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信じてきたもの…覚醒

第19話 信じ抜いた力


 ――ドォォォン!!


 青白い閃光が、中庭を飲み込んだ。


「セラ!」


 俺は彼女の手を引き、崩れた石柱の陰へ飛び込んだ。


 直後、雷撃が石柱に激突する。


 砕けた石が雨のように降り注いだ。


「……ぐっ!」


 背中に激痛が走る。


「レオン! 血が……!」


「動けるから大丈夫! セラは!?」


「私は平気よ!」


 俺は周囲を見渡した。


 裏門は崩れ、回廊も瓦礫に塞がれている。


 残された出口は、狼の背後にある通路だけ。


 ……あそこまで行ければ!


「セラ、あいつの動きを止められる?」


「少しなら!」


「その隙に逃げよう!」


 セラが両手を前に突き出した。


「《黒鎖縛(ダークチェイン)》!」


 地面の影が波打ち、漆黒の鎖が狼の四肢に絡みつく。


 ――ガァァッ!!


「今だ!」


 俺たちは走り出した。


 だが、次の瞬間。


 ――バリバリッ!!


 青い稲妻が狼の身体を走り、鎖を次々と引きちぎった。


 巨大な前脚が行く手を塞ぐ。


 俺はセラを引き寄せ、横へ跳んだ。


 直後、爪が地面を抉る。


 ……速すぎる!


 それに、あの雷。


 口から放つ雷撃とは別に、身体そのものにまとわりついている。


 魔法なのか?


 それとも、何かのスキルなのか?


 もしスキルなら、俺の《収集》で手に入れられるのかもしれない。


 ……いや、今は無理だ。


 《収集》が使えるのは、死んだばかりの魔物だけ。


 今は、逃げることを考えろ!


     ◇


「……レオン、下がって」


 セラが一歩前に出た。


「私が道を作るわ」


「セラ……」


「私だって、戦えるんだから!」


 その声は震えていた。


 でも、紫色の瞳は狼をまっすぐ見据えている。


 再び漆黒の鎖が飛び出した。


 今度は脚だけでなく、胴体まで締めつける。


 同時に、セラの頭上へ紅蓮の炎が集まり始めた。


 炎は渦を巻き、一本の巨大な槍へと形を変えていく。


「貫きなさい――《紅蓮槍(クリムゾンランス)》!!」


 ――ゴォォォッ!!


 炎の槍が一直線に放たれた。


 ヴァルグリオンが身をよじる。


 だが、黒い鎖がその動きを一瞬だけ封じた。


 ――ドシュッ!!


 紅蓮の槍が、狼の右肩を貫いた。


 ――ギャオオオオッ!!


 巨大な身体が傾く。


 ……すごい!


 あの化け物に、これほどの傷を!


 けれど。


 ――グルルル……。


 狼は再び立ち上がった。


 右肩から血を流し、前脚を引きずっている。


 それでも、青い瞳は俺たちを捉えたままだった。


「……そんな……」


 セラの身体がふらつく。


「セラ!」


 俺は慌てて支える。


「……ごめんなさい。もう、魔力が……」


 セラは膝をついた。


 ……くそっ!


 あれでも倒せないのか!


 ただ、狼の動きは明らかに鈍っている。


 それでも出口は塞がれたまま。


 どうすれば、二人で帰れる?


