恋せよ、姉ちゃん②
そして週末《作戦決行日》を迎えた。
「じゃあ兄ちゃんは姉ちゃんをショッピングモールへ誘って」
歩夢に声かけると、歩夢はぶんぶんと首を横に振った。
その度に歩夢の服のフードについたうさ耳が大きく揺れる。
「えぇ!やだよ。絶対行かないって言われるし、暴れられたら困るよ」
半泣きの歩夢に次男次男はニカッと笑った。
「大丈夫」
次男は、歩夢に一枚の紙を差し出した。
崎矢とはショッピングモールで待ち合わせをした。
そこのカフェでお茶をして、相談にのってもらう予定になっている。
次男が入口に立っていると、人の目を引く美男美女がやってきた。
叶夢と歩夢だ。
どうやら上手く誘えたらしい。
(スペシャルショートケーキのクーポンが効いたな)
叶夢はケーキに目がない。
特にショートケーキが大好きで、新しいケーキ屋さんやカフェがオープンする度に食べに行くくらいだ。
場合によっては、買ってこいと並びに行かされることもあるが。
今回はショッピングモール2階のカフェのスペシャルショートケーキのクーポンを渡しておいたのだ。
浩太の姉がそこでアルバイトをしていて、譲ってもらったのだ。
叶夢と歩夢を見送ると、その後すぐ崎矢がやってきた。
「こんにちは」
「どうも。この前はありがとうね」
そう言いながら、カフェを目指す。
カフェに近づくと、少し並んでいるようだ。
その中に叶夢と歩夢もいる。
「あ~!姉ちゃん!偶然だなあ~」
次男がそういうと、「ほんとだ、次男じゃないか~。偶然だなあ」と歩夢も答える。
ここまでは作戦通りだ。
「工藤さん、こんにちは」
「崎矢さん、この間はありがとうございました」
「いえいえ、あれくらいいつでも頼んでください」
並びながら二人で話して盛り上がっている。
歩夢と目を合わせ「いい感じ」と頷きあった。
「あ、俺、お腹が痛くなってきました」
次男が白々しい演技をすると、「大丈夫?」と崎矢は心配している。
どうやら演技だとバレてはいない。
「今日せっかく来ていただいたんですけど、帰ってもいいですか?」
「次男!崎矢さんと約束してたのに失礼でしょ!」
叶夢の厳しい声にブルッと体が震える。
それがよりしんどそうに見えたのか崎矢は帰るように言ってくれた。
「いいですよ、体調不良は仕方ない事ですから。また今度ということで」
次男が歩夢にアイコンタクトを送る。
「あ、俺も今日は予定があるんだった」
歩夢がイケメンモードでごめんと叶夢に手を合わせた。
「あんた・・・!」
叶夢の血管がブチギレそうになっている。
しかしながら、崎矢の前なので何とか収めたようで「次からは気を付けるのよ」と言った。
「今晩のご飯予約しちゃったんで、今からだとキャンセル料かかりますし、2人で行ってきてください。姉を助けてくださったみたいですし、ご飯代はこちらで出すので」
「そんな悪いよ、次男君におごってもらうわけにはいかないよ。どうですか?工藤さん、僕が奢るので、一緒に行きませんか?」
崎矢に真っすぐ見つめられて、頬を少し赤らめながら、「喜んで」といつもより小さな声で叶夢は返事をした。
◇◆◇
「ねぇ、つーちゃん寒いんだけど」
次男と歩夢が店の外から二人を見守っている。
「もう少し我慢してよ、この店人気で予約なしでは入れないんだよ」
「じゃあ帰ろうよ」
「気にならないの?どうなるか」
「気になるけどぉ」
しばらく見守っていたが、レストランの中の二人はワインで乾杯をし、楽しそうに話しながら食事を楽しんでいる。
「いい雰囲気だね」
「うん、作戦成功かな」
「そうだね。これで雰囲気わかったし、もう風邪ひきそうだから、つーちゃん帰ろう」
歩夢に言われて、引きずられるようにして仕方なく家に帰った。
その日は22時頃に叶夢は帰ってきて、今日のことを怒られるかと思ったら、何も言わず家のカギを指にひっかけてくるくる回しながら上機嫌で自室に入っていった。
「上手くいったぽいよね。つーちゃんの作戦成功だね」
「思った通りだよ」
どや顔で次男が歩夢を見ると、「とはいえ、このまま上手くいくとは限らないけどね」と歩夢が言った。
そしてそれは現実になった。
「え・・・嘘でしょ?」
崎矢からメッセージが届き開いてみると、“しばらく海外で取材に出ることになりました。数か月か半年かまだわかりませんが、また帰る時は連絡します”と書いてある。
「海外って・・・海外だよね・・・」
次男はその場にしゃがみこんだ。
(俺の明るい未来が…!)
そして叶夢もその日にそのことが原因なのか、珍しく外で飲んで酔っ払って帰ってきた。
「次男ぉぉ~、歩夢ぅうう。まだまだ飲むぞ~」
その日の姉はゴリラじゃなく、失恋した女の子に見えて、なんだか断ることが出来ず、2人して朝まで付き合うことになった。
◇◆◇
捨てる神あれば拾う神あり。
そんな言葉があるが、そういうこともあるらしい。
「ねぇ、次男くん。今度お家に遊びに行ってもいい?」
バイト終わりに神原に声をかけられた。
「あー、そうですね」
家に来てもらうのは構わないのだが、最近の姉は荒れていてあまり刺激したくない。
崎矢のことが原因だと思うと、罪悪感もある。
「前に出してくれた料理が美味しかったからさ、作り方教えてほしくて」
「どうして僕が作ったとわかったんですか?」
確かあの日は姉が調子よく、私が作ったと言っていたはずだ。
「だって工藤さんに煮物作って落とし蓋をしたって言ったら、豚はやっぱり落とし豚よねって言い出したんだ。落とし蓋も知らない人があんな手の込んだ料理無理だよ」
神原は鼻を人差し指で潰して豚の真似をしながら笑った。
「家で真似したけど、上手く作れなかったんだよ」
子犬のような瞳だこちらを見上げてくる。
「わかりました。じゃあ」
叶夢が仕事でいない日に来てもらうことになった。
そのはずだったのだがー
「次男」
叶夢の少し低い声が玄関に響く。
「えっと、おかえり」
「…この靴は誰の?」
叶夢が指差す先には神原のスニーカーがある。
「いやー神原さんが来てて」
「人が家に来る時は私の許可をとるように言ったわよね」
言われた記憶はないが、もはやそんなことはどうでもいい。
今は姉の機嫌をよくしなければ。
「本当は姉さんが帰るまでに帰ってもらう予定で、何度も帰るように言ったんだけど」
次男が帰るように遠回しに言っても帰らず、今はリビングで歩夢と映画を見ている。
「帰ってないけど?」
「帰るように話はしたんだけど・・なんというか・・・」
「・・・まぁいいわ」
そう言って叶夢はリビングの扉を開け、すぐに「ぜひ晩御飯食べて行って」と外面モードになっていた。
どうやら命は助かったようだ。
次男は腕まくりをすると、キッチンへ向かった。




