十八、命の価値
十八、命の価値
泣きじゃくる鶴を出雲の神使が引き摺り、兎の前に膝まずかせる。兎、帯刀している。
兎 ええい!愚か者が!
兎、鶴の顔を蹴り飛ばす。
兎 貴様!何をしでかそうとしたか、わかっておるのか⁉ 神をその手に掛けようなどと!
兎、鶴の胸ぐらを掴む。
兎 なんてことをしたか、わかっておるのか!
鶴 理解しております!
兎 ならば何故、そのようなことを!お前はもう少しで、神使から、それ以上になれたというのに!
鶴 そんなものどうでもよいのです!
兎 どうでもいいとは⁉ なあ、鶴!今まであんなに頑張ってきたというのに、それが一体何故
鶴 全てこの日の為! 全ての努力はこの日の為だったのです! それが、叶わぬのならば! もうどうとでもよいのです! 人間なんざクズばかり! そんなゴミ共の為に、あの方が、何故心を痛めねばならない⁉ 何故、祈りを捧げなければならないのですか⁉
兎 鶴!
鶴 どうしてなのです⁉ なんで!なんであの人がアイツらを助けなければいけないのですか⁉ 彼を追い詰めた、人間どもではありませんか!
兎 …
鶴 彼がそんな業を背負わなくてもいいではありませんか…そんな神などあまりにも…苦しいではありませんか
兎 鶴…
兎は鶴の肩に手を置き、目線を合わせて諭す。
兎 なぁ鶴よ…彼にそれほどまでに心を砕いても、お前は気付けなかったのか? 神にはな…なるべき者が、なるべくして、なるのだ。悲しく、苦しく、そして強い彼だからこそ、人々の救いなり得たのだ。なるべくして、かれは神になったのだ。そのような存在を、貴様如きが崩せるわけないだろう。
鶴 それでも私は、あの人に幸せな人生を歩んでほしかった
兎 お前は本当に…
天照来る。兎、天照に向かって跪く。
兎 どうか、どうかどうか御寛大な処置を。此奴は罪を犯しました。ですが、それは、人を思いこそ。どうか! だから、どうか!
天照 それでも、罪は裁かれねばなりません。
鶴 もうよいのです
兔 鶴
鶴 死ぬ覚悟はとうに出来ております。
兎 …なら…ならば、その役目、私が……本当に、本当に、よいのだな。鶴。
鶴 …
兎、刀を抜き上段に構える
天照 最後に何か、言い残すことはありませんか?
鶴 一つだけ。
天照 …それは?
鶴 私には夢が出来ました。
天照 夢。
鶴 愚かな夢で御座います。……あの者達と共に生きる。生きてみたい。そんな願いに気がついてしまったのです。あの人たちが、うらやましい! 遠くから見ているなんて、嫌だ! 一緒に生きてみたい! 人ならば細やかな希望でも、いいえ、例え人だったとしても、こんな私には出過ぎた望みで御座います。あの人の幸福よりも、それを望んでしまった私には、何かをなし得る事など、最初から出来るわけが無かったのです。わかっております。わかって、いるのです。それが、私だったのです。私の…
兎 そんなこと…いや、そういう手に入らない当たり前は、尊いものよな。
鶴 ……はい。
鶴は首を差し出す。
兎、意を決するが、天照に静止される。兎、天照を見て表情を緩める。
兎 なぁ鶴。成し遂げることが、全てではないのだぞ。……よいな、忘れるなよ。
刀を収め、深々と天照へ礼をして去る。
鶴 …?
鶴、あたりを不安げに見回す。
間。
天照 鶴。貴方の命には、罪を償えるほどの価値は無いのですよ。
鶴 ……
天照 だから、生きるのです。そして、夢を願い、叶わぬ未来を変えようと、贖い続けることが、貴方の贖罪です。その地獄、しかとその身に味わいなさい…さあ、いきなさい!
鶴 …
鶴、戸惑いながら立ち上がる。
天照 いきなさい。
鶴 …。
去り際に、深々と礼。
鶴、去る。
間
天照 私へ…遠くから見てるなんて嫌と、言うやつがありますか。
兎出てくる。
兎 寛大な御処置、感謝いたします。
天照 それはどうでしょうね。この処置の意味は今後の彼が決めること。しかし、私のひっ……孫に大事な教え子との縁を切られて、さぞ悔しいことでしょう。さすが、縁切りの神、とでも申しましょうか。
兎 いいえ、縁切りの神などでは御座いません…あの方は
兔、遠く、とぼとぼと去ろうとする鶴の後姿を見つける。
兔 鶴! ………さらば……いや………行ってこい‼
鶴、意を決して力強く歩みだす。
暗転




