第26話 砂に庭を載せる
集まったのは七人だった。
ダウルと、ダウルが呼んできた元博守が三人。それから、マニハに流れ着いていた中年の男が二人と、老婆が一人。老婆は「大工仕事なら若い頃にやった」と言って来た。
全員、屑守と呼ばれた人間だった。
砂漠を渡り、朽落を掘り、虫の殻や乾いた骨や古い石を拾ってきた人間だった。その知識が今日、全部出る。
ガラムが地面に図を描いた。
「骨格はワームの殻。底面を船底として使う。左右の側板は大樹の枝で組む。床は砂根草の繊維を編んで敷く。屋根は夜露甲虫の殻を並べる。軽くて丈夫で、雨も熱も通さない。朽落で拾った古い車軸で走行部を作る。風鳴り骨を帆柱にする。乾いた藻を防水材として塗り込む」
一人の元博守が口を開いた。
「夜露甲虫の殻、かなり数が要るぞ。一枚一枚小さい」
「集めてある」
ダウルが言った。
「三か月かけて集めた。八百枚」
「八百……」
「足りなければまた集める。屑守の仕事だ」
誰も笑わなかった。
足りないものは、ほとんどなかった。
屑守たちは、使い道の分からないものでも捨てない。
いつか何かになる、と言って、朽落から拾った車軸も、乾いた藻も、曲がった骨も、全部マニハの隅に積んであった。
三か月、黙って集めていたダウルのことを、全員が知っていた。言葉がなかった。
---
マブロが砂ワームの抜け殻を掘り出した。
体力仕事だった。半分砂に埋まった殻を、完全に露出させるまでに午前中いっぱいかかった。マブロは途中で休まなかった。汗が砂に落ちた。背中が砂まみれになった。掘っている間、ずっと無言だった。
昼過ぎ、殻が完全に出た。
七メートル、幅三メートル。半月形の湾曲した底面。外側の鱗突起が整然と並んでいた。
「でかい」
マブロが言った。
「これが船底か」
「そうなる」
アルブは殻の表面に手を当てた。
記憶が来た。
砂ワームの記憶だった。痛みの記憶ではない。砂を掘り続けた、重い、でも確かな仕事の記憶だった。何十年も砂の下を掘り、水脈を通し続けた記憶。川のかわりに、川にはなれなかったけれど、できることをやり続けた記憶。
受け止めた。流した。
「ありがとう」
アルブは小声で言った。
マブロが「何か言ったか」と聞いた。
「独り言」
---
骨組みを組むのは三日かかった。
大樹の枝を側板に使うには、まず曲げなければならなかった。マブロが火を使った。枝に火の熱を均等に当てて、じわりと柔らかくする。柔らかくなった枝を型に当てて固定する。冷えると形が定まる。
これを何十本も繰り返した。
「もっと強い火にすればはやい」
マブロが言ったとき、ガラムが首を振った。
「強くすると脆くなる。ゆっくり曲げた枝の方が長持ちする」
「遅い」
「速くていい仕事はない」
マブロは黙った。それ以来、急かさなかった。
アルブは素材の役目を読んだ。
砂根草の繊維を束ねるとき、手に繊維の記憶が来た。何年も砂を抱きかかえ続けた繊維の記憶。ちぎれそうになりながら踏ん張り続けた記憶。この繊維を束ねるなら、縦横に編み込む方がいい。一方向だと裂けやすい。交差させれば、片方が切れても全体は保つ。
「編み方を変えた方がいい」
アルブは作業中の老婆に言った。
「こうじゃなくて、ここで交差させて」
老婆は少し考えて、うなずいた。
「そっちの方が、確かにいい」
「なんで分かった」と老婆が聞いた。
「素材に聞いた」
老婆は不思議そうな顔をした。
それ以上は聞かなかった。
---
子供たちが来た。
ダウルが拾ってきた二人と、家族連れの娘と、マニハに流れ着いた一家の息子。四人が来て、できることをやりたいと言った。
大人の作業は任せられなかった。
アルブは夜露甲虫の殻を渡した。
「これを、端から順番に並べて。ここからここまで。重なるように、こっちの向きで」
子供たちが真剣な顔で並べ始めた。
一枚一枚、丁寧に。
夕方になると、子供たちが並べた部分だけ、屋根の一角が完成していた。小さかったが、均一で、きれいだった。
「上手だ」
ダウルが言った。
子供たちが顔を上げた。
ダウルが褒めるのは珍しかった。子供たちはしばらく固まってから、少し笑った。
---
三日目の夕方、骨組みが完成した。
床も張られていなかった。屋根も半分だった。帆柱もなかった。ただ、骨だけが立っていた。
夕日を背に、砂の上に影が落ちた。
長い影だった。
船の影だった。
まだ何もない、骨だけの船の影だったが、確かに船の輪郭をしていた。
誰も何も言わなかった。
みんなで、影を見ていた。
アルブはその影の中に、砂ワームの記憶を見た気がした。川の代わりに砂を掘り続けた、あの重くて確かな記憶。
この骨組みは、砂ワームが続けた役目の続きだ。
砂の下を掘る代わりに、砂の上を動く。
役目は、形を変えて続いていく。
残り十日と、ガラムが言った。
王国の動きが早まっている、という噂がマニハに届いていた。
骨組みの上で、全員が急いだ。急ぎながら、丁寧にやった。
それしかなかった。
---
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第26話では、屑守たちの手で砂の船づくりが始まりました。
砂ワームの殻。
大樹の枝。
砂根草の繊維。
夜露甲虫の殻。
風鳴り骨。
朽落で拾った古い車軸。
これまで屑と呼ばれてきたものが、それぞれの役目を持って集まり、ひとつの船になっていきます。
今回大切にしたかったのは、アルブとマブロだけでは作れないということです。
元博守も、老婆も、子供たちも、それぞれができることを持ち寄る。
真庭と同じように、船もまた、役目と役目がつながって生まれました。
次回、ついに砂庭船サニワが動き出します。
庭そのものが砂漠を歩き始める、ひとつの節目の回です。
船づくりの中で気になった素材や役目があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




