『愛美班』
「あぁぁ…
やっぱりそうなるのね。」
その声の主を探して下を見ると、可愛らしい女の子…と、女の子の“ように”可愛い男の子が居た。
「解ってたくせに何で試すかな?」
「それはもちろん、可能性を見るためよ」
「結果は?」
「少なからずあったわね。
扉を閉めなかったわ。」
「ふーん」
と、ロリとショタは舌ったらずの口で小難しいことを話した。
私は二人に視線を合わせるために少し屈んで口を開いた。
「何かご用ですの?
咲來さん、穂憐さん。」
ロリは操辻 咲來。
操辻颯天さんと、咲空さんの娘。小6。
ショタは神氷 穂憐。
神氷陸穂さんと、懸憐さんの息子。小5。
共に長男長女のレジティーマ。
「個人情報保護法がまるで機能していないね。
僕らに人権はないか。」
「ないわね。子供だもの。
年賀状なんて載せ放題よ。」
的を射た咲來さんの言葉に、思わず苦笑いした。
漏れなく、赤ん坊から七五三、小学校入学まで全て年賀状で見せていただきました…。
恐らく卒業も見せてもらいます…。
「ほら、穂憐速く行って」
咲來さんが穂憐さんを急かすと、人権がないのは僕だけか…なんてぼやきながら何処かへ行ってしまった。
「用と言うのは…、ひとつは…こ…れ……です!」
咲來さんが隊員用のポーチから引っ張り出したのは少しクチャクチャになってしまった…新品のタイツ…?
「まだ少し寒いし、これ使った方が可愛いよ…って」
と、咲來さんに押し付けられた。
ロリからタイツをプレゼントされるのは申し訳ないと言うか、なんか可笑しいと言うか…。
「お母さんとお父さんから…、やっぱりお母さんからのプレゼントって事にしておいてください。
お父さんからは現金を要求しても良いですよ。」
またまた苦笑いをしながら、でもそう言うことなら確かに生足はキツいので有り難く受け取ることにした。
夏なら良いんだけどね。
今日、4月になったところだから。
あと、颯天さんに現金の要求はしないよ。
「見張ってますから着替えたらどうですか?
ここで私服だと目立ちますよ。」
言われて確かに…と頷いた。
香川さん達も部屋を出る前に着替えていたし、二人も隊員服を着てる。
「そうですね。
折角プレゼントも頂いたことですし。」
と、微笑んで咲來さんを部屋に招き入れた。
慣れないうちは難しそうだから、時間が掛かるだろうから…。
「陽灯さんはナイフでしたよね」
咲來さんは私のベッドに座り、足をプラプラさせながらそう聞いた。
私はその反対側で上の服を脱ぎながら答えた。
「はい。そうですよ。」
棚から取った隊員服一式をベッドに置き、中からグレーのシャツのみ取って袖を通した。
やっぱり新品だからか、質が良いのか、着心地が良い。
夏は半袖で、これとスカートを着れば成立するらしい。
下も脱いで隊員のスカートを着ようとして手を止めた
「こっちが先。」
と、真顔で咲來さんに差し出されたのは、さっき貰ったばかりのタイツ。
「あ…っ、はい。」
頭を下げながら受け取ってタイツを袋から出してベッドに座った。
「ナイフの場合、正式なGEMを貰ったら
着替えとかはショートカット出来ます。」
言われながら靴下を脱ぎ慎…重……に、タイツを足に通し始めた。
簡単に破れるからね…命懸けだよ…。
「便利ですね…」
この命懸けの綱渡りをしなくて済むなんて……………、おお、履けた。
慎重に立ち上がって足を伸ばしてみたけど、結構頑丈だった。
安心しながら、改めましてスカートへ手を伸ばした。
「でもあれだよ。
GEMを解除したら私服に戻っちゃうから結局隊服来てる人も居ますよ。
私はめんどくさいから、そんなことしないけど。」
あはは…、その面倒臭がり屋の性格はお父さん譲りかな…。
容姿とか基本的な口調はお母さんに似てるんだけどね…。
シャツを入れながらスカートを着ると、ノックの音が聞こえた。
「待っててー。
入ったら斬り刻むからー」
可愛い声で物騒なことを言った咲來さんの言い方に、多分穂憐さんだなと思った。
「別に入っても良いですよ」
ショタだし。シャツもスカートも来てるし。
…ショタだし。シャツだし。
似てる。
「絶対ダメ。
でも急がなくても良いよ。」
急がなくても良いよと言われても急いでしまうのが人の性。
私は6つもボタンがある…様に見える3つボタンのジャケットを早々と来て、黄色のリボンを結んだ。
出来ました!とドヤ顔で咲來さんを見た
「入って良いよ」
咲來さんがまた声を掛けると、ガチャ…っと音がなって穂憐さんと…見知らぬ人物。
その彼も既に隊服を着ていて…手には指先の出た白い手袋がはめられていた。
シャツがグレーだから、あんまり違和感はなかった。
割りと格好いいよ!
