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天下を取るには紐がいる  作者: 古江 門


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第十一話 網になる 三

三 勝っている


 コウガは勝ち続けていた。


 戦えばリュウは退いた。


 追えば、さらに西へ下がった。


 大きな損害は出ていない。


 こちらの兵も、前回のような強行軍ではなかった。


 ランショウは負傷兵を見て回り、まだ追えると判断した。


「明日も行ける」


 そう報告すると、コウガは頷いた。


「なら、明日も押す」


 センリが笑った。


「今度こそ逃がしませんね」


「逃げるなら追う」


 コウガは地図を見た。


「止まるなら倒す」


 今のところ、その通りになっていた。


 以前よりも、バンは長く強いまま戦っている。


 兵も簡単には崩れない。


 それでも、コウガは押していた。


 ただ、一つだけ妙なことがあった。


 リュウへ伸びる紐が、思ったほど減っていない。


 これだけ退かせている。


 何度も負けている。


 それでも、兵や周囲の者からリュウへ伸びる紐は残っていた。


 コウガには、その理由が分からなかった。


「あと何日だ」


 ランショウが地図を見る。


「このままなら、三日ほどで西の城が見える」


「そこまで押す」


「分かった」


 その日の夕方、北から報告が来た。


「街道沿いの砦が落ちました」


 コウガが顔を上げる。


「誰に」


「ガクです」


 センリが眉を寄せた。


「リュウのところの女将ですか」


「以前、西で旧帝国兵を破った者です」


 ソウゲンが言った。


「兵は」


「三百ほど」


「少ないな」


 コウガは地図の北を見た。


「近くの兵を回せ」


 それで済むはずだった。


 だが数日後、別の報告が来た。


「北の城が落ちました」


 コウガの手が止まった。


「送った兵は」


「間に合っておりません」


「なぜだ」


「先に砦を取られ、街道を押さえられました」


 ランショウが地図を見る。


「迂回すれば日数がかかる」


 コウガは少し考えた。


「別の道から行かせろ」


「はい」


 伝令が下がる。


 その後も、報告が続いた。


 近くの領主が一人、リュウ側についた。


 北の道から食料が運ばれ始めた。


 次の城は、戦わずに門を開いた。


 コウガは、その間もリュウを西へ押していた。


 戦えば勝つ。


 追えば退く。


 目の前の軍は確実に西へ動いている。


 それなのに、地図の北側だけが少しずつリュウの側へ変わっていった。


 センリがその印を見た。


「ガクを倒せば済みます」


「誰が倒す」


 ソウゲンが聞いた。


「コウガ様が」


「その間、リュウはどうする」


 センリが黙った。


 ソウゲンは地図の西を指した。


「コウガ様が北へ向かえば、リュウは止まります。兵を休ませ、また集める」


 次に北を指す。


「リュウを追えば、ガクが進む」


「なら、別の将をガクへ送ればいい」


 センリが言った。


「送っている」


 ランショウが答えた。


「だが、後手に回っている」


 センリは地図を見た。


 西では、コウガが進んでいる。


 北では、ガクが進んでいる。


 二つが同時に動いていた。


「妙だな」


 コウガが言った。


 ソウゲンが頷いた。


「はい」


「俺は勝っている」


「勝っています」


「だが、向こうも進んでいる」


「それが問題です」


 ソウゲンは地図のリュウを指した。


「以前なら、ここを潰せば終わりました」


 次にガクを指す。


「今は、こちらが動いています」


 さらに、新しくリュウ側についた領地を指した。


「こちらもです」


 コウガは黙って地図を見た。


 センリが言った。


「なら、やはりリュウを倒せばいいのでは」


「そうです」


 ソウゲンが答えた。


 センリが少し驚いた。


「だから、急ぐべきです」


 ソウゲンはリュウの印を見た。


「今なら、まだリュウを倒せば崩せる」


 少し間を置いた。


「今なら、です」


 コウガはその言葉を聞いた。


「分かった」


 地図の西を指した。


「リュウを先に落とす」


 センリが頷いた。


「コウガ様ならできます」


 ソウゲンは何も言わなかった。


 その日の戦でも、コウガは勝った。


 リュウはまた西へ退いた。


 北では、ガクが次の領主と話をしていた。


 コウガは勝っていた。


 それだけでは、足りなくなり始めていた。


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