↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
21/42

生きて帰った、その先に

 「……終わった、のか?」


 目の前には、巨大な狼が倒れていた。


 蒼雷の魔狼ヴァルグリオン。


 さっきまで恐ろしいほどの力を振るっていた魔物は、もう動かない。


 俺の手には、まだ剣が握られている。


 刀身には細かな亀裂が走り、青白い雷も消えかけていた。


「……レオン?」


 背後から、小さな声が聞こえた。


 振り返ると、セラが地面に座り込んだまま俺を見ていた。


「……勝ったの?」


 俺は頷いた。


「うん。勝ったよ」


 セラの目が大きく見開かれる。


 そして、ゆっくりと笑顔になった。


「……よかった」


「セラのおかげだよ」


「……え?」


「あの魔法がなかったら、俺だけじゃ倒せなかった」


 ヴァルグリオンの肩に残っている、深い傷。


 最後の一撃を叩き込めたのは、セラの《紅蓮槍》があったからだ。


「二人で勝ったんだ」


 そう言うと、セラは少し泣きそうな顔になった。


「……ええ」


 俺は剣を下ろした。


 ……ああ。


 生きてる。


 二人とも、生きてる。


 そのことが、何より嬉しかった。


     ◇


 その瞬間だった。


《ネームドモンスターの討伐を確認しました》


「……ん?」


 突然、頭の中に声が響いた。


《格上の強敵を討伐したことにより、特殊報酬が発生します》


《ジャイアントキリング達成》


《スキル《雷撃 Lv1》を獲得しました》


《称号《雷の申し子》を獲得しました》


「……称号?」


 そんなものまであるのか?


《称号《雷の申し子》の効果が適用されます》


《レベルアップ時の能力値上昇に補正が加わります》


《経験値を獲得しました》


《レベルが3から8に上昇しました》


「……ええっ!?」


 一気に五つも!?


 思わず目を丸くする。


 ヴァルグリオンって、いったいどれだけ強かったんだ……。


 俺は慌ててステータスを開いた。


⸻


【ステータス】


名前:レオン・グランフェルト


年齢:7歳


レベル:8


HP:37 / 268


MP:12 / 9850


筋力:88


耐久:30


敏捷:130


器用:95


知力:89


精神:91


【スキル】


《収集 Lv2》


《聴覚強化 Lv3》


《平衡感覚 Lv3》


《跳躍 Lv3》


《剣術 Lv2》


《観察 Lv3》


《視覚強化 Lv3》


《雷纏い Lv1》


《雷撃 Lv1》


【称号】


《雷の申し子》


⸻


「……すっげぇ」


 思わず呟いた。


 敏捷、130!?