誰かだか知らないけど。
「手袋は私達からのプレゼントです。
別に物で吊ろうと言うわけではなく
単純に良い仕事をして頂きたいだけなので…
めんどくさいことは言わないでくださいね。」
そう言うと咲來さんはベッドから立ち上がり、部屋の奥の窓へ向かった。
穂憐さんもそれに続くと、二人は振り返り
穂憐さんから口を開いた
「ようこそ。
神夜小隊、藤木分隊…愛美班へ」
続いて咲來さんが口を開き
「愛本陽灯
岩瀬 永徳、共に歓迎します」
私は二人の言葉に目を見開いて驚き、その瞳孔が元に戻るにつれて理解した。
要するに私…と、岩瀬さんという彼は愛美班というところの所属になったわけだ。
それを通達するために態々二人はやって来たらしい。
岩瀬さんは、連れてこられた?のかな?
「愛本陽灯…だと……?」
親の仇に向けるような声に、驚いて…、若干怯えた。
え…え?
初対面ですよね…ね?
「…で、その本人はどうした」
岩瀬さんは何事もなかったように二人を見た。
綺麗な顔に反してそこそこ低い。
見れば、眉間にシワも寄っていて…颯天さんや咲來さんじゃないけど、何だかめんどくさそうだ。
「生憎、木寺隊長は護衛任務中です。
…が、なぜ私が木寺でないと?」
木寺愛美さんという人がが班長なんだ。
でも確かに、岩瀬さんは何で違うと解ったんだろう。
咲來さんのこと知らないよね?
穂憐さんは既に自己紹介済みかもしれないけど。
「餓鬼が班長なわけないだろ。」
「なっ…」
私は思わず振り替えって岩瀬さんを睨んだ。
初対面の人に向かって何という言い草か…!
敬語じゃないのは百歩譲って良いとして…餓鬼?!班長なわけない?!
かなり腹が立って思わず口が開いた
「少なくとも咲來さんは、
貴女より格上の相手だと思いますわ」
本来であればさっきあったばかりの人にこの言い方はないと思うけど。
漏れなく七五三まで見た子を理不尽に悪く言われるのは…激しく怒りを覚えます。
「あ?」
何があ?だよバーカ!
凄んだって怖くありません~!顔が可愛いだけです~!
実際問題、咲來さんも穂憐さんもめちゃくちゃ強いし!S級レベルだし!!!!
「馬鹿じゃねぇの、お前。」
何だとこんにゃろう…。
「あら…、お前なんて言う名前の方は居ないと思いますわ」
餓鬼なんていう名前の子もね!!
「…あー、そうかよ。
で?
