『カモフラージュのカモフラージュ』
「澤田さん…!」
永徳は廃ビルの階段を駆け上がる礼人に、僅かに息を切らしながら声を掛けた。
掛けられた方の礼人は一切息を切らす様子もなく、前を向いたまま返事をした。
「何だ?
…永徳。」
いきなり名前で呼ばれた永徳は一瞬驚いたものの、特に何も言わずに続けた。
「愛本陽灯とは…その、仲が良いんですか」
思わぬ言葉に、礼人は思わず足を止めそうになって、最後の階段を駆け上がった。
「今そんなこと聞く……か?!」
錆びて開かなくなった屋上へのドアを蹴破り、礼人は永徳を見た。
「今だからです。」
と言いながら永徳は両手に持つ狙撃銃を握り直した。
戦っている最中であるからこそ、共に戦う仲間のことが気になったのだ。
もっとも永徳は陽灯のことを仲間とは思っていないが。
「…まあ、アンゲルスの仲じゃ1番くらいに仲が良いんじゃないか。
外のことは知らないが。」
礼人が指した外とは陽灯がここに来る前まで…つまり昨日まで過ごしてきた家。
愛本孤児院のこと。
それから学校や…その他のことだ。
「何であんな奴と…」
永徳は独り言ではなく、ハッキリと礼人にそう言った。
「……あんな?
お前たち知り合いなのか?
…あ、そういえば同い年か。」
永徳も陽灯も今年、高校生になった同い年だ。
同じアンゲルス本部に通うもの同士、学校が同じであっても何ら可笑しくはない。
永徳と礼人はそれぞれビルの端へ向かい、隊員と敵の姿を探した。
「……同じ学校ですけど。
知り合い…ではないです。
俺が知ってるだけ。
それが余計に………………」
言葉は続かないものの、意味は解った。
どうやら永徳は何らかの理由で、本当に陽灯のことが嫌いらしい。
「永徳。」
仲間達の姿を見つけた礼人は永徳を呼んで、一緒に構えた。
「そもそもあの口調からして嫌なんです。
一体、どういうつもりで……」
ぶつぶつと何やら呟きながら、永徳は別れたななみ班の方を見つめていた。
敵は全部で6人だが、ニ、ニ、ニで別れてひとつが本命として真ん中を走っている。
そしてひとつは陽灯と穂憐と、もうひとつは大陽と遊戯と戦っている。
「ん…、ああ。
えっと、お嬢様言葉ってやつか?
別にそんな気にならないけどなぁ…」
人によっては気になるものなのかもな…と呟きながら礼人は中央を独走する二人の敵へ構えた。
「澤田さんはそもそも使われてません。
それは解ります。
でも、なんで俺が……」
ああ。
そういえば気を抜くとすぐに使わなくなるな…と思い直した。
格好つけようとするときなどは使ったりするが、最近は殆ど使わない。
しかし永徳の口振りだと、まるで陽灯の言葉遣いに意味があるように思える。
「…無理には聞かないが、何かあるのか?
……でも知り合いじゃないんだよな」
二人だけのなにか…、とかなら解るが。
二人は…少なくとも陽灯にとって永徳は初めまして、だ。
「…いえ、それは俺の口からは言えません。
それに飽くまで言葉遣いは腹が立つこと。
俺があいつを嫌ってるのは別のことです。」
もう隠す気が更々ない言いように、礼人は苦笑いした。
堂々と言ってしまう永徳の言い方は嫌いではないが、陽灯のことを嫌われてしまっているのは複雑だった。
出来れば、自分が好ましく思っている永徳と陽灯も仲良くあって欲しかったからだ。
「…何でそんな嫌ってるのか知らないが。
オレと陽灯は仲が良いし。
オレとお前はこの分隊で二人だけのスナイパーだし
お前と陽灯は同じ班の仲間だ。
違うか?」
礼人にスコープを見つめながら、言われた永徳は少し黙り
同じようにスコープを見つめ
「違いません。」
と、多少の不満を抱きながらも、同意した。
不満を隠さないところも含めて素直な永徳に、礼人はまた苦笑し永徳の背中を軽く叩いた。
「安心しろ
アイツはオレが守る。」
そう誰ともなく言って、礼人はマターの弾丸を放った。
ピシュンッ…
独特な音を帯びて来たのはマターの弾丸だった。
その弾丸は的確に、私へ襲ってきていた剣を跳ね返した。
相手は一瞬のことに訳が解らない様子でただただ目を見開いていた。
