第19話 王都からの招待
招待状は白かった。
砂漠で白いものは珍しい。砂は黄褐色で、石は灰色で、空は青白く、人の顔は日に焼けて赤茶けている。だから白い封筒を持って現れた使者は、遠くからでも分かった。
封蝋は緑と金。シルワンが使った封蝋と同じだった。
アルブは封筒を受け取り、しばらく持ったまま立っていた。重さはない。中身は一枚の紙だろう。それなのに、手のひらが重かった。
「読むか」
マブロが言った。
「読む」
中身は丁寧な文章だった。双子の「砂漠における貢献」を称え、王都に「功労者として招く」とあった。旅費と宿の手配は王国が行う。滞在中は王城の賓客として扱う。拒否してもよいが、辞退の場合は王国として遺憾である。
最後の一文だけが、礼儀の衣をまとった脅しだった。
「行かない」
マブロが言った。
「罠だろ。行ってどうする。向こうのお膝元で、また管理するとか言われる。シルワンのときより逃げにくい場所で」
「そうだな」
「じゃあ断る」
「行く」
アルブが言った。
マブロが振り返った。
「……何?」
「行く。私が行くと言ってる」
マブロは黙った。アルブが先に「行く」と言うのは珍しかった。いつもは迷って、様子を見て、マブロが先に動いてからついてくる。それがアルブだった。今日は違った。目が違った。怖がっていないわけではなかった。むしろ怖がっているのが分かる目だった。それでも、決まっている目だった。
「なんで」
「魔法が土地を削っている。それがどういう仕組みで、どこまで進んでいるのか、私には分からない。分からないまま庭を守り続けても、どこかで間に合わなくなる」
「だから王都へ行って調べると」
「見てみないと分からないことがある」
マブロはしばらく考えた。腕を組んで、砂を踏んで、少し歩いて、戻ってきた。
「分かった。一緒に行く」
「お前は来なくていい」
「来る。お前一人では行かせない」
「マニハを誰かが」
「ダウルがいる」
それで終わりだった。
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ガラムに話すと、開口一番「馬鹿か」と言われた。
「罠だと分かってて行くのか」
「分かってて行く」
「お前たちが捕まったらマニハはどうなる」
「捕まらない」
「根拠は」
「……ない」
「ない言うな」
ガラムは額に手を当てた。白髪交じりの眉が寄っていた。荒っぽい顔をしている男だが、今は心配している顔だとアルブには分かった。荒っぽい顔で心配している。
「なぜ行くか、もう一度言え」
アルブは繰り返した。魔法の仕組みを知りたい。どこまで進んでいるか知りたい。マニハを守るには、敵の規模を知る必要がある。
ガラムはしばらく黙っていた。
砂漠の風が吹いた。マニハの草が揺れた。夜露甲虫が一匹、水場の端を歩いていた。
「一つだけ言っておく」
ガラムが言った。
「王都は綺麗だ。俺も若い頃、一度だけ行った。水があって、緑があって、飯がうまくて、光がある。ここより何もかも豊かに見える」
「見える?」
「見える、と言った。そうじゃないとは言ってない」
ガラムは双子を交互に見た。
「その綺麗さが、どこから来てるのかを忘れるな。それだけだ」
翌朝、マニハの人々が送り出してくれた。
老婆が乾し草で編んだお守りを持たせてくれた。ダウルが「余計なことするな」とだけ言った。家族連れの娘が走ってきて、アルブの手に砂根草の茎を押し込んだ。
「帰ってきてね」
言われたとき、アルブは答えられなかった。
マブロが代わりに「帰る」と言った。即答だった。
砂漠の道へ踏み出すとき、アルブは一度だけ振り返った。マニハの草が、朝の光の中で揺れていた。虫が動いていた。水が滲んでいた。
この場所が続くように。
足を前に向けた。
王都が見えてきたのは三日目の夕方だった。
光が見えた。砂漠の夜に、点ではなく面として光るものがある。
マブロが
「なんだあれ」
と言った。
アルブは答えなかった。
光が美しかった。美しくて、怖かった。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第19話では、アルブとマブロが王都からの招待を受けました。
礼儀正しい文章の中に、断れば済まないという圧力が隠れている。
罠だと分かっていても、アルブは王都へ行くことを選びました。
これまでのアルブは、マブロが動いたあとについていくことが多い人物でした。
今回はそんなアルブが、自分から「行く」と決めています。
怖くないからではなく、マニハを守るために、知らなければならないものがあるからです。
次回、双子は初めて王都の豊かさを目にします。
水も緑も光もある場所が、なぜアルブには怖く見えるのか。
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