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スキル合⭐︎体《鑑定》

 グラトニアを討伐した翌日。


 俺は自室のベッドに腰掛け、ステータスを眺めていた。


「……やっぱり上がってないな」


 レベルは8のまま。


 あれだけ馬鹿でかい魔物を倒したんだから、さぞ大量の経験値が入ったことだろうと思っていたのだが、どうやらそうでもなかったらしい。


 いや、そもそも経験値が入っていない気がする。


 災厄級の魔物を倒して経験値ゼロって、どういうことだよ。


 ……まあ、いいか。


 それよりも、今は気になることがある。


《合体 Lv1》


 昨日、グラトニアの核の欠片から《収集》した新しいスキルだ。


 名前からして、何かと何かを組み合わせる能力なのだろう。


 もし俺の想像どおりなら、これはとんでもないスキルかもしれない。


「よし、試してみるか」


 俺は意識を集中させた。


《合体》


 すると、目の前に見慣れない文字が浮かび上がった。


――――――――――


【合体 Lv1】


 所持する二つのスキルを合体し、新たなスキルを生成します。


 合体に使用したスキルは消滅します。


 合体には錬成値が必要です。


【錬成値:0/100】


【初回特典】


 初回の合体に限り、錬成値を消費せずに実行できます。


――――――――――


「……おおっ!」


 思わず声が出た。


 やっぱりだ!


 二つのスキルから、新しいスキルを作れるらしい。


 しかも、初回は無料。


 何だそれ。新規プレイヤー限定サービスか?


 いやいや、ありがたいけどさ。


 それにしても、錬成値か。


 どうやら、普通に使うには何かしらのエネルギーが必要らしい。


 詳しいことは後で調べるとして、まずは初回特典を使ってみたい。


 俺は自分のスキル一覧を開いた。


《収集 Lv3》

《聴覚強化 Lv5》

《平衡感覚 Lv3》

《跳躍 Lv4》

《剣術 Lv2》

《観察 Lv3》

《視覚強化 Lv3》

《雷纏い Lv1》

《雷撃 Lv1》

《合体 Lv1》


 所持数は10/10。


 さて、どれを組み合わせようか。


 《剣術》は論外だ。ガルドさんとの稽古で、ずっと世話になっている。


 《雷纏い》と《雷撃》も手放したくない。俺にとっては数少ない強力な攻撃手段だ。


 《聴覚強化》も便利なんだよな。


 遠くの物音が聞こえるおかげで、森では何度も助けられている。


 となると……。


「《観察》と《視覚強化》かな」


 どちらも、見ることに関係する能力だ。


 《観察》は物事の細かな違いや変化に気づきやすくなる。


 《視覚強化》は、その名のとおり視覚を強くする能力。


 似た性質のスキルを組み合わせたら、もっと優れた能力になるんじゃないだろうか。


 俺は二つを選択した。


――――――――――


【合体素材】


《観察 Lv3》

《視覚強化 Lv3》


【必要錬成値:85】


【初回特典適用:消費0】


 合体を実行しますか?


――――――――――


「85か……」


 初回無料だから今回は関係ないけれど、次からはこの錬成値を貯める必要があるらしい。


 それに、完成するスキルの名前は表示されていない。


 つまり、何ができるかは試してみるまで分からないということか。


 少し迷った。


 何しろ、二つのスキルが消えてしまうのだ。


 もし出来上がったものが、ろくに使えない能力だったら……。


「……いや、考えても仕方ないか!」


 そもそも、俺の《収集》だって最初は外れスキル扱いだった。


 それが今では、災厄級の魔物を倒すほどの力になっている。


 大事なのは使い方だ。


 それに、せっかく手に入れた新しい能力を試さないなんて、もったいない。


「よし! 合体!」


 実行を選択した。


 その瞬間、目の前の二つのスキル名が淡い光を放った。


 文字がゆっくりと近づき、重なり合う。


 そして、一つになった。


――――――――――


【合体成功】


《観察 Lv3》

《視覚強化 Lv3》


 合体が完了しました。


【新スキル獲得】


《鑑定 Lv1》


――――――――――


「……鑑定?」


 一瞬、思考が止まった。


 次の瞬間、俺は勢いよく立ち上がっていた。


「鑑定って、あの鑑定か!?」


 異世界ものではおなじみの、あの能力。


 物の名前や能力なんかが分かる、便利すぎるスキルじゃないか!


 まさか《観察》と《視覚強化》から、そんなものが生まれるとは。


「これは……大当たりじゃないか?」


 早速、確かめてみよう。


 俺は机の上に置かれた本に目を向けた。


「《鑑定》!」


 すると、視界に文字が浮かび上がった。


――――――――――


【初級剣術指南書】


 分類:書物


 剣術の基礎的な構えや動作について記された指南書。


――――――――――


「おおおっ!」


 すごい!


 本の内容まで簡単に分かるのか!


