xX-15 晩酌。
観測者
[天使可愛い…]
――ジャー カチャカチャ…
天使は翼を羽ばたかせキッチンへ向かう。
少佐は天使の後を追う。
食器を洗う真彩の姿。
直樹
〈ママ…機嫌悪い?〉
天使は不思議そうに首を傾げた。
ラファルサ少佐
《そう…なのか?》
キッチンの入口からじっと真彩を見つめる。
真彩は不快そうな表情でこちらを見た。
視線が重なる。
水の流れる音が静寂を際立たせる。
数秒後、流し台の流水を止める。
そっと、視線を外された。
真彩は冷蔵庫を開け麦茶を取り出した。
コップへ注ぐ。
真彩
「お待たせしました。麦茶で御座います」
小さくお辞儀しながら麦茶を差し出された。
ラファルサ少佐
《……ん?》
少佐は眉をひそめる。
天使は再び首を傾げた。
直樹
〈ママ…変〉
ラファルサ少佐
《なんだろな》
ふっ…と口元が緩んだ。
真彩
《え…笑った》
冷たい麦茶を受け取る。
遠慮なく少佐は一気に飲み干した。
直樹
〈あっ駄目だよ〜腰に手を当てて飲まないと〉
真彩
《いい飲みっぷり…》
ラファルサ少佐
「ごちそうさま」
コップを返す。
静かに真彩は受け取る。
真彩
「ラファルサ少佐…」
少し上目遣いでモジモジしている。
ラファルサ
「ん?」
真彩
「失礼な態度、取り続けてすみませんでした」
真彩は深々と頭を下げた。
少佐はきょとんと棒立ち。
ラファルサ少佐
《え…?》
直樹
〈なんで謝ってるのかな?〉
ラファルサ少佐
《さぁ…》
「変なやつ」
石鹸の香りとかけ離れた台詞を置いて立ち去る。
ソファーへ腰掛ける。
直樹
〈ねぇねぇ!いつ寝るの?〉
天使はテレビの前に立ちはだかる。
ラファルサ少佐
《さぁ…》
直樹
〈ねーえ!一緒に寝よ〜〉
天使はぴょんぴょん跳ねる。
ラファルサ少佐
《構わないが》
天使へ視線を向ける。
小さく口角を上げた。
直樹
〈やったー!〉
真彩がゆっくりとソファーへ歩み寄ってきた。
隣に座る。
少佐と真彩はテレビを観ている。
そんな二人の姿をまじまじと見つめる天使。
真彩
《…》
《この有名人老けたな…》
???
「うわ…老けたな」
二人は声の方へ視線を向けた。
真彩
《大地か…》
大地
《おっ!》
「知ってんの?」
少佐は頷く。
大地は笑む。
真彩
《え……》
少佐が微笑む。
真彩
《え……》
中佐は真彩へ厳しい視線を向ける。
大地
「真彩さっきの…わかってる?」
真彩
「…はい」
大地
「ん。風呂ってくる」
真彩
「わかった」
真彩は俯いた。
大地
「後ほど」
小さくお辞儀し浴室へ向かった。
直樹
〈パパ怒ってた…どうしたんだろう〉
少佐は視線をテレビへ戻した。
ラファルサ少佐
《喧嘩でもしたんじゃないか?》
唐突に癖のあるCM。
少佐と真彩は同時に笑った。
天使も思わず笑う。
真彩
「今のズルいって!」
ラファルサ少佐
「それな!」
《あ…》
顔が熱い。
直樹
〈ん?〉
Dovira
【今、私。処理が追いつかなくてショートしそう。】
真彩
《どうした。大丈夫か?》
Dovira
【真彩と少佐。おアツすぎです。】
真彩
「ドヴィラ…いい加減にしろ…」
ラファルサ
「Doviraがどうかしたか」
Dovira
【なっ…。何してるんです?!】
真彩
「ドヴィラが混ざりたいみたいよ」
ラファルサ
「ほう。残念だったな」
Dovira
【マヤ!私にわざわざ。そんな!…恥ずかしい。】
真彩
「残念だったな」
ラファルサ少佐
「他に何か言ってるか?」
真彩
「照れまくってます」
真彩
《懲りたか?》
Dovira
【いえ。寧ろ栄養です!】
ラファルサ少佐
「Dovira」
Dovira
【はい!何でしょうか少佐!】
