成長ジャンキー
「……そこです!」
「甘いですぞ!」
「うわっ!」
木剣を弾かれ、俺は後ろへ跳んだ。
目の前では、ガルドさんが涼しい顔で剣を構えている。
「踏み込みは速くなりましたな。しかし、次の動きが読めてしまいます」
「……やっぱり?」
「速さに頼りすぎですな」
ヴァルグリオンとの戦いから数週間。
怪我も治り、俺はようやく本格的な稽古を再開していた。
敏捷130。
七歳としては破格の数値だが、ガルドさんにはまるで通用しない。
まあ、当然か。
いくら足が速くても、動き出す瞬間を読まれたら意味がない。
視線、重心、剣を振る前のわずかな動作。
ガルドさんは、その全部を見ているんだろう。
「もう一本、お願いします!」
「はっはっは! その意気ですぞ!」
◇
「では、そろそろ例の力を試してみますかな」
「雷だね!」
「ええ。ただし、私の指示には必ず従ってくだされ」
「もちろん!」
俺は訓練場の中央に立ち、《雷纏い》を発動した。
パチッ!
指先に青白い火花が走り、腕から肩へと雷が広がっていく。
「……おお!」
身体が軽い。
地面を蹴ると、景色が一気に流れた。
だが、止まろうとした瞬間、足に強い負荷がかかる。
「っと……!」
「そこまで!」
ガルドさんの声に従い、雷を消した。
「速く動けても、止まる技術が追いついていませんな」
「うん。急に方向を変えるのも危なそうだ」
ヴァルグリオンとの戦いでは、一直線に踏み込むことしか考えていなかった。
実戦で毎回、そんな都合のいい状況になるわけじゃない。
……それにしても。
俺はステータスを確認し、目を見開いた。
「……えっ、もうこんなに減ってるの!?」
さっき発動したのは、ほんの短い時間だ。
それなのに、MPが驚くほど減っている。
どうやら《雷纏い》は、発動中ずっと大量の魔力を消費し続けるらしい。
最大MPが9850もある俺でさえ、気軽に使えるようなものじゃない。
「……なるほどな」
思わず笑みがこぼれた。
「坊ちゃん?」
「これ、いいかもしれない!」
「……何がですかな?」
「MPをたくさん使うってことは、それだけ魔力を鍛える機会が増えるってことでしょ?」
魔力を使い、回復させ、また使う。
これまでの鍛錬でも、魔力を扱い続けることが成長につながると感じていた。
それなら、消費の激しい《雷纏い》は、魔力を鍛えるためにも役立つかもしれない。
「うまく調整すれば、最大MPをもっと伸ばせるんじゃないかな!」
「……なぜ、そこで喜ぶのです!?」
ガルドさんが思わず声を上げた。
「普通は、燃費の悪さに頭を抱えるところですぞ!」
「だって、伸びしろがあるってことでしょ?」
「まったく……坊ちゃんというお方は」
ガルドさんは額に手を当てた。
だが、すぐに表情を引き締める。
「ただし、魔力を使い切るような訓練は認めませんぞ。身体への負担もありますからな」
「分かってるよ。ちゃんと余裕を残してやる!」
「……その言葉、信じますぞ」
……信用ないなぁ。
いや、これまでの俺を見てきたガルドさんなら、念を押したくなるのも分かるけど。
◇
「それで、もう一つ試したいんだ」
俺は訓練場の端に並んだ的を見た。
《雷撃 Lv1》。
ヴァルグリオンを倒したとき、手に入れたスキルだ。
「周囲の安全は確認してあります。まずは一発だけですぞ」
「了解!」
俺は右手を伸ばした。
雷を身体に纏わせるのではなく、外へ放つ。
そんなイメージで魔力を流す。
バチィッ!
青白い雷が指先から走り、的の横をかすめた。
「……外れた!」
そして、MPを確認する。
「……うわ。こっちも結構使うな」
《雷纏い》は継続的に消費する。
一方、《雷撃》は放つ瞬間にまとまった魔力を使うようだ。
似た雷のスキルでも、性質はずいぶん違う。
「どうされますかな?」
ガルドさんが尋ねた。
「まずは消費を抑えながら、狙ったところに当てられるようにしたい」
「よい判断ですな」
威力だけ上げても、外したら意味がない。
それに、MPが多いからといって、無駄遣いしていいわけじゃない。
消費を抑える技術と、必要なときに大きな力を出す技術。
どちらも身につける必要がありそうだ。
……いやあ、やることが増えたな。
でも、こういう試行錯誤は嫌いじゃない。
◇
その頃、グランフェルト侯爵家の執務室では、エドガーとアルベルトが報告書を確認していた。
「……王都への報告は、これでよいか」
「はい。討伐の事実と屋敷の被害については記載しています。ただし、レオンの能力については伏せました」
「それでいい」
エドガーは書類を閉じた。
ネームドモンスターが侯爵家の屋敷を襲撃した。
それだけでも王国にとって重大事件だ。
だが、息子の特殊な能力まで報告する必要はない。
「それと、北の森についてですが」
アルベルトが別の書類を広げた。
「ヴァルグリオン討伐後、森から逃げ出す魔物の数は減っています」
「……やはり、奴に追われていたのか」
「その可能性は高いかと」
エドガーは眉を寄せた。
「だが、なぜヴァルグリオン自身が森を離れた?」
強大な魔物が縄張りを離れ、人里まで現れた。
その理由は、まだ分かっていない。
「調査隊を編成します。ただし、深部への立ち入りは慎重に進めます」
「頼む」
エドガーは頷き、王都宛ての報告書に目を落とした。
この一件が、これで終わるとは思えなかった。
◇
「……よし、今のは当たった!」
的の端に、小さな焦げ跡が残っていた。
「先ほどより、ずいぶんよくなりましたな」
「へへっ! もう一回!」
「今日はそこまでですぞ」
「えーっ!」
「魔力が残っていても、身体には疲労がたまります」
……確かに。
《雷纏い》と《雷撃》。
どちらも強力だが、消費するMPは想像以上だった。
それでも、扱い方を工夫すれば、きっともっと使いやすくなる。
魔力だって、まだ伸ばせるかもしれない。
「……明日も楽しみだな」
「坊ちゃん。くれぐれも無茶は禁物ですぞ」
「分かってるって!」
そのとき、訓練場の入口から一人の騎士がやってきた。
「ガルド殿。旦那様から伝言です」
「何でしょう?」
「近日中に、ヴァルグリオンの素材を鑑定するため、領内の冒険者ギルドへ向かうとのことです」
……ん?
今、何て言った?
「冒険者ギルド!?」
「ええ。レオン様も、ガルド殿とともに同行してよいそうです」
「……本当に!?」
やった!
冒険者ギルド!
前世では物語の中でしか知らなかった場所だ。
実際にはどんな仕事をしているんだろう。
依頼の仕組みは? 冒険者の階級は? どんな人たちが集まっている?
気になることが次々と浮かんでくる。
「ガルドさん! 俺、すっごく楽しみ!」
「はっはっは! その様子なら、明日からの稽古にも一段と身が入りそうですな!」
「もちろん!」
新しい力の研究も大切だ。
でも、世界を知ることだって、冒険者になるための第一歩だろう。
……いよいよだ。
夢に見た冒険者たちに、会えるんだ!




