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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第一章 『gold angel』
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『真実・事実』

「あっ…陽灯ちゃん!」

明るい声が響いた。

…呼ばれているのは、紛れもなく私、で…呼んでいるのは


「結子さ…」

ベルナール・結子・アリーセさん。

この国では結子はミドルネームで本名として扱われるのはベルナール・アリーセのみ。

…どっちが名字なのか微妙なんだけど…

カタカナなら普通は名前が先に来るはずだけど、ベルナールは名字のはず…

いや、でも、アリーセも確か名字……


「え…ええ!どうしちゃったの?!顔色悪いよ!」


でも…そう。

だからって怪しい訳じゃない。

珍しい名字なんていくらでも有るだろうし…きっと名前だって言い間違えただよ。

「…結子さんがリリィーカリスなんですか?」

そんなわけ、ないですよね?


「………」

ない……ですよね。

例え明らかに繋がっていない二人が、全く別に貴方の嘘を突き止めてしまったとしても


「………」

何か………言ってください……。


泣きそうになった私に、声が降り注いだ。

「ねぇ陽灯ちゃん。

 今日は訓練に付き合ってくれるかな?」

…ああ。

そうなのかな。…そう、なのかな。


「……はい。」

もし、仮にそうだとしても、それを人に聞かれてはいけない。

それなら、訓練室が良い。

…どんなことがあっても、アリーセさんが傷付くようなこともない。

私を傷つけても、本当に傷つくのは彼女自身のはずだ。









『この空間に貴方しかいないことを認識しました。』

降り注いだ声の主はセカイの住人であり管理人である

Āryaアーヤ

人工知能を持つ彼女は誰に対しても無関心で、公平な態度を取る。

もっとも、個人でしか会わないから、私に測る術はないんだけど。


『貴方の名前を教えてください』

愛本あいもと 陽灯ひかり

画面に向かってそういうと、彼女は音を立てた。

認識してくれたらしい。


『対戦の申し込みが届いています。

 確認してください。』

言われた通りに赤く光っている対戦の項目を押すと、初めてみる項目が一瞬出た。

訓練生保護プログラムの解除を許可しますか?とか書いてあった。

…意味は解らないけど先生が居ない、授業じゃないからだと思う。


アンゲルスのプログラムなんだ。

それに、礼人のお父さんの友達が加わっていたプログラム。

少なくとも、人が死ぬようなことは有り得ない。




「よぉ…」

訓練のセカイで目覚めると、目の前には“礼人”の姿が。


「って…これはもう必要ないよね」

“礼人”はそう微笑むと、何かの設定を変えている様子だった。

私からはモニターも、声も聞こえないけど。


設定が終わったのか、姿は一瞬で結子さんに変わった。

「前、礼人くんに化けてたのは私。

 まさか、あんなに簡単に見破られるなんて…思いもしなかったけど」

耳を塞ぎたくなるような思いだった。

結子さんは、いつも私に優しく笑いかけていた声、姿、そのままにそう言った。

悪人のような顔もしないし、嘲笑うような視線も向けない。

いつも通り、そのままの言動で、今日こんなことがあったのよ。と話すように。


「…佐久間さんに、疑いを向けるため」

結子さんがあのとき礼人に化けて放った言葉…「オレが掴んだ情報は何だったんだろう…」っていうのも…。


「だーい正解!

 叩けば埃なんていくらでも出るからね!

 ふふっ…陽灯の言う通り、私がリリィーカリス。

 どうして解ったの?

 やっぱりあの邪魔物サクマ?

 …あら、でも、それなら、どうして貴方が来たのかしら…

 ああ、でも、サクマなら貴方を囮にしてー」


「結子さん!!!!」

いつもなら黙って聞ける結子さんの捲し立てるような話し方も、今回は黙って聞けなかった。

聞けるわけがない。


「佐久間さんを悪く言わないでください…

 それは、貴方の価値を落とすことになる。」

貴方はそんな人間じゃないでしょう…?

貴方だけじゃない。

誰も…。


するとカーンという鋭い音が鳴って、セカイの景色が変わった。

鋭い音を鳴らしたのは、結子さんの剣だ。

その剣は既に土に刺さり、森のようなフィールドに変化していた。

…木々が生い茂り、爽やかな風の感触も感じる。

しかし、日は沈みきり…真っ暗だ。


「人の価値はその人の持つ財産に左右される。

 金は私を裏切らない!!

 陽灯が一番解ってることでしょ?!!

 金に…、人は屈する…!!!!」

そう叫ぶと、結子さんは私に斬りかかってきた。

細剣を抜くことを忘れていた…というより考えてすら居なかった私は、結子さんの剣を受けるとができず、避けるのが精一杯だった。


それでも完全に避けきることはできず、腕が斬られてしまった。

結構深そーーー!!!!!!!!


