蒼雷の剣
――バチッ!
右腕を走った青白い稲妻が、肩へ、胸へ、そして全身へと広がっていく。
暗い中庭が、淡い青に照らされた。
「……綺麗」
セラが、思わず呟いた。
先ほどまで恐ろしかった雷。
その光が、今はレオンの身体を包んでいる。
銀色の髪を揺らしながら、セラはその姿に見入っていた。
俺はゆっくりと右手を握った。
……これが《雷纏い》。
全身に雷が流れている。
なのに、不思議と痛みはない。
それどころか、身体の隅々まで力が行き渡っていくようだった。
俺は足元に落ちていた騎士の剣を拾い上げた。
そして、刃へ意識を向ける。
――バチバチッ!
青い稲妻が剣身を包み込んだ。
……いける。
俺は静かに構えた。
◇
――グルルルル……!
ヴァルグリオンが低く唸った。
雷を奪われた怒りか、その青い瞳には殺意が宿っている。
傷ついた右肩からは血が流れ、前脚を引きずっていた。
それでも、巨大な身体から放たれる威圧感は凄まじい。
……まだ、強い。
だが。
もう、恐怖に呑まれるつもりはなかった。
俺は地面を蹴った。
――バチンッ!
一瞬で景色が流れる。
さっきまで遠くにいた狼が、目の前に迫った。
ヴァルグリオンの爪が振り下ろされる。
俺は半歩ずれて、それをかわした。
――ドォン!
爪が地面を砕く。
その横を、青い光が駆け抜けた。
……見える。
ガルドさんとの訓練で、何度も見てきた踏み込み。
《観察》で捉える重心の動き。
《平衡感覚》で制御する身体。
そして、繰り返し磨いてきた《剣術 Lv2》。
全部が、つながっている。
――バチッ!
俺は狼の側面へ回り込み、剣を振るった。
――ザシュッ!
刃が毛皮を裂く。
ヴァルグリオンが吠え、反撃の牙を向ける。
しかし、そのときにはもう、俺は別の場所にいた。
速い。
今までとは、比べものにならない。
でも、ただ速いだけじゃない。
今まで積み重ねてきた動きに、ようやく身体が追いついてきたような感覚だった。
◇
「……レオン……」
セラは地面に座り込んだまま、その光景を見つめていた。
さっきまで、逃げることさえできなかった相手。
その巨大な狼を、レオンが翻弄している。
青白い雷が走るたび、彼の姿が夜の闇に浮かび上がった。
でも、セラには分かっていた。
レオンが突然、すべてを手に入れたわけではない。
毎日、剣を振っていた。
何度失敗しても、また立ち上がっていた。
そして、あの日言っていた。
『俺、いつか絶対に強くなって、冒険者になるって決めてるんだ』
……本当に。
諦めなかったのね。
セラの目から、涙が一粒こぼれた。
◇
ヴァルグリオンが、大きく身を沈めた。
来る。
最後の突進だ。
俺は《観察》でその動きを捉えた。
傷ついた右肩。
左脚にかかる重心。
そして、セラの《紅蓮槍》が貫いた傷口。
……狙うのは、あそこだ。
俺は剣を握り直した。
全身を走る雷を、さらに刃へ集中させる。
青白い光が強まり、剣が鋭く鳴った。
そのとき、ふとセラの方を見た。
彼女は地面に座り込んだまま、俺を見つめていた。
心配そうな紫色の瞳。
俺は、その目を見て。
にこっと笑った。
「セラ。二人で帰ろう」
セラの瞳が大きく開かれる。
そして、涙を浮かべたまま頷いた。
「……うん!」
俺は狼へ向き直った。
ヴァルグリオンが咆哮し、突進してくる。
その巨体に向かって、俺も地面を蹴った。
雷が爆ぜる。
全身を巡る青白い光が、一本の刃に集まる。
ただ一度。
これまで積み重ねたすべてを、この一撃へ。
「――《雷閃一刀》!」
――閃ッ!!
青い光が、中庭を一直線に駆け抜けた。
すれ違った瞬間、剣が傷口を深く斬り裂く。
ヴァルグリオンの巨体が、勢いのまま数歩進んだ。
そして。
――ズズゥン!!
地面を揺らし、崩れ落ちた。
静寂。
俺は剣を下ろし、ゆっくりと振り返る。
巨大な狼は、もう動かなかった。
【蒼雷の魔狼ヴァルグリオンを討伐しました】
俺は、長く息を吐いた。
……勝った。
俺たち、勝ったんだ。
そして、すぐにセラの方を見た。
彼女が笑っていた。
涙でぐしゃぐしゃの顔で、それでも嬉しそうに。
……よかった。
ちゃんと、守れた。
俺は剣を握り直し、彼女のもとへ歩き始めた。
ご覧いただきありがとうございます。
ひとまず書き切りたいところまで書き切りました。
明日もまた更新していきますのでまた見にきてください。