 筋力も88。器用は95。


 昨日までとは、まるで違う数値だ。


 でも……。


「耐久、30か……」


 他の能力値と比べると、ずいぶん低い。


 それに、いくら数値が上がっても、剣の技術まで急に身につくわけじゃない。


 ガルドさんの剣を思い出す。


 あの無駄のない動き。相手を読む目。正確な間合い。


 ……まだまだ、遠いな。


 でも。


「……へへっ」


 思わず笑みがこぼれた。


 強くなれた。


 少なくとも、昨日までの俺よりは。


 諦めずに続けてきて、よかった。


「……レオン?」


「あっ、ごめん!」


 セラが不思議そうに俺を見ていた。


「なんでもない! それより、ここから出よう!」


「……ええ。でも、私、まだ立てそうにないわ」


「大丈夫。少し休もう。きっと誰か来てくれるよ」


 俺だって、もうほとんど魔力が残っていない。


 レベルが上がっても、傷や疲れが消えるわけじゃなかった。


 ……今は無理しない。


 ちゃんと二人で帰るって、約束したんだから。


     ◇


「いたぞ! こちらだ!」


 しばらくして、騎士たちの声が響いた。


 崩れた塀の向こうから、何人もの兵士が駆け込んでくる。


「レオン様! セレスティア様!」


「二人ともご無事か!」


「うん! でも、セラが魔力を使い切っちゃって……!」


「すぐに治療師を!」


 騎士たちは素早く動いた。


 俺とセラは治療を受け、屋敷の安全な場所へ運ばれることになった。


 巨大な狼の亡骸を見た騎士たちが、言葉を失っている。


「……これを、二人で?」


「まさか……」


 驚くのも無理はないと思う。


 俺自身、まだ少し信じられないんだから。


     ◇


 屋敷へ戻って間もなく、父上たちが帰ってきた。


 最初に駆け込んできたのは、ガルドさんだった。


「坊ちゃん!」


「ガルドさん!」


 いつも豪快に笑っているガルドさんが、今日は珍しく険しい顔をしていた。


 でも、俺の姿を確かめると、大きく息を吐いた。


「……よくぞ、生き抜きましたな」


 その声は、少し震えていた。


「ガルドさん……」


「お二人で、あの魔物を退けられたと聞きました」


「……うん。セラと一緒に頑張ったよ」


 ガルドさんはゆっくりと頷いた。


「立派ですぞ。実に、立派です」


 その言葉に、胸が熱くなった。


 ガルドさんには、何度も教わってきた。


 強くなることだけじゃない。


 危険を見極めること。


 命を大切にすること。


 そして、生きて帰ること。


「……ただいま、ガルドさん」


 俺がそう言うと、ガルドさんは目を細めた。


「こちらこそ、よくぞ戻ってきてくださいました」


 大きな手が、俺の頭にそっと置かれる。


「おかえりなさい、坊ちゃん」


「……うん!」


     ◇


「レオン!」


 次に飛び込んできたのは、兄さんだった。


「兄さん!」


 アルベルト兄さんは俺の前で膝をつき、肩に手を置いた。


「……本当に、無事でよかった」


「うん。俺、大丈夫だよ!」


「大丈夫って……こんなに怪我をしているじゃないか」


「治療師さんに診てもらったから!」


「そういうことじゃなくて……」


 兄さんは途中で言葉を切った。


 そして、俺をそっと抱きしめた。


「……よかった」


 小さな声が聞こえる。


「本当に、よかった……」


 俺も兄さんの背中に腕を回した。


「……ただいま、兄さん」


「ああ。おかえり、レオン」


 いつも頼もしい兄さんの声が、少しだけ震えていた。


     ◇


「セレスティア!」


「お父様!」


 隣では、バルドリック公爵が娘を抱きしめていた。


「がっはっは! よく無事でいてくれた!」


「お父様、苦しいです……!」


「おお、すまんすまん!」


 そう言いながらも、公爵はなかなか腕を離さなかった。


 セラも、少し困ったように笑っている。


 ……よかったな、セラ。


 その光景を見ていると、俺の前に一人の影が落ちた。


「……レオン」


 父上だった。


「……父上」


 エドガー・グランフェルト。


 いつも厳しい表情をしている父上が、俺をじっと見つめている。


 ……なんだろう。


 いつもと、少し違う。


 父上はゆっくりと手を伸ばした。


 そして、俺の頭に置いた。


「……よく、生きていてくれた」


「……え?」


 思わず顔を上げる。


 父上は俺から目をそらさなかった。


「……それだけで、十分だ」


 その言葉に、胸の奥がぎゅっとなった。


 五歳のあの日。


 《収集》しか持たないと分かったとき、父上は俺を「期待外れ」だと言った。


 あの言葉は、今でも覚えている。


 でも……。


 今、目の前にいる父上は。


 俺が強くなったことよりも、生きていることを喜んでくれている。


「……ただいま、父上」


 気づけば、そう言っていた。


 父上の手が、ほんの少しだけ動いた。


「……おかえり、レオン」


 短い言葉だった。


 でも。


 俺には、それがたまらなく嬉しかった。


     ◇


 その日の夕方。


 俺はベッドに横になりながら、窓の外を眺めていた。


 ヴァルグリオンを倒した。


 新しい力を手に入れた。


 レベルも上がった。


 冒険者になる夢に、少しだけ近づけた気がする。


 でも、今日一番嬉しかったのは、そんなことじゃない。


 ガルドさんが笑ってくれたこと。


 兄さんが抱きしめてくれたこと。


 父上が「おかえり」と言ってくれたこと。


 そして……。


 セラと、また笑えたこと。


「……へへっ」


 俺は小さく笑った。


 強くなりたい。


 もっともっと、強くなりたい。


 でも、それは。


 大切な人たちと、また笑って会うためでもあるんだ。


 俺はゆっくりと目を閉じた。


 明日から、また頑張ろう。


 今はできなくても、いつか絶対に。


 だから、諦めない。


 ……まずは、この怪我をちゃんと治さないとな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。