『守る』
「みんなお疲れ~!」
藤木さんの声と共にアルミ缶やペットボトルがぶつかる、微妙な音がした。
「今回“だけ”は私の奢りね。
いつもは無理だよ!私のお財布が…!」
藤木さんは傍らに持つ自分の財布を凝視しながらそう言った。
木寺さんは財布を仕舞うように促しながら口を開いた
「そういうの良いですから…!
皆、そして新入生の皆もお疲れさまでした。
そしてようこそ藤木分隊へ。」
「それ、ふつー隊長が言うことだよねー」
ピーチ味のジュースを飲みながら、佐野さんが至極冷めた表情でサラッと言った。
その言われた本人であり、佐野さんの上司であるはずの藤木さんは、佐野の頬へ手を伸ばした。
「隊長に可愛くないこと言うのはこの口か~?
今からでも返してくれて良いのよ~?」
「うひょうひょ!
だいひゅきでふよ、たいひょー!!」
と、佐野さんは頬を引っ張られたまま、苦笑いを浮かべながら言った。
すると、小河さんが自分のGEMである腕輪を見つめ、全員へ声を掛けた。
「すまない。
妹が塾に行く時間だから、そろそろ帰らせて貰うよ!」
そう、ハキハキとした声で言うと飲み物を一気飲みし、ささっと荷物をまとめると疾風のように去っていった。
「てことは12時…?。
何が長いって入隊式が一番長かったわ…」
藤木さんはふぁ…と欠伸をしてから空になったペットボトルをゴミ箱へ的確に投げた。
「大陽くんはまた好き好んでパシられてのね」
「妹ちゃんが可愛くて仕方ないんだって」
と、木寺さんと佐野さんもペットボトルを飲み干してゴミ箱へ捨てた。
藤木さんはポンッと軽くテーブルを叩いた。
「今日はこれで解散。
配布されたシフト通りにお願いね
後でグループにも誘っておくから…何かあったらそこに連絡して。
あとは……」
悩む藤木さん続いて、木寺さんが口を開いて
「悪魔教は…
あ、今日戦った敵の組織ね
悪魔教はまた来るらしいから…、覚悟よろしくね」
「そうね。
先に訓練しておきたいけど、多分その時間はないわ。
それに今日見た感じだと大丈夫よね
そうやって言われてるし」
…ん?
そうやって言われてるって藤木さん?
誰に何を、誰について言われたんですか…?
え、恐い…。
「そうなの?」
「まあね」
木寺さんも知らない様子だけど、木寺さんにすら話すつもりがないらしい。
木寺さんも、それを察すると聞こうとはしなかった。
「じゃー、解散!
みんなまたね~!」
藤木さんの声で、私達はそれぞれ解散した。
寮に戻り着替えを済ませると、外からノックが聞こえた。
服を閉まっていた私の代わりに、一人部屋に戻ってきていた天宮 ジゼルさんがドアを開けてくれた。
「あれ、天宮ちゃん。
陽灯ちゃん居る?」
「居ますよ、佐野さん。」
佐野さん?
佐野 みかんさんとは、さっき別れたばっかりのはずだ。
「おいで、陽灯」
天宮さんに名前を呼ばれ、私はさっさと服を閉まってドアの方へ向かった。
「佐野さんと知り合い?」
「あ、はい。
同じ…えっと」
同じ班…でもないチーム?
…いや、他に何かあったはず……。
「同じ分隊♪」
助け船を出してくれたのは他ならぬ佐野さんだった。
「はい!」
愛美班と、奈々未班を統括する、藤木分隊。
佐野さんはその一員で、私も今日から入ったのだ。
「なるほどね。」
天宮さんは納得したように頷いた。
そしてスッと目を細めてから、佐野さんを指差しながら私を見た。
「こう見えて、この人は男だから。
気を付けてよ」
……………………………えっ
「ちょっと天宮ちゃん!
っていうか危なくなんてないからね!?
みかんは一途だから」
…????
え、その一途な相手は男?女?
生物学上は男って意味?
