表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
屑守の真法拾い 〜魔法は世界の未来を前借りする禁術でした。拾ったガラクタで失われた役目をつなげ返す〜  作者: 妖怪ステーキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/29

第19話 王都からの招待

挿絵(By みてみん)


招待状は白かった。


砂漠で白いものは珍しい。砂は黄褐色で、石は灰色で、空は青白く、人の顔は日に焼けて赤茶けている。だから白い封筒を持って現れた使者は、遠くからでも分かった。


封蝋は緑と金。シルワンが使った封蝋と同じだった。


アルブは封筒を受け取り、しばらく持ったまま立っていた。重さはない。中身は一枚の紙だろう。それなのに、手のひらが重かった。


「読むか」


マブロが言った。


「読む」


中身は丁寧な文章だった。双子の「砂漠における貢献」を称え、王都に「功労者として招く」とあった。旅費と宿の手配は王国が行う。滞在中は王城の賓客として扱う。拒否してもよいが、辞退の場合は王国として遺憾である。


最後の一文だけが、礼儀の衣をまとった脅しだった。


「行かない」


マブロが言った。


「罠だろ。行ってどうする。向こうのお膝元で、また管理するとか言われる。シルワンのときより逃げにくい場所で」


「そうだな」


「じゃあ断る」


「行く」


アルブが言った。


マブロが振り返った。


「……何?」


「行く。私が行くと言ってる」


マブロは黙った。アルブが先に「行く」と言うのは珍しかった。いつもは迷って、様子を見て、マブロが先に動いてからついてくる。それがアルブだった。今日は違った。目が違った。怖がっていないわけではなかった。むしろ怖がっているのが分かる目だった。それでも、決まっている目だった。


「なんで」


「魔法が土地を削っている。それがどういう仕組みで、どこまで進んでいるのか、私には分からない。分からないまま庭を守り続けても、どこかで間に合わなくなる」


「だから王都へ行って調べると」


「見てみないと分からないことがある」


マブロはしばらく考えた。腕を組んで、砂を踏んで、少し歩いて、戻ってきた。


「分かった。一緒に行く」


「お前は来なくていい」


「来る。お前一人では行かせない」


「マニハを誰かが」


「ダウルがいる」


それで終わりだった。


---


ガラムに話すと、開口一番「馬鹿か」と言われた。


「罠だと分かってて行くのか」


「分かってて行く」


「お前たちが捕まったらマニハはどうなる」


「捕まらない」


「根拠は」


「……ない」


「ない言うな」


ガラムは額に手を当てた。白髪交じりの眉が寄っていた。荒っぽい顔をしている男だが、今は心配している顔だとアルブには分かった。荒っぽい顔で心配している。


「なぜ行くか、もう一度言え」


アルブは繰り返した。魔法の仕組みを知りたい。どこまで進んでいるか知りたい。マニハを守るには、敵の規模を知る必要がある。


ガラムはしばらく黙っていた。


砂漠の風が吹いた。マニハの草が揺れた。夜露甲虫が一匹、水場の端を歩いていた。


「一つだけ言っておく」


ガラムが言った。


「王都は綺麗だ。俺も若い頃、一度だけ行った。水があって、緑があって、飯がうまくて、光がある。ここより何もかも豊かに見える」


「見える?」


「見える、と言った。そうじゃないとは言ってない」


ガラムは双子を交互に見た。


「その綺麗さが、どこから来てるのかを忘れるな。それだけだ」


翌朝、マニハの人々が送り出してくれた。


老婆が乾し草で編んだお守りを持たせてくれた。ダウルが「余計なことするな」とだけ言った。家族連れの娘が走ってきて、アルブの手に砂根草の茎を押し込んだ。


「帰ってきてね」


言われたとき、アルブは答えられなかった。


マブロが代わりに「帰る」と言った。即答だった。


砂漠の道へ踏み出すとき、アルブは一度だけ振り返った。マニハの草が、朝の光の中で揺れていた。虫が動いていた。水が滲んでいた。


この場所が続くように。


足を前に向けた。


王都が見えてきたのは三日目の夕方だった。


光が見えた。砂漠の夜に、点ではなく面として光るものがある。


マブロが


「なんだあれ」


と言った。


アルブは答えなかった。


光が美しかった。美しくて、怖かった。



---


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第19話では、アルブとマブロが王都からの招待を受けました。


礼儀正しい文章の中に、断れば済まないという圧力が隠れている。

罠だと分かっていても、アルブは王都へ行くことを選びました。


これまでのアルブは、マブロが動いたあとについていくことが多い人物でした。

今回はそんなアルブが、自分から「行く」と決めています。


怖くないからではなく、マニハを守るために、知らなければならないものがあるからです。


次回、双子は初めて王都の豊かさを目にします。

水も緑も光もある場所が、なぜアルブには怖く見えるのか。


アルブの決断や、マブロが即座に同行を選ぶ場面が印象に残りましたら、評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