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屑守の真法拾い 〜魔法は世界の未来を前借りする禁術でした。拾ったガラクタで失われた役目をつなげ返す〜  作者: 妖怪ステーキ


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幕間 ばーちゃんの記録:真法と魔法


挿絵(By みてみん)


これは記録である。

灯台の火が風にゆれる夜、わたしはこれを書いておく。

だれかが読む日のために。

──あの子たちが読む日のために。


---


**魔法について**


魔法は使うものだ。


王族は魔法で水を呼ぶ。貴族は魔法で花を咲かせる。神殿の上役たちは魔法で病を退け、歌を出し、空に光の花火を描く。美しい。本当に美しい。わたしも若い頃は、あの光を見て、ため息をついた。


だが今は知っている。


魔法が引いているのは、世界の根の力──真力だ。真力とは、水が水であるための力、土が土であるための力、風が風であるための力。世界が世界であるために、底の底で静かに流れているもの。それを、魔法は命令で呼び出す。今すぐ現れろ、今すぐ従え、と。


世界は従う。


ただし、代わりに借りる。


未来から。


貴族の庭に咲く花一輪は、百年後のどこかの川の水脈を一本、細くする。王都の空の光の花火一発は、五十年後のどこかの土の力を、少しずつ削る。魔法を使うたびに、世界の未来が痩せていく。川が枯れ、森が消え、土が砂になる。それがこの砂漠の正体だ。


わたしたちが生まれ育ったあの砂漠。屑守と蔑まれて、砂を渡って、ワームを避けて、虫の抜け殻を拾って生きてきたあの土地。あれは、死んだ土地ではない。搾り取られた土地だ。世界が身を守るために、かさぶたを作った結果だ。


魔法は使うもの。使うほど、世界は減る。


---


**真法について**


真法は拾うものだ。


これだけは覚えておけ。


魔法は命令する。真法は、思い出してもらう。


水に「流れろ」と命じるのではなく、水に「あなたはここを流れていたのだよ」と伝える。土に「育てろ」と強いるのではなく、土に「あなたにはこんな役目があったのだよ」と語りかける。


役目。


この言葉が、すべてだ。


世界のものはすべて、役目を持っている。川は水を運ぶ役目。根は砂を固める役目。虫は土をほぐし、草の芽を助ける役目。夜露甲虫は葉のかわりに水を集める役目。砂ワームは川のかわりに砂の下で水脈を掘る役目。砂漠の生き物たちは、役目を失いながらも、別の役目を見つけてしぶとく生きている。


真法拾いは、その役目の記憶を拾う。


砂に沈んだ旧集落の石に触れれば、かつてそこに流れていた川の記憶が流れ込んでくる。枯れた骨のような木の根に触れれば、かつてそこに広がっていた森の痛みがすり抜けていく。


それは楽ではない。


記憶は重い。飢えた土地の飢えが体に入る。涸れた水脈の渇きが喉を焼く。真法は便利な力などではない。世界の傷を引き受けながら、それでも拾い、つなげ返す力だ。


---


**制限について**


真法拾いは、一人につき二つの役目までしか深く持てない。


なぜか。


世界の記憶は、一人の人間が抱えられるよりも、はるかに古く、はるかに重い。二つを超えて抱えようとすれば、人は世界に呑まれる。自分という輪郭が溶けて、記憶の海に消える。戻ってこられなくなる。


アルブ。お前は水と土だ。


水が流れ、土が受け止める。お前の目は、砂の湿り気を見つける。石の冷たさを読む。土の匂いから水脈を嗅ぎ当てる。それがお前の拾う力だ。


マブロ。お前は火と風だ。


火が灯り、風が運ぶ。お前の体は、黒砂の熱を感じ取る。風の向きを皮膚で読む。嵐の前の匂いを知っている。それがお前の拾う力だ。


二人は別々の役目を拾う。


だから二人でなければ、最初の真庭は作れない。


---


**真庭について**


真庭──マニハとは、水と土と虫と草と人がつながり直す場所だ。


オアシスではない。泉ではない。水さえあればいいのではない。


水が土に染み込み、土が根を育て、根が虫を招き、虫が草を助け、草が人の手の届く場所に実をつける。それぞれの役目がつながり直す場所。それが真庭だ。


そのためには、水の役目と、土の役目と、火の役目と、風の役目が、一つの場所でつながらなければならない。


アルブだけでは作れない。マブロだけでは作れない。


二人で、拾え。


---


わたしはもうすぐここを離れる。


でも灯台の火は消えない。消してはならないから。


お前たちがどこにいても、この光は届く。真法はそういうものだ。消えたものが消えたふりをして、でも記憶の中でまだ役目を果たしている。


拾ったものは、つなげ返せ。


最初の真庭を作りなさい。二人で。


---


*(これはばーちゃんの手による記録の一部である。灯台の油煙で黄ばんだ紙に、丸くゆっくりとした文字で書かれていた。最後の行だけ、少し筆が震えている。)*



村に戻った双子を待っていたのは、涸れた井戸と、王都からの噂だった。──「魔法祭の光が今年は三日三晩続いた」と人々は言い、その三日三晩の間に、もう一本、村の水脈が細くなっていた。ばーちゃんの記録を胸に、アルブとマブロは砂の外へ踏み出す。最初の真庭を、作るために。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は幕間として、ばーちゃんが残した記録を通して、魔法と真法の違いを整理する回でした。


魔法は使うもの。

真法は拾うもの。


この対比は、この物語全体の中心にあります。


魔法は美しく、便利で、人を驚かせる力です。

けれど、その裏では世界の未来が少しずつ削られている。


一方で真法は、派手な奇跡ではありません。

失われた役目を拾い、傷ついた世界にもう一度思い出してもらう力です。


そして、アルブは水と土。

マブロは火と風。

二人でなければ、最初の真庭は作れない。


次回からは、ばーちゃんの記録を胸に、双子が村へ戻り、最初の真庭づくりへ進んでいきます。


魔法と真法の違いや、ばーちゃんの言葉が印象に残りましたら、感想で教えていただけると嬉しいです。

少しでも続きが気になりましたら、評価やブックマークで応援していただけると励みになります。

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