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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第二章 『Narcotic human』
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〈報告〉

「わ…悪かった内匠ぃぃぃぃいいいい!!!!!!」

そう泣き叫びながら内匠 エナに抱きついたのは、コロンナ ギファだ。

怒鳴る姿も周りを驚かせたたが、泣き叫ぶ姿はもっと周りを驚かせた。

どちらにしても、ギファはその驚きを気にしては居ないが。


エナも驚いているうちの一人だったが、やがて我に帰り

「さ…触るな!!!!」

と、また暴れた。

けれどギファはより一層強く…しかしエナが痛くないように抱き締めた。


「大丈夫だ…。

 操辻さんから聞いた。

 すべて私の実力不足のせいだ。思慮に欠けていたせいだ。

 本当にすまなかった。」

ギファはエナが落ち着いてからスッと体を放し、深々と頭を下げた。


エナは驚いたような顔をしてから慌てて首を振った。

「ち…、違う!

 私の…呪いの……。私のせい…。」


そう言われ、頭をあげてもらおうとしたが、ギファは頭を下げたまま口を開いた。

「違う。

 君が呪いと呼ぶそれは特殊能力というものだ。

 今回のこと…、そして君が今まで経験してきたことは、すべて相手に実力が…自らの力を制御できなかった為に起こったことだ。」

ギファの言葉にエナは訝しげな…不思議そうな顔をした。


「んなこと言い出したら人類の大半、実力不足だけどな」

明石家 瀧は頭の後ろで腕を組ながら仏頂面で言って、その後でエナに向かってニカッと笑った。


するとすぐに多喜本 アカシアに、黙れとばかりにスパーンと頭を叩かれた。


次に、鎹 夕美が口を開いた。

「細かく説明すると、生きとし生けるものは大抵アニマを持っている。

 多かれ少なかれね。

 生命エネルギーとも言う“それ”を多く持つものはマターが使えるが、大抵はGEMを持たない限り、また持ったとしても使えない。

 だからレジティーマやカルディア以外は、アニマをコントロールする必要がない。

 コントロールするほどアニマがないからね。

 しかし、君の特殊能力の影響を受けるとアニマは膨れ上がり、相手にコントロールする力がなければ暴走し、やがて…。

 それは君が一番解っていることなんでしょう。

 けれど、決して君が言うような“呪い”ではない。

 相手にコントロールする力さえあれば、アニマが膨れ上がるだけ。

 つまり…」


「まあ、要するに…

 相手がちゃんとしてれば強くなるだけってこと!」

エッカート 秀に途中で遮られてしまった夕美は、カタカタと震えながら最後まで言わせてくれ…と弱々しく言った。


「お前、いつまで頭を下げてんだ。

 ウザい。」

と、心底うざそうにギファに言ったのは天都 キリだ。


「あ…?

 君にとやかく言われる謂れはない。

 そもそも君が口で説明していればなぁ…!」


「はぁ?!

 俺だって知らなかったし、つーか自分で聞けよ!」


「君が聞けば良かったんじゃないか!」


と、また言い合いを始めてしまったが、前とは違って双方声を荒げてはいない。

喧嘩と言うより、じゃれ合いに近いようにも見えなくもない。


とはいえ、

「はいはい。

 喧嘩したらダメだよー」

と、桜庭 辰弥がにこにこしながら止めに入った。

そう言われた二人は大人しく止めたが、やっぱり二人とも微妙に睨み合っている。


辰弥はエナに向かって大袈裟にやれやれと溜め息を吐いて見せた。

エナは思わず笑った。


それらを見届けた教師たちは安堵し、咲空は報告に向かった。













「ラ・イ・トくーん?

 どうたんだヨー」

いつの間にかクラスの輪から抜け出していた澤田 礼人を見つけたのは、李 イーサンだ。


すると礼人はパッと振り向いて心底驚いた顔をした

「あ…ああ…、李さんか。」

フッ…と溜め息を吐くと、再び扉の方に目をやった。


「李さんなんて他人行儀な!

