xX-10 体育教師。
観測者
[給食の時間、いまはどうなんでしょうか?]
[黙食おわりましたか?]
【20xx年 5月26日 午前9時22分】
チュン チュンチュン…
――トンッ ザッザザッ
ジュァー
美味しそうな香りがしてくる。
少年は静かに布団から身を起こす。
直樹
〈おはよう〉
相田(直樹の姿)
「おはよう…」
天使が隣で微笑む。
大地
「起きたか。おはよう」
「昨日は遅かったからな…遅刻で学校へ連絡してある」
コトッとダイニングテーブルに朝食を並べる。
「朝ごはんできたぞ」
少年はゆっくり起き上がる。
眠たそうに目を擦り、椅子に座った。
相田
《う…ウマそう》
直樹
〈パパのご飯世界一美味しいよ〉
相田
《パパのってママのは…》
直樹
〈ん?美味しいよ〉
相田
《……複雑》
少年はポケーとしている。
大地
「直樹。食べる前に顔洗ってこい」
相田(直樹の姿)
「はーい」
椅子から降りる。
洗面所へ向かった。
鏡に映る少年の姿。
マジマジと顔を見る。
確認するように頬を触る。
何事もなかったかのように水で顔を洗った。
相田
《かわいい顔だな、お前》
直樹
〈そう?普通だと思うけどな〉
洗面所から出てきた。
大地
「今日は牛乳か?それとも麦茶か?」
相田(直樹の姿)
「麦茶」
大地
「ん」
コップに注がれる。
大地
「冷める前に食べろ〜」
父親は隣の席に座った。
少年も席につく。
大地
「では…せーの」
直樹
〈いただきますを同時に言うんだよ。せーの〉
相田
《えっ!》
「「いただきます!」」
直樹
〈よくできました!〉
天使は拍手をした。
少年の姿の相田は頬を熱くする。
相田
《はずいな…》
半熟の目玉焼き。
ウィンナーに市販のポテトサラダ。
豆腐の味噌汁。
白く輝く白米。
ぐぅ〜
お腹が鳴った。
相田
《そう言えばドタバタしていて、なにも食ってなかった》
箸を持った瞬間、勢い良く食べ始めた。
大地
「ゆっくり食べな」
「…まぁ、無理もないか……」
「こぼすなよ」
相田(直樹の姿)
「うんっ」
「んっ!」
詰まらせる。
大地
「ほらな」
「お茶飲め」
少年は麦茶をイッキ飲みした。
相田(直樹の姿)
「ぷはぁ〜」
大地
「おっさんか」
的確にツッコまれた。
相田
《おっさんで悪かったな》
直樹
〈おじさんなの?〉
相田
《お前から見たらおじさんだろうな》
大地
「食べ終わったら、着替えて学校の準備しろ」
「送る」
相田(直樹の姿)
「わかった」
直樹
〈流しに片付けてね〉
少年は食器を台所へ運ぶ。
流しの桶へ入れた。
大地
「口に黄身が付いてるぞ」
相田
《よく見てんなあいつ…》
少年はティッシュで口を拭った。
大地
「あっ!そう言えば」
「昨日ズボンに保冷剤が入っていたが…あれは学校のか?」
相田(直樹の姿)
「保健室の…」
大地は首を傾げる。
大地
「怪我でもしたのか?」
相田(直樹の姿)
「頭打っただけ」
大地
「そう…か」
「返しておけよ」
そっと保冷剤を手渡された。
相田(直樹の姿)
「わかった」
少年は直樹の寝室へ向かう。
相田
《何を準備すればいいんだ?》
直樹
〈ランドセルの中…空っぽだ……〉
相田
《急いででてきたからな教科書入れ忘れたわ》
直樹
〈なら、大丈夫じゃないかな。体操着は?〉
相田
《知らん…どこにある》
直樹
〈えっとね…あったこれ!予備だよ〉
相田
《待った…今日体育あるのってことか?》
直樹
〈だって運動会近いもん〉
相田
《うわぁ…懐かしいな!くそっ》
少年は小さく口角を上げた。
