『会話』
「なぁ、愛本…さん?」
声を掛けてきたのは秀 エッカートさん。
驚く…はずだったけど、礼人と同じシュチエーションなのに馴れてない感じが面白くて、思わず吹き出してしまった。
「ふふっ…。
さん付けしなくても良いですよ。」
私はエッカートさんって呼ぶけどね。
…それにしても、何というか…好都合?なのだろうか。
私と佐久間さんが話し合った結果…残りの5人中、私が調査をするのはエッカートさんと結子さんの二人だ。
残りの三人は佐久間さんがやってくれる。
その相手から話しかけてくれるなんて…、私としては楽で嬉しい。
…まあ、相手からも疑われてるってことなのかもしれないけど……。
「ははっ…助かるよ
敬称は馴れなくてね。」
だろうね。と心のなかで笑った。
何か解らないけど、そんな感じがする。
何というか…猫みたいな人だね。雑っぽいけど神経質な人。
「あ……、でも近川さんとは仲が良さそうでしたね」
自己紹介でのやり取りを思い出した。
二人は気心が知れたなか…って感じだった。
少なくともエッカートさんは明らかに近川さんに友好的だった。
それに、近川さんも何だかんだ言うことを聞いてるってことは、嫌っては居ないんだと思う。
するとヒュ…とエッカートさんが冷たい目になって
「なんで近川?」
「えっ………と、自己紹介のとき近川さんに催促してらしたので…
元々親しい仲なのかな…と」
少なくとも初対面ではないのだろう。
年もそこまで離れては居ないように見えるから、学校が同じなのかもしれない。
「ああ…、そういうこと。
それを言うなら君は澤田…さん?くん?とも仲が良いみたいだね。」
何て言うか…雑なんだか律儀なんだか解らない人だなぁ。
まあ、確かにここに居ない人を呼ぶなら、その方が違和感ないけど…疑問符のせいで台無しだね。
「ええ…、彼はしつこいので」
「確かに。」
礼人が内匠さんにしつこく話し掛けているのを思い出したのか、エッカートさんは真面目な顔で頷いた。
それに笑いながら
「でも、悪い人ではないと思いますよ」
と、付け加えておいた。
本人の居ないところで評判を下げるのは可哀想だから。
しつこいのが事実だとしてもね。
「ふーん?
ああ、あとえーっと佐久間さんと彩瀬さんとも仲良いのかな?」
………む、なんか私が質問されてる感じ?
まあ、黙秘する必要もないから良いけど。
「帆凪様とは仲が良いのではなく、私が一方的にお慕いして居るだけです。
佐久間さんとは………うん?」
仲が…良い……?
多分、友達ではないし……知り合い…っていうほど離れても居ない。
「微妙ですね。」
微妙だ。
まあ、佐久間さんも悪い人じゃないと思うか、そのうち仲良くなると思うけど。
「微妙?
よく話していると思ってたけど」
うーん…個人的に話してる訳じゃないからなぁ…
ただの利害の一致と言うか…。
いや、それをエッカートさんに話すわけにはいかないでしょう。
「ら…澤田さんとなら仲が良いと思えますけど
佐久間さんとはまだ片手で数えられるくらいしか話してませんから…」
仲が良いとは言えないよねぇ…?
あ、佐久間さんを拒絶してるわけでは断じてない。
ただ、今はまだ仲間や友達と言えるほどではないと思う。
佐久間さんも戸惑うだろうし。
「ふーん…?
ああ、そうだった。
愛本に用事があったから話し掛けに来たんだよ。」
用事……?
って言ったら、多分gold angel…つまりリリィーカリスについて…だよね。
アンゲルス事態のことは帆凪様や他の能力者の人達に教えてもらうけど、それを取り巻く組織についてはあんまり知らない。
帆凪様と世代が近い能力者以外の、アンゲルス関係者のことも知らない。
恐らくそれは私が聞いてはいけない機密情報。
だから誰がどういう目的で私や誰かに近づいて、何をするのか私には何も解らない。
エッカートさんがリリィーカリスなのか、私をリリィーカリスと思って近づいてきた別の組織の人なのか、それともアンゲルスの関係者なのか。
それは佐久間さんも同じこと……。
「愛本に手芸?っていうの教えて欲しくてさ。
布とか紐で何か作るやつ。」
えー………えー…?
