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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第二章 『Narcotic human』
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『愛本 陽灯vs内匠 エナ』

泰芽たいが先生が器の小さい男なのかはともかく。


懸憐かれん先生の言う、“折り合い”を着けるのは思ったよりも難しく…私も、おそらく誰も着けられていなかった。

結子さんが嘘つきで、裏切り者だった…、それはもう、事実としてどうしようもないこと。

だから、……それでも悲しいけど、受け入れなきゃいない。

けれど問題はそのあと。


これから、人に対してどう接したら良いのか、よく解らない。

疑うことはないけれど…。

でも、仲良くなって、また傷つくのが怖い。

結子さんの、あの、いつもと変わらない笑顔が怖かった。

もしも、礼人がいつもの調子のままで、突然、裏切者なんだ。と言ったら…。

さすがにそれはないと思うけど…、でも、少し不安になる。


当の礼人はその折り合いとして、むしろ仲良くなろうとしているみたいだった。

元々話し掛けていた内匠さんや、天都さん…その他諸々全員にも、挨拶とかは必ずしている。

何て言うか…しつこい。

粘着質だよね。

…私は個人的に好きだよ。なんか安心した。


しかし、そんな風に考えられる人は少ない。

私も、自分でするのは、まだ怖い。

そんな雰囲気がダラダラと続き…頭痛を訴える人が多くなってきた、今日この頃。


ガタッ…


何かが動いたような音に、静まり返っていた教室の視線が、一気に後ろへ集まった。

どうやら、内匠さんが自分の椅子や荷物を、隣であるコロンナさんの席から離していたようだ。

もっとも、その反対の隣、後ろ扉の席には天都さんが居るので、もしかしたら、そっちに近寄ったとも言え…言え……ないね。


…いっそ清々しいほど避けていらっしゃる………。


すると


バンッ!!!


という鋭く重い音がコロンナさんの机から響いた。

「アンタいい加減にしなよ?!?!!」

自分の席で静かに本を読んでいたコロンナさん。

彼女の机を叩く音と、怒鳴り声に、教室が凍り付いた。


それもそうだ。

単純に大きい音だから…というのもあるけど、コロンナさんはパッと見る、少し怖く見えるが、怒鳴るような人じゃない。

どちらかというと、頼れる姉御という感じ。


その姉御が怒鳴っているから、我々舎弟は震え上がっているのだ。

「毎回毎回あからさまに避けて…!

 位置は決まってるんだから仕方ないだろう?!!

 一瞬でも我慢できないくらい嫌だってのか!?!!」

毎回毎回…とコロンナさんが言うのは、内匠さんがいつも人を避けているから。

礼人はもちろんの事、教室中の殆どの人が、内匠さんのまともな声すら聞いたことがないだろう。

私も、あの一件が最初で最後のプリティーボイスだ。

本来の内匠さんは喋るのも近付くのもダメ。触るなど問題外…という感じだ。


「…………別にそういう訳じゃ…」

内匠さんは、ここに来て初めて私達相手にまともに口を開いた。

やったぜ。2回目のプリティーボイス。

…こんな状況でなければ……!


そんなプリティーボイスな内匠さんだけど、コロンナさんを更に苛立たせてるのは、先生相手になら普通に話すところにもあると思う。

私もあの時は普通に話せた気がするけど…それ以来は…。

いや、特に話しかけてないから……どうなんだろう。解らない。

「だったらどういうつもりだっていうの?!!!

 ちゃんと解るように説明しな!!!」

ほぼ怒鳴りながらコロンナさんは、内匠さんに詰め寄った。


すると内匠さんは、それを迅速に避けて怯えた顔をした。

「っ…!

 近づくなって言ってる!!!!!」


怒鳴っては居るものの、そこまで怯えられる謂れのないコロンナさんはその態度に余計に腹を立てた。

「だからその理由を説明しろってんだよ!!!!!!」

内匠さんが避けるのもお構いなしに、コロンナさんがガッと腕を掴んだ。


その瞬間、糸が切れたように内匠さんは暴れだして叫んだ

「触るなぁっ!!!!!!離せ!!!!離せ!!」

あまりの怯えようにコロンナさんも、私も驚いた。


完全に傍観者のようのなっていた私は、ハタと我に返った。

止めないと…!と前に出ようとした。

それとほぼ同時に

「うるっせぇよ!!!!!

