第12話
今まで書いた話の修正を後々します。
タイトルもあらすじもだいぶ当初とは変わってしまったため変更しようと思ってるので変わり次第またご連絡をさせていただきます。
引き続きよろしくお願いします。
あれから時は流れ――俺は、無事に一歳の誕生日を迎えた。
この世界に来てからの一年間、前世の過酷な環境に比べれば遥かに濃厚で、そして温かい時間を過ごしてきた。
そんな俺の一歳を祝うように、嬉しいニュースが飛び込んできた。
王都の「魔法学園」の入学試験に挑んでいたクリスティ姉さんとルクス兄さんが、見事に揃って狭き門を突破したのだ。
しかもその成績は、ルクス兄さんが次席、クリスティ姉さんが第三席という、公爵家の名に恥じない超優秀なものだったらしい。
ちなみに、そんな2人を抑えて主席に輝いたのは、この王国の王子だそうだ。
あの2人、結局実技でもバチバチに中級魔法を発動させてたらしいのに…
入学試験の段階で、その2人の出力を上回るほどの魔法師が同世代にいたとは、本当に世界は広い。王子様、恐るべしだな……
だが、報告に来た2人の顔には一切の悔しさはなく、晴々とした顔つきであったから安心した。
しかし、合格の喜びも束の間。
そこからは、2人の学園生活に伴う長いお別れの時間が待っていた。
生まれてから一緒に過ごしていた時間は決して多くはなかったが、これでもかと沢山の愛情を注いでくれた大切な家族が、王都の学園へと旅立ってしまうのだ。
……旅立つギリギリまで、クリスティ姉さんは「ユークも一緒に連れていく!」と俺を荷物扱いで誘拐しようとしていたが、ルクス兄さんが「見苦しいですよ姉さん!」と半ば強引に馬車に押し込んでいた。
その様子を見て、流石の父上も母上も揃って頭を抱えていたのは、今でも深く記憶に残っている。
2人が学園の寮へと旅立った関係で、身の回りの世話をする従者や、一部のベテラン使用人たちも一緒に同行することになった。
その結果、あれだけ騒がしかった広大な屋敷の中は一気に人数が減り、驚くほど静かで寂しくなってしまった。
人員不足によるシステムの規模縮小だな。……ただの人数減少も寂しいが、何よりも、あの兄弟に会えなくなる精神的な寂しさの方が、思った以上に大きいな……
前世は孤独死寸前の限界社畜。
今世は、過剰なまでに愛されて育ってきたからこそ、この静まり返った環境がより身に染みるのだろう。
ちなみに、弟のメルデスも随分と成長していた。
今ではハイハイをマスターし、屋敷の床を縦横無尽に駆け巡っている。
俺の【最適化】された成長速度には流石に劣るが、中々いいポテンシャルをしてるな、メルデスくん…!
俺とは半年差の兄弟だが、学年としては俺の一個下になりそうだ。
さて、使用人たちが王都へ行ってしまった関係で、お屋敷では急遽「新規メンバーの採用募集」が行われ、本日、面接を突破した新人たちがそれぞれやってきた。
一歳になった俺の元にも、それぞれ配属の挨拶に来てくれたのだが、一度にたくさん来られたのでぶっちゃけ誰が誰だかよく分からない。
だが、そんな中で一人だけ、やたらと印象的なメイドがいた。
…いや、どう見てもまだ小学生くらいの年齢の幼いメイドがいるんだが!?
一人だけ明らかに年齢層が若すぎるため気になっていたが屋敷に忍ばせた水魔法生物から聞いたメイド達の話では、どうやら今回採用されたベテランメイドの母に付いてきた子供らしく、母娘揃って住み込みで働くことになったらしい。
なんでも、父が直々に「ここで雇おう」と連れてきたのだとか。
うちの父上は、割といろんな事情を抱えた場所から使用人をスカウトしてくる癖がある。
それこそ、あのメアリーだって、元は父がどこからか連れてきたらしい。
詳しい採用経緯の訳は知らないが、あの有能で過保護な父が自ら連れてきた人材だからこそ、セキュリティ面での信用はできる。
新しいメンバーも増えたことだし、これからまた楽しく過ごせそうだな…!
それに、たまに長期の休み(長期休暇)には、クリスティ姉さん、ルクス兄さんも帰省して戻ってくるそうだ。
それまでに、俺の肉体をもっとアプデさせて、スムーズに会話ができるくらいには言語システムを構築しておきたいところだ!
