表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
屑守の真法拾い 〜魔法は世界の未来を前借りする禁術でした。拾ったガラクタで失われた役目をつなげ返す〜  作者: 妖怪ステーキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/42

第26話 砂に庭を載せる

挿絵(By みてみん)



集まったのは七人だった。


ダウルと、ダウルが呼んできた元博守が三人。それから、マニハに流れ着いていた中年の男が二人と、老婆が一人。老婆は「大工仕事なら若い頃にやった」と言って来た。


全員、屑守と呼ばれた人間だった。


砂漠を渡り、朽落を掘り、虫の殻や乾いた骨や古い石を拾ってきた人間だった。その知識が今日、全部出る。


ガラムが地面に図を描いた。


「骨格はワームの殻。底面を船底として使う。左右の側板は大樹の枝で組む。床は砂根草の繊維を編んで敷く。屋根は夜露甲虫の殻を並べる。軽くて丈夫で、雨も熱も通さない。朽落で拾った古い車軸で走行部を作る。風鳴り骨を帆柱にする。乾いた藻を防水材として塗り込む」


一人の元博守が口を開いた。


「夜露甲虫の殻、かなり数が要るぞ。一枚一枚小さい」


「集めてある」


ダウルが言った。


「三か月かけて集めた。八百枚」


「八百……」


「足りなければまた集める。屑守の仕事だ」


誰も笑わなかった。


足りないものは、ほとんどなかった。

屑守たちは、使い道の分からないものでも捨てない。

いつか何かになる、と言って、朽落から拾った車軸も、乾いた藻も、曲がった骨も、全部マニハの隅に積んであった。


三か月、黙って集めていたダウルのことを、全員が知っていた。言葉がなかった。


---


マブロが砂ワームの抜け殻を掘り出した。


体力仕事だった。半分砂に埋まった殻を、完全に露出させるまでに午前中いっぱいかかった。マブロは途中で休まなかった。汗が砂に落ちた。背中が砂まみれになった。掘っている間、ずっと無言だった。


昼過ぎ、殻が完全に出た。


七メートル、幅三メートル。半月形の湾曲した底面。外側の鱗突起が整然と並んでいた。


「でかい」


マブロが言った。


「これが船底か」


「そうなる」


アルブは殻の表面に手を当てた。


記憶が来た。


砂ワームの記憶だった。痛みの記憶ではない。砂を掘り続けた、重い、でも確かな仕事の記憶だった。何十年も砂の下を掘り、水脈を通し続けた記憶。川のかわりに、川にはなれなかったけれど、できることをやり続けた記憶。


受け止めた。流した。


「ありがとう」


アルブは小声で言った。


マブロが「何か言ったか」と聞いた。


「独り言」


---


骨組みを組むのは三日かかった。


大樹の枝を側板に使うには、まず曲げなければならなかった。マブロが火を使った。枝に火の熱を均等に当てて、じわりと柔らかくする。柔らかくなった枝を型に当てて固定する。冷えると形が定まる。


これを何十本も繰り返した。


「もっと強い火にすればはやい」


マブロが言ったとき、ガラムが首を振った。


「強くすると脆くなる。ゆっくり曲げた枝の方が長持ちする」


「遅い」


「速くていい仕事はない」


マブロは黙った。それ以来、急かさなかった。


アルブは素材の役目を読んだ。


砂根草の繊維を束ねるとき、手に繊維の記憶が来た。何年も砂を抱きかかえ続けた繊維の記憶。ちぎれそうになりながら踏ん張り続けた記憶。この繊維を束ねるなら、縦横に編み込む方がいい。一方向だと裂けやすい。交差させれば、片方が切れても全体は保つ。


「編み方を変えた方がいい」


アルブは作業中の老婆に言った。


「こうじゃなくて、ここで交差させて」


老婆は少し考えて、うなずいた。


「そっちの方が、確かにいい」


「なんで分かった」と老婆が聞いた。


「素材に聞いた」


老婆は不思議そうな顔をした。


それ以上は聞かなかった。


---


子供たちが来た。


ダウルが拾ってきた二人と、家族連れの娘と、マニハに流れ着いた一家の息子。四人が来て、できることをやりたいと言った。


大人の作業は任せられなかった。


アルブは夜露甲虫の殻を渡した。


「これを、端から順番に並べて。ここからここまで。重なるように、こっちの向きで」


子供たちが真剣な顔で並べ始めた。


一枚一枚、丁寧に。


夕方になると、子供たちが並べた部分だけ、屋根の一角が完成していた。小さかったが、均一で、きれいだった。


「上手だ」


ダウルが言った。


子供たちが顔を上げた。


ダウルが褒めるのは珍しかった。子供たちはしばらく固まってから、少し笑った。


---


三日目の夕方、骨組みが完成した。


床も張られていなかった。屋根も半分だった。帆柱もなかった。ただ、骨だけが立っていた。


夕日を背に、砂の上に影が落ちた。


長い影だった。


船の影だった。


まだ何もない、骨だけの船の影だったが、確かに船の輪郭をしていた。


誰も何も言わなかった。


みんなで、影を見ていた。


アルブはその影の中に、砂ワームの記憶を見た気がした。川の代わりに砂を掘り続けた、あの重くて確かな記憶。


この骨組みは、砂ワームが続けた役目の続きだ。


砂の下を掘る代わりに、砂の上を動く。


役目は、形を変えて続いていく。


残り十日と、ガラムが言った。


王国の動きが早まっている、という噂がマニハに届いていた。


骨組みの上で、全員が急いだ。急ぎながら、丁寧にやった。


それしかなかった。



---

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第26話では、屑守たちの手で砂の船づくりが始まりました。


砂ワームの殻。

大樹の枝。

砂根草の繊維。

夜露甲虫の殻。

風鳴り骨。

朽落で拾った古い車軸。


これまで屑と呼ばれてきたものが、それぞれの役目を持って集まり、ひとつの船になっていきます。


今回大切にしたかったのは、アルブとマブロだけでは作れないということです。

元博守も、老婆も、子供たちも、それぞれができることを持ち寄る。


真庭と同じように、船もまた、役目と役目がつながって生まれました。


次回、ついに砂庭船サニワが動き出します。

庭そのものが砂漠を歩き始める、ひとつの節目の回です。


船づくりの中で気になった素材や役目があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