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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第三章 『Disciple』
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『太陽と月のイヤリング…GEM』

新入式に向かう途中、

「ひかり!ひかり!」

聞き慣れた声に呼ばれ、私は姿も見る前に、その声のする方へ…走った。


何故かって?

それは呼んでくださったのが

「帆凪様!」

だからです!!!


「どうされたんですの?!」

ズサーっと帆凪様の前にかしずいて満面の笑みで聞いた。


流れるように立ち上がらされながら、帆凪様の言葉を待った

「今日は…、プレゼントがあって来たの。

 そんなに良いものでもないけど」

少し言いにくそうにしながら、帆凪様が私へ見せたのは長方形の平らな箱…。

その箱は無地の真っ白な金属で…どことなく上等な感じがした。


帆凪様の手で、箱はゆっくり開かれた

「わ…ぁっ……‼」

箱の中のそれに、私は目を奪われた。

帆凪様がくださると言うそれは…一つのイヤリングだった。

太陽…そして月を表したイヤリングは所々が宝石で出来ていて…それはそれは美しかった。

真っ白な小さな三日月も美しいし…、何より、その下にある大きな青い宝石で出来た太陽が何より美しかった…。

その宝石の輝きは眩しくて、けれど暖かくて、本当の太陽のようだった。


「…これはGEM。

 貴方用のね」


「えっ…?!」

こんなに綺麗なのが、GEMだって言うのにも…私用のGEMが貰えたことにも驚いた。

帆凪様の首にも、ハートのネックレスが輝いている。

正統者レジティーマには代々受け継がれるGEM…というよりリミッターがある。

リミッターはGEMと基礎は同じだけど、正統者レジティーマの能力を制御するためにあるもの。


でも、私は正統者レジティーマじゃない。

一介のアンゲルス隊員に過ぎない。

隊員はこれからの新入式でGEMを受けとるはずだ。


なのに…

「受け取ってくれる…?」

GEMを私へ渡そうとしてくださっている帆凪様の表情は、何故だか影を持っていた。

私には推し量れない、何らかの理由、感情が帆凪様にはあるんだろう。

それはきっと、GEMの使い道。

これを持つことの意味。

そして持ったことで私に待っているかもしれない未来。


それでも私は躊躇わず笑顔で言う

例え、どんな未来が待っていたとしても、それこそが私が選んだ道だから

「もちろんです!

 帆凪様!」

私はGEMを受け取り、自分の左耳へ着けた。

僅かな重みを帯びたGEM。


どこかで聞いたことがある。

GEMもリミッターもすべて一律に同じ重さ…21グラムなのだと。


それが本当なのかも、それがどんな意味を持つのかさえ、私は知らない。

けれどその重みは、このGEMは、それらすべてを力に変えるように…心地好く、私の決意を促した。













新入式は厳かに格式張って行われた。


アンゲルスは…陸海空、そして異という四番目の存在ではあるけれど、他の3つとは基本が違う。

他の陸海空は防衛省…つまり神皇の名に置いて機能している“内閣”が命令を出す。

…が、アンゲルスの場合は神皇から任命された人物が命令を出すのだ。

間に内閣…国が入らない。

その理由は指示を迅速に出すため…と、国は悪魔に対する知識がないから。


国を通さず行っているために、その資金はスポンサーによるものが多くを占めている。

基本は柊家など身内だが…、それ以外もある。


だからこそアンゲルスの新入式では厳格に事を進めなければならない。

そうでなければ国民へ示しが付かないし、偉い方々が大勢来るのだ。

恐らく、香川さんや木寺さん達は、その人達の護衛をしている。


みんな真面目に、怖い顔をしながら、その新入式をやり過ごした…が、隊員は学生がばかりだ。

終わってみれば

『疲れたー!』

『お尻痛い~!』

みたいな言葉が飛び交う。


実際問題、私もお尻が痛い。

ちょっと眠たかった。…ちょっとだけ。


思わず漏れそうになるアクビを、手と気合いで何とか押さえようとしたが、それは到底無理だった。

「「ふぁ…」」

何故か重なってしまった間抜けな声。

ふと、声がした方の方を探ると、岩瀬さんが悪びれる様子もなく、もう一度大きなアクビをしていた。


…まあ、もう終わったから良いよね。

人のこと言えないし……。


と、私も開き直って大きく伸びをした。

「お前まで眠かったかよ…。」

降ってきた声にビクッ!!として慌てて手を下ろした。


「あ……、礼人か。」

声の主になーんだと溜め息をついて改めて伸びをした。

「お前、良いけど…何か無いの?

 恥じらい?」


「えっ、恥じらってほしいの?」

私の言葉に、礼人は眉を潜めて、考え出した。

多分、想像してる。


「うわっ…、やめろ。恥じらうな。」

うんうん。そうだよね。

さもありなん。

……うわって失礼な!と力を込めて足を踏んだ。


「痛いたいたい!」

ケッと口で言いながら足を踏むのを止めた。

私、最近、礼人に取り繕わない過ぎだなー……。


「あ、陽灯ちゃーんと、永徳くーん!」

呼ばれた声に振り向くと、見知らぬ女性…と、咲來さんと穂憐さんが居た。


「呼ばれたから行くね。」

私はバイバイ、と軽く手を振った。


のに、礼人にまた止められる。

「知り合いか?」

聞かれるとは思わなかったので、ちょっと目が泳いだ。

「…うん、殆ど。」

女性以外は全員知り合いだ。

その女性も、恐らく木寺さんという人だと思う。


「そうか。

 また後でな。」


「う?…うん!」

その後でがいつ来るのかは解らないけど、とりあえず頷いた。

そう言えば、佐久間さんとエッカートさんとかの連絡先は知ってるのに、何故か礼人の連絡先って知らなかった。


…ま、その“後で”に聞いてみれば良いかな。


そこで初めて、私はGEMという端末を持ったことに気づいた。

GEMは今流行りの超小型携帯でもある。

私が今持っている端末は小型ではあるけど、性能が全然違う。

ゲームはもちろん、電話も出来ない。

出来るのは文による連絡のみ。


…まあ、殆どそれで済むから、不便だと思ったことはない。


世界中の人が使うSNSREIN(レイン)も使えるし!

