しばしのお別れ
「……明日、帰ることになったわ」
「えっ、もう!?」
庭園のベンチに並んで座っていたセラが、こくりと頷いた。
「お父様のお仕事もあるし、王都での予定をいつまでも延ばせないもの」
「そっか……」
ヴァルグリオンとの戦いから数日。
俺の怪我も順調に回復していたが、まだ剣の稽古は禁止されている。
ようやくセラとゆっくり過ごせるようになったのに、もうお別れか。
まあ、公爵家ともなれば、そう簡単に予定は変えられないよな。
「……寂しい?」
セラが横から俺をのぞき込んだ。
「うん。寂しいよ」
「……そう」
「セラは?」
「……少しだけ」
「少しだけ?」
「……かなり」
俺たちは顔を見合わせて笑った。
「私、ここへ来る前は、こんなに楽しくなるなんて思っていなかったわ」
「俺も、同じくらいの友達ができるなんて思ってなかった!」
「最初は、ずいぶん変わった子だと思ったけれど」
「今も思ってるだろ?」
「……ええ」
「否定しないのかよ!」
セラが楽しそうに笑う。
最初に会ったときは、何を話すにも少し距離があった。
でも今は、こんな冗談も言い合える。
それが嬉しかった。
◇
「レオン。私、王都に戻ったら、もっと魔法を磨くつもりよ」
しばらくして、セラが真剣な顔になった。
「今まで以上に?」
「ええ。でも、今度は誰かの期待に応えるためだけじゃないわ」
その言葉に、俺は頷いた。
セラが背負ってきたものは、俺とは違う。
才能がないと言われる苦しさもあれば、才能があるからこそ失敗を許されない苦しさもある。
どちらが大変かなんて、簡単に比べられるものじゃない。
「自分が使いたい魔法を、自分の意志で使えるようになりたいの」
「いいじゃん。それ、すごくいいと思う!」
「……ありがとう」
セラは少し微笑んでから、俺を見た。
「あなたは、これからどうするの?」
「まずは怪我を治す。それから、ガルドさんと稽古かな」
「ふふっ。やっぱりね」
「でも、今度は雷の力もあるからさ。覚えることが山ほどありそうだよ」
ヴァルグリオンとの戦いでは、《雷纏い》を使って一気に踏み込めた。
ただ、あれは追い詰められた状況での一撃だ。
同じことをいつでも再現できるとは限らない。
速く動けることと、速さを制御できることは別だからな。
「次に会うときは、もっと強くなってるよ」
「私だって、負けないわ」
「おっ、勝負する?」
「ええ。魔法と剣でね」
「それ、俺の方が不利じゃない?」
「どうかしら?」
セラはいたずらっぽく笑った。
……なかなか言うようになったな。
「じゃあ、約束だ!」
俺が小指を差し出すと、セラは少し驚いてから、自分の小指を絡めた。
「……約束よ」
◇
翌朝。
正門には、ルーヴェンハルト公爵家の馬車が並んでいた。
「がっはっは! エドガー、世話になったな!」
「……お前は最後まで騒がしいな」
「何だ、寂しいならそう言え!」
「言っていない」
いつものやり取りに、思わず笑ってしまう。
父上も公爵も、あの事件の後始末で忙しかったはずだ。
それでも、こうして普段どおりに振る舞っている。
……大人っていうのも、なかなか大変だな。
「レオン」
セラが俺の前に立った。
「……また会えるわよね?」
「もちろん!」
俺は迷わず答えた。
「王都にも、いつか行ってみたいし!」
「だったら、案内してあげるわ」
「本当? じゃあ、おすすめの場所を考えておいて!」
「ええ。任せて」
セラは微笑んだ。
そして、少しだけ声を落とす。
「……あなたの秘密も、ちゃんと守るわ」
「ありがとう、セラ」
「友達だもの。当然でしょう?」
何でもないことのように言う。
でも、その一言が嬉しかった。
「セレスティア! そろそろ出発だ!」
公爵の声が響いた。
「はい、お父様!」
セラは馬車に向かい、乗り込む直前に振り返った。
「レオン!」
「ん?」
「次に会うとき、驚かせてあげるわ!」
「じゃあ、俺も負けられないな!」
「ふふっ。楽しみにしてる!」
馬車がゆっくりと動き出した。
俺は、姿が見えなくなるまで手を振った。
◇
「……行っちゃったな」
ぽつりと呟く。
思っていた以上に、庭が静かに感じられた。
「よい友ができましたな、坊ちゃん」
隣に立ったガルドさんが言った。
「うん。大事な友達だよ」
「それは何よりです」
ガルドさんは穏やかに笑った。
「さて、傷が癒えましたら、稽古を再開いたしましょう」
「もちろん!」
今の俺には、やるべきことがたくさんある。
《雷纏い》の制御も、剣術も。
それに、いつか自分の剣も欲しい。
……とはいえ、焦る必要はない。
強くなるために無茶をして、帰れなくなったら本末転倒だ。
「でも、今日はまだ休むよ。治療師さんに怒られるからね」
「はっはっは! それがよろしい!」
ガルドさんの笑い声が響く。
セラとは、しばらく会えない。
でも、別れは終わりじゃない。
次に会ったとき、胸を張って近況を話せるように。
俺も、自分の道を進んでいこう。
【あとがき】ステータスについて
作中に登場するステータスについて、少し補足しておきます。
この世界での能力値は、おおよそ次のようなイメージです。
数値目安
10〜29子ども
30〜59一般的な成人
60〜99身体を鍛えている人
100〜179兵士や冒険者
180〜299熟練の騎士や上級冒険者
300〜499一流の戦士や達人
500以上ごく一部の強者
もちろん、数値だけで強さが決まるわけではありません。スキルや装備、戦い方によっても変わってきます。
ちなみに、現在のレオンは7歳でLv8。敏捷130、筋力88、耐久30となっています。
同年代と比べればかなり高い数値ですが、まだまだ経験不足。特に耐久が低いので、攻撃を受けると危険です。
この先、どんなふうに成長していくのか、楽しんでもらえたら嬉しいです。




