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王冠の亡命――八百日の建国戦争  作者: シルヴァン・レーデル


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第二十六話 地下の首都



 キミロフには、地上と地下に二つの戦場があった。


 地上では戦車と歩兵が交差点を奪い合う。


 地下では、帝国軍が地下鉄の保守線を使って、戦闘員と弾薬を移動させていた。


 どちらか一方だけを押せば、背後へ出られる。


 帝国軍は道路地図と地下鉄図面を重ねて使った。公国軍は、占領中に変更された箇所を知らなかった。

 占領軍は保守用の扉を溶接し、別の壁を抜き、使われていなかった排水路へ仮設レールを通している。


 公国側にあるのは、戦前の図面と逃げてきた地下鉄職員の記憶だけだった。


 図面では通れる場所が壁になり、壁のはずの場所から銃弾が来る。


 都市の地下では、地図の古さそのものが兵器になった。


    *


 午前七時。


 公国軍は西部物流団地から三方向へ進んだ。


 北隊は空港連絡線。中央隊は中央駅。南隊は浄水場と変電所。


 行政区へ直進する部隊はない。


「宮殿を先に取らないのですか」


 若い幕僚が尋ねた。


「取って何をする」


 ホロボロドコは答えた。


「玉座へ座って、断水した市民に拍手させるのか」

 ホロボロドコは三本の進撃線へ優先順位を書いた。


 一、浄水場。


 二、西部変電所。


 三、中央駅。


 宮殿は欄外だった。


「南隊へ化学防護班を追加。工兵爆破は禁止。塩素設備の配置を技師に確認させろ」


「進撃速度が落ちます」


「水を毒にして早く着く意味を教えてくれ」


 若い幕僚は黙った。


 ホロボロドコは責めなかった。地図では浄水場も宮殿も同じ四角形だ。片方は写真になり、片方は蛇口から水が出るだけで終わる。


 軍人は、写真になる目標を高く見積もりやすい。


 だから指揮官が順番を直す。


    *


 南隊が最も重かった。


 帝国軍は浄水場の塩素設備へ爆薬を仕掛け、遠隔起爆器を持っている。公国軍は砲撃できない。突入班は保守会社の技師二人を伴い、薬品庫を迂回して制御棟へ入った。


 制御棟へ続く渡り廊下で、帝国兵のAK-74Mが三点射を浴びせた。


 最初の弾列は手すりを削り、亜鉛めっきの破片を白く跳ねさせた。二列目が配管を叩く。細い薬液管が裂け、刺激臭を含んだ霧が床を這った。


 突入班はコンクリート柱の陰へ滑り込み、PKMの短い制圧射撃で窓を黙らせる。撃ち返すたび、閉鎖空間の発砲音が胸骨まで戻ってきた。


 その間に、技師の一人が負傷した。

 負傷した技師はマクシムという四十代の男だった。


 弾は左上腕を貫通した。衛生兵が止血し、後送しようとすると、マクシムは右手で配管図を掴んだ。


「私が抜けたら、青と緑を間違える」


「色なら無線で聞ける」


「占領軍が札を貼り替えた。色ではなく、溶接痕を見るんだ」


 突入班長は三秒考えた。


 負傷者を現場へ残す危険。代わりの技師が来るまでの時間。誤った弁を開けた場合の塩素漏洩。


「本人が歩ける間だけ同行。衛生兵一名を付ける」


 英雄的な残留にはしなかった。


 意識が落ちれば終わり。出血が増えれば終わり。条件を決め、その範囲で専門知識を借りる。


 マクシムは負傷した腕を吊りながら、制御棟の扉へ進んだ。


 起爆器を持っていた帝国士官は射殺された。


 爆薬は残ったが、送信機は止まった。


 技師は負傷した腕を吊りながら、配管の弁番号を一つずつ読み上げた。突入班には同じ数字がどの薬品へ繋がるのか分からない。銃を持たない一人が、部隊全体の進む順番を決めた。

