??
神夜さんは結さんの言動を無視して言葉を続けた。
「とりあえず、アニマを測ろうと思うの。
結、貴方できたっけ?」
完全に無視されても、結さんは怒ることなく深く溜め息を吐いた。
そして、神夜さんの隣に座って神夜さんを見つめた。
「出来るが、前みたいには無理だ。
それなりに唱えたりとかしないと…
お前のくれるなら多分、楽勝だけど」
前…?
あ、全盛期は……ってことかな…?
結さんの言葉に、神夜さんは頷いて結さんの手を握った。
どうやら、結さんにアニマを渡すようだ。
…握ったのは神夜さんの方なのに、若干頬が赤い。
「ほら。」
すると、嬉しそうな顔を隠せていない、結さんに手を差し出された。
よく解らないけど、私も握り返す。
「よし。
―第ニの術式
我が名と、神夜の名において命ずる―」
結さんがそう唱えると、虹のような瞬きが結さんと私の手に宿り…
バチッ!!!!
その大きな感電するときの音が聞こえ
「いッ…」
同時に私自身の手にもそんな痛みが走り、反射的に私と結さんは手を離した。
私の手には…赤紫の何かの紋様が浮かんでいる。
まるで、そう蜘蛛の巣ののうな…。
と思ったら、それはすぐに消えた。
え…、え?なに?今の……。
私はパッと帆凪様の方を見たけど、帆凪様は眉間にシワを寄せ、結さんと神夜さんの言葉を待っていた。
「……封印…、だな。
しかもかなり高位の。
本来のアニマ量は測れないようになってる。
破るか?」
結さんが自分の手を見つめながらそういった。
封印?
…私に封印がかかってるってこと?
なんで…………。
アスターが…?
それ以外に私の能力を知ってる人なんて……。
でも、アスターってそんなこと出来たの…?
そんな難しそうなこと…っていうか細かいこと…。
「陽灯ちゃん、誰に掛けられたか解るかしら?
心当たりは?」
チラッと帆凪様の方を見ると、帆凪様も私のことをじっと見ていた。
誤魔化さない方が良さそうだ。
相手は師匠なんだがら、誤魔化しても良いことない。
「ひとつだけ、あります。
私にカルディアであることを隠しなさい。って言ってた人が居たので…。
多分、その人か、その人の協力者?がやったんだと思います。」
協力者がいるなんて覚えはない。
…けど、アスター本人に封印が出来るとは到底思えない。
何故か解らないけど、彼にそんな高度なことが出来る気がしないのだ。
でも、施設には他にも色んな人が居たから…。
「多分ってことは同意の上じゃないのよね?
破りましょうか?」
「あの…、破れるんですか……?」
高位って言ってましたよね…。
言った本人も、破るか?とか言ってたけど。
「恐らく…だけど、破れると思うわ。
そういう系統で、私達に敵う人って少ないんじゃないかしら」
神夜さんが私達と指したのは、自分自身と結さんだ。
「少ない…って、他には誰が?」
「この国だと柊とか枷とか…操辻くらい?
実際に比べたことはないけどね」
えっ…、たったそれだけ?
「いや、帆凪様とか懸憐さんとか、火砕さんは…」
強い人なら、この三人のはずだ。
二人はもちろん、火砕愛雅さんは世界一の強さを誇っているはず。
「火砕…おそらく貴方が言っているのは愛雅単独よね?
泰芽くんと協力しても…」
神夜さんは、チラッと結さんを見た。
その視線を受け、結さんが続けた。
「アイツには無理だ。
教わっていないだろうし、そもそも性格が向いてない。」
教わる…?って誰から?
っていうか、マターって教わるようなものじゃない…って帆凪様言ってたよね?
いや、それよりも、愛雅さんより上位って…有り得ない。っていうくらいビックリだ。
「封印って言うのは…力でどうこうできるものじゃないわ。
特に他からの解除となると。
本人なら出来ないこともないけど…、掛けたものの倍か、それ以上の力が必要になる。」
そっか。
アニマの量事態は愛雅さんが上でも、細かいことが出来るかどうかで、封印は変わるんだ。
じゃあ、封印を掛けられた本人が愛雅さんなら破れそうだね。
…でも、私の場合……。
高位の封印を掛けた人の倍でしょ…?
ああ、到底無理だわ……。
「だから、恐らく破れる
もし、破れなかったらちょっと困るわね」
困る?
もし、破れなかったら、アスターか、アスターの協力者が、弥扇家や他の家々より強いかもしれないって言うこと?
仮にそうだとしても、問題もないと思うけどなぁ…。
アスターは意味もなく悪いことをしたりしない。
とっても強い人だ。
力とか、能力とかじゃなくて、心が。
誰かのため、何かのため、身を呈して戦える人だから。
ああ……、そうだった。
その人が、彼が、考えてやったことなんだ。
私に施した封印だって。
私には解らなくたって、きっと何かの考えがあって
そして、いつかは使うためにあるはずだ。
それなら私は、貴方を信じて、貴方とは違う考えで、今出来ることをしよう。
「いえ、封印はそのまま教えてください。
よろしくお願いします。」
例え、貴方の掛けた封印があったとしても、私は貴方を越える。
強い貴方に勝つ。
そうであってこそ、私は私で居られるの。
そのせいで“私”が死んだとしても。
「解ったわ。
それが貴方の意思なのね。」
神夜さんは、そっと笑みを浮かべて私に手を差し出した。
私は少し驚いて、神夜さんの目を見た。
「これからよろしくね。
私の教え子。」
私が笑って神夜さんの手をそっと握ると、神夜さんが強く握り返してくれた。
「はい、師匠!」
「?!
何だ、お前か…。」
熱を調節するための大きな機器に座る、見慣れない人影にジニアは驚いたが、すぐに平静になった。
ジニアは回転椅子に座り、深く溜め息を吐いた。
「珍しいな。
お前が此処に来るなんて…大丈夫なのか?」
そう言いながら、ジニアは机に手を置いて画面を起動させた。
いつの間にか神殿まで移動していたアスターは、ガラスの筒を見上げていた。
「…水、抜いちまったのか?」
自分の質問を完全にスルーした言葉に、ジニアはまた深く溜め息を吐いた。
「抜いたよ。
もう必要ないだろ?」
「そうなんだけどな。」
アスターは、それっきり黙って神殿を見つめたま、動かなくなった。
ジニアは、何度目かの深い溜め息を吐いた。
「アスター。」
呼ぶ声にアスターは反応して、ジニアの方を見た。
「ああ、大丈夫だ。
まだ学校はないし、アンゲルスも教団のせいでそれどころじゃないだろ。」
誰も、オレのことを見つけられないさ。とアスターはまた神殿を見つめた。
「…話、聞いてたのかよ。」
ジニアは小さく溜め息を吐いてから、機器類のメンテナンスを始めた。
「アイツさ。
ずっと勘違いしてるんだ。
オレが…、正義の味方だって。
お前のことすら騙してるっていうのに。」
アイツやお前…とは愛本陽灯のことだろうが…。
アスターの言葉に、ジニアは手を止めて目を見開いた。
「お前…、そんなこと気に出来たんだな…。」
と、心底驚いた顔で言った。
「……失礼な奴だなぁ…。
オレだって気にすることくらいあんだよ。
色々さ…。」
アスターはそう真面目な顔で言ってから、ふぁーと欠伸をした。
やっぱり気にしてないだろ、とジニアは笑ってアスターから目を背けた。
だがジニアには、欠伸の間も鋭く見開かれたアスターの瞳と、薄く浮かべる笑みが見えていた。
Disciple―弟子―