まさかこれだけの為に呼び出した訳じゃないだろ?」
やっぱり口調とか態度は腹立つ…けど、咲來さんの用があるのは間違いないので黙る。
最初にタイツをプレゼントしてくれたときに、ひとつは…と言っていたから、二つ以上は用があると言うことだ。
「ええ…。
突然で申し訳ないですが、新入式後、さっそく実戦です。
それも復数日に渡って。」
咲來さんの言葉に、思わずえっ…と言ってしまった。
「いくら何でも早すぎます!」
と速攻で抗議した。
私は良いのだ。
研修生のときに訓練したんだから。
でも、岩瀬さんは違う。
まだGEMに触ったことすらないはずだ。
それでいきなり実戦だなんて…、あまりに酷だ。
腹は立っても、それとこれとは全く別問題。
怪我とかトラウマが出来てしまっては…。
「はっ…
何のためにアンゲルスに入ったんだ?
早いも遅いもないだろう。」
その通りだけどやっぱり腹立つな…!岩瀬さん!!!
「確かにそうですが、実力不足と言うものはあります。」
「何だと…?」
「仮に貴方がカル…能力者であったとしても
訓練なしに…」
言い掛けて躊躇った。
恐らくGEMを使うので、失敗したとしても私のように死にかけたりすることはまずない。
変身?換装?をするのでその状態で貫かれても、死なないし、体力も防御力もアップされる。
その換装が解けてしまっても、下がれば大丈夫だろう。
っていうか普通は解ける前に下がる。
むしろ、敵を倒し終える。
「人を見た目で判断してるのはどっちの方だよ。
それとも何か?
お前にとっては訓練がすべてか?」
「別にそういうわけでは…」
「はぁ?
意味わかんねぇ。
とにかく戦うんだろ。それが命令なら戦うだけだろ。」
私が言えた口ではないけど…、岩瀬さんよりは解っているつもりだ。
戦うとはどう言うことかを…。
剣を向け、向けられる感覚を…。
私は最後に咲來さんに聞いた。
「相手は悪魔ですか、人ですか。」
すると咲來さんは満面の笑みで
「人です」
と言った。
僅かに、岩瀬さんが息を飲むのが聴こえた。
『先が思いやられる……。』
と、溜め息混じりに言ってから、その女性は改めて深く溜め息をついた。
「永徳さんは口が悪いのと言葉足らず。」
「陽灯は…、まあ、慣れもあるだろうけど、ちゃんと聞かないとな。」
永徳の口の悪さと言葉足らずは治すのは難しいだろう。
それが彼の個性でもあるのだろうから。
陽灯が隊長なわけがないと思った理由を聞かなかったのも…仕方がないと言えば仕方がない。
誰が聞いても、そう解釈しただろうから。
「永徳は単純に、班長は級が高いだろうから、
僕らみたいな子供じゃ実力関係なしに
なれるわけがない。と思った。
時間的な関係でね。」
「けれど陽灯さんは私の正確な年齢と、
昇格制度を細かく知っていたために、そうとは思えなかった。」
『なるほどね…』
アンゲルスの昇格制度では、12歳の咲來であればギリギリA級になっていても可笑しくない。
もっとも、実力がなければ無理な話だが、陽灯は咲來の桁外れの強さも知っていた。
その強さは武力的なものではなく、マターの強さなのだが…。
どちらも間違いではない。
単純に持ち得る情報が違っただけだ。
けれど、同じ情報を持っていたとしても…
『これは単純に、相性の問題かしらね…』
愛美は何度目か解らない溜め息を吐いた。
けれど、それとは対照的に咲來の声は明るかった。
「良い傾向だよ。
人間好き嫌いがあるのは当たり前なんだから」
と、言いながら、咲來は通信を切った。
「ね、隊長。」
咲來の目の前には茶色のベリーショートの髪と緑色の瞳持った女性が居た。
他の隊員とは対照的な純白のジャケットとスカート、そして真紅のネクタイとジャケット下に覗かせる赤いシャツ。
その腕と肩には一つの六芒星と一本の筋と、太い線が描かれていた。




