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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第三章 『Disciple』
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『“私”の選んだ道』

「私は弥扇みおうぎ 神夜かぐや

 よろしくね」

…私の上司だ!!!!!


「はい!

 よろしくお願いします…!」

と、座ったままで恐縮だが深々と頭を下げた。

立とうとすると弥扇さんにぶつかってしまうから…。


「そんなに恐縮しなくていいのよ。

 みんなには神夜さんとか小隊長とか大隊長とか

 “マスター”って呼ばれてるわ」

呼び名が多いですね…。

そんなに多いけど苗字はないんですね…、ってことは多分能力者かな。

っていうか、そもそも小隊長って能力者しか居ないんだっけ…?

あれ?

違ったっけ。

…どうだったかな。

研修ではそんなことは習わないから私の知識でしかない。

もしそんなこと習ったら、能力者が誰なのか解っちゃうから。

トップシークレットだからね。


…もっとも、どうやらアンゲルス隊員であることは、学校には公表しておかないと成立しないらしいけど。


「マスター?

 主か?師匠か?」

礼人は疑問を口にした。

昔の言葉で、今はもう使われていない言葉……英語。

英語という言葉すら知ってる人はそんなに多くない。

けど、映画とか文学ではたまに使われる。


そんな英語でマスターは主とか師匠とか、そんな意味らしい。

さすが大学生!


「主ね。

 師匠…teacherが別に居る人も居るから。

 両方兼ねてる人も居るわね」

師匠か…。

強くなるために、先輩に弟子入りする人は少なくない。

もちろん、独学でやる人も居るけど弟子入りした方が効率が良い。

もっとも効率が良い分、やり方や相手を間違えるとただのコピーになったり強くなれなかったりする可能性もあるけど。

それは独学でも似たようなものだと思う。


「…じゃあ、マスターってなんだ?

 教える訳じゃないんだろ?」

礼人の質問に、私は思わず息を飲んだ。

その質問に正確に答えることは…、非常に困難なはずだから。

佐野さんや天宮さんでさえも知っているか解らない…、統括者であるマスターのもうひとつの役割。


「そうね…、なんて表現しようかしら。」

弥扇さんは笑みを崩さぬまま、軽く目を閉じて思案しているようだった。

私はその姿をじっと見つめながら、心のなかではドキドキしていた。


そんな私の緊張をよそに、弥扇さんは極めて穏やかに目を開けた。

「言うなればマスターは、人とアニマの総括者ね。」


「人とアニマの……?」

人はもちろん隊員のこと。

そしてアニマは…。


「アニマはマター、能力を使うためのMPみたいなものね。

 そのアニマは、世界中に無数に存在しているわ。

 無限ではないけれど、人には扱いきれないほどに。

 分かりやすいのは能力者を通して見るマターだけれど…

 この空気中にだって僅かだけど、アニマは存在してる。」

そう言いながら弥扇さんがふぅ…と息を吐くと、そこからキラキラした無数の小さな粒が現れた。

その一粒一粒は七色の輝きを放って…星とも似ていて幻想的に見えた。

手のひらに降りてきた、その輝きは触れると仄かに熱を持っていて暖かった…。

けれど、すぐに消えてしまった。

その光景はまるで雪のようだけど、雪とは違って水も残らない。


本当に僅だけれど。と消えた輝きを見つめ、弥扇さんはまた口を開いた。

「人や、獣や植物、物質に宿るアニマを、本部の“ある場所”に集める。

 そしてその一部を統括者である私へ送り、更に私が貴方達へ別けるの。

 そうすることで誰もがGEMや、もしくはマターが使えるようになる。

 GEM単体では…、アニマを増幅させるのに限界があるから。」

つまり本部からマスターへ、マスターから隊員へとアニマが与えられ、そうすることで私達はGEMを武器にして戦ったり、もしくはマターで戦える。

そうじゃなくても戦えるほどアニマを持っている人も居るけど。

そんな人ばかりじゃない。


…あ、もしかして、私のGEMが異常に輝いてたのはそのせいかな?