 だったら教師にでも頼んで席変えてもらえ!!!!!」

天都さんがそう叫び、コロンナさんを内匠さんから離した。

そう言えば、天都さんと内匠さんの距離も普通な気がする。


…何だろう……、なにか、違いが……?

先生や、私、天都さんの共通点…?


「そうまでして、何故避けられなきゃいけないんだ!!!!!!」

まるで悪者のような立ち位置になってしまっては居るけど、コロンナさんは普段、人から避けられるような人じゃない。

内匠さんに対して怒ったりしているのも、これが初めてだから、避けられるような謂れは何一つない。


「知らねぇよ!!!

 人には色々あんだろ!!!!!」

確かにそれも一利あると思う。

私も地下に行くのは怖いから、極力行きたくないと思う。


内匠さんは人見知り…というよりは、むしろ対人恐怖症?

恐れてるような気がする。

…でも、私には平気だった……?

でも、私たちに共通点なんて…性別も、年齢もバラバラ…。


「はぁぁあ!??

 色々ってなんだ!!」

…何でしょう。本当に。


もし何か理由があるのなら、話してくれればいいのに…と思う。

話すほどのことではない…と思っても、ここまで来たらもう話してしまえば良いと思う。

コロンナさんが無視されているようで…。

何もしていないのに、ここまであからさまに避けられるのは不憫だと思う。

コロンナ・不憫さんになってしまう。


「色々は色々だ!

 少なくともオレはお前みたいな奴が大嫌ぇだ!!!!!!」

…ん?!

好み問題になってきてしまった。


「何でそんなこと言われなくちゃいけないんだ?!!」

ごもっとも。


「あぁ?!やるのか!」

「上等だ!やってる!!!」


んんんんん!?!!

「ちょ、ちょ、ちょっと、それはさすがに…!」

慌てて止めに入る。


「よーし、解った!」

何が解ったと言うんだ澤田 礼人?!


「ここはアンゲルス隊員らしく

 セカイで闘おうぜ。」

セカイ……って、まさか仮想セカイ?!

え…え???

訓練室を決闘に使うってこと…?

確かに、ここのフロアの訓練室の使用は自由に許可されてるけど…

でも、まさか本当にやったりしないよね…?

そうだよね?

私達、仮にもAクラスで、2000人のうちの上位13人ですよね…?


ウィーアー優等生…信じてるよ………


「「乗った!」」

バカぁぁぁぁぁぁあ


この人達が頭良いなんて絶対嘘だよ………













何だかんだ、何故か全員が誰か相手を選んで決闘をすることになった。

李さんが作ってくれた決闘表!なるものによれば対戦相手はこんな感じ


愛本 陽灯vs内匠 エナ


澤田 礼人vs佐久間 涼


近川 美代vsエッカート 秀


多喜本 アカシアvs明石家 瀧


鎹 夕美vs桜庭 辰弥


コロンナ ギファvs天都 キリ


コロンナさんと天都さん以外はくじ引きによる結果。

因みに書いてくれた本人であるイーサンさんは戦闘が苦手…とのことで不参加。

人数が奇数だから、気を使ってくれたのかもしれない。


私はセカイに入って良いのか些か疑問だったんだけど、念のため訓練室を使って良いか先生に聞きに行ったときに、一緒に聞いたら良いよ。と言われてしまったので…

「ええいままよ!」

と、セカイに入ってしまった。

結子さんと戦ったあのときとは違い、このフィールドは大きな部屋だ。

空間を認識するためなのか、地面や壁や横には線があり、床は濃い青、壁や天井は薄い青色で、部屋というより巨大な箱を思わせる。


前を見ると内匠さんもそこに居た。

私達と内匠さん人の間に、カウントが表示された。

60秒から始まり、だんだん減っている。

これがゼロになれば決闘…もとい、試合開始。

言うまでもなく痛みもないし、死にもしない。

これこそ、仮想セカイの真骨頂。

腕を切ろうが首を切ろうが痛くも痒くもない。ビビるけど。


見ると、内匠さんの武器は…大剣のようだ………。

プリティーボイスに似合わず、力持ち…?