 イーサンさんって呼んでヨ!」

腰に手を当て、頬を膨らませながら怒ったイーサンに、礼人は僅かに笑い声をあげた。


「ああ。

 …これからはそう呼ぶよ。」

視線は変えずに声だけを返した礼人に、イーサンは微笑みを浮かべていたが、その笑みには影が落ちていた。

「…陽灯ちゃん?

 どうかしたの?」


「…ああ。出てこないんだ。」

扉の向こうに居るはずの愛本 陽灯。

礼人によれば、しばらく待っても出てきていないらしい。


「………まあ、単に疲れてるだけなんだろうが…」

そう言っては居るものの、礼人の顔には影が落ちていた。

それを心配に思っているのかな、と解釈したイーサンは微笑みを浮かべ、背後にあるモニターに陽灯の姿がないか探した。

…が、見たところ姿は見えない。

おそらく既にセカイから出ている。


「………………ちょっと見てくる」

と言い、礼人が向かおうとしているのは制御室だ。

まだ中には佐久間が残っているだろう。

今奈良はまだ入れるはずだ、と足早に制御室へ向かおうとした。


「え?!

 いや、多分もう仮想セカイには居ないと思うヨ!」

もう少し待ってみようヨ!と止めた次の瞬間、目の前の扉が開いた。


パッと二人が振り替えると、陽灯はキョトンとした顔をして

「あれ…、どうしたんですか?

 ぃさんまで…」

陽灯が出てきたことでホッとしたイーサンは何でもないヨ…と言い掛けたが

「どうしたじゃねぇ…!

 何ですぐ出てこなかった!」

そうキツく言った礼人に、陽灯は目を見開いて驚き、イーサンも少し驚いた。


「え…、ごめん……。

 ちょっとボーっとしてて…」

そう言った陽灯に、礼人は少し間を置いてより一層眉を潜めた。


挙動不審に目を逸らした陽灯に、礼人は更に詰め寄ろうとした…、がイーサンは慌てて二人の間に入った。

「陽灯ちゃん疲れてるんだヨ!

 きっと礼人くんも、疲れてるヨ!」

礼人は軽くイーサンを睨んだが、イーサンに折れるつもりがないことが解り、はぁ…と溜め息を吐き、陽灯と目も合わせずにその場から離れた。


「ご…、ごめんなさい、李ぃさん。」

後ろから聞こえた陽灯の謝罪にイーサンは慌てて振り返り


「陽灯ちゃんが謝ることなんてないヨ!

