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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第一章 『gold angel』
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『嘘吐きと裏切り者と、愚か者』

「っ…」

目を見開いて周囲を見てみると、訓練室に戻っていた。

痛みも、もうない…けど、記憶にしっかりとこびりついてしまっている。


とりあえずどうすべきか…と体を起こして扉の方を見ると外から複数人の声が聴こえてきた。

礼人以外にも誰か…、佐久間さん?

私はすぐに立ち上がり、GEMを握り締めて外へ出た。

「出てくるな陽灯!!!!」

礼人の声と共に、色んな現象がいっぺんに起こった。

そして私も、その現象を起こした一人。


結子さんが私に剣を向け、

その結子さんに佐久間さんが剣を向け、

礼人の銃が結子さんの剣を打ち返し、

私が佐久間さんの剣を受け止めた。

「…何で止めるのかな?」

この場で一番恐ろしいのは、私を殺そうとする結子さん…ではなく、その結子さんを殺す佐久間さんだ。

殺“そう”としているのではない…この腕の力を少しでも緩めれば、その時点で…


「…」

佐久間さんの視線には一切の揺るぎがない。

その上、それに伴うか、それ以上の実力が見てとれる。

それはまるで、研ぎ澄まされたつるぎのよう。

リリィーカリスに続き、こんな人まで…それに”嘘つき“はもう一人居るし…!

この組織はどうなってるの!と、是非とも文句を言いたい。


「彼女の行動は脅しなんかじゃない。

 間違いなく君を殺そうとした。

 そんな彼女を庇う必要が何処にある?

 君は彼女を許せるのか?

 無理だろう。」

確かに、結子さんが私を殺そうとしたことに間違いはないと思う。

佐久間さんの方が研ぎ澄まされてはいるけれど、結子さんも…確かに。

あの痛み、恐怖、それらは一生忘れることではないと思う。

忘れられるものではないと思う。


「けど、だからってそれが人を殺す理由にはなりません。

 仮に結子さんが私を殺していたとしても。」

私以外の誰かが傷つけられたとしても…。

私だけは彼女を許せる。

これが正しいことだなんて微塵も思わない。

全てを許すなんてルールがないのと同じだ。

それでも私は恨まない。恨めないのだ。…どうしても。


「そう…それでも、だからこそ、そんな陽灯だから、私は救われた。」

思いもよらぬ言葉に思わず振り返ると、頬に柔らかい感触が落とされた。

「えっ…?」


「はぁぁあ?!?!!」

礼人の叫び声と共に、空間に煙が立ち込めた。

多分、結子さんの仕業だろうな…と、どこかで冷静に考えながら頬を抑えた。

何か他にも考えなきゃいけないことがあるんだけど、

…あるんだけど、どうしても思考がまとまらないで居た。

そのあとすぐ誰かに引き寄せられた。

多分、佐久間さん…で結子さんは逃げたんだと思う…けど

どうしよう…と、もうどうしようもない頬を抑えながら煙が収まるのを待った。


煩いくらいの心臓の音を聴きながら、私は意識を手放した。








「なんてことだ…」

「愛本…良いやつだったのに…」

シクシクとわざとらしく泣く二人の声が聴こえた―


「勝手に殺さないでよ!!!!」

私はガバッと起き上がって、ふざけてる二人を睨んだ。


「何だ。やっぱり起きてたか。」

礼人は私に冷たい視線を向けて、ベッドへ押し戻してきた。

何で礼人じゃなくて私が冷たい視線を向けられてるのかな?!


「む…、何で私寝てるんですか?」

なんか保健室っぽいし。

あと寝た振りなんてしてないからね、なんで不思議そうな顔してるの礼人!


「陽灯ちゃんが倒れちゃったんだよ。

 あの状況じゃ仕方ないよね」

佐久間さんは言いながら肩を竦めた。

あー…あー………、安心して倒れた?みたいなことなのかな…。

めちゃくちゃ緊張してたもんね。

…ほっぺにチューとか本当に恥ずかしすぎる。

いや、口じゃないんだから、そこまでじゃないはずなんだけど…力が入ってるんだから恥ずかしいんでしょうよ。


あれをやったのは、私達に隙を作るため…どう考えても。

解ってます。解ってるんですよ。

なのに顔が熱いままなのは、どうしてですかね!!!


すると礼人に頬を引っ張られた。チューされた方の。

「お前な、確かにそっちもそっちだが。

 殺されかけたことを実感しろ。

 佐久間さんもな。

 お前らはもう少し生に執着を覚えるべきだ。自他共に。

 聞きたいことは糞ほど有るが…、今は聞かないでおいてやる。

 考えをまとめておけ。」

あ…、あとでやっぱり聞かれるのね。

でもねー、聞かれるって何聞かれるのか解んないし…黙秘を行使します!!!!


