十七、回向
十七、回向
カモメが鳴く。
阿吽猫、出てくる。遠くを見つめている。鶴も遅れて出てくる。鶴は遠く離れた所にいる。
阿 あれは
吽 お役人だ!
猫 返事が来たんだ!
三人、崇徳の元へ駆け寄る。
猫 お役人です!
阿 返事です!返事!
吽 手紙の返事が来ましたよ!
崇徳 ……そうか…
崇徳、立ち上がるが、思いつめた表情のまま動かない。
猫 (ヒソヒソ)どうしたんだろう…
阿 (ヒソヒソ)緊張か?
吽 (ヒソヒソ)緊張だな
崇徳 …俺は、歴史が変わらぬままだったら、この後何を詠ったのだったか…確か、瀬を…瀬をはやみ
阿吽猫 !
阿 岩にせかるる滝川の
吽 われても末に
猫 あ、逢わむとぞ思う!
崇徳 お、お前ら、何故それを?
吽 忘れませんよ!
阿 名作ですから!
吽 過去に聞いたか、未来で聞いたか、
阿 いつぞやだったかなんぞなのですが
猫 ずっと忘れにゃい
阿 俺たちは楽しかったです
吽 ほんとに
崇徳 …お前ら
阿 ん?
吽 なんの話だっけ?
猫 御館様!お役人が、お、御待ちですよ!
崇徳 ……ああ、そうだったな………
間
崇徳 乙若、亀若。
阿、吽、跪く。
阿吽 はっ!
崇徳 天王
猫、跪く。
猫 はい。
崇徳 ……お前ら…本当に…いや、一番の大バカ者は俺だ。
鶴 ?
崇徳 お前ら、良いのだな。
阿吽猫は答えないが、まっすぐ崇徳を見ている。
崇徳 …使者を通せ。面会する。
崇徳が座る。彼を中心に、阿吽猫が控えて座る。鶴もその少し後ろへ座る。
崇徳 ……して、返事は?
使者 …(言葉に詰まっている)
崇徳 返事は如何に?
使者 願いの一切は聞き入れられぬと
使者、手紙と経典を崇徳へ差し出す。猫阿吽が使者を睨みつける。今にも使者へ掴みかかりそうだが、崇徳を見て思いとどまる。
崇徳 …ほう
使者 手紙も、経典も、お返しさせて頂きます。信西様は一切をお、御許しにならず、京都に帰ることは許さないと…何もお受けになはらないと…ひっ
崇徳はゆっくりと立ち上がり、経典を手に取る。
崇徳 私は願ったのだ。この世で親子兄弟同士が憎しみ、厭うて殺し合いをせねばならなかった、その罪が現世で許されぬのであれば、来世こそはと、その願いをここに込め、託したのだ。願うことすら、それすらも許されぬと彼らは申したのか?
使者は低頭している。
崇徳 (傍白) 誰のどんな思いであれ……願うことすら奪われてしまうのは……そんなのは俺が許さない。
崇徳、鶴を見る。鶴は目が合ったことに驚く、。崇徳は、優しく言う。
崇徳 思い上がるなよ、白烏。
鶴 ?
崇徳、使者を蹴り飛ばす。
崇徳 ええい、貴様、私を誰と心得るのか⁉ 天照大御神の血族である正当な後継者と知りながらの狼藉、許せぬ! 金輪際、一切許しなどはせぬ。我が恨み、我が辛み、我が祈りを世へ、伝えよ!
我、日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん!
崇徳、懐から短刀を取り出し、鞘を口に咥え、刀を引き抜き、鞘を投げ捨てる。
崇徳 この経を魔道に回向す!
崇徳、首に刀を突き立て、引き抜く。血で経典が真っ赤に染まる。
崇徳 我等が恨みを知れ!
崇徳、高らかに勝ち誇ったように笑い、経典を使者へ投げ渡す。使者は恐れおののき、猫阿吽は戸惑い、崇徳を止めに掛かる。そのまま彼らがいる場所は暗転し、演者は去る。
鶴だけが、残される。
鶴、うわーんと泣く。




