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屑守の真法拾い 〜魔法は世界の未来を前借りする禁術でした。拾ったガラクタで失われた役目をつなげ返す〜  作者: 妖怪ステーキ


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幕間 王都資料:魔法使いと真力炉

挿絵(By みてみん)


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**王城内務府 機密管理第三課**

**記録番号:内三四七ノ十二**

**記録者:内務書記補 ナレウ**

**記録日:真力暦四〇九年、初冬**


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**本資料は内務府以外への開示を禁ずる。**

**複写・転記・口頭伝達を問わず、無断の外部流出は厳禁とする。**


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### 一 魔法の定義と使用資格について


魔法とは、世界の根源力である真力を操作し、現象を意図的に発生させる技術の総称である。


使用資格は法令により以下に限定される。


王族全員。血統鑑定により真力感応能力が確認された貴族。王国認定の神殿上層職(神殿長、大祭司、儀式執行官)。王国公認魔導師資格保持者。


民衆による魔法の使用は禁止されている。資格外の者が真力操作を行った場合、真力の無秩序な消費が生じ、王国の真力管理体制に支障をきたすためである。また、血統に基づく感応能力の差異により、資格外使用は術者本人に深刻な反動をもたらす危険がある。


以上が公式の理由である。


なお本記録において記録者は、以下を付記しておく。民衆が魔法を使えない正確な理由は「血統の差異」ではなく「訓練機会の差異」である可能性が高い。王族・貴族の子弟は幼少期より師について魔法教育を受ける。民衆にその機会はない。能力の差と機会の差を同一視することの誤謬について、本記録者はかねてより疑義を持っている。ただしこれは本資料の主題ではない。


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### 二 真力の性質と前借り構造について


真力とは、水が水であるための力、土が土であるための力、風が風であるための力、すなわち世界が世界であり続けるための根源的な力である。


魔法は、この真力を操作して現象を起こす。水のない場所に水を出す。光のない場所に光を生む。腐った組織を瞬時に修復する。これらはすべて真力を消費することで実現される。


問題は、真力がどこから来るかである。


魔法使いが真力を「消費」すると言ったが、正確には「前借り」である。現時点に存在する真力は、今この瞬間の世界を維持するために使われている。魔法はその一部を引き出すが、それは未来の真力を担保として引き出すことを意味する。


簡単に言えば、こうだ。今日の川の流れを魔法で倍にすれば、将来の川の流量が削られる。その影響は十年後に現れるかもしれない。今日の大木を魔法で一夜にして育てれば、百年後の森が薄くなる。今日の怪我を魔法で即座に治せば、その人間の二十年後の回復力が低下する。


前借りした分は、必ずどこかで返ってくる。


返ってくる先は、決まって弱い方だ。


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### 三 真力炉の設置経緯と機能について


現在の真力炉は、真力暦三一二年、第十四代国王の治世に設置された。設置の経緯は以下の通りである。


当時、王都の人口が急増し、水の供給が限界を迎えていた。川の水量は既に減少傾向にあり、農業生産も頭打ちになっていた。この状況を打開するため、当時の宮廷魔導師長ガナーウが提案したのが、島全体の真力を集中管理する装置、すなわち真力炉の建造である。


真力炉の原理は単純だ。島全体の地下に管を張り巡らせ、各地の真力を少量ずつ吸い上げ、王都に集中供給する。一か所から大量に取れば、その土地が急激に衰える。だから薄く広く取る。薄く広く取れば、個々の地域への影響は小さく見える。


見える、という点が重要である。


薄く広く取り続けた場合の累積的な被害について、初期の設計書には言及がない。意図的に省かれたのか、当時の技術者が計算できなかったのかは不明である。


現在の試算によれば、この百年間で島全体の真力総量は推定三十パーセント減少している。百年前と比較して、川の数は四割減、森林面積は六割減、農業適地は五割減となっている。


この計算を知る者は、内務府内でも限られている。


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### 四 真力炉が供給するものについて


現在、王都の以下の機能が真力炉に依存している。


水道。王都の全市民に供給される水の七割は、真力炉が維持する地下水脈から汲み上げられている。残り三割は地表の川から取水しているが、その川の流量維持にも真力炉が部分的に関与している。


照明。王都の公共照明はすべて魔法光である。魔法光は魔法使いが個別に維持する必要がなく、真力炉から供給される真力によって自動的に点灯し続ける。これにより夜間の犯罪が大幅に減少し、夜間労働が可能となり、経済活動の時間が拡大した。


医療。王都の治療院では、魔法による治療が標準的に提供されている。骨折の即時修復、感染症の抑制、出産時の出血管理、老衰の緩和。これらは真力を消費する治療であり、治療院の運営は真力炉なしには不可能である。


昨年度、王都の治療院が治療した患者数は約二万三千人である。このうち魔法治療なしには死亡していたと推定される者は、治療院の見解では四千人から六千人の間とされている。


食料輸送。王都は農業生産地から遠い。食料の長距離輸送には、魔法による保存と速達輸送が不可欠である。真力炉を止めた場合、輸送中に腐敗する食料の割合が大幅に増加する。