「あっ…!!!!」

熱い…?!!!!

…ちが……痛い!!!!!!

痛い……!!痛い!!!!なんで?!!痛い!


「はっ…」

私は痛みに足を取られないように、何とか耐え後ろへ下がった。


「…ああ、ごめんね!陽灯ちゃん。

 ちゃんと一発で終わらせるつもりだったのに…」

痛いよね?と、結子さんは怪我をした子供を気遣うかのように言った。


私は、今度こそ戦慄した。

慌てて細剣を取り出し、結子さんを見据える。

………痛い!!!…痛い!死ぬ…。痛い…痛い!!!!


死にたくない!!!!


これまで抱いたこともないような感情だった。

礼人のお父さんの友達はこんな感じだったのかな…ってぼんやり考えながら、結子さんの言った言葉のどこかで共感していた。










「……あ、おい佐久間!」

教室の中から顔を覗かせると、ちょうど佐久間が通っていた。

最近、陽灯とよくつるんでる。

…ああ、いや、陽灯だけじゃないか。

えーっと…ヤバい忘れた。

まあ、いいや。


「えっ…え、なに礼人くん。

 俺結構急いで…」

ん…佐久間が急いでるのは珍しいな。


「おお、すまん。

 陽灯見なかったか?

 どこにも居ないんだよ…」

もちろん教室にも、普段通ってる廊下とか、あとリフレッシュルームとか。

あ、トイレ確認してねぇな…下痢か?


「えっ………陽灯ちゃんが…?

 …もしかして」


「あれ?何してるの?」

そこに現れたのは桜庭だ。

あー、そうそう。佐久間がつるんでたのは桜庭だったな。


まあ、それは置いといてと桜庭にも聞こうと思ったら、突然佐久間が何か慌てて携帯を起動させた。

「………不味いぞ」

その携帯を何度か見返したらしい佐久間は、顔を青ざめた。


「ねっ、ね…結子ちゃん…見てない……?」


佐久間の様子にオレはきびすを返して走り出した。

あと探してないのは…トイレ…じゃなくて、訓練室だ!!!


佐久間も似たような考えなのか、単に勢いなのかついてきた。



「愛本!!!!」

叫びながら訓練室に入ると、案の定 部屋が2つ使われついた。


「モニター!制御室があるから!!!!」

佐久間に言われた通り、三階まで階段で上がって重そうなドアをリミッターで開けた。


それを見てオレは目を見開いて

「なんで開くんだよ!」

と、怒鳴った。

「それはあと!」

言いたいことはあるが、その通りだと問い詰めるのはよした。



制御室に滑り込むと、ヴォンっと独特な音が鳴った。

『二人の入室を確認しました。』

その声と共にモニターが起動された。

黒いモザイクが殆どだが、2つだけ色が付いている。

片方にはベルナールが。もう片方には…

「愛本!!」

叫んでも届かないことは解っていても、叫ばずには居られなかった。


「まさか…

 陽灯ちゃんの結子ちゃんの対戦状況は!!!」

佐久間が叫ぶとまた独特の音を鳴らして、二人の対戦に画面が注目され、右上に対戦状況が表示された。


そこに書いてあったのは…通常戦闘


「通常……。俺の思い過ごしか…?」


オレはモニターを睨み付けた。

「ちっっっげぇよ!!!!!!

 オレらが普段やってるのは訓練だ!

 これは戦闘!!」

そしてドカドカと大きな足音を立てながら、キーボードを起動させた。


『認証できません』


『認証できません』


『認証できません』


「くっっっそ!!!!!!!!」

何度キャンセルのコマンドを押しても、Āryaはそうとしか言わなかった。

つまり、愛本はシステム問いにOKと答えてしまったということだ。


「ちょ…ちょっと待って、どういうこと?!

 アンゲルスのシステムでしょ?!

 そんなに焦ることなんて…」


「あるんだよ!!!!」

また違うパターンをかけてenterを押す、


『認証できません』

やっぱり同じ…!


「通常戦闘…、つまり普通の世界で剣を振り回してるのと同じ状況なんだよ!

 同じ痛み、同じ作用!!

 このセカイで死ねば、元の世界でも…!」

もうひとつ、違うことがある。

このシステムは決してアンゲルスが作ったものなんかじゃない。

このシステムの大本…さっきから融通効かせてくれない…Āryaとセカイを作ったのはたった一人の男だ。


「……今すぐ止めさせないと!!!!」

「それをさっきからやってんだよ!!

 おい!愛本にちゃんと認識させたのか?!

