表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
屑守の真法拾い 〜魔法は世界の未来を前借りする禁術でした。拾ったガラクタで失われた役目をつなげ返す〜  作者: 妖怪ステーキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/46

第29話 屑守たちの出航

挿絵(By みてみん)




試し走りを終え、荷の積み直しと補強を済ませた翌朝、サニワは本当の出航を迎えた。


試走のあいだに、乗る者は少し増えた。

迷っていた者が、最後の夜になって荷をまとめたからだ。


出発の朝は、風が北から来ていた。


南へ向かうサニワには、追い風だった。


帆が、夜のうちにマブロが調整していた。風の向きに合わせて角度を変えた。風鳴り骨の帆柱に、マブロが手を当てて風を読んだ。骨が鳴いた。乾いた笛のような音で、今日の風の強さと向きを教えた。


「いい風だ」


マブロが言った。


「どのくらい」


「今日一日走れる。夕方に少し向きが変わるが、そこで一回調整すれば、夜も行ける」


「行こう」


アルブは甲板の前方に立った。


---


乗り込む順番は自然に決まった。


子供たちが最初に乗った。四人が走り込んで、苗床の周りに陣取った。次に家族連れが来た。赤ん坊を抱いた母親と父親が、ゆっくり乗り込んだ。老婆が二人目の子供に手を引かれて乗った。元博守たちが道具を抱えて乗った。最後にガラムとダウルが乗った。


二十三人だった。


前にマニハを始めたとき、アルブとマブロとダウルの三人だった。


それが今、二十三人になっていた。


アルブは水甕に手を添えた。


六つの甕に、水が満ちていた。マニハの水だった。あの砂の下から滲み出てきた水だった。役目を思い出した水脈が、じわりと砂を濡らした、あの水だった。


冷たかった。


水甕越しに、冷たさが手のひらに伝わってきた。


「行くぞ」


マブロが帆柱の根元で言った。


帆が開いた。


北からの風を受けて、帆がゆっくり膨らんだ。骨格が軋んだ。車軸が砂を噛んだ。サニワが、動いた。


ゆっくりだった。


最初はゆっくりだった。


砂の抵抗を受け止めながら、少しずつ速度が乗っていった。砂ワームの殻の底面が、砂の上をなめらかに滑った。何十年も砂の下を掘り続けたあの体が、今度は砂の上を走っていた。


「速い」


子供の一人が言った。


「これ、速い」


「速くない」


ダウルが言った。


「馬の方が速い」


「でも馬より大きい」


「大きい」


「庭より大きい」


「庭を運んでる」


「庭ごと動いてる」


子供たちが次々と言い合った。止まらなかった。しばらく放っておいた。


---


村が後方に見えた。


給水塔の跡が、砂漠の中に小さく立っていた。ばーちゃんが死んだ村。双子が育った村。屑守と蔑まれ続けた村。


マブロが後ろを向いた。


見ていた。


何も言わなかった。帆柱に手を当てたまま、後ろを向いて、村の輪郭が小さくなっていくのを見ていた。


アルブは前を向いていた。


砂読み台の前に座って、床越しに砂の声を聞いていた。砂ワームの穴が集まる南の砂地まで、三日かかる。途中に岩場が一か所ある。砂嵐の季節にはまだ間があるが、風向きが変わりやすい場所がある。気をつけながら行けば、着く。


砂根草の茎が、懐にある。


あの子が押し込んでくれた茎。王都の地図庫でも折れなかった茎。着いたら、植える。


老人の元博守が、甲板の端に腰を下ろして、砂漠を見ていた。


何十年も砂漠を歩いてきた目で、砂漠を見ていた。歩いていた砂漠を、今は船の上から見ていた。同じ砂漠が、少し違って見えるだろうか、とアルブは思った。


「どうですか」


アルブは聞いた。


老人が振り返った。


「違うな」


「どう違いますか」


「歩いてると、砂しか見えない。足元しか見えない。でもここから見ると、砂漠に起伏がある」


「起伏」


「砂が丘になって、谷になって、また丘になる。歩いてたときは、登って、降りての繰り返しで、全体の形が分からなかった。ここからは、形が見える」


アルブは砂漠の起伏を見た。


波のようだった。大きな波が、砂で作られていた。


「きれいですね」


「きれいだ」


老人は少し間を置いた。


「こんなに長く砂漠にいたのに、きれいだと思ったのは初めてだ」


---


夕方、砂丘を一つ越えた。


丘の頂上で、サニワが一瞬止まった。登りきって、降り始める瞬間の、止まる間だった。


子供の一人が砂丘の頂上から後ろを見た。


村は見えなくなっていた。


砂漠だけが見えた。


砂漠の砂と、砂漠の空と、遠くにかすかな雲と、それだけだった。


「村が見えなくなった」


子供が言った。


誰かが「うん」と答えた。


サニワが砂丘を降り始めた。


骨格が、今日一番大きく軋んだ。


丘を越えた。


三日目の夜、砂読み台の前でアルブが地図を広げた。


地図の四隅に、炎・水・土・風の印がある。


印はまだ黒ずんでいた。マブロが横に来た。


「どっちが先だ」


「先じゃない。同時に行かないと間に合わない」


「つまり」


「別れる」


マブロが黙った。


砂漠の夜が、二人の間にあった。



---


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第29話では、二十三人を乗せた砂庭船サニワが、本当の旅へ出ました。


かつて三人から始まったマニハに人が集まり、今度はその人々が庭とともに移動していきます。


歩いているときには足元の砂しか見えない。

けれど船の上から見ると、砂漠にも丘があり、谷があり、大きな形がある。


同じ場所でも、立つ位置が変われば、見えるものも変わります。


村が見えなくなる場面は、双子や屑守たちにとって、過去を捨てる瞬間ではありません。

拾ったものを抱えたまま、次の場所へ進む瞬間です。


そして最後に、四つの国の異常が同時に進んでいることが分かりました。


次回、アルブとマブロは、これまでずっと一緒だった旅を分ける決断をします。


サニワから見た砂漠や、村が見えなくなる場面が印象に残りましたら、評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