質問がリリィーカリス関連のことじゃなかったことは、一旦置いておいて。
布とか紐で何か作るやつって何よ。
間違っちゃ居ないけど、もっと言い方なかったの…??
「えーっと……何か作りたいものでも?」
例えばそれがマフラーとかコースターとかなら、その作り方を教えてとか言ってくれるなら解る。
「いや、ない」
何を教えろってのよ!!!
「………あ、近川の誕生に何か渡そうと思ってさ
アイツ女の子らしいものなんて一個も持ってないぜ、絶対。」
うわ、最後ので台無し。
確かに近川さんは端から見てもTHE女の子!って感じはしないけど普通に可愛い。
邪魔とばかりにひとつに纏められた半端な長さの髪を伸ばすか、短く整えるかすれば、それはそれは可愛くなると思う。
まあ、私に言わせれば女の子は女の子で居るだけで可愛い。
それに主観的な女の子“らしさ”を押し付けるなんて、余計なお世話だ。
とはいえ
「プレゼントなら仕方ありませんわね。
…因みに、いつが誕生日なんですか?
冬から手袋とかマフラーが良いかもしれませんね。」
今は10月の後半。
まだ寒いとまではいかないが、これからどんどん寒くなっていくだろう。
セーターでも良いのだが、それはさすがに難しいと思う。
手袋もちょっと形が複雑だし…時間があるならマフラーで良いと思う。
「…………7月」
10月から寒くなっていくんだから7月になったらめちゃくちゃ寒い…
っておい!!!!
「思いっきり夏じゃないですか!」
マフラーなんて送ったらただの嫌がらせだよ!
夏にマフラーは暑いわ。嫌がらせでしかないわ。
聞いといて良かったぁ………。
「7月のプレゼントを今から……?
まあ、良いですけど……夏に編み物…?
作るとしたらアクセサリーとかですかね…」
何で私に教えを乞うたんだろう。
冬ならまだしも、夏に手芸ってあんまりイメージないと思う。
……………まあ、夏らしいのもあるけど。
「レジンっていう液体があるので、それでアクセサリーを作れますが。
どうします?
指輪でも作りますか?」
悪意のある笑みで言った。
もしもプレゼントを送りたいと言う名目を使って、私から情報を盗もうとして居るなら若干腹が立つ。
まるで近川さんをダシに使っているようだ。
聞きたいことがあるなら正面から聞けば良いのに。
「おお、そんなことも出来るのか……」
………ごめん冗談のつもりだった。
え?本当に?
いや、まあ、確かに近川さんは多分、16くらいに見えるから法律的にはできるし……。
「…まあ、祝福はしますけど……」
「いや、肯定しないでよ。
違うから…魔除けの意味とかあるでしょ?」
………え、知らない。
でしょ?って言われても知らないよ。意味なんて。
「ちょっと待ってて」
と言うと近川さんの方へ行ってしまった。
…本気なのか。
うーん…レジンで指輪?
レジンとは樹脂のことで、そのなかでも私が想像しているのはUVレジンという特定の機械や、日光を当てることで固まる物のことだ。
ただの液体なので型さえあれば簡単にできる。
その型に色を付けたり小物を添えて、その上からレジンでコーティングすればそこそこ綺麗なものが出来る。
それらすべての材料が大体100均にあるので、たまに家族達に作ったりしていた。
ひとつ買うだけなら100均で買えば良いのだが、人数もそこそこ居るし、やはり成長してくると色々な種類が欲しくなるようで…作った方が安上がりだったのだ。
とはいえ、基本的にゴムに付けたりとか、ストラップにしかしてこなかったから、指輪を作るのは初めてだ。
………あ、指輪の輪ごとレジンで作れば良いかな。
そういえばシリコンの型があったような…。
「お前ら何の話してたの?」
さっきまで内匠さんに話しかけてた礼人が帰ってきた。
まあ、今日も今日とて一言も会話はしてないんだろうけど。
「現在進行形ですよ。
手芸を教えて欲しいと頼まれまして」
彼の用事は要するに手芸だったのだろう。
違和感を覚えないわけではないが―、まあ送りたいのは事実だろうし。
実際、今も近川さんの指のサイズを聞こうとしている。
そして思いっきり顔をしかめられている。
「あれ、お前、手芸なんて出来たの?
