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雷剣《蒼牙》

「レオン! こっちだ!」


「ロイド!」


 鍛冶工房に入ると、ロイドが奥から顔を出した。


 いつものように頬には煤がついている。


 けれど、今日はどこか様子が違った。


「手紙をもらって、すぐ来たよ! 試したいことがあるんでしょ?」


「ああ。まあ、まずはこっちに来てくれ」


 ロイドは妙に嬉しそうだ。


 何だろう。


 俺はガルドさんと顔を見合わせ、工房の奥へ進んだ。


 作業台の上には、細長い布に包まれたものが置かれていた。


「……ロイド?」


「へへっ」


 ロイドが布を取り払った。


 そこにあったのは、一振りの剣だった。


「……えっ」


 思わず声が漏れる。


 淡い銀色の刀身。


 中心には、光の加減で青く見える黒い筋が通っている。


 柄は落ち着いた黒色で、余計な装飾はない。


 けれど、不思議と目を奪われた。


「……完成したの?」


「ああ!」


 ロイドが胸を張る。


「まだ最後の確認が残ってるけどな。ようやく形になったぜ!」


「すごい……!」


 俺は思わず作業台に近づいた。


 あのとき、ロイドに頼んだ剣。


 それが今、目の前にある。


「持ってみるか?」


「うん!」


 ロイドが剣を差し出した。


 俺はそっと柄を握った。


 ――その瞬間。


「……あれ?」


 妙な感覚があった。


 手に取ったはずなのに、まるで剣の方から俺の手に収まってきたみたいだ。


 指を曲げると、柄が吸い付くように馴染む。


 重さもある。


 なのに、重心がどこにあるのか、考えなくても分かる。


「……何これ」


「ん? どうした?」


「すごく、しっくりくるんだ」


 少し手首を動かす。


 切っ先が自然についてくる。


 まるで、次に動かしたい場所を剣が知っているみたいだった。


「……ロイド、これ、すごいね!」


「おっ、そうか!」


「うん! 何だろう。ずっと使ってた剣みたい!」


 ロイドは一瞬きょとんとして、それから大きく笑った。


「ははっ! それなら頑張った甲斐があったぜ!」


     ◇


「少し振ってみてもいい?」


「おう! 裏に試し斬り用の場所がある」


 俺たちは工房の裏手へ向かった。


 そこには、木製の標的がいくつか並べられていた。


 ガルドさんも興味深そうに剣を見ている。


「ほう……よい仕上がりですな」


「へへっ。親方にも確認してもらったんだ」


「それは楽しみですぞ」


 俺は標的の前に立った。


 剣を構える。


 ……ああ。


 やっぱり不思議だ。


 剣を構えた瞬間、身体の中心がすっと定まる。


 長さもちょうどいい。


 腕を伸ばした先に、自然と切っ先がある。


「……行くよ!」


 踏み込み、剣を振る。


 ヒュンッ!


 刃が風を切った。


 そのまま返す。


 ヒュッ!


 動きが途切れない。


 いつもなら、剣の重みを考えて手首を調整するところだ。


 でも、この剣にはそれがほとんど必要ない。


 振りたいと思ったときには、もう剣が動いている。


 ……気持ちいい!


 俺は続けて数回振り、最後に標的へ斬り込んだ。


 ザシュッ!


 木の標的が斜めに割れた。


「……おおっ!」


 思わず声が出た。


「どうだ、レオン!」


「最高だよ!」


「よっしゃ!」


 ロイドが拳を握った。


 ガルドさんも満足そうに頷いている。


「見事ですな。坊ちゃんの動きに、実によく合っておりますぞ」


「うん! こんなに違うんだね!」


 俺は刀身を眺めた。


 ……でも、まだ一つ確かめたいことがある。


「ロイド」


「おう?」


「雷を使ってみてもいい?」


 ロイドの表情が変わった。


「ああ。むしろ、それを確かめたかったんだ」


     ◇


 俺は少し離れた標的の前に移動した。


「じゃあ、行くよ!」


「おう!」


 魔力を剣へ流し込む。


「《雷纏い》!」


 バチッ!


 青白い雷が刀身を包んだ。


 細かな火花が、刃の上を走る。


 ……おっ?


 いつもと感覚が違う。


 これまでの剣では、雷を流した瞬間から刀身に無理がかかっているのが分かった。


 けれど、今は。


 魔力が剣の中をすっと通り抜けていく。


 まるで、最初から雷の通り道が用意されているみたいだ。


「……すごい!」


 俺は地面を蹴った。


 一瞬で標的との距離を詰める。


「はっ!」


 青い閃光が走った。


 ズバンッ!


