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屑守の真法拾い 〜魔法は世界の未来を前借りする禁術でした。拾ったガラクタで失われた役目をつなげ返す〜  作者: 妖怪ステーキ


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第8話 白い砂の水脈

挿絵(By みてみん)



出発して四日目の昼、水筒の底が見えた。


三人分の水を五日分持ってきた。ガラムが計算した量だ。途中で補給できる場所があれば足す、なければ絞る。出発前にガラムはそう言っていた。補給できる場所は、今のところなかった。


「残りどのくらいですか」とアルブは聞いた。


「二人で一日半、三人で一日」ガラムは水筒を振った。「俺はここで引き返す。分岐まで来た」


砂丘の向こうに、二股に分かれた石畳の跡があった。砂に半分埋まっているが、確かに分かれている。左が岬の方向。右が村へ戻る方向。


「ここから先は二人か」とマブロが言った。


「そうだ」ガラムは水筒の半分を二人に渡した。「俺の分だ。使え」


「いいんですか」


「俺には帰り道がある。おまえたちには先がある」ガラムはぶっきらぼうに言った。「それだけだ」


マブロが水筒を受け取った。アルブも受け取った。


「砂嵐の帯は昨日越えた」ガラムが言った。「流砂の帯はこの先二日。熱砂の平地はその後だ。地図を見ろ、印をつけてある。砂嵐は風を読め。流砂は色を読め。熱砂は止まるな、それだけだ」


「分かりました」


「水は岬に着くまで持たないかもしれない」ガラムは言った。言葉に迷う様子はなかった。

「本来なら、この先の白砂帯で補給する前提の量だ。補給できなければ、誰でも詰む」

「砂漠に水の記憶がある場所がある。白い砂が出てきたら、その下に古い水脈があった証拠だ。おまえは感じられるかもしれない」


アルブに向けた言葉だった。


「感じられるか分かりません」


「分からなくていい。感じようとしろ。それだけでいい」ガラムは踵を返した。「生きて帰ってこい」


歩いていった。振り返らなかった。


マブロがその背中を少し見てから、アルブに言った。「行くか」


「行こう」


左の道へ踏み出した。


さらに一日歩いた。


水を絞って飲んだ。一口ずつ、必要なときだけ。砂漠の歩き方で汗を減らす。呼吸を整えて、影に入れるときは入る。それでも水は減った。


五日目の夜、水筒を合わせると残りが両手に一杯分になった。


「足りない」とマブロが言った。


「分かってる」


「白い砂を探すか」


「明日の朝、探す。夜は見えない」


マブロは頷いた。それ以上言わなかった。二人は背中合わせで眠った。砂漠の夜は冷える。体温を分け合う眠り方だ。子供のころからそうしていた。


六日目の朝、歩き始めてすぐ、アルブは砂の色が変わる場所に気づいた。


白い。


砂漠の砂は茶色や赤みがかった色をしている。でもその一帯だけ、白っぽい砂が混じっていた。風で運ばれてきたのではない。下から出てきた色だ。


「ここだ」とアルブは言った。


しゃがんで、砂に手をついた。


冷たかった。


砂漠の朝の冷たさではなく、もっと深い場所の冷たさだ。地面の底から来ている。水の記憶だ。ここに、むかし水があった。


川ではない。細い流れ。地下を通る、人の腕くらいの細い水脈。山の雨が地面に染み込んで、岩の間を通って、ゆっくり動いていた水。それが砂漠になる前に失われた。でも水が通っていた道の記憶が、岩の中に残っている。


「水脈がある」とアルブは言った。


「今も水があるのか」


「記憶がある。今あるかどうかは分からない。思い出してもらえるかどうか」


マブロはしゃがんでアルブの隣に来た。「俺に何かできるか」


アルブは考えた。水と土はアルブの役目だ。マブロは火と風。でも水を出すために、風は関係ない気がした。


「待っていてくれ」とアルブは言った。


「分かった」


アルブは両手を砂についた。目を閉じた。


白い砂の下に、岩がある。岩の間に、細い空間がある。むかし水が通っていた空間。水が通っていたとき、岩は何を感じていたか。冷たさ。重さ。流れる感触。水が来て、岩を少しずつ削って、また流れていく。その繰り返しの記憶が、岩の中に積もっている。


「思い出してくれ」


声に出した。命令ではない。思い出してもらうことだ。


岩が返事をした、とは言えない。でも、変化があった。


冷たさが増した。砂の下の冷たさが、ゆっくりと濃くなった。アルブの手のひらを通して伝わってくる冷たさが、水の冷たさになっていった。


砂が動いた。


白い砂の一点が、盛り上がった。


水が出た。


細い。ほんの細い水の線だ。でも確かに水だった。砂漠の砂の上に、細い水が滲み出してきた。


「水だ」とマブロが言った。声が低かった。


「汲める」


マブロが水筒を取り出した。口を砂に押しつけて、滲み出す水を集めた。ゆっくり、ゆっくり集まっていく。アルブは手を離さなかった。離すと止まる気がした。


どのくらいそうしていたか、分からない。


水筒の半分が埋まった頃、アルブの力が切れた。


手を離した。


水が止まった。白い砂が、また普通の砂に見えた。


アルブは倒れるように横になった。疲れた。体じゃなくて、別の場所が疲れた。世界の記憶に触れたときの疲れだ。痛みより疲労が来る場合もある、ということを今日知った。


「大丈夫か」マブロがすぐ隣に来た。


「大丈夫。少し休めば動ける」


「水が取れた」マブロは水筒を見た。「半分ちょっとある。これで岬まで持つ」


「良かった」


「良かった、じゃない」マブロはアルブの頭の下に自分の荷袋を置いた。枕にしてくれた。「無理するな。お前が動けなくなったら俺は岬に着けない」


「分かってる」


「分かってないから言う」


アルブは少し笑った。マブロに心配されるのは、昔から変わらない。


一刻ほど休んで、アルブは立ち上がれた。足に力が入った。水を一口飲んだ。冷たかった。砂漠の水ではなく、岩の記憶から来た水だから、少し違う味がした。何の味かは分からない。むかしの川の味かもしれない。


「行けるか」とマブロが言った。


「行ける」


「無理なら言え」


「言う」


「絶対言わないだろう」


「言うよ」


「信じてない」


アルブは歩き始めた。マブロもついてきた。砂漠の乾いた風が吹いた。でも水筒の中に水がある。それだけで、砂漠の広さが少し変わった気がした。


七日目の夜、熱砂の平地の手前で野営した。翌朝には平地に入る。止まれない、眠れない、一日かけて歩き抜く——そう分かっていたのに、夜になると砂漠の奥から人の気配がした。行き倒れかけた旅人が二人、火を求めてよろよろと近づいてきた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第8話では、アルブが白い砂の中に水脈の記憶を見つけました。


水を出すのではなく、水が通る道を思い出させる。

これがアルブの真法の基本になります。


ただし、真法は便利な力ではありません。

土地の記憶に触れるということは、その土地が受けた痛みにも触れるということです。


次回は、マブロが黒い夜の中で火の役目を拾います。

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