そういえばREINってどういう意味なんだろ…?

雨?

あ、それはRAINか。


「何だそれ」


不機嫌そうな声に驚いて、声の主を見た。

声の主は岩瀬さんだ。

岩瀬さんが“それ”という視線を辿ると、イヤリングだった。

無意識に手で弄ってたらしい。


「GEMですわ。」

木寺さん達の場所に着いたので、一言だけ短く言って、それ以上は口を開かなかった。


「はぁ…?

 それのどこがGEMなんだよ。」

そんなの…素人目に解るわけないでしょ?

正統者レジティーマだって解らないんじゃないの?


元々正統者レジティーマは秘密組織だった。

GEMやリミッターがアクセサリーのようなデザインなのは、秘密組織だったときの名残。

バレないように出来てるの!


すると岩瀬さんは自分の隊員服のネクタイ…その結び目で輝く六芒星型のプローチを指差した。

その中央には、橙色の宝石が嵌め込まれている。


…意図せず、岩瀬さんの属性を知ってしまった。

「GEMはこれだろ?

 …まさか貰えなかったのか?

 さっさと言ってこいよ」

いや、何でそうなるの!

親切なのか不親切なのか解らない奴ね!

GEMって言ってるじゃない。

それ以上は放っておいてよ。


これは帆凪様から頂いた私の大切なGEMです!

「ありがとうございます。

 けれど平気なので、どうぞお気遣い無く。」

世の中にはありがた迷惑って言葉もあるのよ。


「はぁ??

 これから任務なんだろ?!

 何処が平気なんだよ!」

…しつこい。

人の言葉をなんにも信用しないで…。


だからこれはGEM!

何処をどうしても大丈夫なんです!

帆凪様が正統者レジティーマ…とかのことは話せないから、これはGEMと一点張るしか余地はない。


…いっそ実力行使でGEMを武器に変形させて証明しようかとも思ったが……

緊急時以外のアンゲルスの建物内でのGEM、及び攻撃系統のマターの使用は禁止されている。

さすがに…、新入式当日で規則を破るのは不味い。


「とにかく平気なんです。」

と、少し強く言った。

もうそうとしか言い様が…。


違うタイプのGEMなんですと言えば、何故私だけ違うものが与えられるのか気になる。

帆凪様にプレゼントとして貰ったと言えば、帆凪様が何者かと思われてしまう。

飽くまで帆凪様も表向きにはアンゲルスの隊員だから…。


「は――」


「はい。

 そこまでね。」

女性の声にパッと我に帰った。


「すみません…」

我ながら…、初対面の人の前で何をやってたんだ。

失礼にも程がある。


「謝る意味が解らん。」

と、岩瀬さんはまるで当て付けのよう言った。


私はむしろ、謝らない意味が解らない。

もし自分が相手の立場だったらとか考えないのかしら。


すると女性はクスッと笑い

「私は木寺きてら 愛美まなみ

 二人から聞いてると思うけど…

 神夜かぐや小隊、藤木ふじき分隊所属、愛美班の班長よ。」

…つまり、この女性…木寺さんは、愛美班。

私達二人と、咲來さん、穂憐さんが所属する五人の班長。

そしてその班は藤木さんという人の分隊に含まれ

また、その分隊は神夜さんという人の小隊に含まれる。


まあ…、何にしても私の上司だ。

「愛本 陽灯です。

 よろしくお願いします。」

そう言ってから深々と頭を下げた。

さっきの謝罪の延長でもある。


「…岩瀬 永徳だ。」

………よろしくお願いします、は!?

まあ、良いや。

思春期か。思春期なんでしょ?

私は多目に見てやる。


「それで早速だけど…陽灯ちゃんは訓練したことあるのよね?

 自分ではどう思う?戦える?」

どう思う…。


…………


私は今までの自分の訓練と、最初に見た帆凪様と悪魔の戦い。

…そして、結子さんとの事を思い返した。


訓練を通しての仲間や友人との出会い。

悪魔を可哀想だと思ったこと。

結子さんとの戦闘での痛み、死への恐怖、生への執着。


それら全てを思い返しても、私は戦えるだろうか。

戦う覚悟があるだろうか。

実力があるだろうか。


「………。」


この手に、剣を持って戦えるだろうか。


瞬きして一瞬、見えた光景に震えた。

「…血が出る相手だと……、解りません。」

自分の剣が…、手が血濡れていた。


解らないとは言ったけど…、無理だ。

少なくとも今の私には……。

私は目をぎゅっと閉じて、自分のGEMに触れてみると…不思議と心は落ち着いた。

「そうね。

 でも大丈夫よ。

 何にしても血を見ることはないから。」

その言葉に驚いて顔をあげた。


血は出ることはない…?


研修生の時点で早速セカイで出て、現実世界でも出そうになったんだけど…。

それはともかく、何でそこまで確信してるんだろう…?

私にとっては、これから起きる事実より、

木寺さんがそう思った根拠の方が気になった。

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