「四二番は触るな。表示は排水だが、実際は塩素気化器へ繋ぎ替えられている」


「なぜ分かる」


「溶接が新しい。私の班はこんな汚い仕事をしない」


 銃撃の中でも、職人の悪口だけは正確だった。


 突入班は四二番弁を避け、手動遮断器へ回った。遠隔起爆器を持つ帝国士官が倒れても、配線された爆薬は残る。


 工兵が一本ずつ回路を追う。


 赤い線を切ればよい、と映画なら言う。


 現場には赤い線が十四本あり、うち九本は囮だった。


 浄水場が確保されたのは午前九時二十四分。給水の再開には、さらに半日を要すると見積もられた。


 マクシムは担架へ載せられる前に、処理水槽の採水を求めた。


「爆薬は外した。もう仕事は終わりだ」


 突入班長が言う。


「銃を止めたのはそちらの仕事です。水を流せるか決めるのは、まだこちらの仕事だ」


 透明な瓶の水は、見た目だけなら戦前と変わらなかった。残留塩素、濁度、酸性度。携帯測定器の数字が安定するまで、マクシムは右手だけで記録した。


 蛇口から出る水は、敵味方を識別しない。占領軍の兵も、地下に隠れた市民も、同じ本管から飲む。


 弁を開ければ、公国軍の区域だけへ届くわけではなかった。


「東系統も送水しますか」


 技師が尋ねた。


 突入班長は本部へ判断を上げようとした。マクシムが先に配管図の一点を示す。


「閉めれば圧力が西へ回る。ただし東の病院も止まる」


 敵兵がいる区域へ水を送ることになる。


 それでも病院だけを配管から切り分ける弁はなかった。都市設備は、戦線に合わせて造られていない。


「東も開ける」


 班長は決めた。


「送水時刻と流量を記録しろ。向こうが軍用に転用したら、その時に絞る」


 正しさではなく、後で変更できる決定を選んだ。


 午前九時四十一分。主送水ポンプ一号が回転を始めた。床下から低い振動が上がり、配管の中を空気が走った。


 マクシムはその音を聞いてから、担架へ横になった。


「軸受が鳴いている」


「病院で言え」


「病院の蛇口へ水が着くまで、故障しなければいい」


 止血帯の下で腕は痺れていた。彼が最後に見たのは国旗ではなく、圧力計の針だった。


    *


 中央駅では、降伏交渉が続いていた。


 帝国守備隊は約千三百。負傷者と避難住民を同じ地下ホームへ入れている。


『重火器を捨てれば、負傷者を搬出する』


 公国側の呼びかけに、帝国指揮官は二十分応答しなかった。


 その間にも、別の地下線から帝国兵が南へ移動している。


「待っている間に逃げられます」

 ヴォロディミルはA-50U早期警戒管制機の戦術卓で、中央駅周辺の熱源を見た。


 列車は止まり、ホーム照明の半分が消えている。地下の人員までは見えない。


 逃げる帝国兵三百を閉じ込めるため、避難住民と負傷者を含む千人以上へ突入するか。


 答えは数字だけでは出ない。


 だが、決断の期限は数字で決められる。


「地下線の出口を何か所押さえた」


『西側二、南側一。東線は未確認です』


「東へ逃げる経路は残る」


『はい』


 包囲は完成していない。


 完成を待てば、駅側は時間を使って爆薬を増やす。今突入すれば、逃げ道から兵を逃がす。


 完全な包囲という言葉は、現場へ届く頃には古くなる。


 現場指揮官が言った。


「分かっている」


 ヴォロディミルはA-50Uの戦術指揮卓で答えた。この日はSu-35BMウラルを地上へ残し、市街戦の航空調整と各部隊の位置把握を優先していた。


 大型機は首都西方で緩い楕円を描き続けている。旋回のたびに床がわずかに傾き、固定されていない鉛筆が卓上を数センチ転がった。画面上の記号は整然として見えるが、その下では地下鉄の壁一枚を挟んで人間が撃ち合っている。


