恋せよ、姉ちゃん③
「この料理うまいです」
「神原さん、口についてます」
ビーフシチューを口のはじにつけている神原にティッシュを差し出す。
これだけ喜んでくれれば作り甲斐もあるってもんだ。
「ありがとう」
姉さんはニコッと笑った。
実は料理を全て次男が作っていることを叶夢は知らないのだ。
目で必死に神原に「ダメだ」と伝えると、意図が伝わったのか「工藤さんって料理も出来てすごいです」と神原が話すと、姉さんは嬉しそうに笑った。
そう言えば、崎矢さんが海外に行くと知ってから、笑った顔を見るのは久しぶりな気がする。
それだけ姉にとってショックなことだったのだろう。
神原を家に連れてきたのも気分が変わって良かったのかもしれない。
「ただいまー」
次男が叶夢に言われて、コンビニまでアイスを買って帰ると、リビングから笑い声が聞こえる。
「楽しそうだよ」
歩夢が玄関までくると、アイスを受け取る。
「姉ちゃんが元気になって良かった」
「ほんとにね。一時はどうなるかと思ったもんね」
そんなことを話していると、バンとリビングのドアが開いた。
「次男、帰ったなら早く冷蔵庫に入れなさい!アイス溶けちゃうでしょ!」
叶夢の声に、次男は慌ててリビングに入った。
「ハハハ」
「ハハハ、ウケる」
アイスを食べながら、ふいにお笑い番組をつけると、同じところで笑っている。
笑いのツボまで合うらしい。
「二人めちゃくちゃ気が合ってるね」
「そうかしら?」
「占ってみるのはどう?」
歩夢に言われて、生年月日や血液型を聞いて驚いた。
「嘘でしょ?」
「マジですか!?」
2人の声がピタッとあった。
「そんな偶然あるんですね」
神原と叶夢の誕生日と血液型が同じだったのだ。
次男の中で、あの時のアンケートが思い出された。
Q1 運命だと思った理由は?
・旅行先で偶然出会った。
・誕生日、血液型が同じだった。
・好きな食べ物が同じで、笑いのツボも同じだった。
(実は運命の相手は、崎矢さんじゃなくて神原さん・・・?)
まだ姉を結婚させるチャンスはあるようだ。
次男の心の中でラッパの音が響いた。
◆◇◆
「で、今は神原さんが候補になっているというわけだな?」
この喜ばしい状況を早速浩太に大学のカフェテリアで報告した。
「そうなんだよ。あの後も駅まで神原さんを送るって姉ちゃんついていったし」
「それは相当脈ありだな」
「考えて見れば、姉ちゃんって彼氏いないし、恋愛経験ないだろ?少し優しくされたりすると、すぐ惚れちゃうんだと思う」
「それはそれで心配だな」
「まぁそれでも今まで彼氏出来なかったんだから大丈夫っしょ」
これも美園ちゃんとの未来のためだ。
もちろんそもそも美園ちゃんと付き合わなければ意味ないのだが、付き合っても姉が家にいれば未来はないのだからまずは障害を片付けておくべきだろう。
美園ちゃんとの未来を想像すると、頬がゆるんで仕方ない。
「いいよな、お前も、姉ちゃんも幸せそうでさ・・・」
浩太が珍しく深くため息をついた。
「どうしたんだよ?」
「実は、彼女とな」
「別れたのか!?」
つい声が大きくなって、浩太に「大きい声をだすな」と注意された。
「別れたんじゃなくて、ケンカしてるだけ」
「えー、この前までめちゃくちゃ仲良かったじゃん」
「・・女の気持ちわかんねぇよ」
そう言って浩太は頭を抱えた。
自分も女性の気持ちを察せれるタイプではないので、浩太の気持ちはわかる。
「それで一つ問題があるんだよ」
「問題?」
「実は2週間後に付き合った記念日で旅行を予定してたんだよ」
「へー、そこで仲直りしたらいいじゃないか」
「それが彼女、その日に海外旅行を友達と約束してたんだよ。俺がサプライズで旅行用意してるっていったら事前に言えよってめちゃくちゃ怒られてさ・・・だって去年普通に記念日のデートしたらサプライズくらいしてよって言われたんだぜ?だから準備したのによ」
「じゃあその旅行は?」
「全部キャンセルするしかねぇよ・・・」
浩太は頭を抱えて、そのまま机に突っ伏した。
「どこに行く予定だったんだよ?」
「京都」
「へぇ~、京都いいなぁ」
そういうと、浩太がガバっと顔を上げた。
「じゃあ、お前行くか?」
「俺!?」
「どうせなら一緒に京都旅行行こうぜ」
「う~ん・・そうだな」
今から編集部のアルバイトを休めるだろうか。
姉の眉間に皺がよった顔が浮かぶ。
「京都旅行に行くの?」
可愛い声が後ろから聞こえてくる。
振り返ると、美園が立っていた。
白のブラウスにチェックのタイトなスカート。
今日も可愛くて良い匂いがする。
「行けたらいいなって話してたんだけど」
「なぁ、蛯名もいかないか?」
浩太がそういうと、美園は「いいの?」と前向きな返事をしてきた。
こうなったら俺の答えは決まっている。
「一緒に行こう!」




