↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王冠の亡命――八百日の建国戦争  作者: シルヴァン・レーデル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/173

第十一話 原子炉の外側



 ザポリナ原子力発電所を、空から攻撃することはできない。


 だから、地上から入る。


 午前零時十二分。発電所の北西三キロにある資材集積場で、第88特務支援群の隊長は暗視装置を下ろした。


 帝国軍は原子炉建屋そのものへ司令部を置いてはいない。管理棟、外部変電所、工事用倉庫へ通信車と短距離防空部隊を分散させ、拘束した発電所職員を同じ区域へ集めていた。


 攻撃されれば、発電所を危険にさらしたと宣伝できる。


 攻撃されなければ、安全地帯から半島と東岸の部隊を指揮できる。


 よくできた配置だった。


『隊長、確認します』


 通信回線の向こうでソフィアが言った。


『原子炉安全系、非常用電源、使用済み燃料設備、中央制御室には接触しない。爆薬を使えるのは北管理棟の軍用中継器と、外部変電所から帝国軍宿営地へ伸びる専用配電盤だけです』


「三回目だ」


『三回言っても、爆発物は賢くなりません』


「了解している」


 発電所の運転を止める作戦ではない。


 帝国軍だけが使う通信と電力を切り、拘束者を外へ出す。それで十分だった。


     *


 発電所の主任当直員は、工具庫の扉を内側から開けた。


「遅かったですね」


「予定より警備が二人多い」


「こちらは予定より拘束者が七人増えました」


 責める口調ではない。数字を交換しただけだった。


 隊長は構内図を広げる。


「三十一人を搬出する。歩けない者は」


「二人。中央制御室の運転員は残ります」


「救出しないのか」


「全員が消えれば、帝国兵が原子炉を動かすことになる。さらに危険です」


 現場の技術者は、逃げる順番まで自分たちで決めていた。


 支援群は二班に分かれた。


 一班は北管理棟へ向かい、屋上の軍用中継アンテナと暗号装置を破壊する。もう一班は拘束区画の扉を開け、職員を工事用車両へ乗せる。


 外部変電所では、主任当直員が操作票を読み上げた。


「第三母線を切り離します。発電所の所内電源は第二母線と非常用系統で維持。帝国軍宿営地へ伸びる配電盤だけが無電圧になります」


『系統図と一致』


 ソフィアが遠隔で確認する。


「遮断」


 巨大な開閉器が動いた。


 構内北側の照明が消え、帝国軍の通信車が沈黙する。


 同時に、管理棟屋上で小さな爆発が二度起きた。


     *


 警報は、予定より早く鳴った。


 暗闇の中で帝国兵が発砲し、支援群の一人が肩を撃たれた。別の隊員が二発を返す。帝国兵は配電盤の前へ倒れた。


「拘束者、二十七まで乗車!」


「残り四!」


 隊長は時計を見る。


 短距離防空車両が補助動力を始動するまで、長くても三分。構内道路を封鎖されれば、工事用トラックでは抜けられない。


「二分で出す。残った者は第二経路だ」


「全員を待たないんですか」


「全員を待てば、全員残る」


 最後の二人が担架を運び込む。


 点呼は二十九。


 二人足りない。


 主任当直員が首を振った。


「中央制御室へ戻った。あの二人は、自分で選びました」


 隊長は発進を命じた。


 トラックが工事門を破り、暗い農道へ出る。後方で短距離防空車両のレーダーが回り始めたが、指揮回線は戻っていない。


 追撃車両は、第88特務支援群が道路へ置いた遠隔地雷で先頭を止められた。爆発は一度だけだった。


     *


 夜明け前、作戦報告が西部司令部へ届いた。


 拘束者二十九人を搬出。


 第88特務支援群、負傷一名。


 帝国兵、死亡一名。負傷者数不明。


 軍用中継器と宿営地配電盤は破壊。原子炉設備、所内電源、放射線監視値に異常なし。


 ただし帝国軍は発電所から撤退していない。中央制御室には公国側へ協力した運転員二名が残った。


「盾を外したわけではないな」


 ヴォロディミルが言った。


「はい」


 ソフィアは報告書を閉じる。


「盾の裏に置いた目と耳を、一晩だけ潰しました」


「一晩で足りるか」


「足りる仕事を、次にしてください」


 原子炉は動き続けていた。


 その外側で、帝国軍の指揮網だけが暗闇に沈んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。