新たな可能性《合体レベル1》
「グラトニアを倒したぞおおお!」
「助かった! 俺たち、助かったんだ!」
森に歓声が響き渡っていた。
肩を抱き合って喜ぶ騎士たち。
その場に座り込み、空を見上げる兵士たち。
泣いている人までいる。
さっきまで、みんな絶望的な顔をしていたのに。
……いやぁ、よかったよかった。
俺はそんな光景を眺めながら、手元に視線を落とした。
赤黒い核の欠片。
さっきチョップで割った、グラトニアの核だ。
……ん?
そういえば、こいつからスキルを取ってないな。
危ない危ない。
《収集》は倒してから時間が経つと使えなくなるんだった。
せっかく災厄級の魔物を倒したんだ。
何が手に入るか、試してみないともったいない!
俺は周囲をちらりと見た。
父上は兵士たちに何か指示を出している。
兄上も負傷者の確認で忙しそうだ。
ガルドさんは……まだ座ってるな。
よし、今のうちに。
俺は核の欠片へ手をかざした。
「《収集》」
淡い光が手のひらに集まる。
その瞬間、見慣れた文字が浮かび上がった。
――――――――――――
スキルの収集に成功しました。
《合体 Lv1》を獲得しました。
所持スキル:10/10
――――――――――――
「…………お?」
合体?
俺は思わず表示を見直した。
《合体 Lv1》。
確かに、そう書いてある。
……なんだそれ?
合体って、あの合体だよな?
二つのものを一つにする、みたいな。
グラトニアは、斬られても身体がくっついていたし、木や岩まで自分の身体に取り込んでいた。
だから、名前には納得できる。
でも、俺が使ったらどうなるんだ?
物をくっつけられるのか?
剣と剣を合体させたり?
……いや、そもそも何と何を合体させられるんだろう。
んー。
分からん。
でも、なんだか面白そうだぞ!
俺はスキル一覧を開いた。
《収集 Lv3》。
そして、新しく加わった《合体 Lv1》。
所持スキルは、再び十種類になっている。
「……ふふっ」
思わず頬が緩んだ。
《収集》がLv3になって、本当によかった。
あのとき《硬化》を削除していなかったら、今のスキルは手に入らなかったかもしれない。
しかも、災厄級の魔物から手に入れた能力だ。
これは期待してもいいんじゃないか?
「坊ちゃん!」
「うわっ!」
突然、背後から声をかけられた。
振り返ると、ガルドさんが立っていた。
「何やら、随分と楽しそうですな!」
「あ、ガルドさん!」
「はっはっは! あの災厄を倒したのです。喜ぶのも当然でしょう!」
そう言って笑うガルドさんだったが、まだ少し息が荒い。
鎧は泥だらけで、腕にも小さな傷がいくつかあった。
「……ガルドさん、大丈夫ですか?」
「ええ。少々疲れましたが、問題ありませぬ」
ガルドさんは自分の剣へ目を向けた。
「しかし、あれほど剣を振ったのは久しぶりですな」
「すごかったですよ! あんなに速く動くガルドさん、初めて見ました!」
「ほう! そう言っていただけると嬉しいですな!」
ガルドさんは笑った。
けれど、すぐに苦笑へと変わる。
「もっとも、あれだけ斬っても倒せなかった相手を、坊ちゃんがあっさりと……」
「……あはは」
「まったく、剣士としては複雑な気分ですぞ」
「す、すみません……」
「はっはっは! 謝ることではありませぬ!」
ガルドさんは俺の肩を軽く叩いた。
「どれほど剣を磨こうとも、剣だけでは解決できぬこともある。今日は、わしも一つ学びましたぞ」
「……ガルドさん」
「それに、坊ちゃんがいてくださって、本当によかった」
その言葉に、俺は少しだけ照れくさくなった。
「……ありがとうございます!」
◇
グラトニアの討伐が確認されると、父上はすぐに部隊を動かし始めた。
周囲に別の危険がないか調べる者。
負傷者の手当てをする者。
避難した村々へ討伐成功を知らせる伝令も送り出された。
俺はその様子を見ながら、改めて父上のすごさを感じていた。
あんなに激しい戦いの後なのに、もう次の仕事をしている。
……領主って、大変なんだなぁ。
「レオン」
そんなことを考えていると、兄上がやってきた。
「兄上!」
「少し話せるか?」
「はい!」
兄上は俺の隣に立ち、グラトニアがいた場所を見渡した。
そこには、もう黒紫色の巨体はない。
何もなかったかのように、森が静まり返っている。
「……本当に、いなくなったんだな」
「そうですね」
「正直、途中からは生きて帰れるかどうかも分からなかった」
兄上が小さく笑った。
「ガルドの剣でも届かない。魔法も通用しない。そんな相手を、どうすれば倒せるのかと……」
「……はい」
「それなのに、お前は核を取り出してしまった」
兄上は俺を見た。
「どうして、あんな方法を思いついたんだ?」
「えっと……」
俺は少し考えた。
「核まで攻撃が届かないなら、核をこっちに持ってくればいいかなって」
「…………」
兄上が黙った。
あれ?
また、この空気?
「……なるほどな」
兄上は額に手を当てた。
「理屈は分かる。分かるんだが……」
「……?」
「いや、何でもない」
そして、俺の頭をくしゃっと撫でた。
「本当にありがとう、レオン」
「……はい!」
兄上が笑う。
その顔を見て、俺も嬉しくなった。
みんな無事で帰れる。
それだけで、十分だ。
◇
帰り道。
俺は馬に揺られながら、もう一度スキル一覧を開いていた。
《合体 Lv1》。
……やっぱり気になる。
この名前だけじゃ、何ができるのかさっぱり分からない。
でも、もし本当に何かと何かを一つにできるなら。
……ん?
ちょっと待てよ。
俺が持っているものって、剣や道具だけじゃないよな。
スキルも、十種類ある。
……まさか。
いやいや。
さすがに、そんな都合のいい話はないか。
でも、相手はあのグラトニアだ。
身体を斬られても、ばらばらになったものを一つに戻していた。
だったら、スキルだって……。
「……ふふふ」
思わず笑ってしまった。
まだ何ができるのか分からないのに、勝手に想像が膨らんでいく。
早く試してみたい。
屋敷に戻ったら、さっそく調べてみよう。
俺は《合体》の文字を見つめた。
五歳のとき、外れスキルだと言われた《収集》。
あれから三年。
いろんな能力を集めて、強くなってきた。
そして今、まったく新しいスキルが加わった。
……これ、ひょっとして。
俺の《収集》、もっと面白いことになるんじゃないか?
胸の奥が、わくわくしてきた。
十歳になったら、冒険者になる。
その目標は変わらない。
でも、それまでにどこまで強くなれるんだろう。
「……楽しみだなぁ!」
俺は北の森を振り返った。
もう、あの巨大なスライムの姿はない。
けれど、あそこで手に入れたものは、間違いなく俺の中に残っている。
《合体 Lv1》。
さて。
お前は一体、何ができるんだ?
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