十三、妖怪襲来
十三、妖怪襲来
鶴 そうだ、皆さんは、何故、あの人と出会えたのですか? もしよければお伺いしたい(話を聞く方の俳優に掌を差し出す)
※上演時は日替わりで猫か阿吽のどちらかの過去を話すこと※
・半 日替わり 子猫流し ~俺は島流されてない~
猫 え。え。お、俺の出会い!?…俺は! 御館様を!た、助けるために! 海のむ、向こうから来た! む、む、む、武者だ!
阿吽、大爆笑
阿 違う違う!
吽 こいつはな!
阿吽 流れてきたんだ!
猫、癇癪を起こす。
暗転。猫、退出。鶴は全体が良く見える舞台上の端へ移動。
明転
阿吽、崖上で釣りをしている。
阿 釣れますかなぁ
吽 釣れませんなぁ
阿 海はどうですかなぁ
吽 青いですなぁ
阿 波はどうですかなぁ。
吽 強いですなぁ。荒れ放題でぐるぐるぐるーってなってますなぁ。
阿 釣れる気がしねぇ! このままじゃ、飯が手に入らねぇなぁ。飯どうするよ。……なぁ…なぁってば
吽 なぁ(遠くを見つめている)
阿 (笑いながら)なぁ、じゃねぇよ
吽 (海の彼方を指さしながら) あれなんだ?
阿 あれ?
地平線の彼方に何か見える。(最初は人形劇のような形で表現する。波や海は人が布をもって表現する。人形サイズ小。海の高さは1番高い。)
吽 なんだろうなあれ…
阿吽、目を凝らして遠くを見る。
吽 こっちに来る…船だな…ありゃ人だ!
阿 大人…じゃねぇ! ちびっこが乗ってる!
地平線の彼方に見えていた何か、ちょっと近づいてくる。(人形サイズ中など、大きくなる。海の高さ徐々に低くなる)
吽 やばいやばいやばい! 見ろよ! アイツ、渦に突っ込もうとしてるぜ! やばい! 死んじまう!
阿 ど、どうしよう! どう…
ちびっこは体を左右に大きく揺らし、渦の周りをぐるんぐるん周り、その遠心力を使ってこちらに近づいてくる。(人形がちょっと大きくなる)
阿吽 すげぇ!
船に乗った影が、ウォー!と吠える。
阿吽 がんばれ~!
波が一層強くなる。小舟に乗った子猫(何回か人形が大きくなると子猫になっている)は必死にバランスを取りながら陸地を目指す。どんぶらこっこ、どんぶらこっこ、と波を表現する。演者がが一丸となって繰り返し歌う。歌い続ける。阿吽は観客に拍手を求めて劇場全部でどんぶらこっこをする。
鶴はそれを無感情に冷めた目で見つめている。(つまんないと思っているお客さんもいるのでその同調先)
しばらくすると崇徳が不思議そうな顔で来る。
崇徳 お前たち、さっきから何盛り上がってるんだ?
吽 見てください(指をさして) あれ!
阿 あいつすごいんすよ!
崇徳 ん?…んんっ?…た、大変だ!
崇徳、ずっこけながら一旦退出。
子猫(人形)、一段と大きい渦に立ち向かう。右、左と体を傾け、とぐるんぐるんと渦に巻き込まれそうになりながらも脱出を試みる。
阿吽 がんばれー!
崇徳 (舞台外) 誰か!船を出せ! 船だ!
阿吽、鼻血を噴出しそうな勢いで子猫を応援する。
子猫、渦からの脱出に成功する! 一回子猫の人形は沈むが、代わりに子役扮する子猫が船ごとざばぁ!と現れる。縄でぐるぐる巻きにされている。あざだらけだ。子猫、勝利の雄たけびを上げる! 子役を持ち上げている黒子超がんばれ!
阿吽、安堵の声を上げて、お互い体を叩き合う。
吽 すげぇなぁ!
阿 あいつすげぇなぁ!
吽 超すげぇなぁ! 助けに行こうぜ!
阿 ここまで来てくれれば俺達でもなんとかなるしな!
崇徳来る。
崇徳 (指さしながら) あーっ!お前らちょっと待…
とう!っと崖から飛び降りる阿吽。ばしゃーんと水音。崇徳、またあいつらやっちまったなぁという顔。
崇徳 どうしてこう……もうっ!
崇徳去る。ここらへんでどんぶらこっこの大合唱が終わる。
阿吽、バシャバシャ泳ぎながら子猫に近づく。子猫、その姿を見て泣きそうな顔を一瞬するが、阿吽を睨みつける。阿吽は船に手をかけて休みながら言う。
吽 お前すげーな!
阿 よく、がんばったな! もう大丈夫だぞ!
阿が子猫を労おうと頭に手を伸ばしたが、子猫にガブっと噛まれる。
阿 ギャー⁉
吽 わー⁉
子猫 (喚き散らす)
阿吽は子猫にかみつかれながらも船を押して陸地へ向かう。
崇徳来る。
崇徳 お前ら大丈夫か!?