直樹
〈……〉
大地
「おーい。支度できたか?」
「って…早く着替えろ」
相田(直樹の姿)
「あっ…」
少年は頭を掻いた。
衣装ケースから適当に着替えた。
大地
「ほれ、行くぞ」
大地は先に玄関へ向かった。
相田(直樹の姿)
「うん。あっ待ってよ!」
靴を履き、玄関の扉が開く。
少し高い位置から陽射しが二人を注ぐ。
5月と思えない熱射だ。
大地
「今日は暑くなりそうだな…」
「あっ!水筒!」
室内へ戻る。
大地
「直樹〜!氷いるか?」
台所から大声で聞かれた。
相田(直樹の姿)
「いる〜!」
直樹
〈問題なく僕を演じられてるね。よかった〉
相田
《ありがとよ…若干複雑だがな…》
水筒を持って玄関へ戻ってきた。
大地
「はい」
相田(直樹の姿)
「パパありがとう」
大地
「ん」
「行こう!」
――チリンッ
牛鈴の音。
大地は玄関の鍵を閉めた。
二人は集合住宅の通路を歩く。
相田
《うわっ!めちゃくちゃ景色いいなここ》
直樹
〈でしょ!自慢の場所なんだよ〉
天使は嬉しそうに微笑む。
[ドアが開きます。]
――バッコン
エレベーターの中。
大地
「直樹」
相田(直樹の姿)
「なに?」
大地
「パパなるべく早く帰ってるくけど…」
「なにかあったら…いやなくてもいい、携帯にいつでも電話していいからな?」
相田(直樹の姿)
「…わかった」
[ドアが開きます。]
――バッコン
◇◆◇
【20xx年 5月26日 午前9時45分】
小学校。
後頭部がむず痒くなり触れる。
相田(直樹の姿)
「痛っ」
瘤に触れ、小さく呟く。
昇降口下駄箱前。
大地
「パパはここまでで大丈夫だよな?」
相田(直樹の姿)
「たぶん…」
《知らんけど…》
直樹
〈大丈夫だよ。きっと…〉
不安になった。
大地
「教室まで行ったほうがいいか?」
相田(直樹の姿)
「う…うん…」
大地
「仕方ないな〜」
その声はなんか嬉しそうだった。
相田
《なに?…え……》
直樹
〈あははっ!パパ寂しかったんだよぉ〉
相田
《そういうこと?面倒くさいやつ》
上履きへ履き替え、階段を上がる。
昨日の出来事を鮮明に思い出す。
――「安全は保証する。頼む」
相田
《汐川…》
大地
「授業中か…どうする?」
少年の反応がない。
大地
「おいっ」
首を傾げる。
大地
「直樹〜」
直樹
〈呼ばれてるよ?〉
相田(直樹の姿)
「あっ…なっなに?」
大地へ視線を向ける。
大地
「どうした?」
相田(直樹の姿)
「眠かっただけ」
大地は小さく息をついた。
大地
「……無理すんだよ」
少年の肩を優しく手を添えた。
――コンッココンッ
大地は教室のドアを叩く。
教室の児童は一斉に音の方へ振り向いた。
北野先生(担任)
「どうぞ」
スライドドアを開く。
大地
「おはようございます。授業中すみません」
北野先生
「おはようございます」
「大越くん!おはよう!」
相田(直樹の姿)※校内では 大越 と表記します。
「お…おはようございます」
ポケットの保冷剤を握る。
担任から視線を逸らす。
北野先生
「こちらでお預かり致します」
大地
「よろしくお願いします」
北野先生
「さっ!大越くん机に」
少年は不安そうに父親へ視線を向ける。
優しい表情で見つめる大地。
息子へ小さく手を振って教室を出て行った。
静かに椅子に座る。
隣の男子が身を乗り出してきた。
男子児童
「直樹っおはよっ」
少年は視線を向ける。
大越
「おはよう」
――キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る。
