↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/42

蒼雷の剣

 ――バチッ!


 右腕を走った青白い稲妻が、肩へ、胸へ、そして全身へと広がっていく。


 暗い中庭が、淡い青に照らされた。


「……綺麗」


 セラが、思わず呟いた。


 先ほどまで恐ろしかった雷。


 その光が、今はレオンの身体を包んでいる。


 銀色の髪を揺らしながら、セラはその姿に見入っていた。


 俺はゆっくりと右手を握った。


 ……これが《雷纏い》。


 全身に雷が流れている。


 なのに、不思議と痛みはない。


 それどころか、身体の隅々まで力が行き渡っていくようだった。


 俺は足元に落ちていた騎士の剣を拾い上げた。


 そして、刃へ意識を向ける。


 ――バチバチッ!


 青い稲妻が剣身を包み込んだ。


 ……いける。


 俺は静かに構えた。


     ◇


 ――グルルルル……!


 ヴァルグリオンが低く唸った。


 雷を奪われた怒りか、その青い瞳には殺意が宿っている。


 傷ついた右肩からは血が流れ、前脚を引きずっていた。


 それでも、巨大な身体から放たれる威圧感は凄まじい。


 ……まだ、強い。


 だが。


 もう、恐怖に呑まれるつもりはなかった。


 俺は地面を蹴った。


 ――バチンッ!


 一瞬で景色が流れる。


 さっきまで遠くにいた狼が、目の前に迫った。


 ヴァルグリオンの爪が振り下ろされる。


 俺は半歩ずれて、それをかわした。


 ――ドォン!


 爪が地面を砕く。


 その横を、青い光が駆け抜けた。


 ……見える。


 ガルドさんとの訓練で、何度も見てきた踏み込み。


 《観察》で捉える重心の動き。


 《平衡感覚》で制御する身体。


 そして、繰り返し磨いてきた《剣術 Lv2》。


 全部が、つながっている。


 ――バチッ!


 俺は狼の側面へ回り込み、剣を振るった。


 ――ザシュッ!


 刃が毛皮を裂く。


 ヴァルグリオンが吠え、反撃の牙を向ける。


 しかし、そのときにはもう、俺は別の場所にいた。


 速い。


 今までとは、比べものにならない。


 でも、ただ速いだけじゃない。


 今まで積み重ねてきた動きに、ようやく身体が追いついてきたような感覚だった。


     ◇


「……レオン……」


 セラは地面に座り込んだまま、その光景を見つめていた。


 さっきまで、逃げることさえできなかった相手。


 その巨大な狼を、レオンが翻弄している。


 青白い雷が走るたび、彼の姿が夜の闇に浮かび上がった。


 でも、セラには分かっていた。


 レオンが突然、すべてを手に入れたわけではない。


 毎日、剣を振っていた。


 何度失敗しても、また立ち上がっていた。


 そして、あの日言っていた。


『俺、いつか絶対に強くなって、冒険者になるって決めてるんだ』


 ……本当に。


 諦めなかったのね。


 セラの目から、涙が一粒こぼれた。


     ◇


 ヴァルグリオンが、大きく身を沈めた。


 来る。


 最後の突進だ。


 俺は《観察》でその動きを捉えた。


 傷ついた右肩。


 左脚にかかる重心。


 そして、セラの《紅蓮槍》が貫いた傷口。


 ……狙うのは、あそこだ。


 俺は剣を握り直した。


 全身を走る雷を、さらに刃へ集中させる。


 青白い光が強まり、剣が鋭く鳴った。


 そのとき、ふとセラの方を見た。


 彼女は地面に座り込んだまま、俺を見つめていた。


 心配そうな紫色の瞳。


 俺は、その目を見て。


 にこっと笑った。


「セラ。二人で帰ろう」


 セラの瞳が大きく開かれる。


 そして、涙を浮かべたまま頷いた。


「……うん!」


 俺は狼へ向き直った。


 ヴァルグリオンが咆哮し、突進してくる。


 その巨体に向かって、俺も地面を蹴った。


 雷が爆ぜる。


 全身を巡る青白い光が、一本の刃に集まる。


 ただ一度。


 これまで積み重ねたすべてを、この一撃へ。


「――《雷閃一刀(らいせんいっとう)》!」


 ――閃ッ!!


 青い光が、中庭を一直線に駆け抜けた。


 すれ違った瞬間、剣が傷口を深く斬り裂く。


 ヴァルグリオンの巨体が、勢いのまま数歩進んだ。


 そして。


 ――ズズゥン!!


 地面を揺らし、崩れ落ちた。


 静寂。


 俺は剣を下ろし、ゆっくりと振り返る。


 巨大な狼は、もう動かなかった。


【蒼雷の魔狼ヴァルグリオンを討伐しました】


 俺は、長く息を吐いた。


 ……勝った。


 俺たち、勝ったんだ。


 そして、すぐにセラの方を見た。


 彼女が笑っていた。


 涙でぐしゃぐしゃの顔で、それでも嬉しそうに。


 ……よかった。


 ちゃんと、守れた。


 俺は剣を握り直し、彼女のもとへ歩き始めた。

ご覧いただきありがとうございます。

ひとまず書き切りたいところまで書き切りました。

明日もまた更新していきますのでまた見にきてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。