スキルの使い方
「なるほど……《収集》にも限界がありましたか」
屋敷へ戻った俺は、ガルドさんに単独探索で分かったことを報告していた。
所持できるスキルは十種類まで。
そして、それぞれのスキルのレベルは最大五まで。
「せっかくいろんなスキルを集めようと思ってたのに、もう枠がいっぱいなんですよ」
「はっはっは! 坊ちゃんらしい悩みですな!」
「笑い事じゃないですよ!」
「失礼。しかし、八歳にして十ものスキルを持ち、さらにその先を求めるとは。実に頼もしいことですぞ」
ガルドさんは愉快そうに笑った。
「普通のスキルが頭打ちになることは知られております。ですが、《収集》のような特殊な能力については、わしにも分からぬことが多いですな」
「そうなんですか……」
俺は腕を組んだ。
まあ、考えてみれば当然か。
《収集》は、五歳のときに授かった俺の固有スキルだ。
ガルドさんが同じ能力を持っているわけじゃない。
「でも、《収集》自体はLv2になってるんですよね」
「ええ。ならば、さらに成長する可能性は十分にあるでしょうな」
「ですよね!」
俺は思わず身を乗り出した。
そうだ。
まだ《収集》そのものが成長する可能性が残っている。
Lv1からLv2になったときには、瀕死の魔物からもスキルを奪えるようになった。
だったら、Lv3では何ができるようになるんだろう?
「よし! これからもどんどん収集してみます!」
「はっはっは! その意気ですぞ!」
ガルドさんは嬉しそうに頷いた。
そして、ふと訓練場の方へ視線を向けた。
「ところで坊ちゃん。新しい剣の使い心地はいかがですかな?」
「最高ですよ! 今までの剣とは全然違います!」
「ほう。それは結構。では、少しばかり腕前を見せていただきましょうか」
「えっ、今からですか?」
「もちろんですぞ!」
ガルドさんは、にやりと笑った。
……これは、断れないやつだな。
◇
訓練場に移動した俺は、木剣を構えていた。
ガルドさんも同じく木剣を握り、向かい合っている。
「では、いつでもどうぞ」
「はい!」
俺は地面を蹴った。
《跳躍 Lv4》!
一気に間合いを詰め、右上から木剣を振り下ろす。
しかし、ガルドさんはわずかに身体をずらしただけだった。
空を切る木剣。
すぐさま斬り返す。
カンッ!
軽い音とともに、俺の剣が横へ流された。
「くっ!」
今度は一歩引いて、横から斬り込む。
しかし、それもあっさり受け流される。
「坊ちゃん、踏み込みが少々素直すぎますな」
「だったら!」
俺は右へ動くと見せかけ、直前で左へ切り返した。
ガルドさんの視線がわずかに動く。
今だ!
「はっ!」
木剣を振り抜く。
カンッ!
鋭い音が響いた。
今度はガルドさんが、しっかりと両手で俺の剣を受け止めていた。
「おおっ!」
思わず声が出る。
いつもなら、片手で軽く流されるのに!
「ほう、今のはよい一撃ですぞ」
ガルドさんの口元が緩む。
だが次の瞬間。
コツン。
木剣の先が、俺の額に軽く触れていた。
「……あ」
「ですが、攻撃した後が無防備ですな」
「参りました……」
俺は肩を落とした。
やっぱり、この人は強い。
《跳躍》が成長して、以前より速く動けるようになった。
それでも、ガルドさんにはまるで届かない。
「はっはっは! そう落ち込むことはありませんぞ」
「でも、全然勝てる気がしません」
「それでよいのです。わしも、まだまだ坊ちゃんに負けるつもりはありませんからな!」
ガルドさんが豪快に笑う。
……本当に、いつになったら追いつけるんだろう。
「一つ覚えておいてくだされ、坊ちゃん」
「はい?」
「スキルが強くなれば、確かにできることは増えます。ですが、その力をどう使うかは本人次第です」
ガルドさんは木剣を軽く振った。
「今の坊ちゃんは以前よりずっと速い。ですが、踏み込む方向を先に決めてしまえば、相手はそこを狙えます」
「……なるほど」
確かに、さっきの俺は攻撃することばかり考えていた。
でも最後は、動きを変えたことでガルドさんにも少し違う対応をさせられた。
スキルだけじゃない。
戦い方にも、まだまだ工夫できることがある。
「ありがとうございます、ガルドさん!」
「うむ。その調子ですぞ!」
俺は木剣を握り直した。
「もう一回お願いします!」
「はっはっは! 望むところです!」
◇
稽古を終えたころ、訓練場にアルベルト兄上が姿を見せた。
「レオン、やっぱりここにいたか」
「あっ、兄上!」
「ガルドも一緒だったんだな。ちょうどよかった」
兄上は一通の書状を手にしていた。
その表情は、いつもより少し真剣だった。
「北の森の調査について、父上から正式な指示が出た」
「ほう。いよいよですかな」
「ああ。予定どおり出発する。準備もほぼ整った」
俺は思わず二人を見比べた。
「もう行くんですか?」
「数日後だ。今回の調査では、森の奥まで足を延ばすことになるかもしれない」
兄上は書状をガルドさんへ渡した。
「新しい報告も入っている。北の森の外縁部で、さらに魔物の移動が確認されたそうだ」
「……ふむ」
「しかも、普段は縄張りからほとんど離れない種類まで南へ移動しているらしい」
ガルドさんの表情が変わった。
「それは妙ですな」
「やはり、そう思うか?」
「ええ。魔物にも縄張りがあります。強い魔物が現れたとしても、これほど多くの種類が一斉に移動するのは珍しいことです」
俺は以前倒したグランボアを思い出した。
本来なら屋敷近くには現れないはずの魔物。
あいつも、北の森から移動してきたんだろうか。
「兄上。魔物たちは、何かから逃げているんでしょうか?」
「その可能性もある。だが、まだ原因は分かっていない」
兄上は落ち着いた声で答えた。
「だからこそ、今回の調査で確かめる必要があるんだ」
「なるほど……」
俺は頷いた。
北の森。
いつか冒険者になったら、ぜひ行ってみたい場所の一つだ。
だけど、今はまだ俺の知らない危険があるらしい。
「ガルドさん、兄上。気をつけてくださいね」
「はっはっは! もちろんですぞ!」
「心配するな、レオン。無理に戦うための調査じゃない。原因を突き止め、必要な情報を持ち帰ることが俺たちの役目だ」
「はい!」
兄上は笑い、俺の頭を軽く撫でた。
「レオンも、俺たちが帰ってくるまでにまた腕を上げておけよ」
「もちろんです!」
俺は胸を張って答えた。
ガルドさんとの稽古も続けたい。
《蒼牙》も、もっと使いこなしたい。
そして何より、《収集》を成長させたい。
次のレベルで、どんなことができるようになるのか。
考えただけで、わくわくしてくる。
「帰ってきたら、また驚かせますからね!」
「ほう! それは楽しみですな!」
ガルドさんが嬉しそうに笑った。
その横で、兄上も穏やかに頷いている。
北の森の調査が終わったら、また三人で剣を交えたい。
俺はそんなことを考えながら、二人と一緒に屋敷へ戻った。