真彩
「はい!何でしょうか少佐!」
ラファルサ少佐
「こいつのこと頼んだぞ」
Dovira
【もちろん!任せてください!】
真彩
「もちろん!任せてください!」
少佐は微笑みながら体を寄せる。
そっと真彩の首の後ろを撫でた。
真彩の耳が赤くなる。
Dovira
【きゃああああ~!!】
真彩
《うるさい!うるさい!》
《いい加減にしろ》
「急に何です?」
また、少佐はきょとんとしている。
ラファルサ少佐
「知らないのか?チップが入ってる場所」
真彩
「…教えてくれなかったの誰ですか?」
視線を逸らされた。
真彩
「首の後ろにドヴィラが…」
真彩は首の後ろを触れた。
Dovira
【くすぐったいですっ!】
真彩
「え…くすぐったい??!」
ラファルサ少佐
「ほう。感覚が…感じるのか?」
《それは興味深い》
身を更に寄せた。
真彩
「近いっ。触んな」
真彩は離れようとする。
真彩
「感覚あるわけ無いだろ。勝手に言ってるだけだ」
ラファルサ少佐
「行くなよ」
瞬時に手首を掴んでしまった。
真彩
「は?!」
ラファルサ少佐
《あ…》
Dovira
【マヤーーーー!!】
真彩
《うるさい!》
???
「何やってんの?」
背後から中佐の声。
真彩は手を振り払い離れた。
真彩
「晩酌の準備します」
真彩はキッチンへ向かった。
少佐は口が半開きで硬直した。
中佐の冷たい視線に唾を呑んだ。
その二人を他所に、真彩は無言でテーブルにつまみと缶酎ハイなどを並べる。
真彩
「ご用意できました。ごゆっくりと…」
《さっさと風呂は入ろっと》
真彩は別室へ去って行った。
中佐の視線が和らいだ。
小さく息をつく。
大地
「飲みましょうか」
ラファルサ少佐
「あ…ああ」
ソファーから立ち上がる。
ラファルサ少佐
《アルコール…か。何年ぶりだ。飲めるのか俺…》
テーブルの前で固まる。
天使がテーブルの上に正座していた。
大地
「もしかして…アルコール駄目だった?」
中佐と視線が合う。
椅子に座るか焦りだす。
ラファルサ
「いや…大丈夫だ」
《直樹。そこは…》
直樹
〈ん?〉
どいてくれない。
仕方なく椅子に座る。
大地
「度数が低いのからでいいですよ」
目の前にビール缶。
そっと手に取る。
ラファルサ少佐
《ビールか…久しいな…》
《…直樹。大人の邪魔をしない》
天使は翼を羽ばたかせ少佐の肩の方へ降り立つ。
大地
「乾杯しましょう」
ラファルサ少佐
「ああ」
パカッ シュワワ…
大地
「乾杯!」
ラファルサ少佐
《………こういう日が来るとは》
少佐は微笑む。
缶同士、ぶつける。
コロンッ…
二人は勢いで、飲む。
グビッ
ラファルサ少佐
《…っ…。この味、懐かしすぎる》
渋い顔。
直樹
〈お酒って美味しいの?〉
ラファルサ少佐
《大人の味って感じだ》
大地
「くっ…うーっ!うめ~!」
中佐は少佐を見つめる。
ラファルサ少佐
《見られている》
大地
「お口に合いました?」
少佐は小さく頷く。
ラファルサ少佐
「酒に強そうだな」
大地
「俺?」
中佐の頬が赤い。
楽しそうに微笑んでいる。
大地
「どうかな?普通だと思うけど」
ビール缶を傾ける。
いい飲みっぷり。
大地
「質問していい?」
ラファルサ少佐
《そう来たか……》
《…覚悟はしていた》
「…答えられる事なら……」
大地
「何の仕事してんの?」
ラファルサ少佐
「それは答えられない」
《からかいやがって…》
大地
「職種は?」
ラファルサ
「……技術部…それ以上は答えられない」
《戦術まで言ったら、厄介事になる…間違いない》
中佐は頷いた。
大地
「真彩とどういう関係?」
ラファルサ