それとも心が男?
いや、口調的には女?
「生物学上も、心も男だ。この人は。
しかも同じ部屋だし……」
混乱した私にそう言ったのは礼人だった。
両方男なら…、なるほど女子力が高い男の人か。
なるほど。
ああ、礼人と佐野さんって同じ部屋なんだ…。
礼人は隣の部屋だから、つまり佐野さんも同じ隣の部屋なんだ。
へー……………
いや、いつからそこに!
「オレは最初から居たからな。」
あ、私が気付かなかっただけか。
ごめんよ。
影の薄いライト。
「みかんは可愛いものが好きなだけ♪
別に男の格好もするしね。
気分次第」
そう言う佐野さんの声は高くなったり、中くらいになったり、低くなったりした。
何だか型にはまらない人なんだなぁ。
性別 佐野みかん。
みたいな感じなのかもしれない。
そんな佐野さんと天宮さんは
「入って良い?」「ダメ。」
「入って良いよね?」「ダメですってば。」
「入るね。」「藤木さんに言いつけますよ」
「えー!」
部屋の前でそんな会話を繰り返した末、全員でラウンジに移動した。
ここではお昼ご飯も食べられるし、ここから色んなフロアに行けるから、多くの隊員が集まってる。
それでも狭く感じないくらいには、広々と出来ている。
天宮さんも、男ばっかで心配だし暇だからと一緒に来てくれた。
佐野さんは、さっきも飲んでいたピーチジュースを飲みながら口を開いた。
「隊長と愛美ちゃんは用事があるらしいから
みかんは代わり。
…紹介したい人が居るんだ。」
佐野さんは何故か私を見てそう言った。
その声は一瞬で低くなり、笑み何処か怪しさを持っていた。
「おい。」
そんな佐野さんを、礼人は睨み付けた。
すると、それに反応したのは佐野さんではなく、天宮さんだった。
「ああ、あの時のはあんたか。
構わないけど、睨むのは止したら?
狙われてるのかと思って、ビビったよ。」
天宮さんがあんたと指したのは礼人だ。
狙われてるのかと思われたのは私らしい。
………?
礼人が私を狙ってる?
でも、逆か。ってあの時言ってたから…。
「この席、良いかしら」
降ってきた声に顔をあげると、そこには優しげな笑みを浮かべる女性がいた。
その女性は漆の長い髪と、吸い込まれそうなほど美しい黒い瞳を持っていた。
そしてその服も漆黒。
リボンだけが純白で、見た目も纏う空気も、一人だけ異質だった。
一言で言うと美人な大人の女性が、この席と指したのは…。
向かい合う二つのソファー。
その角で机を囲むようにしている二つの一人用の席の
そのうちの私と佐野さんの方だった。
いいですよ、とつい言ってしまいそうになって、慌てて佐野さんの方を見た。
確か、紹介したい人がいる。と言ってた。
それなら私が勝手にいいと言うわけにはいかない。
すると佐野さんは私の視線は受けずに、その女性を見ていた。
「はぁ…、聞く必要ないですよね」
何故か佐野さんは溜め息混じりにそう言った。
どうやら知り合いらしい。
っていうか、多分その言い方からして…
「ふふっ。
あら最初の印象って大事だと思うわ」
そう愉快そうに笑いながら、私と佐野さんの横のソファーに座った。
「初めまして
澤田礼人くん。
愛本陽灯ちゃん。
………ごめんなさい。人数間違えてたかしら?」
申し訳なさそうにしながら女性が見たのは、天宮さんだ。
「いえ。間違えてません。
私は彼女と同じ部屋の、ただの付き添いです。
天宮ジゼルと言います。」
私のせいで煩わせてしまって、ちょっと申し訳なく思った。
けれど天宮さんはそんなことなど一ミリも気にしていない感じで極めて冷静に返した。
それにを女性は微笑みで受け止めた。
「ジゼルさんね。
私は弥扇 神夜。
藤木分隊、及び雷乃分隊を纏める神夜小隊の隊長。
よろしくね」