まだ当日だからセーブしきれてなかったのかも。


「態々仲介させるのにはなるべくアニマを失わないようにとか

 あげる分量の細かい調整とか、色々な理由があるわ。

 これは、小隊と言いながら人数が少ない理由の一つでもあるわね。

 これ以上増えると、私の体がアニマに負けるから。

 あー、あと、やっぱり私との相性によってアニマが増減することもあるわ。

 さすがに、相性の悪い人が同じ隊に居ることはないと思うけど。」

そういい終わると、弥扇さんは一息吐いて、捲し立てちゃったわね…、と反省してから何か質問があったら聞いて?と言った。


とても流暢に、スラスラと説明してくれた弥扇さん。

けれど、彼女が言ったのは半分は嘘だ。

…いや、一概に嘘とは言えないけど……、この場合は嘘だ。


礼人がまた口を開いた。

「アニマに体が負けると言うのは?」


「そのままよ。

 力に体が負ける。もしくは精神か。

 体にしても精神にしても、結構惨いことになるわ。

 でも、そうならないために私が調整してるから安心して。

 貴方が無理をしなければ、どうと言うこともないわ。」

弥扇さんの言う通り。

その送られてくるアニマによってどうこうなるのは、相手が態とやっていない限りはまず有り得ない。


…そして弥扇さんが、本部から送られてくるアニマに負ける、と言うことも有り得ない。

何故なら、初めから“送られていない”から。

弥扇さんは、本部が集めたアニマを私達へ送っているのではない。

自分自身のなかに宿るアニマを送っているのだ。

彼女自身が元々持っている力、生命エネルギーを。

それも、私達、二つ分の分隊。15人分ほどの力を補っている。

たった一人が。


弥扇さんが説明してくれた本部からアニマが送られてくるというのは、隊長が能力者ではない。

もしくは隊長を持たない班や、分隊、隊員での話だ。


神夜さんが小隊長であるこの場合は、半分嘘。

「…説明はこんなところかしら?

 また疑問が湧いたら、その都度聞いてね。

 私もすべてを知っているわけではないけれど、出来る限り答えるわ。」

弥扇さんはそう微笑んだけど、その笑みは全てを知っていて敢えて何も言わない者の笑みに見えた。

それとも、私の理解など追い付かないような知が何処かにあるのか。


まあ、そんなこと考えたところで大した意味はないし、大事なのは今、これから全うに生きていくことだけ。


「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。」


「ええ。

 あともう一人の子は?」


「それはまた別の…」

と、佐野さんと弥扇さんは会話しながら立ち上がった。


「私達は先に帰ろう。

 どうせ佐野さんはまた訓練室で遊ぶから。」

天宮さんはそう言いながら立ち上がり、私へ手を差し出した。

訓練じゃなくて遊ぶんだ…。

まあ、結果的に訓練になるだろうから良いんだろうけど…。

私は苦笑いしながら、天宮さんの手をとって立ち上がった。


天宮さんは礼人へ視線を移して

「ついでだから、君もどこか案内しようか?

 寮でも、本部でも、支部でも。

 ある程度のことは案内できる。」


言われた礼人はちょっと驚いた顔をしてから、笑みを浮かべた。

「ああ、有り難いな。」

そう言いながら礼人は立ち上がった。


コツ…


僅かに聞こえた足音に私はバッとそちらを向いて、騒々しい沢山の話し声や足音の中から、その音だけを手繰り寄せた。


コツ…コツ…


段々と近づいてきた足音に私は確信して、そちらへダッシュした。


「帆凪様ぁぁぁぁああぁあぁあ!」

見つけたその姿に、私は抱き着いた。


帆凪様は私を受け止め、抱き上げてくれた。

「本当に隊員になっちゃったのね…」

そう涙声で良いながら、より強く抱き締めた。

ちょっと痛かったけれど、私はその声も腕も受け入れた。


「これで、私も一人で生きていけますわ」

例え、その生が死と隣り合わせで矛盾しているように見えても。

それが“私”の望んだ道。

これから先何が起こったとしても、仮に死んだとしても、それが私の選んだ道。

「そうね。」


帆凪様は私を下ろすと、後ろを振り返った。

私も我に返って、天宮さんと礼人の方を見た。

「すみません。

 私は帆凪様と話してから帰ります。」


すると天宮さんは少し思案するように目を閉じてから

「解った、じゃあまた。」

天宮さんは頷き、礼人に話しかけながら去っていった。


また…っていうのも、何だか不思議だ。

これからはバイバイしたあとも、また会えるなんて。

それどころか一緒に寝るのか…。

ちょっとくすぐったいけど嬉しい気もする。

反対に施設の皆とはさよならだけど……。


それも含めて、私の選んだ道か。


「ひかり」

帆凪様に呼ばれ、私は帆凪様のもとへ向かった。

隊の単位

班  ~5人    班長  C級、B級

分隊 ~10人   分隊長 B級、A級

小隊 ~20人   小隊長 A級、S級


これ以上も以下も使われることはないです。

小隊長が統括者マスターになります。

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