「部下だ」
中佐は不敵に微笑む。
大地
「なんでここにいんの?」
ラファルサ
《南戸大佐とは言えない…》
「上から休暇を取らされた」
大地
「ふーん。なんでうちなの?」
中佐はニヤニヤしている。
ラファルサ
「上からの命令だ」
《拷問だろ……》
大地
「ふーん」
中佐はつまみを食べつつ、少佐をじっと見つめる。
ラファルサ少佐
《あれは疑いの目だな》
直樹
〈ねぇねぇ、なんの遊び?〉
ラファルサ少佐
《抜き打ちテスト》
大地
「……さっきのなんだったの」
ラファルサ少佐
「さっきのとは…」
大地
「真彩になにしてたの?」
ラファルサ少佐
「なにもしていない」
全身から変な汗が出る。
直樹
〈なにしてたの?〉
ラファルサ少佐
《お前もか…》
《疑われると思っていた》
大地
「セクハラしてたわけ」
ラファルサ少佐
「は?」
一瞬、固まる。
ぱちくりと瞬きをする。
ラファルサ少佐
《相棒。セクハラとはなんだ》
直樹
〈相棒って?僕は直樹だよ〉
〈…セクハラってなに?〉
ラファルサ少佐
《…相棒?》
頭がぼーとする。
ラファルサ少佐
《…あ。居ないんだった》
直樹
〈ラファにぃ?〉
大地
「その様子、セクハラ知らないとか?」
小さく鼻で笑われた。
少佐は肩を跳ねらせる。
そっと虚ろな目で視線を合わせた。
ラファルサ
「知らない」
大地
「ふーん…」
中佐は缶酎ハイを傾ける。
大地
「触っただろ、真彩のこと」
ラファルサ少佐
「ああ」
《確かに触った。嘘ではない》
大地
「何で触った?」
ラファルサ
「……え」
《何で触ったか…Doviraを触っただが…》
本気で悩んだ。
天使は少佐の顔の前で手を振った。
フローラルな香りが漂ってきた。
真彩
「大地。少佐をいじめるな」
中佐と天使の二つ視線が真彩へ向く。
大地
「おかえり」
中佐がこちらを見てくる。
大地
「そうだよ。なんで、お前少佐って呼ばれてるの?」
真彩
「少佐は少佐だろ。な?」
ラファルサ少佐
「あ…ああ」
大地
「………真彩?」
真彩
「ごめん」
大地
「うちの嫁さん、口が悪くてすみません」
ラファルサ少佐
「いや…気にしていない」
真彩
「え…」
真彩と視線が重なる。
ラファルサ少佐
《あぁ…なるほど》
《だから、風呂でてから変なのか》
「急に固くなられると…。お前らしくないだろう」
「だから、変なやつになるな」
少佐は真彩へ爽やかに微笑む。
真彩は少し引いた。
缶に口つけ固まる中佐。
ラファルサ少佐
《…え》
虚ろな目は視線を逸らした。
少佐はビールを一気飲みした。
ラファルサ少佐
「ぷふぅ…」
《面倒臭い…》
真彩
「顔真っ赤じゃん。飲ませすぎ」
大地
「いや…まだ1缶だが」
ラファルサ少佐
「お…俺ここにいていいんすか?」
「直樹からはお兄ちゃんって…言われるし…」
「どうしたらいいのか…」
「俺の居場所わからねーよ」
「ナパ…相棒もいないし」
「俺寂しい……」
夫婦はぽかーん。
大地
「酔い過ぎ。真彩水っ!」
真彩
「あ…ああ。はい。待ってて」
ラファルサ少佐
「いいなぁ…」
少佐はテーブルに伏せる。
ラファルサ少佐
「Naparnik…」
真彩は麦茶を差し出す。
少佐の反応がない。
――コトッ
麦茶をテーブルに置く。
真彩に肩を叩かれる。
真彩
「麦茶飲んで」
少佐はウトウトしながら、そっとコップへ手を伸ばす。
力なく寝息を立てた。
天使は少佐の頭を優しく撫でる。
直樹
〈風邪引いちゃうよ?〉
ふわっと翼を広げ、少佐の背後から覆いかぶさった。
Next Time Hint
――体育教師。
観測者
[最後まで、読んで頂き、ありがとうございます。]