「駅を砲撃すれば、住民も死ぬ。待てるのはあと十分。それを伝えろ」


『十分回答がなければ突入する。負傷者の安全は保証できない』


 慈悲ではなく、期限つきの取引だった。


 七分後、駅構内から白布が出た。

 白布を持って出てきたのは、帝国軍の軍医だった。


 武器を持たず、両手を見せ、ホームに負傷者が百二十以上いると告げた。


『指揮官本人ではありません』


 現場指揮官が報告する。


「軍医に降伏権限はない。武器集積と指揮官の署名を要求しろ」


『時間がかかります』


「あと三分だ」


 二分後、帝国指揮官の署名が届いた。本人は現れなかった。東線から逃げたと考えられた。


 ヴォロディミルは降伏を受理した。


 指揮官を逃した代わりに、ホームの負傷者と住民を砲撃から外す。


 戦果表には、取り逃がした名前の方が大きく見えるだろう。


 駅の床に寝ている人間へ、戦果表は届かない。


 降伏したのは九百八十二人。


 残る者は保守線から東へ逃れていた。


 公国軍は駅を取った代わりに、東岸の敵を増やした。

 駅の降伏を受けた部隊は、地下ホームへ入った。


 照明は非常灯だけだった。負傷者、帝国兵、避難住民が柱の間へ混在し、武器集積場所まで担架が並んでいる。


 帝国兵の一人が小銃を渡さず、胸へ抱えていた。


「弾倉を外せ」


 公国兵が命じる。


「これは俺のだ」


「帝国軍の官給品だ」


「三年持っていた」


 兵は子供のような理屈を繰り返した。


 公国側の分隊長は銃口を向けず、隣の負傷者を見た。帝国兵の右脚には止血帯が巻かれている。立てない。


「弾倉と薬室を空にすれば、担架へ載せる。渡さないなら、ここで武装捕虜として監視する」


 帝国兵はしばらく銃を抱き、やがて弾倉を抜いた。


 勝者の命令へ従ったのではない。治療される方を選んだだけだった。


 降伏は忠誠の変更ではない。


 人間が、生き残るために次の手順へ移ることだった。


 勝敗欄は「確保」。備考欄には「敵約三百、地下線へ離脱」。一語の勝利には、長い但し書きが付いた。


    *


 午前十時三十分。


 首都上空へ帝国航空隊の最後のまとまった攻撃が入った。


 Su-34六機。護衛はSu-35S八機。


 目標は公国機甲部隊ではなく、奪還された浄水場と西部変電所だった。


『やることが分かりやすいね〜』


 シェレメートが言う。


『取り返せないなら、使えなくする〜』


『護衛機を止めます』


 ソーコルの声が重なる。


 公国側のMiG-29OVTとF-2Aは二方向から迎撃へ入ったが、全機を止められなかった。


 Su-34二機が攻撃線へ入り、KAB-500S誘導爆弾を投下する。

 シェレメートのMiG-29OVTは一機の後ろへ食いついた。


 距離九キロ。敵機の胴体下から爆弾が離れる。


 灰色の弾体は一瞬だけ親機と並んで飛び、機首を下へ落とした。翼が開く。投下された時点で、撃墜しても地上へ届く質量は消えない。


『遅かった〜』


 口調はいつもと同じだった。


 シェレメートは操縦桿を引き、機首を上げた。耐Gスーツが脚を締め、視界の縁が暗くなる。R-73の照準環へSu-34を入れると、敵機はフレアを扇状に撒き、Su-35Sが彼女の後方へ回った。


