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屑守の真法拾い 〜魔法は世界の未来を前借りする禁術でした。拾ったガラクタで失われた役目をつなげ返す〜  作者: 妖怪ステーキ


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第20話 魔法の庭園

挿絵(By みてみん)


門が高かった。


砂漠の村に門はない。柵もない。どこからでも出入りできる。それが普通だとアルブは思っていた。王都の門は、砂漠では見たことのない高さだった。石積みで、頂に兵士が立っていて、緑の蔦が絡まっていた。蔦は生きていた。石の門に、緑の生き物が絡んでいる。


それだけで、別の世界だった。


門をくぐると、匂いが変わった。


砂漠の匂いは、乾いた砂と、日向で温まった石と、たまに風が運んでくる誰かの煙の匂いだ。王都の匂いは違った。水の匂い。草の匂い。焼き立てのパンの匂い。香辛料の匂い。人の匂い。全部が混ざって、濃かった。


「なんか、匂い」


マブロが顔をしかめた。


「慣れる」


「慣れたくない」


大通りには石畳が敷かれていた。水路が両脇を流れていた。流れる水が光を反射していた。木が植えられていた。背が高く、葉が豊かで、通りに影を落としていた。


人が多かった。


砂漠の村の数倍の人口が、この大通りだけで動いていた。皆、それぞれの用事があり、それぞれの方向へ歩いていた。双子のことなど見ていなかった。


マブロが黙った。


アルブには分かった。怒っているのだ。声に出さない種類の怒りだ。ダウルが連れてきた子供たちの顔と、この大通りを比べている。あの子たちは眠れない夜に砂の上で丸まっていた。ここでは子供が石畳の上で笑って走っている。その落差が、マブロの胸の中で燃えている。


アルブは何も言わなかった。


言える立場ではなかった。アルブも、同じものを見て、違う場所が引っかかっていた。


---


賓客用の宿に案内されてから、シルワンが「休んでから王城へ」と言った。双子には午後まで時間ができた。


マブロは大通りへ出た。怒りを足で踏み鎮めるように歩いた。


アルブは宿の窓から、中庭を見ていた。


中庭には庭園があった。よく手入れされた庭だった。石畳の小径が曲がりながら通っていて、両脇に花が植えられていた。水盤があって、水が静かに満ちていた。木が三本、等間隔に立っていた。


綺麗だった。


本当に綺麗だった。


アルブはしばらく見ていた。見ながら、何かが引っかかっていた。引っかかりが何なのか、最初は分からなかった。綺麗なのに、何かが足りない。豊かに見えるのに、何かが欠けている。


鳥がいない。


木が三本あって、葉が豊かで、影が落ちているのに、鳥が一羽も来ない。


虫もいない。


花が咲いているのに、花の周りを飛ぶ虫が一匹もいない。


水盤の水に、何も浮いていない。


水は透き通っていた。透き通りすぎていた。川の水は濁る。砂を運び、土を含み、藻が生えて、虫が卵を産む。それが水の正しい姿だ。この水盤の水は、そのどれもなかった。


アルブは庭へ降りた。


花の前にしゃがんで、土を触った。


冷たくなかった。


土は柔らかく、よく耕されていて、植物が育つのに適した形をしていた。でも、指を差し込んでも、何も来なかった。


記憶がない。


土の記憶がない。


土というのは、長い時間をかけて作られる。虫が通った跡、根が育った跡、枯れた葉が腐った跡、雨が染み込んだ跡。それが積み重なって、土になる。土の記憶とは、その積み重ねだ。何百年、何千年分の積み重ねが、土の中にある。


この土にはそれがなかった。


魔法で作られた土だった。植物が育つための成分だけを、魔法で整えた土だった。役目を命令された土だった。自分でそうなったのではなく、そうあれと言われた土だった。


アルブは手を引いた。


土は何も言わなかった。


記憶がないから、何も言えなかった。



「アルブ」


マブロが戻ってきた。


「見て回った」


「どうだった」


「綺麗だった。本当に綺麗だった」


マブロは庭の端に腰を下ろした。


「でもな、市場で野菜を買ってる婆さんがいた。野菜を見る目が、村の人と同じだった。値段を気にして、傷んだ部分を確かめて、少しでも安くしようとしていた。悪い人じゃないんだ、ここの人間も」


「うん」


「ただ、知らないんだ。この綺麗さがどこから来てるか。誰かが払ってる代わりがあることを、知らないか、気づかないか、気づかないふりをしてるか」


アルブは花を見た。


花は綺麗だった。でも虫が来ない花は、次の世代を作れない。今だけ咲いている花だった。


「土に記憶がない」


アルブは言った。


「この庭の土、魔法で作られてる。自分で積み重ねた記憶が、何もない」


マブロが土を見た。


「……取り戻せるか」


「時間があれば」


「時間をくれるような場所じゃない」


「うん」


二人は並んで、記憶のない庭を見ていた。


午後、シルワンが迎えに来た。


王城は庭園より十倍広かった。


廊下を歩くたびに、アルブは足の裏で土の叫びを聞いた。


城全体が、魔法で作られた記憶のない土の上に建っていた。


静かな叫び声が、足の裏からずっと上がっていた。



---


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第20話では、アルブとマブロが王都の豊かさに触れました。


水路があり、木陰があり、花が咲き、人々が暮らしている。

砂漠の村から見れば、憧れずにはいられないほど美しい場所です。


けれど、その庭には鳥も虫もいませんでした。


魔法で整えられた土には、根が伸びた記憶も、雨が染み込んだ記憶も、枯れ葉が土へ戻った記憶もない。

花は咲いていても、次の命へつながっていない。


マブロが見たのは、王都の人々もまた、何も知らずに暮らしている姿でした。

悪い人間だけが世界を削っているわけではないからこそ、問題は簡単ではありません。


次回、双子は王と対面します。

王国が真法拾いを必要とする理由と、「保護」という言葉の意味が語られます。


記憶のない土や、虫の来ない花をどう感じたか、感想で聞かせていただけると嬉しいです。

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