十、松山
十、松山
明転
崇徳、寝ている。何かに驚いたように飛び起きる。口元をぬぐいながらあたりを見渡す。
崇徳 ここは⁉ どこだ⁉
飛び起きて進み出る。海の音が聞こえる。
崇徳 ………真坂
鶴が跪く。
鶴 四国、松山に御座います。
崇徳 そうか……戦までは戻れなかった…いや戻らなかったというのが正しいか
鶴 ここから数日後、歴史の分岐点が御座います。そこで、今一度
崇徳 待て…何か聞こえぬか?
鶴 ……童の声?
崇徳 まさか…また会えるとは…!
崇徳、バタバタと退出。
鶴 行ってしまいました。…よかったんです、これで。きっと。
間
法螺の音が聞こえる。
鶴 おや
阿 (OFF)曲者だ! 者共! であえ!であえ!
座組が一丸となって鬨の声を上げる。座席外(劇場外)の空間を、手が空いている演者たちが鬨の声をあげながら走り回る。バタバタ走り回る。
手に法螺貝を持った吽、阿、猫が颯爽と現れる。猫は琵琶を背負っている。阿吽は顔を布で隠している。
人がもっと沢山出て来そうな気配がするが、気のせいである。
阿 すくねぇ!(釣り竿を構える)
吽 (法螺貝を構えながら) 仕方ねぇ!
猫 (鶴を指さして)おまおっおっおまえっ! (琵琶を構える。Yngwie MalmsteenのFire & ICEっぽい) なななななな(んだ)!
鶴 みなさん! この時代からあの方と一緒だったんですね
吽 ん? 知り合いか?
阿 いや。
鶴 (しまったという感じ) あ
猫 し、しらねぇ! な、ななんだお、お前!
鶴 私は
吽 …白い毛…お前、もしかして
阿 お前も
崇徳、小脇に小さな狛犬の像を1対抱えて戻ってくる
崇徳 見てくれ鶴! 懐かしい! それに俺の子も………(阿吽猫に気が付いて)おや、お前たち、何をしてるんだ?
猫 御館様!
吽 (鶴を指さして)なんかいます!
阿 とつぜんなんか白いのが!
崇徳 そうか、この時代のお前たち……あーそうだったなぁ…お前らは昔っからこうだった……(改まって)こいつは俺の客人だ。存分にもてなせ。仲良くしろ。
3人は構えていた物を下げる。
吽 やはりそうか!
阿 我々の仲間だろうと思ってたんだ!
崇徳 お前らほんと調子いいな
猫 お、御館様が言うなら…
阿吽猫 すいませんした!
鶴 いえ、此方こそご挨拶が遅れました。鶴と申します。
吽 鶴!
阿 めでたい名前だな!
猫 (人見知りしている)
崇徳 …あの声は…!
崇徳、何かを聞きつけて、喜び勇んで退出。
吽 なんだか本日はご機嫌だな。
阿 良い歌でも詠めたんじゃないか。
猫 (人見知りをしている)
猫は阿吽に両端からバンバンどつかれる。
吽 (ヒソヒソ声) お前いつものおしゃべりはどうした
猫 (ヒソヒソ声) だ、だってよう
阿 (ヒソヒソ声) 人見知りするだけ時間の無駄だぜ
猫 (ヒソヒソ声) だ、だってよう…俺達ののこと、こ、こわいだろ
吽 (ヒソヒソ声) あーかもしんねーな…
阿 (ヒソヒソ声) 無理もねぇ…
なんだかよそよそしい空気感が漂う。皆、どうしようかと探り合う。阿吽は愛想を振りまく。猫はもじもじする。
鶴 (咳) 以前、私はあの方に助けて頂いたのです。
阿吽猫 !
鶴 皆さんもそうでしょう?
吽 お、おお! そうだ!
阿 よくわかったな! お前頭いいな!
猫 (人見知りをしている)
鶴 突然現れて、こんなお願いをするのは大変恐縮なのですが…予定まで時間があるのです。あの人のこと、教えてくださいませんか?
吽 御館様のことか?
鶴 ええ。助けて頂いたのに、あの方のこと殆ど何も知らなくて。
阿 それならちょうどいい!
吽 もてなせと言われているしな!(猫をつついて)おい。
猫 (もじもじしている)
吽 あーもう!
吽は、猫が紐で下げている琵琶を遠心力で一回転させる。猫は琵琶が手前に戻って来た時に、それをキャッチして、すぐに歌いだせるような姿になる。
猫 え。
阿 (鶴へ向かって)丁度いい。今、作ってる最中なんだ。
吽 あの方の話だ。
阿 あの方の凄さを語り継ぐ為の、俺達の歌だ。
猫 ……
吽 歌えって
猫 でも
阿 いいから歌えって
猫 で…でも
鶴 あまり緊張なさらないで。貴方の演奏で、崇徳様は素晴らしい舞を納められていました。いえ、あの方は貴方の演奏を信頼しているご様子。じゃなくて、えっと、そんな話を伺いました。だから、教えてください。
間。阿吽は猫の動向を見つめている。
猫 (頷く)
琵琶の音が響き始める。
鶴 (傍白) あの人を知れば、あの人の心へ届く言葉がきっと見つかるのです。私は、あの方に伝えたい。どれだけ、感謝しているか、どれだけ、あの人に救われたのか。どれだけ、それを返したいと思っているのか。私は、あの人に、どうしても伝えたいのです。私の言葉が、届かなくなる前に!




