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元社畜社員異世界転生する。〜公爵家に生まれ変わったら恵まれすぎて気がついたら世界最強になってた件〜  作者: nemuinemu-


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第10話

ふと目を覚ますと、見慣れた、いつもの格式高い天井が視界に飛び込んできた。


帰ってきたんだな……。


どうやら、あの悪夢のような誘拐劇から無事に帰還できたらしい。

最後の記憶を思い出す。メアリーが俺を腕に抱き、いつも優しい笑顔を向けたところで、俺の意識が失われたんだった。


目覚めてからも、身体の芯に少し重い疲れが残っているみたいで、全体的に体がだるい。

維持するために魔法を使いすぎたからだろうか……いや、それよりも精神的なストレスのせいだろう。


気がついたら知らない男たちに拉致されていて、狭い籠の中で逃げようと必死に打開策を考えて、行動して……

ずっと限界まで張り詰めていた緊張の糸が、我が家に帰ってきたことで、ようやくぷつりと切れたような気がした。


疲れた……。元社畜とはいえ、今はまだ生後数ヶ月の赤ん坊なんだぞ。なんてハードな苦労をさせるんだ全く……


それにしても、あの黒い服の男たちは一体何者だったんだ?

明らかに表の社会にいるような人間ではない、裏稼業を行なってきた様な冷たい人種だったな。あんな気持ち悪い魔法も使っていたし、公爵家の金目を狙った誘拐犯か、あるいは――。


まあ、考えても今の俺のスペックじゃどうしようもないな。ログのないデータをいくら考察しても無駄だ


とりあえず、命があったことに感謝しよう。

あんなスリル満点の日は、もう二度とごめんだ。

しかし、それにしても……


メアリーって、魔法が使えたんだな。

それに、あの高火力魔法を行使していたし、それに六大属性ではない魔法の様に見えた様な…


あんな凄い魔法使いなのに、なんで公爵家で、俺のメイドなんて地味な仕事をしてるんだろうか……


ロケットランチャー持ってる傭兵が、保育士をやっているようなものだ。

ギャップがあるどころの話じゃない不釣り合い過ぎないか。


それよりも、メアリーが使っていたあの雷の魔法は固有魔法なのか…しかし詠唱をしていたし…なんだろう。

過去に読んだ本にも、六大属性しか書かれてない。


魔法の構造は、小鳥のカメラを通して完全に記憶してある。


一度やってみようかな…

確か、開始の詠唱は――

『精霊よ……』

詠唱の検証を始めた、その瞬間。

ガチャリ、と静かに部屋の扉が開く音がした。


やべっ……!


即座に詠唱をやめ、高めた魔力を引っ込め何食わぬ顔をして、あどけない赤ん坊のフリでベッドの上にちょこんと座り直した。


「ユークリッド様……? お目覚めになられたのですね。……あぁ、本当にご無事でよかった……!」 


扉から入ってきたメアリーの顔には、心の底からの安堵の表情が浮かんでいた。


「あい!」


俺がいつものように、幼児仕様の返事を返すと、メアリーはホッとしたように少し笑った後、その大きな瞳から次々と大粒の涙を溢れさせ始めた。


よほど、俺が目の前から消え去ったことに心臓が止まるほど驚き、自分を責めていたのだろう。

それを見ているうちに、俺の目頭もじわリと熱くなり、ちょっぴり涙が出てきてしまった。

前世のブラック企業時代、倒れても誰も心配してくれなかった俺が、こんなにも誰かに必要され、無事を泣いて喜ばれている。俺自身も、彼女の温もりに心の底から安堵していたのだろう。

