恋に不器用な女と片想い②
「おはよう」
叶夢はこちらに目も合わせず、席についた。
朝食を食べるために叶夢は男子部屋に来たのだが、ぎこちない動きで大人しい。
(本当に恋愛経験なしなのか…もう28なのになぁ)
「おはようございます」
叶夢が神原に挨拶されて、「おはよ」と小さく呟いた。
次男は人生で初めて叶夢の大人しい姿をみた。
ただ、2人をその気にさえすれば大丈夫と思っていたが、叶夢のこの不器用すぎる様子を見るとそういうわけにはいかなさそうだ。
次男はため息をついた。
◇◆◇
朝食を食べると、旅館をチェックアウトして嵐山へ向かった。
嵐山で電車を降りると、まずは渡月橋へ向かった。
「すごーい!ここ見たかったんだよね」
嬉しそうに美園が駆け寄って、写真を撮っている。
「撮ってあげようか?」と次男がいうと、「一緒に写ろ?」と言って、自撮りをしようとする。
2人とも入ろうとするとかなり距離が近くなる。
美園からシャンプーの匂いがする。
自分の顔が赤くなっているのがわかって、なんだか恥ずかしい。
「撮ってあげるよ」
神原がすっと美園のスマホを取った。
「ありがとうございます」
美園は少し離れて嬉しそうにピースをしている。
次男はそれにならってピースをした。
この写真は後生大事にしようと次男は心の中で誓った。
桃子は元気がない。
「昨日飲みすぎました…」
「大丈夫ですか?」と浩太が水を買ってきてかいがいしく世話をしている。
「大丈夫?白井さん」
次男が浩太に尋ねると、「俺が面倒みとくし、お前は蛯名と楽しめよ」こっそりそう言われて、友情に感謝しつつ、桃子のことは任せることにした。
次は竹林の小径に向かった。
たくさんの竹がゆったり揺れている。
「これだけあると圧巻だね」
神原はそう言って、辺りを見回しながら歩いていく。
「姉ちゃん」
小さな声で声をかけると、叶夢が「なによ」と迷惑そうに返事をした。
「神原さんとしゃべりなよ」
神原は楽しそうに1人で歩いている。
2人で話せるチャンスなのに、姉もその後ろを1人で歩いて何をしているのか。
「…何を話していいかわからないのよ」
「何でもいいよ。美しい風景だねとかそんなんでもいいし」
「それはそうなんだけど…なんかなんか出来ないのよ」
次男はため息をつくと、「神原さーん、写真撮りましょ」と慌てる叶夢をよそに2人を並ばせた。
「はい、寄って寄って、はーい、OK、はい、チーズ」
ぱしゃっと写真を撮った。
そこに写っているのは楽しそうな笑顔の神原と照れて中途半端なピースをしている姉が写っていた。
竹林の先にある野宮神社に辿り着き、本殿にお祈りをすると、願いを唱えながら触れると1年以内な願いが叶うという亀石にそれぞれ願いを込める。
桃子は「二日酔いが治りますように」とすぐにでも叶いそうな願いをぶつぶつ呟いていた。
美園が何を願っているのか気になってさり気なく近づくと、「恥ずかしいよ」と照れた笑顔で見つめられて、黙って引き下がるしかなかった。
次男は神原と叶夢が上手くいくように願うか、自分のことを願うか悩んで、結局「姉が結婚しますように」と願った。
自分と美園ちゃんが上手くいっても姉がいたら未来はないのだ。
「好きな人いるの?」
真剣に祈る次男に美園が興味津々という感じで、こちらを見ている。
「えーっと、どうかな?」
そう言って次男は誤魔化すように笑うと、「気になるな〜」と言いつつ、美園はそれ以上聞いてこなかった。
こういう気遣いできるところも素敵だ。
美園をまた改めて好きだなと思って、ふと亀石の方を見ると、ぶつぶつと呪いでもかけてるのかのように呟いている女の人がいる。
「姉ちゃん…」
叶夢が真剣に祈っている。
姉も女の子なんだなと思うと、邪魔してはいけない気がして、そっとその場を離れた。
そんなこんなで嵐山も楽しみ、京都駅へ戻ると、帰りの新幹線へ乗り込んだ。
◇◆◇
「兄ちゃん、部屋から出てきてよ。ほら、お土産もたくさん買ってきたし」
家に着くと、歩夢に声をかけるも拗ねて部屋から出てこない。
思った以上に置いていかれたことを根に持っているようだ。
「いいよね、京都。楽しかった?」
「ごめんって、兄ちゃん置いて行ってごめん」
「僕は家でカップ麺食べてたけど、京都では美味しい物食べたんでしょ」
「まぁ食べたは食べたけど。機嫌なおしてよ、お土産も買ってきたし」
そんなやりとりをしていると、「バンッ」と叶夢が扉を思いっきり叩く。
「あまりにもしつこいとこの扉を壊すよ」
そう言って立ち去っていく。
家だと姉は姉だ。
その後すぐ歩夢の部屋の扉は開かれた。
「お土産はこれ。で、ちょっと色々あったんだよ」
そう言って叶夢のことを報告した。
「それほんと!?」
「そう。姉ちゃんは神原さんに恋してる。とはいえ、不器用すぎて上手くいきそうにないんだよね」
「じゃあどうするの?」
「もちろん、次の作戦だよ!」
「作戦?」
「デートに行ってもらうよ。デートでアピール大作戦!」
次男は高らかに宣言した。