 礼人くんも心配しすぎて怒っちゃっただけだから…

 明日には元に戻ってるヨ」

イーサンのその励ましに、何故か陽灯はより暗くなった。

イーサンがどうしたものかと慌てると、それに気づいた陽灯はパッと顔をあげて無理に笑ってみせた。
















「…あら、貴方が来るなんて珍しいですね」

珍しいと言いながらも特に何の感情も含まない声で、彼女…柊 志野は一番奥の席で待ち構えていた。

そこから手前の四つある席の一つには、その娘である柊 志保が座っていた。


「ええ。」

咲空は軽く返事を返しながら、志保の向かいの席に座った。


「何か飲む?」

深く溜め息をついた咲空に、志保は微笑みを浮かべながらそう聞いた。

言われた咲空は、一つ瞬きをしたからあー…と溜め息にも近い声を出して


「はい。お願いします。」

そう頷いた。

何が良いかと聞かれ、咲空は部屋から僅かにした紅茶の香りにそれを頼んだ。

志保は頷いてから、職員を呼び志野と目を見合わせ、紅茶を3つ頼んだ。


職員が淹れてくれた紅茶を一口飲み、咲空はほぅ…と息を吐いた。

そうして紅茶をソーサーに戻し、咲空は口を開いた。

「光の子が、アンゲルスに入りました。」

それを耳にした二人は、息を飲んだ。

志野は普段、滅多なことでは感情を表に出さない。

そんな彼女でさえ目に見えて解るほど驚いたのは、アンゲルス…いや、悪魔と対抗しようする全てのもの達にとって、光の能力者がそれほどまでに貴重なものだからだ。


「カルディア…よね。

 光國はもちろん、有光もかなり前に…」

志保の言った光國と有光とはどちらも昔、レジティーマのなかにいた光の家系だ。

光國は光の家の本家で、分家の一つである有光は最後の光の家系。

最後までなんとか残っていた有光家でさえ、途絶えたのはもう20年近く前。

その悪魔一斉襲来のときに滅ぼされたのだ。


「ええ。

 光の子は…確か来年高校生になる年齢ですから」


「そう…、ならカルディアね。」

言ってから、志保は僅かに笑みを浮かべた。


「これは偉大な発見ね。

 光のカルディアが生まれたと言うことは、これからもっと増える可能性がある。」

そう自信を持って笑顔で言った志保とは対照的に、志野はまた無表情に戻っていた。


「それで…、態々それを私に報告しに来たと言うことは…

 何か要求があるのでしょうね」

言われた咲空は少し瞳を閉じてから、再び瞳を開いた。

その瞳は、赤い輝きを放っていた。


その瞳を見て、志野はふぅ…と溜め息を吐いて、咲空の言葉を待った。

「今期入る子達の入隊する隊について、口出しさせてください。」

微笑みを浮かべていたが、咲空の赤い瞳は確固たるものを持っていた。


「今期…とは、また大きく出ましたね。

 まさかとは思いますが、光の子が誰か教えないつもりですか…?」

心にもない笑みを浮かべながら、志野は威圧を放った。

普通であれば誰もが震え上がる。

咲空も例外ではなかったが…


「いい加減、耐性が付いたのか…

 それともこの状況だからか、全く怖くありません。」

咲空は仮にもアンゲルスで一番偉い相手に対して、どうどうと笑みを浮かべて言った。


「貴方の言う通り、私から教えるつもりはありません。

 貴方が自分で関知するかもしれないし、他の誰かから教えられるかもしれないし

 永遠に知ることはないかもしれないし……、最後に知ることになるかもしれない。」


「え、そろそろ御迎えきちゃう?」

呆気からんとそう言った志保を、志野は軽く睨み付けた。


「とにかく、ダメならダメでそれまでなので。

 私はそれでも構いません。」

咲空にとってそれは、脅しでもなんでもない本心だ。

しかし、その赤い瞳で未来を見ているにも関わらず、それを誰にも口にしない咲空の言葉は、志野にとっては脅しも当然だった。

咲空はそれも解った上で、そう言っている。

本当にそれなら構わなかった…が、“そう”である方がいくらかマシだと思っているからだ。

そして、それらを口にしないのも、口にした瞬間に“そう”である未来は愚か、すべてが崩れてしまうからだった。

志野も志保も、それらを少なからず察しているから催促はしない。


「…良いでしょう。

 貴方のことは信用していますから」

志野の言葉に、咲空は思わず笑い声を上げた。


咲空はティーカップを握り、一口紅茶を飲んだ。

「信用?

 面白いことを言いますね。

 私は…貴方を…、貴方達を絶対に赦さない…!!」

そう叫ぶように言った咲空の握るティーカップはカタカタと震えていた。


「私が恨まれる心当たりはいくつか有りますが…

 志保も入っていると言うことは、貴方が言うのは未来のことのようですね。」

そう言った志野に咲空はティーカップをスッ…と置いた。


「ああ…、言い間違えました。

 貴方達とは志野さんと志保さんではなく…

 どちらかというとアンゲルス…人類への失望と言いますか…」

咲空の言葉に、志保は思わず立ち上がった。

志野も目を見開いている。


咲空はそれに構わず、ああ。と結論を出した。

「憎んでますね。

 …自分も含めて………っ」

咲空は顔を伏せ、両手で顔を覆った。


それを見た志保は苦痛に顔を歪め、咲空に駆け寄って抱き締めた。

咲空はそのまま志保に凭れかかり

「本当に、これが正しいんでしょうか…?

 でも、どれを取ったところで…」

咲空はそう言い終わると志保の胸に顔を埋めて、泣き出した。

志保はそれを受け入れ、ただ頭を撫で続けた。

咲空の瞳が、紫に戻るまで…。

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