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屑守の真法拾い 〜魔法は世界の未来を前借りする禁術でした。拾ったガラクタで失われた役目をつなげ返す〜  作者: 妖怪ステーキ


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第42話 大魔導師

挿絵(By みてみん)



市場で出会った老人の名は、ガタといった。


果物売りだったが、二十年前まで都の植物研究者だったという。研究者を辞めたのは、自分が育てた植物に種ができないことを報告した論文が、都の研究院から抹消されたからだという。


「種がないのは分かっていた」


ガタはソウダに話した。


「分かっていて、誰も言わなかった。言えば仕事を失う。だから言わなかった。俺は言って、失った」


「後悔しているか」


「していない。言わなかったら、今ごろ自分が嘘になっていた」


ガタが双子を見た。


「あなた方のことは聞いています。砂漠の屑守が、砂庭船を作って庭を運んでいると。本当ですか」


「本当だ」


「見てみたい」


「いつかな」


「でも、今日はもっと大事なことがある」


ガタが立ち上がった。


「大魔導師ヴォルウが、あなた方に会いたがっています。昨日から、使いが来ていた。断っても来る。断り続けると、力ずくで連れてこられる」


マブロが「力ずくか」と言った。


「来ればいい」


「無駄な消耗をしないなら、自分から行った方がいい。ヴォルウは話せる人間だ。怖くはない。ただ、強い」


「強い、というのは」


「思想が強い。言葉が強い。自分が正しいと信じている人間の強さだ。崩そうとするなら、同じ強さが要る」


---


ヴォルウは老人だった。


七十代か、八十に近いか。白い長衣を着ていた。杖を持っていたが、体が弱いからではなかった。杖の先端に魔法の核が埋め込まれていた。詠唱なしに魔法を発動できる道具だった。


広い部屋で待っていた。


部屋の天井が高く、壁一面に地図と書物が並んでいた。地図は古いものから新しいものまで、年代順に並んでいた。この島の地図も、世界の地図もあった。


部屋の奥の壁に、他の地図とは違う大きな図があった。島全体を円で囲み、その中心から無数の線が伸びている。


アルブはその図を見るたびに、足の裏が少し冷えた。


「来たか」


ヴォルウは言った。


声は穏やかだった。


「砂漠の真法拾い、というのがどんな者かと思っていた。子供だな」


「子供が何か」


マブロが言った。


「何もない。子供の方が、大人より真実を見ることがある。俺もそうだった」


ヴォルウは双子を見た。


興味のある目だった。軽蔑ではなかった。分析していた。


「座れ」


全員が座った。六人が横に並んだ。ヴォルウが向かいに座った。


「真力は、使われてこそ価値がある」


挨拶もなく、ヴォルウは始めた。


「昨日、治療院を見ただろう。あの子供は、魔法がなければ腕を失っていた。お前たちは、その笑顔を否定できるのか」


ヴォルウは、続けた。


「自然の中に眠らせておくのが正しいと、お前たちは思っているだろう。だが俺は違う考えを持っている。石の中に眠る鉄は、誰の役にも立たない。鉄を掘り出し、熱し、形を与えてこそ、鍬になり、橋になり、人を救う道具になる。真力も同じだ。世界の底に眠らせておくより、引き出して使う方が、世界は豊かになる」


「使うほど世界が削れる」


マブロが言った。


「削れる分より、豊かになる分が多ければいい。計算の問題だ」


「計算が合っていないから砂漠になった」


「計算の精度が足りなかった。技術が追いついていなかった。それは改善できる」


「百年で三割削れた。改善できる速度ではない」


ヴォルウが少し目を細めた。


「数字を知っているな」


「見てきた。データを持っている王城の司書に」


「ふむ」


ヴォルウは杖を置いた。


「魔法は、人を役目から解放する技術だ。俺はそう定義している。水を運ぶ役目、種を蒔く役目、火を起こす役目、病人を看る役目。魔法がなければ、人間はその役目に縛られて生きるしかなかった。魔法があれば、それらから解放されて、別のことができる。人間が人間として、より高く生きるために、魔法は必要だ」


「役目から解放された結果、水路から魚が消えた」


アルブが言った。


小さな声だったが、部屋に通った。


ヴォルウがアルブを見た。


「言い切るな」


「水の国で見てきた。水が清潔になった。役目を持たない水になった。魚が消えた。鳥が来なくなった。人は清潔な水を飲めるようになった。そして、食べる魚が減った。連鎖は繋がっている。一つの役目を省けば、その先にある役目も変わる」


「改善できる」


「改善するために、また真力を前借りする。また削れる。また改善が必要になる」


ヴォルウは少し黙った。


「お前たちは、世界を過去に戻したいだけだ」


ヴォルウは言った。


「川が流れた時代、森があった時代、魚が豊富だった時代。それを懐かしんで、真力を使うなと言っている。だが、その時代に戻れば、今ここで生きている百万の人間は死ぬ。お前たちの理想は、今の人間の命より過去の自然を選ぶことだ」


沈黙があった。


アルブは答えなかった。


まだ、考えていた。


宿に戻ってから、全員が黙っていた。


ヴォルウの言葉が重かった。


「世界を過去に戻したいだけだ」


それは違う、とアルブには分かった。でも、どう違うのかを、まだ言葉にできていなかった。


ソウダが


「休んで考えろ」


と言った。


センが


「寝たら分かることがある」


と言った。


アルブは眠れなかった。

---


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第42話では、大魔導師ヴォルウが、魔法を必要とする側の論理を語りました。


魔法は病人を治し、重労働を減らし、人間を古い役目から解放する。

眠っている真力は、使ってこそ人を豊かにする。


ヴォルウの言葉は、単なる欲望や悪意から生まれたものではありません。

彼自身が、魔法によって救われた命と、便利になった世界を見てきたからこそ、自分の思想を正しいと信じています。


一方で、その豊かさを維持するために、世界の真力は削られ続けています。


技術が未熟だっただけなのか。

それとも、前借りによって問題を解決する発想そのものに限界があるのか。


そしてヴォルウは、真法拾いたちが世界を過去へ戻そうとしているのだと問いかけました。


次回は「役目とは、人を縛る鎖なのか」という問いに、アルブたちがそれぞれの旅で得た答えを返します。


ヴォルウの考えに納得できる部分や、反対したい部分がありましたら、感想で聞かせていただけると嬉しいです。

評価やブックマークでの応援も、とても励みになります。

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