↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天下を取るには紐がいる  作者: 古江 門


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/37

第七話 西の国 四

四 全部


 翌朝。


 ガクは城壁の上にいた。


 地図。


 伝令。


 見張りからの報告。


 それだけを前に置いている。


 リュウもいた。


 時々、やたらとまばたきをしている。


「まだ出てるの?」


 シエンが聞いた。


「いや」


「じゃあ何で」


「癖になった」


 シエンは何も言わなかった。



          *



「西に敵影」


 伝令が来た。


「およそ三百」


「バンは」


「接触しました」


「下がるように」


「すでに下がっています」


 ガクがうなずく。


 次の伝令が走ってきた。


「北にも敵です。四百ほど」


「動きは」


「止まっています」


「そのまま見ていてください」


 伝令が去る。


 リュウは北を見る。


 街道の先に、小さく兵が見えた。


「俺は?」


「北を見ていてください」


 ガクが言った。


「何か変わったら教えてください」


「何でも?」


「何でも」


「分かった」


 リュウは北を見た。



          *



 西。


 バンは逃げていた。


「まだか!」


 後ろから敵が来る。


 三百。


 こちらは百二十。


 振り返れば追いつかれる。


 だから走る。


「本当に逃げるだけか!」


 隣の兵が叫んだ。


「俺に聞くな!」


 バンも知らない。


 ガクから言われたのは、ここまで下がれということだけだった。


 川が近づく。


 道が狭くなる。


 前方に、低い丘が見えた。


 そこで旗が上がった。


「止まれ!」


 バンが叫ぶ。


 兵が止まる。


 振り返る。


 追ってきた敵が、狭い道へ入っていた。


 その後ろ。


 丘の陰から兵が出た。


 一つ。


 もう一つ。


 敵の列が止まった。


「なるほど」


 バンが剣を抜いた。


「ここか」



          *



 西の戦いは、長く続かなかった。


 追ってきた帝国兵は、前にバン。


 後ろに伏せていた兵。


 横には川。


 広がる場所がなかった。


 最初に一列が崩れた。


 後ろが詰まる。


 バンが踏み込む。


 逃げようとした兵の先には、すでに別の部隊がいた。


 しばらくして、武器を捨てる者が出た。


 一人。


 十人。


 それが広がった。


 こちらにも、負傷者は出ていた。


「追うな!」


 バンが叫んだ。


 逃げる者はいた。


 だが、追わない。


 ガクからそう言われている。


「負傷者を集めろ。動けるやつは戻るぞ」


「もう?」


「北が残ってる」


 バンは馬へ乗った。


 馬はまだ走れる。


 兵も息は上がっているが、崩れてはいない。


 ここで勝つところまでではない。


 戻るところまで、最初から組まれていた。


「……気に入らんな」


 バンが呟いた。


 少し笑っていた。



          *



 午後。


「ガク」


 リュウが言った。


「はい」


「北、動いたぞ」


 少し嬉しそうだった。


 ガクが顔を上げる。


 北の帝国兵が、城へ向かって動き始めている。


「速さは」


 近くの見張りが答えた。


「遅いです」


「なら大丈夫」


 ガクは西を見る。


 まだ何も見えない。


「ちゃんと見てたぞ」


「はい」


 リュウは満足そうに北を見た。


「バン、間に合う?」


「間に合わせます」


 それ以上は言わなかった。



          *



 北の軍が城へ近づいたころ。


 西から旗が見えた。


 バンだった。


 その後ろにも兵が続いている。


 さらに。


 武器を持っていない者たちもいた。


「何だあれ」


 リュウが言った。


「捕虜です」


「連れてきたのか」


「見せるためです」


 北の帝国兵にも見えた。


 西へ分けた味方が敗れた。


 その兵が捕らえられている。


 そして、勝った軍が戻ってくる。


 北の軍の足が止まった。


 ガクが言った。


「使者を」


「何と」


「都は落ちた。西の兵も敗れた。武器を捨てれば、殺さない」


「それだけ?」


「それだけです」


 リュウが口を挟んだ。


「飯も出す?」


 ガクが一瞬止まった。


「……出せるんですか」


「ハクヨウなら分かる」


 近くにいたハクヨウが帳面を開いた。


「二日なら」


「では、それも」


 使者が走った。



          *



 戦いは、そこで終わった。


 北の帝国兵は武器を置いた。


 全員ではない。


 何十人かは逃げた。


 だが、追わなかった。


 残った者には飯が出た。


 西で捕らえた兵にも出た。


 夕方には、城の外にいくつもの火が並んでいた。


 敵だった者と、味方だった者が、少し離れて同じ飯を食べている。


「思ったより早かったな」


 リュウが言った。


「戦わずに済んだ分は」


 ガクが答えた。


「勝った?」


「勝ちました」


「そうか」


 リュウは嬉しそうだった。



          *



 日が落ちる前。


 バンが戻ってきた。


 泥だらけだった。


 ガクの前まで来る。


「戻った」


「お疲れさまでした」


「一つ聞く」


「はい」


「俺が最初に逃げるところまで、最初から決めてたのか」


「はい」


「敵が追ってくるのも?」


「来る可能性が高いと思いました」


「来なかったら?」


「別の場所で戦いました」


「北が先に来たら?」


「城から出ませんでした」


「俺が遅れたら?」


「北とは戦いません」


 バンが黙った。


「全部、決めてたのか」


「全部ではありません」


「じゃあ何を決めてた」


「変わったとき、どうするかを」


 バンはしばらくガクを見た。


「なるほど」


 それだけ言った。


 ガクの横を通る。


「バン」


 リュウが呼んだ。


「何だ」


「どうだった?」


「強い」


「誰が?」


 バンが振り返った。


 ガクを見る。


「こいつが」


 ガクが少し目を見開いた。


「俺より?」


「軍ならな」


「そうか」


 リュウは笑った。


「じゃあ、任せてよかったな」


「お前は結果を見る前から任せてただろ」


「ああ」


「そこがおかしいんだ」


 バンは行ってしまった。



          *



 夜。


 城壁の上から、いくつもの火が見えた。


 兵の火。


 捕虜の火。


 町の灯り。


 紐も増えていた。


 リュウへ。


 ハクヨウへ。


 バンへ。


 そして。


 ガクへ。


 兵から直接、ガクへ伸びているものがある。


 シエンがそれを見ていた。


「増えたわね」


「ああ」


「嫌じゃないの?」


「何が」


「あなたを通らず、ガクへ行ってる」


 リュウも見た。


「いいんじゃないか」


「いいの?」


「ガクのほうが軍は分かるんだろ」


「ああ」


 それだけだった。


 シエンはしばらくリュウを見た。


 役所はハクヨウたちが回している。


 軍はガクが動かす。


 レイカは、その全員が食べて暮らせるように走り回っていた。


 シエンは東のことを考えている。


 リュウだけが、城壁の上にいた。


「俺、明日は何すればいい?」


 シエンは少し考えた。


「今のところ、何もしないで」


 リュウは笑った。


 西の国は、思ったよりうまくいきそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。