いがーい。」
私をなんだと思っていたんだろう。失礼な。
まあ、もう礼人にはバレてるし―
「家族達に色々作ってましたの。
寄付される服をほどいたり、布を使ったり。」
晶にぃにだって作ったことあったと思う。
考えてみると、本当に小さい頃から作っていた気がする…。
趣味って言えるほど、好んでやっていたわけではないけど、今も昔も嫌いではない。
「へぇー。
じゃあオレにも何か作ってくれよ」
いや、何かって何よ…。
「そうじゃん、オレ2月に誕生日だから
プレゼントってことで!」
「えー…材料費をくださるなら」
誕生日はおめでたい日だけど、それにお金を掛ける余裕があるなら施設に送りたい。
おめでとうくらいは言うから。それで我慢して。
「……生々しいな。良いけどさ。」
「え、良いの?
だったら作るわ。
何が良い?」
材料費くれるんだったらいくらでも作りますとも。
祝い気持ちだけならあるからね。
お金が掛からないなら、喜んでお祝いさせていただきますとも。
「え、まじで作ってくれんの?
何ができる?」
互いに本気じゃなかったのね。
まあ、いいや。
2月なら冬物でも良いけど…でも、ちょっとギリギリだよね。
他に何か…
「それこそ指輪で良いじゃん」
?!
…あ、エッカートさんだ。
「うっわ、びびった。
は?指輪?」
「あー、ついでにってことですか?」
近川さんへのプレゼントととして作り方をエッカートさんに教えることになったから、そのついでに自分も作れば良いのか…
「ついでで指輪なんか作んなよ」
あ、やっぱりそう思うよね。
私も指輪って言ったら結婚指輪とか、そういうの思い浮かべてた。
「それが、魔除けの意味とかあるらしいです」
考えてみればオシャレで人差し指に付けてる人とか居るよね。
よし、作ってみよっかな。
確かに作ってみないとアドバイスも出来ないだろうから。
作るに当たってデザインをどうするか考えていると、近くの机に置いてある本が目に入った。
「む…ファッション誌……」
守銭奴な私にはまるで縁のないものだ。
遠目からジーっと見ている。
表紙の女性がちょうどそれっぽい指輪をつけていた。
……気がする。
うーん、あんまり見えない…。
「ひ、ひかりちゃん…?」
名を呼ばれ、パッと本から視線をずらすと結子さんが居た。
………ハッ!違うんです!決して人のものを盗もうとして居たわけではなく…!
いや、確かにめっちゃ気になってはいますが…!
「み、見る…?」
と、結子さんが手に持ったのはそのファッション誌。
結子さんが持ち主だったの…!
「…見させてください!」
ガバッと頭を下げて手を差し出した。
すぐ手に重みを感じた
「ありがとうございます!」
お礼を言ってから、ファッション誌に視線を戻すと表紙の人が着けてる指輪は銀のリングじゃなくて、少し分厚く丸みを帯びたものだった。
…これなら、型さえあればレジンで作れそうだ。
夏っぽいものにしたいなら、青い着色を加えて海っぽくしたり…。
「ファッションとか興味あるの?」
そう言ったのは結子さんだった。
今回借りたのは指輪のデザインを考えるためだけど…
ファッション事態に興味…?
「ははっ、違うでしょ。
愛本は指輪のデザインを考えてるだけじゃない?」
と、エッカートさんはファッション誌の指輪を指しながら言った。
端から否定するのはどうかと思うけど、その通りなので私は頷き
「こういうのは縁のないものなので…
でも興味だけならあります。」
実際に好きかどうかは解らないし、自分で買うほどじゃないけど。
興味はある。
まあ、読んだところで解んないと思うけど。
すると結子さんはパァッと顔を明るくし
「本当に?!
じゃあ是非借りて!
指輪のデザイン?を考えてるならそれっぽいのも持ってくる!
こういうの話せる子少なくて寂しかったんだよねぇ…!」
好きになると決まったわけではないのですが…!!?!
あああ、どうして安易に興味あると言ってしまったの…!
いや、興味あるのは事実なんだから、そうとしか答えられないんだけども…!
「……有り難くお借りします…」
興味あると言ってしまった手前、もう仕方がない。
ここは腹を括って話せるようになりましょう。
そして二人が去ってから気付いた。
……………あれ、佐久間さんに言われた二人と接点持っちゃったよ。
ら…っきー?




