xX-16 体調不良。
観測者
[天使ちゃん…。]
【20xx年 5月28日 午前5時30分】
天井の木目。
敷布団の触り心地。
和室の香り。
ラファルサ少佐
「いっ…」
咄嗟にこめかみへ触れる。
ラファルサ少佐
《頭痛?…随分と懐かしい》
《だるい。重い。気持ち悪い…》
部屋の奥から視線を感じる。
ラファルサ少佐
《真彩か…》
真彩
「起きてたんですか?」
静かに部屋へ入ってくる。
真彩
「おはようございます。少佐」
ラファルサ少佐
「ああ…おはよう。…水くれないか?」
《そんな顔で見るな…ん?》
ふと横を見ると、天使が体を丸めて寝ていた。
Dovira
【二日酔いですね。脱水している可能性あり。】
真彩の目つきが変わった。
真彩
「すぐ用意します。少々お待ちを…」
いそいそと部屋から出て行った。
ラファルサ少佐
《直樹…起きろ…》
直樹
〈…ん〜ん〉
揺すろうと天使へ手を伸ばすが、すり抜ける。
真彩が戻ってきた。
真彩に体を支えられる。
ゆっくりと体を起こした。
飲み物を渡される。
真彩
「持てます?」
ラファルサ少佐
「ああ…」
コップ一杯、飲み干す。
ラファルサ少佐
《助かった。…甘い…スポーツドリンクか?》
《直樹…踏まれそうでヒヤヒヤするな…》
天使へ視線を向ける。
真彩
「頭痛、あります?」
少佐は真彩へ視線を戻した。
ラファルサ少佐
「ああ…ある…」
真彩
「カロナール飲んでください」
ラファルサ少佐
《医療用は譲渡駄目だろ》
「お前のか…?」
真彩
「いいえ」
真彩は首を振る。
箱の裏面を見ている。
ラファルサ少佐
「市販なのか…?」
真彩
「え…。はい、そうですけど」
ラファルサ少佐
《医療用が市販で…》
《便利な世の中になったもんだな》
真彩
「2錠だそうです」
薬を手渡された。
躊躇しながらコップを真彩へ見せる。
ラファルサ少佐
「おかわり貰えるか?」
ペットボトルのキャップを開ける。
コップへ注がれる。
ラファルサ少佐
《随分と懐かしい飲み物だな》
真彩
「落ち着くまで、寝ててください」
薬を飲んだ。
ゆっくりと頷いた。
真彩
「また来ます。何か、欲しいのありますか?」
ラファルサ少佐
「いや…ない」
大人しく布団へ戻った。
真彩は静かに部屋を去った。
彼女の後ろ姿を布団の中から見送る。
天井を見上げた。
ラファルサ少佐
《…俺……》
《セクハラ以降の記憶がないんだ…。なぁ、相棒…》
天使がムクッと起き上がり、少佐の上へ覆いかぶさった。
ラファルサ少佐
《おい…》
直樹
〈…ラファにぃ…むにゃむにゃ……〉
寝ながら微笑む。
少佐は小さく鼻で笑った。
そっと瞳を閉じた。
◇◆◇
【20xx年 5月28日 午前7時10分】
ラファルサ少佐
「んっ…」
視線と温もりを感じる。
ゆっくり目を開けた。
相田
「ラファにぃ、大丈夫?」
《体調悪いんだろ?》
目の前には直樹の体の相田。
相田の背後には天使が顔を覗かせている。
二人ともすごく不安そうに見つめてくる。
ラファルサ少佐
「ああ。大丈夫だ」
体を起こす。
ラファルサ少佐
《痛くない》
相田
「おはよう!」
直樹
〈おはよう!ラファにぃ〉
ラファルサ少佐
「おはよう」
二人の笑窪が可愛い。
相田
「ご飯食べる?」
ラファルサ少佐
《…食べれるかわからない》
相田
《二日酔いならそうだろな》
ラファルサ少佐
《なぜわかった》
相田
《酒くせーからな》
少佐は無言で少年を見つめる。
ラファルサ少佐
《まだ、ここにいていいのか…》
真彩
「直樹、邪魔しないの」
真彩と視線が重なる。
真彩
「ごめんなさいね…」
申し訳なさそうな表情。
ラファルサ少佐
《別に…》
真彩
「さっさと、着替えなさい」
息子へ強く言った。
相田
「わかったよぉ」
