恋に不器用な女と片想い①
ソファーに座って桃子をみると、お酒に酔っているのか頬も赤く、少し目が赤く、うるんでいる。
「露天風呂、気持ち良かったですよ。桃子さんは入りました?」
こういう時さらっと下の名前で呼べる浩太はすごい。
「今から入ろうかなと思ってるんですが・・・」
なんとなく声に元気がない。
「どうかしました?」
次男が尋ねると、「大したことじゃないんですけど・・・」といってうつむいた。
「私って地味だと思うんです」
「え?」
想像と違う返答に驚きの声がでる。
「叶夢さんみたいに仕事バリバリできる美人ではないですし、美園ちゃんみたいにかわいくて若々しいわけでもなくて・・・仕事もミスはしないんですけど、企画を提案してもなんかパッとしないっていつも言われてしまって・・・」
「そんな、別に地味ってことは」
目立つタイプではないし、大人しいタイプではあると思うが、よく見ると丸い瞳に眺めのまつ毛で低めの身長も可愛らしい。
クラスにいたら上位には入る見た目だと思う。
そんな俺の答えも桃子には聞こえていないようで、さらに丸い瞳にうるうるとしていく。
「いや、いいんです。わかってるんです、地味だってことは。でもなんとか頑張ろうって思ってたんですけど、今日の旅行でよくわかりました・・・私って平凡で面白くない人間だって・・・さっき皆さんが送ってくださった写真を見返したら、これだけ写真撮ってるのに私が写っているのは2枚だけ。ほんとに地味で目立たない女なんですよ・・・」
写真は桃子は撮ってくれることが多かったので、そもそも写る機会も少なかったのだと思うが、それでも2枚は確かに少ない。
ただそれは地味というより運が悪いのではと思うが、本人はいたって真剣だ。
「ファッション誌の編集・・・向いてないのかな」
膝の上に置いている手を桃子はぎゅっと握りしめている。
「いいんじゃないですか?地味でも」
浩太がはっきりというと、「え?」という顔で桃子は顔を上げた。
「編集者の人の仕事ってどんなものか僕にはわからないですけど、読者のことはわかります。雑誌を読んでる人ってみんなが派手な生活を送っているわけじゃないですよね?むしろ地味で目立たない生活を送っている人がほとんどのはずなんです。そんな人が読む雑誌を派手で目立つ人ばかりで作ったら、読者の興味からそれた内容になるかもしれません。桃子さんみたいなタイプの方も編集に必要なんじゃないでしょうか?」
浩太がそういうと、桃子は目を潤ませながら浩太を見ている。
「さ、今日は楽しい旅行の日です。明日もありますし、嫌なことはすべて温泉に流してきちゃってください」
浩太に促されて「ありがとう」と桃子はいうと、お風呂に向かっていった。
「お前・・・返しうますぎじゃない?」
「そうか?思ったままいっただけだよ」
次男は、そう言って笑う浩太を少しかっこいいと思ってしまった。
地味で目立たない・・・
次男も写真を見返すと、4枚しか写っていない。
美園の可愛い笑顔と釣り合っているように見えない。
「つらいよなぁ」
次男がそうつぶやくが、次男を励ましてくれる声はなかった。
◇◆◇
その日の夜、集まって明日の計画を立てる予定だったが、「ごめん、叶夢さんも、桃子さんも寝ちゃって、私も眠いから…また明日ね」と美園から内線が入った。
あれだけ飲んだらそりゃ眠くもなるだろう。
美園のかわいい声が聞こえただけでも良しとしよう。
「じゃあ僕らも寝ますか」
神原の一言で、明日は嵐山の方面を回ることだけ決めて、布団に入った。
浩太の寝息がすぐ聞こえ始めた。
(美園ちゃんと旅行なんて夢みたいだな)
旅行での可愛らしい姿の美園が浮かんでは消えていく。
(いつか2人で…)
だんだん瞼が重くなって、次男もゆっくり眠りの中へ引きずり込まれていった。
翌朝はスマホが何度も震えて、次男は目が覚めた。
スマホを見ると、まだ5時だ。
表示には叶夢と出ている。
何度も何度もスタンプを押してきているようだ。
(なんだよ…)
次男が「何の用?」と送ると、「今すぐロビー」とだけ書かれている。
断る権利はないようだ。
次男は仕方なく、ロビーへ向かった。
叶夢がロビーをイライラしたように歩いている。
(まさかの不機嫌か)
次男が恐る恐る近づくと、「遅い!」と睨みつけてきた。
「なるべく早く来たよ」
「ふん、まぁいいわ。そんなことより教えてほしいのよ」
ドカッとロビーのソファーに座った。
そわそわしていて、いつもと様子が違う。
次男はため息をつくと、仕方なく正面に座った。
「何を教えてほしいの?」
「私…おかしいのよ。なんか気持ちが安定しないっていうか」
「はぁ?ホルモンのやつじゃないの?」
「バッ、バカ違うわよ!」
「じゃあどういう時に気持ちが落ち着かないの?」
「なんか神原に、綺麗ですね、叶夢さんって言われたでしょ?なんかあれ以来、調子悪いのよ、何度も何度もその時のことを思い出してしまって…」
「あのさ…それでなんでこんな気持ちになったんだろうとか聞くつもり?」
図星の顔をしている。
「早朝から勘弁してくれよ…」
次男は思わず頭を抱えた。
「何よ!次男にはわかるっていうの!?」
「高校生以上は大体わかるんじゃない?」
「どういうこと?」
「姉ちゃんは今までモテてきて、そういう気持ちを向けられることはあっても自分がそういう気持ちなったことなかったんだね」
次男は少し意地悪な気持ちになった。
日頃の仕返しだ。
「ようこそ、片想いの世界へ」
次男はそう言って、両手を広げた。