吽 はい!なんとか(噛みつかれる)ギャッ!
阿 全然よゆーっす(噛みつかれる)ギャッ!
阿吽が砂浜まで船を押し出すと、子猫は阿吽に目もくれずに下船する。下船の瞬間に阿吽が縄を解いてやる。子猫は警戒してあたりを見回すと、ふらふらしながら逃げ出そうとする。崇徳は、その前に立ちふさがる。
崇徳 よくぞ、生きてここまで参られたな。さ、こっちに来なさい。
子猫 や、や、ややだ!
崇徳 何故だ? 私にお前の勇敢さを労わせてはくれないのか?
崇徳、子猫に近寄ろうとする。
子猫 くんじゃねえ!俺はの、の、の、呪われてんだ!お前ら!に!も!!わざわい!がふりかかるぞ!!!!
崇徳 お前……そうか、そうだな……お前に掛かった呪いとは?
子猫 み、見てわかんねぇのかよ! うつるぞ! お、お、お、お前らにもうつるぞ!
崇徳 うつらぬさ。
子猫 うつっちゃうぞ!
崇徳 大丈夫だ
子猫 呪うぞ!
猫は怒鳴ると大きくふらつくが、意地でも倒れない。崇徳は悲しい顔をして猫に近づき、猫の頭をぽかっと叩く。
崇徳院 たわけが! ほら見ろ!(手を見せる) 俺にうつってなどおらぬではないか! それに呪いならば解けば良い!さあ、来なさい。
子猫 呪うぞ!
崇徳 なら呪ってみなさい。さあ! 今すぐに!
子猫 ううっ
崇徳 出来ないじゃないか。さあ、来なさい。
子猫 で、でも!俺!お、俺‼
崇徳院 いいから
子猫 でも
崇徳院 お腹が空いただろう
子猫 …
崇徳院 喉が渇いただろう
子猫 …
崇徳院 そんな弱っている童に呪われてたまるか。ほら、来なさい。
崇徳は子猫に手を差し出す。子猫、頷き、手を取る。
崇徳院 そうだ。腹が膨れたら、儂を呪ってみなさい。出来たら、もっと腹いっぱいにしてやろうじゃないか。は、は、は。
崇徳院、小猫、去る。猫、代わりに入ってくる。
猫 そ、そのあと頑張ってみたけど呪えなくってさ。行くとこもなかったし、今に至る、という訳だ。
阿 あん時おもしろかったよなー
吽 あん時のは忘れらんねえなー
阿 どんなんだっけ
吽 もっかいやってみ
猫 はっ!
猫、手から何か出そうと構える(かめはめ波的なのとかそういうポーズ。なんでもいい)。阿吽、呪いを全身に受けようとする。しかし何も起きない。
猫 ……お、俺、呪いなんてできねぇ
阿吽 だよなー
阿吽猫は笑い合う。
鶴 口減らしと…医学知識の欠如から忌避された結果島流し……と。
阿 いがく云々はわかんねぇけど
吽 そんなところか?
猫 で、も、こっちのほうが、楽しいから、よかった!
・丁 日替わり 双子落とし
阿 俺達があの人と出会った話?
吽 なんだったっけか。ああ、あの時は物凄く酔っぱらってたんだわ。
鶴 またお酒の話ですか……
猫 ?
阿吽猫、不思議そうな顔をしながら退出。
海の波が強かに崖を打つ音が絶えず聞こえる。
幼少期の阿吽が崖の上から海を見ている。子役。ふらふらしている。酔っている。
阿 たかいね。
吽 たかい。
阿 やばー
吽 めっちゃたかー
二人、爆笑する。
阿 ぜったいいたいよ!
吽 そうだよな!ぜぇったい、いたい!
阿 よし、とぼう!
吽 そうだな、とぼう!
決心して飛び降りようとするが、すんでの所で思いとどまる。
阿吽 こわい!
二人、爆笑しながら「こわい」「こわい」「出来ない」と言い合う。
吽 でもやらなきゃだめなんだ
阿 そうだな。おれたちは、そのためにいるんだから
二人は手をぎゅっと握り合う。二人は満面の笑みで言う。
阿吽 いこう
崇徳 待てェ!
息も絶え絶えな崇徳が現れる。
崇徳 待て…ま…はぁはぁ…待って…待ぁってくださぁい
阿吽はそれを見てキャキャキャと笑いながら崖下に落ちようとする。
崇徳 お、お願ぁいだからちょっと待て。まってぇください。お前ら、何をしているのだ
吽 しかたないなぁ
阿 ほんとにさぁ。で、おじさん、なに?
崇徳 俺のことはいいんだ。お前たち何をしようとしていたのだ
阿 (崖下を指さし、)ちょっとそこまで
崇徳 やはりな…急いで走ってきて正解だったぞ……崖から飛び降りてどうするというのだ?
吽 ちょっとぐちゃっと
崇徳 死んでしまうではないか!
阿 そうしなきゃダメってみんないうから!