「黙秘なんか行使したらデコピンだ。」

だから読心術使うのやめなよー………。怖いよ、礼人サン……。


…でも、使っちゃダメとは言わないんだね。

「はぁ。

 とりあえず、もう少し寝てろ。」

言われながら、頭を撫でられたら本当に眠くなってきてしまった。

自分が思ってたより、ずっと緊張してたのかなぁ…

私は微睡みに身を委ねて眠りについた。










「左腕の損傷、その他擦り傷…。

 こりゃ、中々に酷いな。」

俺はそう言ってから資料をディスクに投げた。

その刺激に反応してPC端末が起動したが、それを俺は軽く無視した。


事件から数日後…、まとめられた資料による愛本 陽灯の損傷状況だ。

もっとも、これはセカイの中での陽灯の状況なので、本人に傷などはない。

しばらくは違和感が残り、セカイからも離れた方が良いだろうが。


が…

「正直、俺はセカイ仕組みなんて知らないんだよなぁ…」

どういう原理でセカイの愛本 陽灯がそうなっているのか…いつもなのか、今回に限りなのか、まるで解らん。

恐らくそれは俺だけではないだろう。

殆どの人が、セカイでの戦闘で死ぬことすら考えていなかった。もちろん俺も。

しかし、彼…礼人は知っていた。


「アイツの秘密主義にも困ったもんだな」

回転椅子に持たれると、ギギ…っと軋んだ音が鳴る。

そろそろ壊れそうで怖いな…


「アイツって…“彼”のこと?」

少し控えめにコスモスは言った。

コスモスは俺の同僚。

俺の方が微妙に先輩だが、ここに上下関係とかはあまりない。

みな、同志だからだ。


「ん?彼って誰っすか?」

本人が感じて敬語にすることは間々あるが。

こいつは、俺達の中じゃ一番後輩のタンポポ。

パッと聞いたら可愛い名前だが…、まあ確かに可愛い後輩であることに間違いはない。

因みに俺はジニア。

長年連れ添った相棒に四年前、先立たれた悲しい男さ。

あ、死んだ訳じゃねぇから…旅立たれた?どっちでもいいか。


「お前は会ったことなかったな。

 アスター。スパイのエキスパートみたいなもんだ。

 今はアンゲルスに潜入してる。」

俺と同期のアスター。

アイツとの付き合いは、俺が一番長くなっちまったな。

まあ、殆ど会ってはないんだが。

もっぱら、電話と手紙だな。

アイツの字ってきたねぇんだよな…。


「えええっ?!

 スパイってそんな…」

大丈夫なんすか?とでも言いたげな顔だ。


「ふふっ…彼なら絶対にバレることはないわ。」

「だろうな。」

本人がバラさない限り…な。

アイツは面白い物好きというか…。

いや、バラせないか。


軽くため息をついた俺はギギ…という回転椅子から立ち上がった。

「さ、そろそろ良いだろ。

 頼むぜ、コスモス、タンポポ。」

向こうの部屋には拘束された女の姿があった。そろそろ目を覚ます頃だろう。

鏡越しだが…あれはマジックミラー。こちらは見えてない。


女が目を覚ましたことを確認したコスモスはニコ…と笑った。

「了解。

 何かあったら助けてね。」


するとタンポポは苦笑いを浮かべた。…要らんこと言うなよ。

「いや、何かあってもコスモスさんなら…」

「何ですって?」

コスモスはタンポポをギロッと睨み付けた。

タンポポは良い奴なんだがな…ちょっと…な…


「い、いいいいえ?!!」

全力で首を振るタンポポに、俺は溜め息を吐きながら首もげるぞと呟いた。


そして若干不機嫌になったコスモスに声をかける、

「もちろん、助ける。

 リラックスしていけ。」

感情的になるのは、非常に悪い。


「ふふっ。ジニアのそういうところ大好きよ」

どういうとこだよ…と思いながら、俺はミラー前にある席についた。

それを見たコスモスも、一度深呼吸をしてから扉を開けて中に入った。


あの女はベルナール・結子・アリーセという名でアンゲルスに入った…まあ、リリィーカリスの一員だな。

因みにあの長ったらしいチグハグな名前は偽名だろう。

部屋に入ったコスモスがまずそれに関して聞いたが、…ビンゴだ。

俺らが掴んだ名前が本名で間違いなかった。

本人は平常心を装って否定してるがな…?


「さて、ノヴァク・ヨウハオさん。

 アンゲルスには他に仲間が居るのかしら?」

ヨウハオ。字では友好と書くため、あだ名がユウコウ…ユウコだったのだろう。

故の結子ユウコ

確かに普段呼ばれている名前なら瞬時に反応できるからな。

だが、バレるリスクも考えておくべきだったな。


「だから私はベルナール・結子・アリーセよ。

 さっさと解放してちょうだい」

ノヴァクはあくまで気丈に答えてはいるが、俺は騙されない。

っていうか、そうとしか聴こえないんだがな。


「質問に答えてくれたらね」

ニコ…と微笑むコスモスは心底恐ろしいと思う。

コスモスはあまりに人身掌握って奴に長けすぎている。

何度も人が操られていく様は見るが、その原理は未だに掴めない。

…多分、天然。


まあ、そんなコスモスと俺と、あと記録係のタンポポが居れば、尋問なんて御手の物。

ついでみたいに言いはしたが、タンポポの記録術もかなりのものだ。

録画するわけにはいかないからな~

いくら厳重っても、万が一がある。

そのくせ紙ってのは燃やせば良いから便利だ。


そう言ってたのは、誰だったか…。











gold angel―金の天使―

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