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屑守の真法拾い 〜魔法は世界の未来を前借りする禁術でした。拾ったガラクタで失われた役目をつなげ返す〜  作者: 妖怪ステーキ


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第24話 島の外の地図

挿絵(By みてみん)



一番古い地図は、触ると崩れそうだった。


司書の老人が白い手袋をはめて、棚の最上段から取り出した。革の筒に収まっていた。筒から出すと、黄ばんだ厚手の紙が現れた。老人が専用の台の上にそっと広げた。


端が欠けていた。色が飛んでいた。文字の一部が読めなかった。


それでも、地図だと分かった。


この島が、中央にあった。


細長い楕円の島。そこにアルブが知っている地形が見えた。砂漠が広がる中央部。北の岬。南の岬。灯台があるはずの場所。


でも、それだけではなかった。


島の周りに、海が描かれていた。海の向こうに、陸地があった。


「島の外に」


マブロが言った。


「ある」


「他に、大陸がある」


「五つ、見える」


地図の端に、五つの陸地が描かれていた。大きさはそれぞれ違った。近いものと遠いものがあった。この島より大きいものもあった。


それぞれの陸地に、印が描かれていた。


炎の印。水の印。土の印。風の印。


そして五つ目の陸地には、星の印が描かれていた。


「火の国、水の国、土の国、風の国」


アルブは印を指でなぞった。触れずに、なぞった。


「それと、星の国」


「星が魔法の印だ」


司書の老人が言った。双子が振り返ると、老人は白手袋の指を合わせて立っていた。


「古い言葉では、魔法のことを星の技と呼んだ。天の力を地に引く技だったから。後に星ではなく地の真力を前借りするようになって、意味が変わったが、印は残った」


「魔法の国がある」


「あった、かもしれない。この地図は数百年前のものだ。今もその国が同じ形であるかは分からない」


アルブは地図の全体を見た。


五つの陸地と、中央の島。海がそれらを繋いでいた。海の上にも、印があった。航路を示す矢印と、各地の風向きを示す記号だった。


「この島、ずっと孤立してると思ってた」


マブロが言った。


「俺たち、ここから外に出られる?」


「船があれば」


「船、あるか?」


老人が首を横に振った。


「今の王国に、外洋を渡れる船はない。真力炉ができてから、船の建造技術が廃れた。魔法で大量輸送できるから、船を作る必要がなくなった」


「また魔法のせいか」


マブロが言った。


「また魔法のせいだ」


老人が答えた。皮肉ではなく、ただ事実として言った。


---


別の棚に、新しい地図があった。


百年前のもの、五十年前のもの、二十年前のものが順に並んでいた。新しい地図を取り出して、古い地図と並べた。


変わっていた。


砂漠が広がっていた。


百年前の地図では、島の北部に緑の地帯があった。五十年前には半分になっていた。二十年前にはほとんど消えていた。


「島だけじゃない」


アルブが言った。


「どれ、見せてもらえますか」


老人が棚の奥から、薄い本を取り出した。地図ではなく、記録集だった。各国の真力に関する記録が、断片的に集められていた。商人の日誌、外交官の報告、船乗りの覚書。


アルブが頁を繰った。


水の国、百年前の記録。川が豊富で水があふれていた、とある。


水の国、二十年前の記録。川の流量が三割減った、とある。


土の国、五十年前の記録。段々畑が島全体を覆っていた、とある。


土の国、十年前の記録。作物の収量が半減、土の回復が追いつかない、とある。


「他の国も、同じことが起きてる」


マブロが言った。


「魔法を使ってるのはこの王国だけじゃない」


「各国が、それぞれのやり方で真力を前借りしている」


「全部が壊れてる」


アルブは本を閉じた。


窓がないこの部屋で、アルブは方向感覚を失いそうになった。この島だけの問題ではない。海の向こうの五つの国で、同じことが起きている。それぞれの土地で、それぞれの真力が削られている。


「真力の乱れが、四か国で同時に起きている」


アルブは声に出して整理した。


「水の国で、水が乱れている。土の国で、土が乱れている。火の国と風の国も、同じはずだ」


「それを、誰かが止めないといけない」


マブロが言った。


「止めるんじゃない」


アルブは地図を見た。


四つの国の印を見た。炎、水、土、風。


「拾うんだ。それぞれの国で、それぞれの役目が失われている。その役目を、拾って戻す」


「水と土は、お前が」


「火と風は、お前が」


沈黙があった。


部屋の外で、城の音がした。


マブロが古い地図の、島の印を指で触れた。触れて、海を越えて、四つの国の印の方へ指を動かした。


「広いな」


「うん」


「俺たち二人で足りるか」


「足りないかもしれない」


「足りなかったら」


「仲間を増やす」


マブロは少しの間、黙った。


「分かった」


それだけ言った。


---


その夜、アルブは地図の写しを作った。老人が紙と炭を貸してくれた。手が震えないように気をつけながら、五つの国の形と、四つの印の位置を写した。


写し終えて、地図を見た。


四つの印の位置に目が行った。


炎、水、土、風。


それぞれの印が、地図の上でかすかに滲んでいるように見えた。見えた、ではなく、本当に滲んでいた。


インクが滲んでいるのではない。


印そのものが、黒ずんでいた。


四つの印が、同時に黒ずんでいた。


アルブは地図を持ったまま、しばらく動かなかった。


黒ずんだ印を見ていた。


世界が、消えかかっている。役目が失われている。拾わなければ、戻せなければ、この黒ずみはどこまでも広がる。


アルブは地図を丁寧に折りたたんで、懐に入れた。


砂根草の茎が、まだそこにあった。


あの子が押し込んでくれた茎が、折れないで残っていた。


マニハに帰ったら、この茎を植えよう、とアルブは思った。


翌朝、双子は王城を出た。


シルワンが見送りに来た。


「また来ますか」


と聞いた。


マブロが


「来ない」


と言った。


アルブは


「いつかまた」


と言った。


シルワンが少し目を伏せた。


「本当のことを見てもらえて、よかった」


その言葉だけが、本心だとアルブには分かった。


王都の門を出たとき、マブロが言った。


「次、どこへ行く」


アルブは懐の地図を触った。


「まずマニハに戻る。それから、考える」


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第24話では、アルブとマブロが初めて島の外の世界を知りました。


海の向こうには、火、水、土、風、そして魔法を示す星の国がある。


しかし、真力の乱れはこの島だけの問題ではありませんでした。

水の国では川が細り、土の国では作物が育たなくなり、四つの役目が同時に失われ始めています。


ここで、双子の旅の目的も大きく変わります。


魔法を止めるだけではなく、各地で失われた役目を拾い、つなげ返す。

そして二人だけで足りないなら、仲間を増やす。


小さなマニハから始まった物語が、海の向こうへ広がる節目の回です。


次回から、双子は王都を離れ、新しい旅の準備を始めます。

まず必要になるのは、海を越えるための船です。


島の外にある五つの国や、黒ずみ始めた四つの印の中で、特に気になったものがあれば感想で教えていただけると嬉しいです。

少しでも続きが気になりましたら、評価やブックマークで応援していただけると励みになります。

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