吽 そのために生まれてきたからって!
崇徳 (自問自答するように)こんな子供たちを…わかった…いや、わかんねぇから一旦整理するぞ…するとなんだ、お前たちは、死ぬために育てられたと、それで、何故死なねばならぬのだ? 何のために?
阿 なんでだっけ
吽 なんだよーかみさまにおねがいするためだろー
阿 そうだったそうだった!
吽 ふたごはふしぎでだいじだから。
阿 おれたちがやるしかない
吽 じゃっ(飛び降りようとする)
崇徳 待たれー待たれよ、お主ども。
阿吽、ちゃんと待つ。
崇徳 その神とはなんだ?
阿 なんだっけ? うみのかみさま?
吽 そうそう、うみのかみさま。あと、ほーじょーのかみさま。
阿 それそれ! そのかみさまにおねがいするんだ!
吽 みんなおなかがすいてるから!
阿 おねがいにはおれたちがひつよう。
吽 そういうわけです(飛び降りようとする)
崇徳 わかったわかったからちょっと待てってば! その神様とは、その名は?
阿 うーん
吽 なんだっけ?
崇徳 名は綿津見神ではないか?
阿 そうだったっけ
吽 たしかそんなかんじ
阿吽 なまつみのまもと (ふたり、言えてないがそれっぽい名前をそれぞれ適当に言う)
崇徳 よしっ! 俺はな、そのひぃひぃひぃひぃひぃひぃ……(白目剥くぐらいためて)……曾孫にあたる者だ。
阿吽 えーすご! かみさまだ!
崇徳 いや、神様ではないのだが……まぁ、この際はいいか……なぁお主ども、そのひ……(ためて)……孫が言うのだ。私の生贄として、こちらに来ぬか?
阿吽 ……
崇徳 (二人に目線を合わせて諭すように言う) 何も、飛び降りることはないだろう。お前たちも本当はこんなことやりたくないだろう。
阿吽 …
崇徳 俺は神のひ………孫としてお前たちの命が、労働力として欲しい。
阿 どうしよう
吽 とびおりないとわざわいが
崇徳 しぶといな…よし…(海の方を向いて大声で) すまないなぁ! 祖そそそ……(祖父)…どの! 曾………孫が貴方様の生贄貰い受けさせて頂く! どうか、私に免じて海を沈め、豊穣をお約束下され! 孫の望みも我儘すらも叶えられぬ血縁ならこちらから願い下げじゃ馬ァ鹿! 失礼口が滑りましたが我が親子とも違う懐の深さを見せてくださいませ! 宜しくお願い申し上げまする! ……よし、これでいいだろう。行くぞ。
阿吽 え
阿吽は『どうする』『どうしよう』とまごつく。
崇徳 いいから来るのだ。こんな所で死んでしまうなど勿体ない。飯なら俺がなんとかしよう。これ以上俺の前で人を死なせてたまるか。
崇徳は物凄い猫背になって阿吽の手を掴み、猫背のまま帰ろうとする。
崇徳 いくぞ…しっかしお前ら酒臭いなぁ…
阿吽 はー(息を吹きかける)
崇徳 やめんか!
小さな阿吽は崇徳に手を引かれながら楽しそうに笑う。阿吽は繋いでいない方の手で目をこすってから退出する。
いつの間にかデカ阿吽が出ていて、三人の成り行きを見つめている。
阿 そんな感じだったかなぁ。
吽 そんな感じだったなぁ。
鶴 そうですか…人身御供の…
猫 なにそれ
鶴 忘れられたシキタリってやつですね。
猫 ふーん。(わかっていない)
吽 というわけで、俺たちはあの人の手伝いをしているっていうわけだな。
鶴 ご家族は…
阿 あれで戻れるわけないって!
吽 今があるからいいんだ!
阿吽は大声で笑う。
※日替わりここまで※
鶴 然し、貴方達は何故こんなにも前向きなのでしょうか?
猫 そうか?
阿 これが普通だ!
吽 いつも通りだ!
鶴 これからもずっと変わらないのが不思議でなりません。それで、皆さんはその後から崇徳様にお仕えしているという訳ですね?
猫、うなずく。
吽 そんな感じになったのはいつからだっけか?
阿 名前じゃね?
吽 そうだそうだ!俺たちは、御館様から名前を頂戴したんだ!
阿 なんでも、先の戦で命を落とした者の名だそうだ。
吽 その者の分も生きねばならぬと意味を頂いたのだな!
阿 だから俺たちはそれを出来る限り頑張ってみようと思ったんだ
猫 おれ、も。
鶴 ……なるほど。
阿、吽の肩をバン!と叩く。吽、よくわからないが阿の肩をバンと叩き返す。
阿 そろそろ釣りに行かねぇと食うもんがねぇ。
吽 そーだったそーだった。ほんじゃま、俺達行かないと。
猫 …ゆっくりしてけよな
阿吽猫はそろって仲良く退出。
鶴 昔の話……ですか。




