信じ続けた先の力
「……痛たた」
翌朝、起き上がろうとした途端、全身に痛みが走った。
治療を受けたとはいえ、そう簡単には回復しないらしい。
「レオン、起きてる?」
「セラ! おはよう!」
扉から銀髪の少女が顔をのぞかせた。
「身体はどう?」
「痛いけど、元気だよ!」
「……元気なら、そんな顔しないでしょう」
セラは呆れたように笑い、椅子に腰掛けた。
彼女もまだ本調子ではないはずだが、昨日より顔色はよさそうだ。
「ねえ、レオン」
「ん?」
「昨日の雷……あれ、ヴァルグリオンの力でしょう?」
俺は思わずセラを見た。
「……気づいてた?」
「ええ。あの魔物から雷が消えた瞬間、あなたの身体に雷が現れたもの。偶然とは思えないわ」
……さすがだな。
あれほど追い詰められた状況でも、ちゃんと見ていたのか。
「正解。あれは《雷纏い》っていうスキルだよ」
「やっぱり……」
セラは考え込むように視線を落とした。
「どうやったかまでは聞かないわ。でも、あなたの《収集》が関係しているのね?」
「……うん」
それだけで、セラは納得したように頷いた。
「お父様たちには、きっと聞かれるわね」
「だろうね」
あの場にいた大人たちが、あの雷を見過ごすはずがない。
何をどこまで伝えるべきか。
俺は頭の中で考えを整理した。
◇
治療師の許可を得て向かった部屋には、父上、公爵、兄さん、ガルドさんがいた。
「レオン。まず、昨日の雷について確認したい」
俺が座ると、父上が口を開いた。
「お前の使った力は、ヴァルグリオンのものだな?」
「……うん。そうだよ」
父上は小さく頷いた。
「では、どうやって手に入れた?」
「《収集》だよ」
「やはり、そうか」
驚いた様子はない。
むしろ、そこまでは予想していたようだった。
「鑑定では、魔物からスキルを獲得できる可能性があると説明された。しかし、成功率は極めて低いはずだ」
「うん。でも、俺の場合は違うんだ」
「……どう違う?」
「死んだ直後の魔物なら、必ずスキルを回収できる」
その瞬間、父上の指がぴたりと止まった。
「……必ず?」
「うん」
隣でガルドさんが静かに息を吐いた。
「なるほど。坊ちゃんの魔力量ですな」
「そう。たくさんMPを使えるから、回収を成功させられるんだ」
公爵が腕を組んだ。
「……エドガー。お前の息子は、どれほどの魔力を持っている?」
「多いことは把握していた。だが、正確な現在値までは……」
二人の視線が俺に向いた。
……まあ、そこは気になるよな。
この場の人たちになら、教えてもいいだろう。
「今の最大MPは、9850だよ」
沈黙。
「……九千、八百五十?」
兄さんが、確かめるように数字を繰り返した。
公爵の笑顔が消えている。
「……エドガー」
「ああ。聞こえた」
父上は短く答えたが、その目は俺から離れなかった。
「レオン。それは、現在の最大値か?」
「うん。昨日、レベルが上がったから増えたんだ」
「……そうか」
父上は額に手を当てた。
いつも冷静な父上が、言葉を選んでいる。
それだけで、この数字がどれほど常識外れなのか伝わってきた。
「がっはっは……いや、これは笑って済ませられる話ではないな」
公爵が珍しく声を落とした。
「魔法の才能がないからこそ、この魔力量が《収集》に注がれたというわけか」
「……結果的には、そうなったんだと思う」
実際、《収集》には魔力が必要だ。
普通なら扱いきれない能力でも、俺にはそれを動かすだけのMPがあった。
ただし、回収できるスキルは選べないし、覚えたからといって使いこなせるわけでもない。
だから、剣も身体の動かし方も、ずっと鍛えてきた。
「それで……昨日は、生きているヴァルグリオンから奪ったのね」
セラが静かに言った。
父上の目がわずかに細くなる。
……そこまで分かるか。
まあ、雷が移る瞬間を見られている以上、隠しようがない。
「うん。《収集》が成長して、弱った相手からも回収できるようになったんだ」
「……それには、どれほどの魔力を?」
兄さんが尋ねた。
「ほとんど全部。簡単には使えないよ」
父上と公爵が視線を交わした。
何も言わなかったが、二人とも同じ結論に至ったらしい。
……この力は、簡単に人に知られていいものじゃない。
◇
「レオン」
父上が静かに口を開いた。
「私は、お前の《収集》を、役に立たぬものと判断した」
「……うん」
「だが、お前はその力と自分の魔力量を結びつけ、使い方を見つけた。そして、訓練を続けてきたのだな」
「うん。せっかくの自分の力だからね」
父上の視線が、ガルドさんへ向いた。
「この子の鍛錬は、私も見てまいりました」
ガルドさんが頷く。
「力を得ても、それに頼るだけではありませんでしたぞ。何度失敗しても、自分の身体で技を覚えようとする。実に見事な取り組み方でした」
父上はしばらく黙っていた。
「……私は、見誤っていたのだな」
低い声だった。
五歳のあの日を思い出す。
あの言葉は、まだ忘れていない。
でも、父上は今、以前の判断を自分の言葉で認めている。
……少しずつでいい。
俺も、そう思えた。
「エドガー」
公爵が静かに呼びかけた。
「この件は、慎重に扱うべきだ」
「ああ。分かっている」
父上が俺を見る。
「レオン。《収集》の詳細と魔力量については、ここにいる者以外には話さないでほしい」
「うん。俺もそのつもりだよ」
むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ。
魔物の能力を確実に得られ、生きた相手から奪うことまでできる。
そんな力が広まれば、利用しようとする者が現れてもおかしくない。
前世の知識があるからこそ、珍しい力が必ずしも幸運だけを運ぶわけではないと分かる。
「討伐の報告は、私とバルドリックで調整する」
「はい。」
◇
部屋を出ると、セラが俺を見上げた。
「……あなた、思っていた以上に秘密が多いのね」
「そうかな?」
「ええ。でも、少し納得したわ」
「何が?」
「魔法を使えないあなたが、どうしてあれほど頑張れるのか」
俺は首を傾げた。
「魔法が使えないことと、頑張ることは関係ないだろ?」
「……そうね」
セラは一瞬きょとんとして、それから笑った。
「やっぱり、あなたって変わってるわ」
「それ、褒めてる?」
「もちろんよ」
……本当か?
まあ、いいか。
それにしても、今日の話で改めて分かった。
俺が思っていた以上に、《収集》は特殊な力らしい。
まだ分からないことも多い。
だからこそ、もっと知りたい。
ただ、まずは怪我を治さないとな。
「ねえ、セラ。元気になったら、また一緒に練習しよう!」
「ええ。今度は、あなたの雷も見せてね」
「もちろん!」
そう答えると、セラは嬉しそうに微笑んだ。
俺も笑った。
あの戦いを乗り越えて、俺たちはまた新しい一歩を踏み出そうとしていた。