北野先生
「はーい。終わります」
日直
「起立!」
慌てて立ち上がる。
「礼!」
お辞儀した。
相田
《懐っ!》
直樹
〈次、体育だよ〉
相田
《は?いきなり!?》
直樹
〈ソーラン節頑張ってね!〉
相田
《随分と懐かしいものを…》
そんな脳内会話をしているところへ一人の女子児童が近づいてきた。
女子児童
「ねぇ直樹くん」
直樹
〈藤田さんだよ〉
大越
「ん?なに?」
藤田
「ちょっと来て」
大越
「えっ体育ぅ!」
腕を掴まれ廊下へ連れ出された。
藤田
「ねぇ…」
顔が近づいてきた。
耳元で囁かれる。
藤田
「おばけに取り憑かれてるよ…」
大越
「………え?」
藤田さんは少年の背後へ指を差した。
直樹
〈僕?〉
天使は自分へ指を差した。
藤田さんは頷く。
相田
《こえーよ!こいつ見えてんの?》
大越
「姿見えるの?」
小声で呟いた。
藤田さんは頷く。
藤田
「私ね、小さい頃からゆうれいが見えるの」
大越
「どんな姿してる?」
藤田
「ゆうれい…羽根が見えるから天使?かな?」
「悪い霊じゃないから安心していいよ」
大越
「そう…なんだ…ならいいか」
少年の額に汗が滲む。
大越
「藤田さん…」
藤田
「藤田…なんだけど」
大越
「え…ご…ええ!」
《おまっ!間違えてるじゃね―か!》
直樹
〈藤田さんだった!またやっちゃった!ハハハ…〉
相田
《ハハハ!じゃねーし》
大越
「体育。体操着に着替えないと…」
藤田
「私見学だから」
大越
「それ先に言って!」
慌てて教室へ戻った。
男子児童たち
「直樹なにやってたんだよ」
「置いてっちゃうもんね〜」
「女子に絡まれてやんの〜」
わいわい騒ぐ。
少年は急いで体操着へ着替えた。
◇◆◇
児童たち
「宇佐美先生〜!」
相田
《え…あいつ……》
直樹
〈……宇佐美先生は…体育の先生だよ〉
相田
《男…だな……》
直樹
〈うん……そうだよ〉
少年と天使は真顔になった。
――「なにやってるんだよ!宇佐美!!」
自害したあの怪人が言っていた名だった。
相田
《じょ…冗談だよな?》
直樹
〈……普通にしてよう?大丈夫だよ…きっと〉
二人は警戒した。
――ピピィー
北野先生
「はい、並んで〜」
宇佐美先生
「整列!」
「もう少しで本番だ!パートごとに分けて全体で揃えていくぞ!」
「各自位置についけ〜」
大声で威勢がいい。
相田
《悪いやつに全然見えない》
直樹
〈確かに…〉
〈ソーラン節知ってる?〉
相田
《知ってる…ガキん時散々やったからな》
曲が流れ出す。
リズムに合わせて踊りだす。
直樹
〈わー!すごーい!完璧!!〉
◇◆◇
大越
「あれ?給食袋がない」
「忘れたー…」
《知らね》
直樹
〈ごめんね〉
相田
《なんで謝るんだよ》
直樹
〈え…だって〉
藤田
「大越くん」
大越
「なに?」
藤田
「一緒に食べよう」
大越
「え…」
周りを見渡す。
男子児童からジロジロ見られる。
相田
《羨ましいか!へっ!》
大越
「いいよ」
藤田
「机くっつけよ」
相田
《笑顔…可愛いな……》
大越
「うん」
見惚れながら頷いた。
二人は各自机を持ってきた。
窓際へ二つの机をくっつける。
藤田
「ねえ。今日一緒に帰ろう?」
大越
「え…」
「いいけど…どうしたの?」
藤田
「なーいしょ」
「ね?」
天使へウインクした。
直樹
〈え…!!〉
給食で賑わう中、廊下から不穏な視線が一つ。
立ち去る影。
Next Time Hint
――放課後。
観測者
[宇佐美先生…。]
[藤田さん…。]