大きなメイドと小さな赤ん坊が、2人して少しの間、お互いの無事を確かめ合うように静かに泣いていた。 


それから、数日が過ぎ――

バタバタバタバタッ!!!と、廊下から尋常ではない騒がしい足音が近づいてきたかと思うと、勢いよく扉が開け放たれた。 


「「「「ユーク!!!!」」」」


ハモり倒した大音量と共に、父上、母上、数人の兄姉たちが家族総出で、俺の部屋にもの凄いスピードで突撃してきたのだ。

最初こそ、突風のような勢いで入ってきた家族の熱量にビクッとびっくりしてしまったが、全員が髪を振り乱し、本気で俺を心配してくれている様子が痛いほど伝わってくる。

彼らに元気な姿を見せて安心させてやろうと、俺は両手を精一杯広げて、


「あいっ!!」


と、元気よくお返事をしてみせた。

すると、全員が「あぁ……っ!」と胸を押さえ、一斉に安堵の涙を浮かべた。それからはもう、抱っこされ、頭を撫で回され、頬ずりされの猛烈な家族団欒のひと時を過ごした。


後から聞いた話によると、俺が誘拐されたという連絡は、即座に王都の夜会にいた父上に届いたらしい。

知らせを聞いた父上は、パーティーが終了するや否や、挨拶もそこそこに夜会を飛び出し、その足で全速力で馬を飛ばして王都を発ったそうだ。公爵としての体裁よりも、我が子の安全を最優先して。


実は少し気がかりだったのが、今回の件でメアリーが「護衛を怠った」として怒られてしまうのではないか、ということだった。赤ん坊を一人にしてしまったのは事実だし、貴族の家閥なら厳罰に処されてもおかしくない。

しかし、結果は真逆だった。

父上も母上も、メアリーを責めるどころか、涙を流して深く感謝していたのだ。

『よくぞユークを助けてくれた』

『無事に戻ってきたのは、メアリーの迅速な行動のおかげだ』と。


……なんて環境に恵まれた男だ、ユークリッドくんは……


家族の温かい腕の中で揉みくちゃにされながら、俺は温かい気持ちになる。

それにしても、と俺は小さく首を傾げた。


一体、俺を狙った敵の正体は誰だったんだろうな……?



ーーーーーーーーーーーーーーー


「クソが……っ!!」


薄暗い部屋の中、怒りに震える男が、手すりに向かって凄まじい勢いで拳を叩きつけた。鈍い破壊音が室内に響き渡る。

男の顔は、屈辱と焦燥で歪んでいた。

まさか、今回の計画が失敗に終わるとは思っていなかったのだ。


襲撃に集めたのは、裏の世界ではその名を知らぬ者のいない闇ギルドから派遣された精鋭たちだったのだ。だからこそ、こんな無様な失敗に終わったことが到底許せなかった。

男は、部屋の奥の闇に跪く影に向かって、冷酷な視線を突き刺す。


「お前たちに依頼した私が間違っていたようだ……。言い訳など聞かん、さっさと失せろ。所詮は、公爵家の赤ん坊一人すら誘拐してくることができない臆病者の集まりだな」


「……此度の件、誠に申し訳ありません……」


闇の中から、声が返ってくる。その声には、深い悔恨と、それ以上の怒りが塗ったくられていた。


「我がギルドでも、特に優秀な部下たちを向かわせたのですが……現場に、『規格外の魔法師』がいたようです。旦那様、ぜひ、もう一度だけチャンスを頂きたい」


「ふん、何を言っても変わらん。今回の騒ぎで公爵家は警戒を最大に引き上げる。今後、屋敷への侵入すら難しくなるだろう」


男の冷たい言葉に、闇の影――闇ギルドの長は、ギラリと不気味な眼光を放った。


「ならば……次は私が行かせていただきます。

ギルドの威信にも関わりますので、この手で捕らえて参ります。……それでも不満でしょうか」 


「ほう……お前自らが動くか……」


男の眉がピクリと跳ね上がる。ギルドのトップが自ら暗殺や誘拐に赴くなど、滅多にないことだ。それだけ、今回の失敗でギルドの面目を潰されたことが許せないのだろう。


「はい。少しお時間を頂くかも知れませんが……必ずや、任務を遂行して参ります」


「……いいだろう。もし次に失敗したら、その時は覚悟をしておく事だな…」


「……御意」


我が家で家族の愛に包まれ、のんびりと休息をとっているユークリッド。

しかし、そんな彼の知らないところで、裏社会のさらなる凶悪な悪意が、再びその小さな命を狙い始めていたのだった。

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