「…ねぇ、内匠さん。

 どうせ戦うなら、一つ賭けをしませんか?」

内匠さんとペアになると解ったときから、考えていたことだ。


「…賭け?」

三度目のプリティーボイスに心の中でガッツポーズをしながら、表面は極めて冷静に頷いた。

「ええ。

 負けた方が勝った方の要求を飲む。単純でしょう?」


内匠さんは訝しげに眉を細め

「……要求があるの?」

要求から聞かれるとは思わなかった…。

むしろ、要求がないであろう内匠さんをいかに説得するか考えてた…


内匠さんも、何か思うところがあるのかな…

「私が勝ったら、皆さんを避ける理由を…私や先生を避けない理由を教えてください」

今更答えにくいのだとしても、こうして聞けばすんなりと答えられると思ったのだ。

単純に、私も知りたくなった。


「…まあ、無理にとは言いませんけれど」

おっと、気づけばカウントがもう僅かだ。


「良いよ。賭け、やろう。」

内匠さんはスッと笑みを浮かべた。

これまたプリティースマイルだ。

けど、ちょっと挑戦的で、それがまたキュンと来る。



数字が目に入り、私は内匠さんへ軽く頭を下げた。

やっぱり決闘ならちゃんとしたいと思ったからだ。



それを見た内匠さんも、戸惑いながらも頭を下げ返しえくれた。

またまた可愛い。



細剣を鞘から抜き、左手は背中へ添えた。

勝っても負けても恨みっこなしだ。


0ー戦闘開始。


「ハァッ!」

開始した瞬間に私は走りだし、細剣を振りかざした。

すぐに大剣で受け止められた。

それを確認にすると、私はすぐに下がった。


相手は大剣。

力業ではきっと敵わない。

ここはスピードで勝負するべきだろう。


頭では解るんだけどなぁ…


相手を目の前にすると、全く隙がないように思える…。

…いや、当たり前か。

行かなきゃ隙は生まれない。


私はトントンと爪先で床を叩いて、軽く息を吐いた。

訓練室での私の体力がどの程度か解らないけど…現実の私はそれなりに体力はあるつもりだ。

持久走じゃ200人中、30人のうちには入る。


悪くはない…よね……?


ま、まあ、死なないんだからやってみよう!


私は体を前へ傾けて、一歩を踏み出した。

押して押して押して参る!


私は再び細剣を振りかざしたが、跳ね返され、攻撃を加えられそうになった…


一つ一つの攻撃を全力でやるのは今の私には不可能だ。

とにかく、速さ。速く。速く。速く。

重い剣よりも細く軽い剣の方が切り換えが速い。


跳ね返された勢いのままに下から上へ斬り込もうとした。

私を斬るつもりだった大剣では防ぐことは出来ず、内匠さんの脇腹辺りへ攻撃を加えられた。

それを確認し、私は再び下がった。


「…なるほど」

内匠さんの脇腹には赤い筋のようなものが出来、そこからキラキラとしものが空へ消えていった。

…あれは血液の代わり?

それとも別の…、もしかしてアニマ?

能力マターを使うためのエネルギーで、アニマがないとGEMも機能しなくなるから、事実上の敗北になる。

なるほどなるほど、戦い方が完全にわかった。


すると今度は内匠さんの方から、大剣を引き摺り火花を立てながら走り出してきた。

中々の迫力だ…

私は素早く動けるように腰を低くして細剣を構えた。


重く降り下ろされた大剣を避け、私は横から細剣を振るった。

がら空きなところを重点的に狙うと、傷を3つほど作れた。


ジリジリジリ――!!!


金属が引きずられる音にハッとそちらを見ると、大剣か眼前に向かってきた。

「うわぁっ!!」

その攻撃の強さに飛ばされた私は転がりながら、何とか立ち上がった。


「……………オーマイガー」

見ると、私の左腕が内匠さんの足元に落ちていた。

…見ない。

見ないぞ。気になったって自分の腕(があった場所)は絶対に見ない。見ないったら見ない。


…チラッ


あああああああああ!!!!!

アニマがとんでもない勢いで逃げてるぅぅう!!


私は深く息を吐いて、前を見据えた。

右手じゃなくて良かった。

ただ時間制限が出来ただけだ。


焦らず、でも速く、速く速く、それだけを考えろ。

私はそう頭のなかで何度も言いながら斬り続けた。

速く、速く、少しでも多くの傷を生むんだ―――


ビー!


突然ホイッスルのような音が聞こえ、眼前にYou Winという文字が広がった。

文字の先の内匠さんを見ようとしたけど、既にその姿はない。

…アニマ切れで強制退場ってことかな。


勝ったみたい。勝てたみたい…。

左腕ないけど。

いや、そうだよね。私は普通科ナイフを目指してるんだから。

あー…、よかった。


そう言えば、内匠さんの要求って何だったんだろう…?

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