 ここで撃てば、一機は落とせる。


 そのまま追えば、自分も護衛機の射線へ入る。


 落とした一機は、もう爆弾を投下している。


 シェレメートは発射ボタンから親指を外し、機体を左へ叩き込んだ。


 MiG-29OVTの推力偏向ノズルが噴流を曲げ、機首だけが速度ベクトルより先に回る。翼端から白い凝結が千切れ、空気抵抗で機体が震えた。降下へ移ると、ビルの屋上が横向きに視界を流れた。


『ソーコル、後ろを一機お願い〜』


『捕捉しています。左へ離脱してください』


 ソーコル機のレーダー照射を受け、Su-35Sが回避へ入る。チャフが銀色の帯を引き、シェレメートの警報音が途切れた。


 撃墜より、生きて次の攻撃線へ戻る。


 その選択が正しいと分かっていても、落下する爆弾を見送った感触までは消えなかった。


 一発は変電所の開閉設備へ命中した。


 遮断器架台が白い閃光の中で折れ、碍子が散弾のように飛んだ。変圧器の鋼板が膨らみ、遅れて黒い絶縁油が噴き出す。送電線は張力を失い、火花を引きながら道路へ垂れた。


 もう一発は浄水場を外れ、隣接する集合住宅へ落ちた。


 爆弾は建物東側を斜めに貫き、内部で炸裂した。外壁が一枚の板のように膨らんだあと、五階から八階までが順番に落ちる。ベランダ、家具、断熱材が灰色の雲へ巻き込まれ、最後に屋上の給水槽が傾いた。