 標的が真っ二つに割れ、凄まじい閃光が当たりを包む。


 俺はすぐに《雷纏い》を解除した。


 そして、刀身を確かめる。


「……あっ!」


 亀裂がない。


 いつもなら細いひびが入っていたのに、今回はどこにも見当たらない。


「ロイド! 見て!」


「おう!」


 ロイドが駆け寄ってきた。


 剣を受け取り、光にかざす。


 表面を確かめ、刃の中心に目を凝らす。


「…………」


「どう?」


「……よし!」


 ロイドが顔を上げた。


「大丈夫だ! 割れてねえ!」


「やった!」


「もちろん、もっと使い込まなきゃ分からねえこともある。でも、今の一撃には耐えた!」


 ロイドが嬉しそうに笑う。


 俺も思わず笑った。


 あのグランボアを斬ったとき、剣には亀裂が入ってしまった。


 でも、この剣なら。


 もっと思い切り戦えるかもしれない。


「本当にありがとう、ロイド!」


「へへっ! まだ終わりじゃねえぞ」


「え?」


「最後の仕上げが残ってる」


     ◇


 工房に戻ると、ロイドが小さな道具を取り出した。


「レオン。この剣に名前をつけねえか?」


「名前?」


「ああ。銘ってやつだ」


 ロイドは剣を作業台に置いた。


「せっかくお前のために作った一本だ。名前があってもいいだろ?」


「……いいね!」


 俺は改めて剣を眺めた。


 淡い銀色の刀身。


 中心を走る青い輝き。


 そして、その内側にはヴァルグリオンの牙が使われている。


 あの魔狼との戦い。


 セラと力を合わせて、必死に立ち向かった。


 あのとき手に入れた力が、今はこの剣の中にも息づいている。


「……蒼い牙」


「ん?」


「《蒼牙》って、どうかな?」


 ロイドが剣を見た。


「蒼牙……」


「うん。あの魔狼の牙から作ってくれた剣だし、さっき雷をまとったときも、青く光ってたから」


 ロイドは少し考えた。


 それから、にっと笑った。


「いいじゃねえか!」


「本当?」


「ああ! 短くて、覚えやすくて、格好いい!」


「へへっ!」


「決まりだな!」


 ロイドは小さな刻印道具を手に取った。


「じゃあ、入れるぞ」


「うん!」


 俺は隣で見守った。


 ロイドが慎重に位置を合わせる。


 カン。


 カン。


 小さな音が工房に響く。


 やがて、刀身の根元に二文字が刻まれた。


 ――蒼牙。


「……できた!」


 ロイドが剣を持ち上げた。


「これで完成だ!」


 俺は両手で蒼牙を受け取った。


 刀身の根元に刻まれた名前。


 手に馴染む柄。


 そして、雷を流しても傷つかなかった刃。


「……ありがとう、ロイド」


 今度は、自然と言葉が出てきた。


「大切にするね」


 ロイドは少し照れくさそうに笑った。


「おう。でも、飾っとくんじゃねえぞ」


「うん?」


「剣は使ってなんぼだ。たくさん振って、傷んだら持ってこい。俺が直してやる!」


「……うん!」


 俺は大きく頷いた。


「これから、いっぱい使うよ!」


「ははっ! 頼んだぜ!」


     ◇


「坊ちゃん、よい剣を手に入れられましたな」


 帰り道。


 ガルドさんが笑いながら声をかけてきた。


「うん!」


 腰には、兄上からもらった剣帯。


 そこに、蒼牙を収めている。


 歩くたびに剣の重みが伝わってくる。


 ……何だか嬉しいな。


「明日の稽古が楽しみですぞ」


「俺も!」


「はっはっは! ですが、坊ちゃんにはもう一つ楽しみがございましたな」


「……あっ!」


 そうだった!


 独り立ちの試験に合格したから、これからは一人で探索に行けるんだった。


「明日、東の林に行ってもいい?」


「ええ。旦那様に行き先をお伝えすれば、問題ないでしょう」


「やった!」


 俺は腰の蒼牙にそっと触れた。


 新しい剣。


 新しいスキル。


 そして、初めての単独探索。


 ……よし!


 明日は、この剣と一緒に出かけよう。


 どんな冒険になるのか、今から楽しみだ!

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