すごく不満そうだ。
それでも動かない。
微笑みつつ、こちらを見つめてくる。
ラファルサ少佐
《ママより、俺か》
相田
《お前が心配》
ラファルサ少佐
《余計なお世話だ》
「着替えてこい」
そっと少年の頭を撫でた。
相田
「うははっ」
直樹
〈えへへっ〉
天使も一緒に喜んだ。
ラファルサ少佐
《嬉しそう。可愛いな…》
真彩
「まったく。おにーちゃんは今頭痛いんだよ?」
ラファルサ少佐
《…は?》
じとっ…と視線を送る。
ラファルサ少佐
《バカにしてるのか?》
一瞬だけ真彩と視線が重なった。
相田
《俺の女だやらんぞ》
ラファルサ少佐
《…バカなのか?》
相田
「ラファにぃ、一緒に学校行こう?」
ラファルサ少佐
《無理な注文だな》
真彩
「無理に決まってるだろう」
相田
「ええー」
《いいじゃ〜ん。行こうよ〜》
不敵に笑む。
少佐は呆れた。
真彩
「いいから、着替えなさい」
直樹
「はーい」
渋々部屋を去った。
少年と入れ替わりに部屋へ入ってきた。
近寄ってくる。
真彩は正面に座る。
真彩
「大丈夫?」
ラファルサ少佐
「…だいぶ良くなった。ありがとう」
真彩
「朝ご飯。…食べれそう?」
ラファルサ少佐
《腹は減っている》
「ああ」
天使はじっとこちらを見ている。
ラファルサ少佐
《立つ。危ないぞ》
天使はふわりと宙へ羽ばたく。
立ち上がろうと脚を立てる。
足元がふらつく。
真彩
「危ない!」
ラファルサ少佐
《!!》
息が詰まった。
真彩
「急に立たない!…ゆっくり立つ」
真彩に体を支えられている。
ラファルサ少佐
《くそ…》
《血の気が引く…》
真彩
「軽く食べるの持ってきます」
ゆっくり布団へ戻される。
真彩
「大人しくしててください」
ラファルサ少佐
「すまない…」
《あっ…。大地》
《見たなっ》
中佐に見られていた。
少佐はじっと見つめる。
大地
「ラファルサ、大丈夫か?」
ラファルサ少佐
「飲み過ぎた様だ…面目ない」
大地
「そらりゃ…。だろうな」
一瞬、中佐の視線が逸れた。
ラファルサ少佐
《ん?》
大地
「ゆっくり過ごせよ。明後日、運動会だから、な」
ラファルサ少佐
「運動会…」
《随分と懐かしい言葉だな》
《5月だが…秋ではないのか?》
直樹
〈なんで秋?〉
天使は小さく首を傾げた。
大地
「今夜、ゆっくり話そう」
少佐は頷いた。
中佐に頷き返された。
大地
「んじゃ、仕事行ってくる」
律儀に会釈。
ラファルサ少佐
「気をつけて…」
真彩が立ち上がる。
大地
「あ、見送り要らないよ」
掌で制止。
真彩は立ち止まった。
真彩
「いってらっしゃい!」
大地はリビングへ去る。
大地
「置いてくぞ」
直樹
〈あっ待って!!〉
天使は後を追う。
相田
「パパ待って!行ってきまーす!」
少年も玄関へ走って行った。
真彩
「気を付けてね。いってらっしゃい!」
ラファルサ少佐
「賑やかだな…」
真彩
「それが、家庭です」
微笑まれた。
◇◆◇
[ドアが開きます。]
――バッコン
エントランス前。
大地
「送ろうか?」
相田
「大丈夫だよ」
中山
「よっ!おはよう!!」
大地
「友だちか?」
相田
「うん…」
《なんでいんだよ…》
中山
《いいじゃん》
「一緒に行こう!!」
ぴょんぴょん跳ねている。
大地
「なおパパです。いつも仲良くしてくれてありがとね」
中山
「こちらこそ〜」
相田
「昨日転校してきた…んだ」
《お前!馴れ馴れしいんだよ》
大地
「そうなの!?はじめましてだね」
「これからよろしくね」
中山
「はい。よろしくお願いします!」
相田
「遅刻しちゃう。行こ」
大地
「あっ行ってきます!」
「気をつけろよ!」
中佐は駆け出した。
相田
「そっちもね」
父へ手を振った。
相田
「中山…今日、体育だな」