そのほか、王城の維持管理、橋・道路の保全、季節外の農業生産など、王都の都市機能の大部分が直接または間接的に真力炉に依存している。


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### 五 停止した場合のシミュレーションについて


真力炉を即時停止した場合の影響を試算した。


最初の一週間以内に、王都の水供給が三割減少する。公共照明が消える。治療院の魔法治療が停止する。入院患者の一部が死亡する。食料輸送が遅延し、一部が腐敗廃棄となる。


最初の一か月以内に、物価が上昇する。最初に食料価格が上がる。富裕層は備蓄があるため影響が遅れる。貧困層は即座に影響を受ける。特に影響を受けるのは、単身の老人、乳幼児のいる家庭、慢性疾患を持つ者である。


三か月以内に、王都の死者が増加し始める。推定は内部で大きく分かれており、楽観的な見積もりで千人規模、悲観的な見積もりでは一万人を超えるとする意見もある。


段階的縮小の場合、二十年前の先代国王による試みの記録が残っている。縮小開始から三か月で食料価格が二倍になり、貧困層の子供の栄養不良が急増した。縮小計画は政治的圧力により撤回された。


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### 六 継続した場合の見通しについて


真力炉を現在の規模で継続した場合、島全体の真力は今後五十年でさらに二十パーセント減少すると試算される。


具体的には、現在残存している農業適地の三割が砂漠化する。現存する川のうち、二割が枯れる。地方の村落のうち、水源を失う可能性があるものは現在確認できているだけで七十四か所に及ぶ。


これらの地域に暮らす人々は、移住を余儀なくされる。移住先は主として王都近郊となるため、王都の人口はさらに増加し、真力炉への依存度はさらに高まる。


すなわち止めるほどに止められなくなる。


この構造は、真力炉設置から現在に至るまで一貫して拡大してきた。


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### 七 記録者の所見


本資料を作成しながら、記録者は一つのことを繰り返し考えていた。


先月、記録者の長子が腸の病を患った。治療院で魔法治療を受け、三日で完治した。もし真力炉がなければ、長子は今頃どうなっていたか。医師の見立てでは、魔法なしの治療では半分の確率で命に関わったかもしれないとのことだった。


記録者の長子は今、玩具で遊んでいる。


このことを、記録者は否定できない。


同時に、記録者はこの資料を作成する過程で、島の南西部の廃村記録を参照した。今から十五年前、水源を失って廃村となった集落の記録である。最後の住民が村を去る前夜の記録者の日誌が残っていた。そこには、老人が一人、枯れた井戸の前に座っていたと書かれていた。その老人は立ち上がれなかった。水がなかったから、食料がなかったから、ではなく、立つ力がなかった。


その老人がその後どうなったかは記録にない。


記録者の長子が遊んでいる。廃村の老人の記録がある。


どちらも本当のことだ。


どちらも消えない。


記録者はこの資料を定められた書式に従って作成した。事実のみを記した。感情は排した。それが書記補の仕事だから。


ただ一点だけ、欄外に書き残しておく。


上の者に読まれるかもしれない。読まれれば、この記録は破棄されるかもしれない。それでも書く。


> それでも、この仕組みを正義と呼ぶには、喉の奥に砂が残る。


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*本資料の複製は厳禁とする。*

*記録者署名:ナレウ 内務書記補 第三課所属*


ナレウが書いたこの記録が、どのような経路をたどったかは分からない。


王城の記録庫に眠ったのかもしれない。


誰かの手で廃棄されたのかもしれない。


あるいは、誰かの懐に折りたたまれて、砂漠を越えていったのかもしれない。


ただ確かなのは、喉の奥の砂の感触を知る人間が、王都にも一人はいたということだ。


──双子が次に向かう先には、砂ではなく水がある。


水の国で、役目を失った川が、静かに澄みすぎていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は幕間として、王都の内部資料という形から、魔法と真力炉の仕組みを描きました。


真力炉は、ただ人々を苦しめるために作られた装置ではありません。

王都の水道や照明、医療、食料輸送を支え、実際に多くの命を救っています。


けれど、その豊かさを維持するために、地方の川や森、畑や村の未来が少しずつ削られている。


止めれば、今を生きる弱い人たちが先に傷つく。

続ければ、遠くにいる弱い人たちと、まだ生まれていない未来が失われていく。


記録者ナレウも、その矛盾の中にいます。

真力炉によって自分の子供は救われた。

同じ仕組みによって、名前も知らない老人の村は失われた。


どちらも本当だからこそ、簡単に正義や悪と呼ぶことはできません。


次回からは、水の国へ向かったアルブたちの旅が始まります。

そこで待っているのは、汚れているのではなく、役目を失ったことで静かに澄みすぎた川です。


ナレウの最後の一文や、真力炉を止めることと続けることのどちらに重さを感じたか、感想で聞かせていただけると嬉しいです。

評価やブックマークでの応援も、とても励みになります。

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