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屑守の真法拾い 〜魔法は世界の未来を前借りする禁術でした。拾ったガラクタで失われた役目をつなげ返す〜  作者: 妖怪ステーキ


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第46話 壊さない勝ち方

挿絵(By みてみん)


マブロはヴォルウに向かって走った。


三歩で届く距離だった。


杖を折れば装置が止まる。それだけのことだった。一秒もかからない。できた。


二歩目で、止まった。


都の揺れが天井から伝わってきた。


上で何かが崩れる音がした。地上の建物が、術式の影響で揺れていた。光の橋が軋んでいた。


治療院があった。


あそこに、笑っていた子供がいた。


装置が止まれば、術式が止まる。術式が止まれば、都の魔法が全部止まる。水が止まる。光が止まる。暖房が止まる。治療院が止まる。


三秒あれば届く。三秒で終わる。でも、終わった後に何が起きるか。


マブロは止まった。


ヴォルウがマブロを見た。


「来ないか」


「……来ない」


「なぜ」


「都が死ぬから」


「お前は」


ヴォルウが少し、目を細めた。


「砂漠の屑守が、都の人間を心配するのか」


「心配してるわけじゃない」


マブロは言った。


「壊すことと勝つことは、違う。壊せば終わる。でも勝ちじゃない」


ヴォルウが黙った。


「アルブ」


マブロは振り返った。


「何ができる」


---


アルブは装置を見ていた。


ヴォルウが作った最終術式の装置だった。地下深くに根を張った、真力を吸い上げる巨大な装置だった。


触れた。


来た。


王都の真力炉で感じた記憶と、同じ構造だった。でも違う点があった。この装置の奥に、もっと古い構造がある。真力炉より古い。最初の真法拾いがいた頃より古い。


この都が作られる前から、ここにあった何か。


世界の真力が、自然に巡るための古い通り道だった。


吸い上げるための管が、かつての巡りの道に重なって刺さっていた。


「構造が分かった」


アルブは言った。


「吸い上げる管の配置が、古い真力の循環の道と同じ位置にある。偶然ではない。最初の真法拾いがその道を知っていて、この都を作った人間も知っていた。だから同じ位置に管を刺した。吸い上げるためではなく、本来は巡らせるための道だった」


「変えられるか」


「変えられる。吸い上げる方向を逆にすれば、巡らせる装置になる」


「どのくらいかかる」


「分からない。でも、今すぐやる」


ヴォルウが動いた。


「させない」


杖から光が出た。魔法の拘束だった。床が光り、アルブの周りを囲んだ。


マブロが前に出た。


拘束に向かって、黒砂塊を当てた。


火の役目が来た。燃やすための火ではない、変えるための火だった。鉄を溶かして形を変えるような火だった。拘束に当てた。


拘束の一部が溶けた。


「ニル、ここ」


ニルが来た。


溶けた箇所に手を当てた。火の巫女の技術で、拘束の管理している熱の流れを読んだ。


「出口を作ります」


「ウラ、床の水脈」


地上へ走ったウラが、水路の音を拾って戻ってきた。息が切れていた。


「地下の水脈を読めた。東から北へ流れようとしてた。管が邪魔してた」


「その管を迂回させられるか」


「やってみる」


「センは風の向き」


センが風読みの道具を回した。


「地下に風が通る裂け目がある。装置の圧力で詰まってた。少しずつ開ければ、巡りが戻る」


「ソウダ」


「分かってる」


ソウダが素足で床を踏んだ。


地下の土の層を読んだ。


「土が動こうとしてる。装置の管が邪魔してる。管の方向に合わせて、土の記憶を動かせば管が緩む」


六人の仕事が、同時に動いた。


---


ヴォルウが術式を加速させた。


球体が割れるほど光った。


「遅い。間に合わない。術式が完成すれば、お前たちの小細工は全部意味を失う」


「間に合わせる」


アルブは装置の中心に手を当てた。


古い循環の道が、手の下にあった。この道は、ずっとここにあった。真力炉に埋められても、装置の管に刺されても、消えていなかった。覚えていた。


「覚えているか」


アルブは言った。


「この道を流れることを、覚えているか」


記憶が来た。


世界の真力が本来流れていた道の記憶が来た。川のように、根のように、風のように、循環していた頃の記憶が来た。


吸い上げるのではない。


巡る。


吸い上げ続けることは、一方向にしか流れない川を作ることだ。川は一方向では死ぬ。海へ向かい、蒸発し、雨になり、また源流へ戻る。循環して初めて川だ。


装置の向きが、少し変わった。


吸う力が、緩んだ。


「何をした」


ヴォルウが言った。


「逆にした」


アルブは答えた。


「吸い上げていた管を、巡らせる管に変えた。全部ではない。まだ一部だけだ。でも、始まった」


ヴォルウが杖を構えた。


「止める」


「壊すな、白」


マブロがアルブの前に立った。


ヴォルウの杖をマブロが塞いだ。


「壊すな、白」


マブロはアルブの方を向いたまま言った。


「つなげろ」


装置の向きが変わっていくのを、アルブは感じた。


一部が変わると、隣が変わる。隣が変わると、その隣が変わる。


連鎖だった。吸い上げる連鎖が、巡る連鎖に変わっていく。


でも遅かった。ヴォルウの術式の方が速かった。球体が最後の輝きを放とうとしていた。


そのとき、床の下から、古い記憶の声が来た。


この都より古い。最初の真法拾いより古い。


世界が世界だった頃の、声だった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第46話では、マブロがヴォルウの杖を折らないという選択をしました。


杖を壊せば、術式は止まる。

けれど同時に、都の水や光、暖房、治療院まで止まってしまうかもしれない。


壊すことはできる。

でも、壊して終わることは勝ちではない。


かつてのマブロなら、迷わず杖を折っていたかもしれません。

火の国や風の国を巡り、燃やすだけではない火と、吹き荒れるだけではない風を知ったからこそ、今回は踏みとどまれました。


そしてアルブは、最終術式の装置が、もともとは真力を巡らせるための古い道を利用していることに気づきます。


吸い上げる装置を壊すのではなく、流れる向きを逆にする。

奪うための管を、巡らせるための管へ変える。


一人の力ではなく、六人の仕事が同時に動き、装置そのものの役目を書き換えていく回です。


次回、古い循環の道から、世界そのものの記憶が流れ込みます。

そこでアルブは、最初の真法拾いと同じ危険に直面します。


マブロの「壊すな、白。つなげろ」という言葉が印象に残りましたら、感想で教えていただけると嬉しいです。

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