そんな、ユークリッドが前向きに未来のロードマップを描いていた。
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パタパタパタと、羽音を立てて一羽の鳥が、ある屋敷の片隅にある薄暗い一室の窓へと滑り込んできた。
よく見ると、それは厳重な魔力偽装を施された伝書鳩であり、その足には一本の小さな手紙が携えられていた。
「ご苦労……」
部屋の奥から響く、低く冷徹な男の声。
男が鳩の足についた筒から手紙を取り出し、それを開くと――紙面に施されていた暗号化の魔力文字列がぐにゃりと動き始め、やがて読むことのできる「文」となって現れた。
『――無事にターゲットの屋敷に侵入する事ができました。新しい採用のドタバタに紛れ、警備の隙を掻い潜りターゲットを捕捉後、そちらへ出向きます』
端的に、しかし確実に任務の進行状況が書かれたその手紙を読み、男は満足そうに口元を歪めて手紙を閉じた。
パチリ、と男が指先を鳴らすと、手紙は跡形を残すことなく一瞬で灰へと変わる。
「抜かるなよ……次こそは、必ずや……」
男は暗闇の中で拳を握りしめ、憎悪をたぎらせる。
「必ずや、私と同じ目に合わせてやるからな……ベルゴ」
クククッ、と狂気を含んだ笑い声を漏らしながらも、その男の瞳の奥には、どこか引き裂かれるような悲しげな光が揺れていた。
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公爵邸の広大な庭園の片隅では、一人の使用人が頭を悩ませていた。
…しかし、困りましたね……。使用人に変装して侵入すること自体は成功したものの、近づけるタイミングが全くありませんわね……
新しく採用された庭師の一人に化けた闇ギルドの長は手にした熊手をサッサと動かしながら、内心で深くため息をついていた。
以前に自分の部下たちがこの屋敷での誘拐に失敗したこともあってか、屋敷のセキュリティは今もなお最高レベルの厳重さで継続中らしい。
新しく採用された使用人やメイドは、基本的には本館ではなく、庭掃除や植木の手入れ、あるいは別館の掃除といった雑用がメインタスクと定められており、ターゲットである赤ん坊――ユークリッドのいる本館への入室は『完全禁止』という強固な制限が敷かれていた。
おまけに、一日中本館の周囲には隙のない護衛の騎士たちが目を光らせている。流石は公爵家と言うべき徹底ぶりだ。
これじゃあ、いくら身分を偽って敷地内に侵入したとはいえ、誰にもバレずにターゲットを拉致して逃げ出すのは一苦労ね……
熊手を持つ髭面の、中年の紳士に男装(変装)した我が身を振り返り、内心でこっそり愚痴をこぼす。
…うーん、いっそのこと、メイド服を着てメイドとして侵入した方が本館に近づきやすかったかしら? その方が楽しそうだったし……。まあ、さすがにこの変装用プロテクター(男装)を脱ぐわけにはいかないけれど
それにしても、と彼女は小さく眉をひそめた。
前回の作戦で失敗し、完全に消息を断つことになった自分の部下たち。あれらは失敗したとはいえ、それなりの実力者であった。これまで何度も暗殺や誘拐といった困難なアンダーグラウンドの仕事をこなしてきた、ギルドでも一線級の精鋭だったのだ。
あの精鋭たちが連絡の一つも寄越さず、完全に消え去るなんて…
他人の部下を向かわせるのではなく、わざわざ組織のトップである私がここへ出張してきたのには、重い理由がある。
今回のクライアントから提示されたミッションには、自分たちのギルドの存続そのものが懸かっているのだ。
いくら裏社会で名の知れた闇ギルドだろうと、あの貴族に目を付けられて本気で潰しにかかられたら、私たちの組織などひとたまりもない。
だからこそ、何が何でも「必ず成功」させなければならないのだ。
公爵家には、少なくともB級以上の魔法師……それも相当な実力者が護衛として張り付いていると見ておいた方がいいわね……
いいわ、慎重に、確実にいきましょう。クライアントのため、ギルドのためにも、この任務、私が必ず遂行して見せるわよ……!
我が家でのんびりと一歳の成長を噛み締めているユークリッド。
しかし、本館へのアクセス権をじわじわとハッキングしようと狙う、闇ギルドマスターの魔の手は、確実に公爵邸の内部へと潜り込んでいたのだった。




