第43話 役目は鎖か
翌朝、ヴォルウから呼び出しが来た。
「続きを話そう」と書いてあった。
全員で向かった。
ヴォルウの部屋は昨日と同じだった。地図と書物の壁。高い天井。だが今日は窓が開いていた。都の光が入ってきた。水路の音が聞こえた。
「考えてきたか」
ヴォルウが双子を見た。
「考えた」
アルブが言った。
昨夜は眠れなかった。眠れないまま、考え続けた。ヴォルウの言葉を何度も繰り返した。「世界を過去に戻したいだけだ」。違う。でも、どう違うのか。
「役目について」
アルブは続けた。
「ヴォルウさんは、役目は鎖だと言った。人間を縛るものだと。だから魔法で解放すると。それは、役目が強制されるものだという前提があります」
「前提ではなく事実だ。歴史的に、役目は身分と結びついた。農民は農民の役目に縛られ、職人は職人の役目に縛られ、それ以外を選べなかった」
「それは、役目が命令された場合の話だ」
ヴォルウが少し動いた。
「命令された場合、と言ったか」
「砂根草が砂を固定するのは、命令されたからじゃない。砂根草がそうあろうとした結果、砂を固定する役目が生まれた。砂ワームが水脈を掘るのは、命令されたからじゃない。砂ワームが砂を掘って生きようとした結果、水脈の役目を担った。役目は最初から与えられるものじゃない。生きようとした結果として、生まれる」
「だが人間は」
「人間も同じです。俺が水を大切にするのは、命令されたからじゃない。水脈の記憶を受け取ったから、水の大切さが分かった。分かった上で、水の役目を守りたいと思った。それは鎖じゃない。選択です」
ヴォルウが黙った。
「真法は」
アルブは続けた。
自分の声が、いつもより前に出ていることが分かった。怖くないわけではなかった。怖くても、言わなければならない言葉があった。
「真法は、役目を押しつける力じゃない。もう一度、選べるようにする力だ」
部屋が静かになった。
都の音だけが、窓から入ってきた。
「水の国で」
アルブは言った。
「水を清める装置があった。清めることで、水は透明になった。でも魚が消えた。虫が消えた。連鎖が切れた。私は装置を壊さなかった。水に、濁ることを選べる余地を戻した。水が選んで濁るなら、というより、水が本来の流れの中で泥を運ぶなら、魚が戻る。水が清潔を選ぶなら、そのままでいい。水に選択肢を返しただけだ」
「土の国では」
ウラが続けた。
隣で聞いていたウラが、補う場所を見つけて言葉を出した。
「土を無理に実らせる促成魔法があった。アルブは止めなかった。止める権限もなかった。ただ、一部の畑を休ませることを提案した。休む選択肢があることを、土に思い出させた」
「休む土は、来年また実らせる力を取り戻せる」とソウダが言った。「強制されて実らせ続けた土は、いつか何も抱けなくなる。俺は七十三年、土と生きてきた。これは事実だ」
ヴォルウが六人を見た。
「火の国では」
マブロが口を開いた。
「中央炉が暴走寸前だった。止めるか、壊すかしかないと思った。でも壊せば、火の国の熱が全部止まる。止めれば今の人間が困る。だから熱の行き先を増やした。一か所に集めるのをやめて、各所に分配した。火に、どこへ向かうかを選ばせた」
「風の国では風が止まっていた」とセンが言った。「強制的に止められていた風は、戻すと嵐になる。だから少しずつ、届けたい場所へ向かう出口を開いた。風は嵐を選ばなかった。方向を与えれば、風は届けることを選んだ」
ニルが静かに言った。
「火も、燃やし尽くすことを選ばない。届けることを選ぶ。炉の火種を百年守ってきた。その火種が示してくれた」
六人の言葉が、順番に来た。
命令して言わせたのではない。それぞれが、自分の学びを持って来た。
ヴォルウは杖を手に取らなかった。
長い間、沈黙があった。
都の音が続いていた。
「お前たちが言っているのは」
ヴォルウはゆっくり言った。
「役目を選ばせる、ということか」
「はい」
「強制ではなく」
「強制された役目は、いつか壊れます。選んだ役目は、続きます」
「魔法は、役目からの解放ではなく」
「役目を選べなくすることかもしれない」
ヴォルウが双子を見た。
長く見た。
それから、小さく息を吐いた。
「真法拾い、か」
ヴォルウが言った。
「屑守ではなく」
「屑守などと最初から呼んでいない。ただ、今は確かに、真法拾いと呼ぶべきだと分かった」
マブロが前を向いた。
言い返しはしなかった。
ただ、受け取った。
ヴォルウが立ち上がった。
「一つ、見せたいものがある」
と言った。
「見せれば、お前たちに何かが伝わるかもしれない。それとも、俺の考えを変えるものがあるかもしれない」
地下への階段を先導した。アルブは階段を降りながら、足の裏に違う記憶を感じた。
真力炉の記憶ではなかった。
もっと古い、もっと深い、何かの記憶が、この都の地下にあった。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第43話では、アルブたちがヴォルウの問いに答えました。
役目は、誰かから押しつけられたときには鎖になります。
身分や生まれによって仕事を決められ、別の生き方を選べないのであれば、それは確かに人間を縛るものです。
けれど、本来の役目は命令から生まれるものではありません。
砂根草が生きようとした結果、砂を抱える。
砂ワームが砂を掘った結果、水脈が残る。
人もまた、自分で知り、選び、誰かとつながる中で役目を持ちます。
真法は、失われた役目を無理に押しつける力ではない。
もう一度、選択肢を返す力です。
アルブ一人の言葉だけではなく、ウラ、ソウダ、マブロ、セン、ニルが、それぞれの土地で見つけた答えを持ち寄りました。
誰か一人の思想ではなく、六人の経験がつながって、ひとつの答えになる回です。
次回、ヴォルウは六人を都の地下へ案内します。
そこで待っているのは、最初の真法拾いが残した記録です。
「役目は鎖ではなく、選択である」という答えについて、感じたことがあれば感想で教えていただけると嬉しいです。