「ハァッ!!!!!」
撃ってきた相手を見ずとも解っていた私は、すぐに敵の剣を打ち払い、柄の部分にあった宝石へ剣を突き刺した。
「っ…」
硬い宝石は一度では壊れなかった。
剣を両手で持ち、自分の体重をのせ精一杯の力を込めることによって何とか壊れた。
そのGEMのような宝石は光を放ちながら舞い上がり、やがて消えた。
「そんな…!」
宝石が消えたと同時に、敵の姿が変わり、黒いローブを纏った姿になった。
恐らくこっちが生身。
「―氷よ、彼のものを撃ち抜け―」
動揺する敵に穂憐さんは氷の矢を放った。
氷の矢は青ざめて腰を抜かした剣士の敵を…通りすぎ、もう一人の敵の宝石を撃ち抜いた。
かに思われたが、何故か氷の矢は宝石を撃ち抜く前に無くなってしまった。
「任務失敗だ。」
もう一人の敵はそう呟くと、正門の方へ走っていった。
「待っ―」
追い掛けようとしたが、すぐに穂憐さんに掴まれた。
「僕らは戦闘員だから逃げる市民を追いかける必要はない。
先に、木寺班長達と合流しよう。」
穂憐さんが敵を市民と言ったことに驚いた。
が、すぐに理解した。
彼らが素人だった理由もそれだ。
彼らは偶然なのか必然的に宝石を持っていたにすぎない市民。
それでも不法侵入したに違いはなくとも、アンゲルスが何かをすることは出来ない。
戦意がない限り、彼らの処置は警察に一任される。
それでも現行犯逮捕する権利くらいは私達にもあるが、その仕事をするべきなのは私じゃない。
何度だって言おう。
私達は戦闘員。そして我が国におけるアンゲルスの意志は専守防衛。
相手に戦う意思がない限りは何も出来ない。
「それでも、あの宝石を壊すくらいは良いと思いますけれどね」
私は“市民”が握りしめる宝石を見つめながら呟き、穂憐さんと木寺班長達の元へ向かった。
「あ、じゃあよろしくな!
えっと…」
小河大陽は敵の前で堂々と敵ではなく、仲間に向き合い始めた。
向き合われた仲間の方も動揺せず、平然と答えた。
「斉賀遊戯です。」
「遊戯くんか!
これからよろしく頼むよ!」
大陽は元気よくハキハキとした声で言ってから遊戯へ手を差し出した。
差し出された遊戯の方も、笑みを浮かべて握り返した。
「早速で悪いんすけど小河さん。
こんなことしてる場合じゃなくないですか?」
握手を終え、なおも笑みを浮かべたまま、遊戯は両サイドの腰に提げられた自分の剣を、逆側の手で握った。
「それもそうだな!
失念していた。すまない。」
そう堂々とした笑みを浮かべ、大陽は少し太めの剣を両手に持ち、敵へ構えた。
「いえ構いません。
よろしくお願いしますね、大陽センパイ」
言いながら、遊戯は両手剣を抜いた。
「もちろんだ!」
二人の3本の剣が、敵の宝石をほぼ一瞬で砕いてしまったのは言うまでもない。
それとほぼ同時刻。
「全く…本部に来るだなんて。
これだから悪魔教は。」
深い溜め息を吐きながら、ななみは敵を睨み付けた。
「まあ、体に爆弾巻き付けられるよりマシですよ
…それだとうちがやる必要はなくなりますけど」
彼らが宝石…GEMを使い魔法を行使しているからこそ、アンゲルス隊員が対処しなければならないのだ。
彼らは悪魔教。
悪魔を神と崇め、それに仇なす私達を敵とする傍迷惑な宗教団体だ。
悪魔教とは元は超能力や魔法といった人智を超える力を崇める宗教だった。
それなら理解はできるが、それがどうしたことか複数の宗派に別れるにつれ、何故かこんな過激で訳のわからない宗教まで出来てしまった。
元々、力を崇めていた宗教の人達にとっては迷惑でしかない。
訳の解らないお陰で悪魔教のなかでも宗派がバラバラだったりするので、まともな魔法を使える人もそうそう居ない。
何故か時たま違法なデモをされたり、戦闘中に邪魔をされるだけだ。
もっとも、それでも十分迷惑だが。
魔法を使う目の前の人々は本物の悪魔教。
他の悪魔教はカモフラージュのカモフラージュにすぎないのだ。
「とにもかくにも」
「さっさと終わらせよ♪」
咲來とみかんはそれぞれ笑顔を浮かべた。