二人は歩き出す。
中山
「…宇佐美って言う男だろ」
相田
「仕掛けてこなければいいが」
天使は少年のランドセルの上に座って考え事をしていた。
◇◆◇
陽射しが射し込む教室。
カーテンが風になびく。
北野先生
「おはようございます」
児童
「おはようございます」
一斉に挨拶。
北野先生
「朝の出席の前にお知らせがあります」
静寂。
北野先生
「藤田さんは急遽ご両親のお仕事の都合で転校しました」
相田
《え!》
直樹
〈ええ!?〉
少年と天使はあまりのショックで先生の話に集中できなかった。
中山
「おーい」
両手で頬を押された。
中山
「変な顔」
中山に遊ばれた。
中山
「体育!」
「全体練習だぞー」
大越
「あ…」
周囲を見渡す。
他の児童はすでに着替え終わっていた。
急いで着替えだした。
一人また一人と教室を出て行く。
静かに見つめる男児一人。
大越
「さっさと行けよ」
中山と二人きりになっていた。
中山
「藤田さんいなくなっちゃったね」
大越
「………だから?」
中山
「なんとなく」
大越
「置いて行くぞ」
教室を出た。
中山
「待ってあげてたのに」
大越
「別にお願いしてない」
階段を下る。
天使は黙ったまま後を追った。
下駄箱で靴へ履き替える。
校庭へ駆け足で向かった。
児童が群がる。
相田
《元気がよろしい》
中山
《ですな…》
相田
《やべっ…》
中山
《どした?》
大越
「水筒教室に忘れた」
中山
「取ってきてこようか?」
大越
「いい」
――ピィィー
宇佐美先生
「はい。集合!!」
少年と中山はそっと宇佐美へ鋭い視線を向けた。
宇佐美先生
「小さく前にならえ」
整列する。
相田
《逆らいたくなるな》
中山
《目立つことはしないが平和》
宇佐美先生の視線を感じた。
相田
《気のせいか…?いま見られた気がするんだが》
中山
《……意識しすぎ》
宇佐美先生がゆっくりこちらへ歩いてくる。
少年の前で立ち止まる。
息が止まる。
体を硬直させる。
宇佐美先生
「大丈夫?」
直樹
〈……鉄の匂いがする〉
相田
《は!?》
宇佐美先生
《…なにを企んでいる》
「顔色悪いよ…保健室行く?」
少年は首を激しく振る。
宇佐美先生
「無理はするな」
校庭の端から誰かが近づいてくる。
声が出せない。
視線を向けるたくも動いたらバレる。
直樹
〈王子様!〉
天使は宇佐美先生へ指を差す。
王子こと風来人は少年の隣で立ち止まる。
ライダー姿で腕を組む。
風来人
『この子になんの用?』
宇佐美先生の視線は風来人を見ていた。
少年は呼吸が乱れる。
宇佐美先生は舌打ちして最前列へ向かって歩いて行った。
少年は力が抜けるように膝から崩れた。
意識が朦朧とする。
相田
《なにかされたのか?…それとも》
気持ち悪さと共に、そのまま地面へ倒れた。
◇◆◇
白ぽつ天井。
視界に人影。
???
『大丈夫?』
相田
《王子…》
瞳を閉じた。
相田
《王子!?》
勢いよく起き上がる。
風来人
『わあ!びっくりした〜!』
大越
「なんでまだ居るの?」
風来人
『なんでって…心配だったから』
中山
「私が呼んだんですよ」
中山が顔を覗き込んできた。
少年は思いっきり中山の頭を叩いた。
中山
「痛っ」
大越
「余計なことしやがって」
「……俺なにかされたのか?」
風来人
『見てた感じ、わからなかった』
『緊張によるものならいいけどね……』
相田
「あっ…」
《直樹…鉄の匂いってどういうことだ…って居ない》
「いっ…居ないだと!?」
中山
「え…誰が?」
風来人
『ん?天使ちゃんなら……あそこに居るよ』
保健室の窓越しに、校庭の方を睨めっこしていた。
Next Time Hint
――天使の視線。
観測者
[最後まで、読んで頂き、ありがとうございます。]