 シェレメートのレーダーには、集合住宅の形は映らない。


 爆発点を示す座標と、上がった煙だけだった。


『着弾一、浄水場南西。民間区画の可能性』


「可能性じゃないよ〜。建物が崩れてる〜」


 彼女は旋回しながら地上を見た。道路へ人が走り、灰色の煙の中へ小さな車両が集まっていく。


 敵機を追えば、もう一度攻撃できるかもしれない。


 上空へ残れば、救助路へ来る次の機体を止められる。


『全機、浄水場上空へ戻るよ〜。追撃なし〜』


 軽い声で命じた。


 怒りまで軽かったわけではない。怒りを操縦桿へ入れれば、機体は予定外の方向へ飛ぶ。


 公国側の救助隊は、まだ帝国兵と撃ち合っている道路を逆走した。

    *


 正午前、ソフィアは浄水場南西の被害映像を受け取った。


 集合住宅は東側の五階から八階が崩れ、階段室が塞がれている。救助隊は西側から進入。帝国兵の狙撃が二度あり、周辺部隊が火点を抑えた。


 映像を感情として受け取れば、次の命令が遅れる。


 建物構造、残存空間、救助経路、二次崩落。確認可能な項目へ分ける。


「市消防の構造技師を呼んでください。軍工兵だけで梁を切らないこと」


「戦闘地域です」


「だから必要です。爆破で穴を開ければ、生存空間を潰す可能性があります」


 ソフィアは次に、空軍と地上軍の時刻記録を同じ画面へ並べた。


 帝国機の進入。


 公国軍による浄水場確保。


 爆弾投下。


 集合住宅着弾。


 順序を変えない。評価語も付けない。


 正午までに救出されたのは二十三人。死亡確認十一。瓦礫の下の人数は不明。


「帝国の誤爆、と発表できます」


 広報担当が言った。


「爆弾は帝国が落とした」


 ソフィアは答えた。


「ただし、こちらが浄水場を軍事拠点として使い始めた事実も消えません。質問されます」


「どう答えます」


「事実を時系列で出してください。正義の話は後です」


 広報担当は不満そうに端末を閉じた。短い見出しには向かない回答だったが、崩れた集合住宅は見出しより長く残る。


    *


 午後二時。


 行政区の帝国軍が撤退を始めた。


 橋を渡って東岸へ移る部隊と、地下へ潜る部隊。公国軍は橋を爆破しなかった。東岸へ追撃するためにも、住民の移動にも必要だった。


 結果として、帝国軍約二千人の退路も残した。


 中央広場へ公国旗が上がる。

 ホロボロドコは旗を止めなかった。


 掲揚を急げとも命じていない。現場の兵が瓦礫から見つけ、通信塔へ結んだだけだった。


 旗は役に立たない。


 それでも、どの側が道路を管理しているかを住民へ知らせる機能はある。象徴は、使い方を限定すれば標識になる。


 問題は、それを勝利の証明だと思い始める者が出ることだった。


 歓声は起きた。


 同じ通りの奥では、略奪を疑われた男が群衆に殴られていた。占領当局へ勤務した市職員の名簿が貼り出され、家族まで囲まれた。


 憲兵が群衆を止める。

 ホロボロドコは現場映像を見ながら、憲兵中隊をもう一個広場へ回した。


 前線から兵を抜けば、東岸の封鎖が薄くなる。


 抜かなければ、群衆が協力者と疑った者を殺す。


「憲兵は武器を見せろ。発砲はするな。拘束対象者を市庁舎地下へ移せ」


『群衆が引き渡しを求めています』


「引き渡したら、次は家族を出せと言う。線を引け」


『こちらへ投石があります』


「盾を使え。投げた者の映像を残せ。今は追うな」


 帝国軍へ向けるはずの装備で、市民から市民を守る。


 兵には納得しにくい命令だった。四十五日前に家族を連行された者もいる。


 ホロボロドコ自身、復讐を理解できないわけではない。


 理解できることと、許可することは別だった。


 国家が復讐を独占するのではない。証拠と手続を独占しなければ、強い群衆が裁判官になる。


 その最初の費用として、東岸封鎖の一個中隊を失った。


「協力者を逃がすのか!」


「裁判まで生かす」


「俺たちの家族は裁判もなく連れていかれた!」


 誰も短い答えを持っていなかった。


 夕刻までに、公国軍は行政区、西部市街、中央駅、浄水場を確保した。


 東岸、北空港、地下鉄東線は未確保。


 首都の中心は戻った。


 首都全体は、まだ戻っていなかった。

 ホロボロドコは日没時の状況図へ赤鉛筆を入れた。


 行政区、西部市街、中央駅、浄水場――青。


 東岸、北空港、地下鉄東線――赤。


 その間に、色を付けられない区域が十二あった。小隊が一度通っただけの道路、降伏者を集めただけの学校、銃声は止んだが捜索していない住宅区。


「確保と通過を同じ青で塗るな」


 地図係へ命じた。


「通過区域は斜線。夜間に敵が戻る前提で哨戒を組め」


 地図の青が減った。


 報告書の見栄えは悪くなった。


 現実には近づいた。


 中央広場の旗は夜通し照明を浴びた。地下では、その電力を送るケーブルの脇を帝国兵が東へ移動していた。

 午後九時、地下鉄東線の保守扉で最初の接触があった。


 公国軍の哨戒班六名が、戦前図面にはない溶接扉を発見した。切断を始めたところ、壁の向こうから三点射を受ける。


 一名負傷。


 反撃すると、銃声はすぐに遠ざかった。


 扉を開けた先には空の保守室と、東へ続く新しい穴があった。帝国兵は撃ち合うためではなく、公国軍がどこまで来たか確かめに来ていた。


「追うな」


 ホロボロドコは命じた。


『敵は少数です』


「少数に見せている。図面のない穴へ一個分隊を入れるな」


『爆破して塞ぎますか』


「換気と排水を確認するまで触るな。地下鉄職員を呼べ」


 敵の通路を残すことになる。


 だが、用途不明の穴を塞げば、避難民がいる区画へ煙や水を押し込むかもしれない。


 地上の旗は照明を浴びている。


 地下では、六人の哨戒班が扉の前へ土嚢を積み、図面に存在しない線を一本書き加えた。


 首都を取り戻すとは、地図を青く塗ることではない。


 知らなかった穴の数を、昨日より一つ減らすことだった。

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