 OK押しても本人が理解してないなら、無効に出来るだろ!!!」


『…愛本 陽灯はOKと押しました』


「愛本に繋げろ!!!!」

『許可します』

ほぼ食い気味でシステムはそう言った。

どうやらシステムも、これは不味いと考えているようだ。

人の生死についてはどうでも良いはずだが、自分が公正であることには少なからず執着を示している。

…だがそれは、オレの勝手な解釈。

本当のところ、これほど優秀なシステムの思考なんてオレになんて解るわけがない。


それはそうと




『愛本!

 聴こえるか!』

突然、礼人の声が聴こえてきた。

…死に際の幻聴だろうか。

…………いや、それはないな。それなら院長先生とか、その辺のはず。

ってことは

「聴こえる」

私が返事したところで礼人に聴こえるかは解らないが、それ以外に伝える方法が解らなかった。


「…」

結子さんも何らか勘づいたようだ。

畳み掛けられることを予期して、私は細剣を振り回した。

結子さんを恐れて無我夢中で剣を振り回しているように見えるなら、これ幸い。


ザザッ…


低く鈍い音が鳴る。

結子さんは私が意味もなく振り回しているとは思ってないようだが…意味は解ってない様子だ。


私は安心して、結子さんへ背を向けて走り出した。

このとき結子さんは驚いただろう。

敵に背を向けるなんてどうかしている。

後ろから攻撃されて終わりだ。


しかし


ザァァアッッ


途端に木々は倒れ、結子さんが進むのを阻んだ。

普通の剣ならこんなのは不可能だが、私はセカイでいくら剣を振り回しても壊れないことを知っていた。

その理由が、セカイにあるぬか、剣にあるのかは知らないが、そうなのだから良い。


『凄いなお前…

 とりあえず、ここからは音を出さないことだな。

 俺への返事は普通に頷けば良い。こっちから見えてる。』

礼人に言われ、私は早速頷いた。

その間も走り続けている。

木々のざわめきが強い今が走るチャンスだ。


『よし。

 ジェムを起動させると、退出っていう項目がある。

 今すぐそれを押せば出られる。

 解ったか…?!』

やけに冷静だな…と思ってたら、内心は焦りきっていたらしい。

逆に冷静になった私はクスッと笑って頷いた。

どうやら…ここで殺されれば、現実世界でも死ぬみたい。

いやー…何というか、適当にOKなんて言ってはいけないなと本当に思う。

間抜けも過ぎる。


兎に角…間抜けのまま死なないためにも、ジェムを起動させた。

目の前に現れた項目…スクロールすると一番下に退出という文字があった。


ザッ…


僅かに聴こえた足音に、体が勝手に前へ飛び退いた。

それと共に振り向いた視線の先には、剣を振るう結子さんの姿が。


「さすが…という所かな?

 どうやらお仲間が来てしまったようで、残念だったね」

その残念は結子さん自身ではなく、私へ向けられたものだった。

皮肉なのか意味は解らないけど、確かに今の状況が悪いのは明白だろう。


すると結子さんはクスッと笑って私を見据え

「陽灯には解らないか。」

とだけ呟くと私に剣を降り下ろした。

私は細剣を一瞬受けて、それから剣を斜めにしていなそうとした。


さっきの策をもう一度は使えない。

このままやりあっていたって、私が負けるのは間違いない。

説得もこの状況じゃ意味をなさない。

少なくとも、私にそんな腕はない。


…なら、どうしたら…!

一瞬、一瞬でいい。

その一瞬を生み出せれば…!!!


「陽灯ちゃん。

 大丈夫よ。抵抗さえしなければ痛くなんてさせないから…ね?」

心のなかで嘘つき。と呟く。

私は、痛む腕を感じながら、私は結子さんを睨んだ。

痛い…痛い。すごく痛い。

けど、そんなのじゃなくて…、痛いのは、貴方の方でしょう?

傷が出来てしまうのは結子さんの方だ。

だから私は、死ぬわけにもいかない。


考えなきゃ…何か、光よ射し込んで…!!!!


自分で言っておいて、私は思わず空に視線を向けた。

フィールドは夜の森。

僅かな星の光と月の光しか届かない。

全く見えないわけではないけれど、ここはかなりの暗さだ。

「大人しくしてくれる気になった?」

再び振りかざされた剣を、再び剣で受けた。


………仕方がない。


剣を受け返し、私は意を決した。

「ー力よ!瞬く閃光になって、ほとばしって!!!ー」

まだ拙い呪文を大声で叫ぶ。

すると僅かに胸元へ光が宿った。


やっぱりダメ…?!?!!


諦めかけた次の瞬間、カッーと眩い光が弾け飛んだ。

私まで目が眩んだけど、もはや退出を押すだけー

私は感覚で“それ”を押した。

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