 もちろん、詳しい内容を全部教えてくれるわけじゃない。


 それでも、見ただけで何の本なのか分かるのは便利だ。


 俺は次に、窓の外へ目を向けた。


 庭の向こうで、小鳥が枝から飛び立つ。


 その姿が、以前よりもはっきりと見えた。


「……あれ?」


 試しに遠くの木の葉を見つめてみる。


 葉の縁や細かな模様まで、くっきりと捉えられる。


 しかも、風に揺れる枝の動きも追いやすい。


「視覚強化の効果も残ってる……どころか、前より見やすいぞ!」


 ならば、と机の上にある小さな傷へ目を向けた。


 木目に紛れたわずかな亀裂。


 これまでの《観察》なら、意識して注意深く見なければ気づかなかったものだ。


 それが今は、自然と目に入ってくる。


 しかも《鑑定》を使えば、対象についての情報まで得られる。


「……なるほどな」


 ようやく分かってきた。


 《鑑定》は、ただ物の名前を表示するだけの能力じゃない。


 元になった二つのスキルの性質を持ちながら、それ以上のことまでできる。


 しかも、これでまだLv1だ。


「これ、レベルが上がったらどうなるんだ……?」


 想像するだけで楽しくなってくる。


 俺は部屋の隅に立てかけていた剣へ視線を向けた。


 《蒼牙》。


 ロイドが俺のために鍛えてくれた、大切な片手剣だ。


 ヴァルグリオンの牙を使って作られた、世界に一本しかない俺の剣。


 そういえば、こいつも鑑定できるのだろうか。


「《鑑定》!」


――――――――――


【蒼牙】


 分類:片手剣


 素材:ヴァルグリオンの牙、その他


 製作者:ロイド・ベルク


 特性:高い強度と優れた魔力伝導性


 潜在特性:解析不能


――――――――――


「おお……!」


 思わず剣を手に取った。


 魔力伝導性。


 なるほど、だから《雷纏い》との相性がいいのかもしれない。


 ロイドのやつ、本当にすごい剣を作ってくれたんだな。


 ……ん?


「潜在特性……解析不能?」


 俺は最後の一行をもう一度見つめた。


 なんだこれ。


 潜在特性ってことは、まだ表に現れていない何かがあるってことか?


 試しにもう一度《鑑定》を使ってみる。


 しかし、表示は変わらなかった。


「うーん……」


 《鑑定》はまだLv1だ。


 さっきの本だって、詳しい中身までは分からなかった。


 きっと、今の俺には読み取れない情報があるのだろう。


 それに、ヴァルグリオンの牙を使っているんだ。


 普通の剣とは違う部分があっても不思議じゃない。


「ま、そのうち分かるか!」


 俺は《蒼牙》の柄を握り、軽く振ってみた。


 いつものように、手に吸い付くような感覚。


 うん。やっぱり、いい剣だ。


 いつか《鑑定》のレベルが上がったら、もう一度調べてみよう。


 それにしても……。


「これが、合体か」


 俺は改めてステータスを開いた。


――――――――――


【スキル】


《収集 Lv3》

《聴覚強化 Lv5》

《平衡感覚 Lv3》

《跳躍 Lv4》

《剣術 Lv2》

《鑑定 Lv1》

《雷纏い Lv1》

《雷撃 Lv1》

《合体 Lv1》


【所持スキル:9/10】


――――――――――


「……おっ!」


 一つ空いている。


 さっきまで10個でいっぱいだったスキル枠が、9個になっていた。


 当たり前といえば当たり前だ。


 二つを一つにしたのだから。


 だけど、これは思っていた以上に大きい。


 今まではスキル枠が埋まってしまうと、新しい能力を手に入れるために何かを削除するしかなかった。


 けれど《合体》なら、今あるスキルをより強力なものへ進化させながら、枠まで空けられる。


 そして、その空いた枠で新しいスキルを《収集》する。


 集めたスキルを育て、また合体する。


 さらに強いスキルを作って、また新しい能力を手に入れる。


「……待てよ」


 俺は思わず口元を緩めた。


「これ、組み合わせ次第じゃ、とんでもないことになるんじゃないか?」


 もちろん、錬成値という問題はある。


 次からは無料じゃないし、何をどうすれば貯まるのかも、まだよく分かっていない。


 それに、どんなスキルでも好き勝手に合体できるとは限らないだろう。


 でも、それはこれから調べればいい。


 俺には、まだ時間がある。


 何しろ、冒険者になれる十歳まで、あと二年もあるんだから。


「……二年か」


 そう考えると、ずいぶん長い。


 いや、待て。


 二年もあれば、一体どれだけ強くなれるんだ?


 《収集》で新しい能力を手に入れて、《合体》で進化させる。


 今まで以上に、成長の幅が広がった気がする。


「よし!」


 俺は《蒼牙》を鞘に収め、立ち上がった。


 まずは錬成値の仕組みを調べよう。


 それが分かったら、次はどんな組み合わせができるか考えたい。


 《跳躍》と《平衡感覚》を組み合わせたら?


 《雷纏い》と《雷撃》なら?


 ……いや、さすがに雷の二つをいきなり試す勇気はないけど。


 それでも、想像するだけで胸が躍る。


 昨日までは、スキル枠がいっぱいになることが悩みだった。


 なのに今は、その十個をどう組み合わせるか考えている。


「ははっ……面白くなってきた!」


 俺は窓の外に広がる青空を見上げた。


 まだ八歳。


 冒険者になるのは、もう少し先の話だ。


 けれど、その日までにどこまで強くなれるのか。


 今は、それが楽しみで仕方なかった。

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