     ◇


「……レオン」


 セラが小さく呟いた。


「逃げて」


「……え?」


「私が、もう一度だけ時間を稼ぐから……」


 震える手が持ち上がる。


「だから、あなただけでも……」


「嫌だ」


「お願い、レオン。このままじゃ二人とも……!」


「二人で帰るんだよ!」


 思わず声が大きくなった。


 セラが目を見開く。


「セラはさ、俺が何度失敗しても、馬鹿にしなかっただろ?」


「……え?」


「魔力操作だって全然できなかったのに、何度も教えてくれた。俺が冒険者になりたいって言ったときも、ちゃんと話を聞いてくれた」


 セラと過ごした日々が、頭に浮かぶ。


 一緒に練習して、笑い合って。


 俺が諦めずに頑張ることを、当たり前のように受け止めてくれた。


「……俺、嬉しかったんだ」


 セラが顔を上げた。


「俺が頑張ってることを、ちゃんと見てくれる人がいるんだって」


 ずっと一人で追いかけてきた夢だった。


 だけど、今は違う。


「セラは、俺にとって初めての友達なんだ。すっげぇ大切な友達なんだよ!」


「……レオン……」


 俺はセラの前に立った。


 目の前には、青い雷を纏う巨大な狼。


 怖い。


 足だって震えている。


 それでも、決めた。


「俺はセラを置いていかない。絶対に、二人で生きて帰るんだ!」


 セラの瞳が揺れた。


 俺はもう一度、狼を見据えた。


 ……諦めない。


 今までだって、そうしてきた。


 何度失敗しても、何度倒されても。


 俺は、諦めなかった。


 だったら、今だって同じだ。


 今まで積み重ねてきた力を、今こそ大切な友達を守るために使うんだ。


     ◇


 ヴァルグリオンが牙を剥いた。


 青白い雷が、黒い毛並みを走る。


 ……あの雷。


 さっき考えたことが、再び頭に浮かんだ。


 もし、あれがスキルなら。


 もし、俺の《収集》が届くなら。


 でも、相手は生きている。


 できる保証なんて、どこにもない。


 そのとき、五歳のあの日の記憶がよみがえった。


『……期待外れだ』


 鑑定の結果を見た父上の言葉。


 俺に授けられた、たった一つの固有スキル。


 《収集》。


 誰も期待していなかった。


 物を集めるだけの、役に立たない力だと思われていた。


 だけど。


 俺は知っている。


 このスキルが、本当はどれだけすごいのか。


 小さな物を引き寄せられた。


 倒した魔物から、新しい力を手に入れられた。


 その力を使い、何度も戦い、何度も練習してきた。


 ……そうだ。


 俺は、この力と一緒に強くなってきたんだ。


 誰が何と言おうと。


 俺だけは、この力を信じている。


 俺は、ゆっくりと右手を持ち上げた。


 ヴァルグリオンの身体を走る雷へ、まっすぐ向ける。


 できるかどうかは分からない。


 でも、ここで諦めるなんて、絶対に嫌だ。


 セラを守りたい。


 二人で、生きて帰りたい。


 ――頼む。


 俺には、まだお前の力が必要なんだ。


 右手に意識を集中する。


 今まで何度も使ってきた《収集》。


 引き寄せる。


 ただ、それだけ。


 小さな石を。


 魔物が持っていたスキルを。


 何度も、何度も繰り返してきた感覚。


 それを今、目の前の狼へ向ける。


 ……来い。


 俺は、俺の《収集》を信じている。


 ――ドクンッ!!


 指先に、何かが触れた。


 ……っ!?


 今、確かに感じた!


 でも、引き寄せられない。


 まるで、巨大な岩を動かそうとしているようだ。


 ヴァルグリオンが唸る。


 俺は動きを読み、ぎりぎりで横へ跳んだ。


 それでも、右手を下ろさない。


 ……もう少し。


 あと少しだけ!


 セラを守る。


 二人で帰る。


 そのために――!


 俺は、ありったけの力を込めた。


 ――ズンッ!!


 身体の奥に、凄まじい重さがのしかかった。


【《収集》の熟練度が限界に達しました】


【《収集 Lv1》→《収集 Lv2》】


【新たな効果が解放されました】


【弱った生存対象から、スキルを収集でき…ます。えッできるの!?】


 ……っ!


 できる!なんかアナウンスも戸惑ってるけど、今は無視だ。


 俺の力は、まだ先へ進める!


【対象:蒼雷の魔狼ヴァルグリオン】


【収集対象:《雷纏い Lv1》】


【大量のMPを消費します】


 迷いなんてなかった。


 ……持っていけ。


 今ある魔力なんて、全部!


 ――ドクンッ!!


 身体の奥から、魔力が一気に吸い出されていく。


「……ぐっ!!」


 膝が折れそうになる。


 視界が暗くなる。


 それでも、手を伸ばし続けた。


 ……まだだ。


 まだ、終わってない!


 俺は、絶対に諦めない!


【収集成功】


【《雷纏い Lv1》を獲得しました】


 ――バチッ!!


 ヴァルグリオンの身体を包んでいた雷が、突然消えた。


 そして。


 青白い稲妻が、俺の右腕を走った。


「……レオン!?」


 セラの声が響く。


 俺は震える右手を見つめた。


 ……ああ。


 やっぱり、お前はすごいよ。


 俺の《収集》。


 誰にも期待されなかった力が、今。


 初めてできた友達を守るために、新しい可能性を切り開いた。


 俺は顔を上げた。


 目の前には、怒りに震えるヴァルグリオン。


 背後には、大切な友達。


 俺が守る…

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